就労支援のクライアントを評価する際の3つのポイント
結論から言えば、作業療法士がクライアントに対して就労支援を行う際、次の3つの条件を基礎に考えるとスムーズになります。
- 就労準備条件
- 職業選択条件
- 職場定着条件
以下、それぞれ詳しく説明します。
就労準備条件
この“就労準備条件”とは、就労する場合にその職業生活を遂行するために必要となる能力としての条件を指します。
さらにこの就労準備条件は…
- ⅰ.基本的社会生活能力
- ⅱ.自己管理能力
- ⅲ.基礎体力
…の3つに分けて考えることができます。
この3つには、さらに次のような項目で構成されています。
ⅰ.基本的社会生活能力
- 日常生活習慣(生活リズム:活動-休息/睡眠)
- 食生活、身辺処理など(日z章生活活動:ADL)
- 社会資源活用(日常生活関連活動:APDL)
- 対人関係(会話・つきあい・課題と役割の理解および見通し)
職業生活を成り立たせるには、まずは基本的な生活や対人関係に関わる能力、状況を把握する必要があります。
ⅱ.自己管理能力
- 疾病管理(服薬・受診・不調の自覚)
- 金銭管理
- 余暇時間の活用
- ADL、APDLの総合評価と確認
自分の病気や障害のことはもちろん、金銭管理、ADLやAPDL、そして仕事以外の余暇時間をどう過ごしているかも評価する必要があります。
ⅲ.基礎体力
- 客観的体力の認知
- 筋力と運動速度
- 立位、座位の耐久性
- 一定の姿勢の維持など体力面での持続
一定の時間、仕事を行うためには体力や身体能力が求められます。
フィジカルな部分を評価する必要もありますね。
職業選択条件
次に“職業選択条件”についてです。
この職業選択条件とは、前述した就労準備条件を基礎に、職業を選択する際に必要とされる能力を指します。
この職業選択条件は、
- ⅰ.作業遂行能力
- ⅱ.就労意欲
…の2つに分けて捉えることができます。
この2つはそれぞれ次の項目で構成されています。
ⅰ.作業遂行能力
- 課題と役割の理解(認知能力)
- 作業遂行の理解と見通し
- 作業手順の理解と変更への対処
- 作業遂行に対する持続力と安定度
その仕事内の作業をどの程度理解し行うことができるかを評価します。
ⅱ.就労意欲
- 就労への関心(本来の自己実現との位置づけ)
- 可能性の発揮(職業とのマッチング)
- 生計の見通し
そもそも仕事に対しての意欲、そして現実的かどうかという視点での評価も必要になります。
職場定着条件
就労支援に必要な評価の視点、3つ目は“職場定着条件”になります。
この職場定着条件とは、その就労が継続するために影響を与える能力としての条件を指します。
この職場定着条件は…
- ⅰ.ストレス耐性
- ⅱ.満足度
…の2つの切り口から捉えることができます。
そしてこの2つは次の項目で構成されています。
ⅰ.ストレス耐性
- ストレスの認知
- ストレスへの対処法
- ストレスのコントロール(ストレスの回避と発散)
仕事を行うということは、一定のルールの下で作業を行うことです。
そうなると、自由気ままというわけにはいきません。
その際に生じるストレスに対してどう対処するかの能力も評価対象になります。
ⅱ.満足度
- 要求水準の認知
- 働く喜び
- 自己実現の実績
仕事を生活するための手段…としてのみ考えてしまうと、少し苦しいものになってしまいます。
仕事を通して得られる喜びややりがいなどについても、どう考えているかを評価すると定着、継続につながるかもしれません。
就労のベースになる“リハビリの4本柱”が重要
“働くこと”とは決して生活のため“お金を稼ぐ手段”だけではありません。
仕事を通じて社会参加をし、自己実現につなげていくための方法の一つとも言えます。
そう考えると、広い意味で「自分の身の回りのことができること」や「家事仕事ができること」も“働くこと”になってくるはずです。
作業療法士が就労支援を考えると、どうしてもダイレクトに企業による雇用や就労支援事業などが連想されがちです。
しかし、その職業生活を支えベースになる“リハビリテーションの4本柱”への評価にも注目することが重要かもしれません。
その“リハビリテーションの4本柱”とは…
- 疾病のコントロール
- 日常生活のコントロール
- 社会生活のコントロール
- 仲間づくり
…があげられます。
作業療法士としては、就労支援となるとなにか特別な支援が必要…と考えてしまいがちですが、この従来の作業療法が支援する項目についても改めて注目し評価する必要があるのかもしれませんね。
まとめ
本記事では、就労支援の対象者を評価する際の3つの条件について解説しました。
作業療法士による就労支援において、クライアントへの評価のポイントを項目に分けてまとめてみると、大枠では、就労準備条件、職業選択条件、職場定着条件の3つから考える事ができます。
ただしこれらの3つの条件も重要ですが、なにより従来の作業療法での支援項目でもある“疾病のコントロール”、“日常生活のコントロール”、“社会生活のコントロール”、“仲間づくり”といった「リハビリテーションの4本柱」への評価も重要になってきます。
クライアント自身の個性や障害特性、生活といったものまで包括的に捉える事で、就労支援のための評価につながっていくということでしょうね。