尿失禁という排泄行為における課題を考えるにあたって、その対象によっても原因が変わってきます。
今回はそのなかでも、高齢者の一時的な尿失禁の原因についてフォーカスをあてて考えてみます。
一過性尿失禁の原因について
高齢者における、一過性尿失禁を引き起こす原因としては次のものがあげられます。
- 精神錯乱状態・譫妄
- 尿路感染症
- 萎縮性膣炎or尿道炎
- 常用薬剤の副作用
- 精神的なもの
- 多尿
- 運動制限
- 便秘
それぞれ解説します。
精神錯乱状態・せん妄
原因は様々ですが、一過性でも精神錯乱状態で尿失禁の症状も併発するケースがあります。
高齢者の場合はせん妄の症状が現れている状態のときが多いかもしれません。
なかでも…
- 内服薬の使用や変更(薬剤性せん妄)
- 環境の変化や心理的不安感の増強時の就寝時(夜間せん妄)
…などが代表的なものとしてあげられます。
これらの症状の際にみられる尿失禁は、精神錯乱状態、せん妄を原因とする一過性のものの場合が多いようです。
そのため尿失禁への対処というよりは、このせん妄そのものへの対処を優先することが必要になります。
尿路感染症
腎臓から尿道までの尿路に起こる感染症である“尿路感染症”を原因として尿失禁を起こす場合もあります。
急な発熱や腰背部痛、血尿などの症状が伴う尿失禁は、この尿路感染症の可能性が高いと言えます。
この場合もまずは尿路感染症の治療を優先し、その改善に伴い尿失禁も落ち着いてくることがあるようです。
萎縮性膣炎or尿道炎
膣や尿道のみの炎症の場合でも、尿失禁の症状を伴うことがあります。
この場合比較的多いのが尿意を感じてからトイレに行くまで間に合わない“切迫性尿失禁”の症状のようです。
この炎症状態の治療を優先することが必須といえます。
常用薬剤の副作用
そのクライアントが常用している薬の副作用が尿失禁の症状の原因の場合もあります。
尿失禁、頻尿を起こしやすい薬としては、
- 催眠、鎮静、抗不安薬
- 抗うつ薬
- アルツハイマー型認知症治療薬
- 中枢性筋弛緩薬
- 前立腺肥大による排尿障害治療薬
- 抗がん薬
- 狭心症治療薬
…といったものがあげられます。
他の尿失禁の原因が見当たらない場合、クライアントが服用している薬にも注目する必要があります。
精神的なもの
精神的に緊張するとトイレに行きたくなる…といったように、精神、心理状態と排尿の状態は非常に相関性が高いといえます。
緊張や不安の状態は交感神経を優位にするのですが、この状態は血圧を高め、尿の生産量を増やし頻尿を招きます。
その結果尿失禁に繋がることが多くなってしまう…ということです。
精神的な不安定の原因を解決するのが優先ですが、状況的に難しい場合はなるべく副交感神経を優位にする…リラックスできる環境や状況に近づける工夫が必要かもしれません。
多尿
1日の尿量が3000mlを超える状態を“多尿”と呼びますが、これも結果的には尿失禁を招く原因のひとつにつながります。
本来、尿は日中に多くつくられるのですが、高齢になるに従い自律神経の不調、心臓や腎臓の機能低下に伴い、夜間の尿生成が増強されてしまい、結果として夜間の方が尿量が多くなる場合があります。
運動制限
なにかしらの疾患や障害によって運動制限の状態では、全身の筋力低下…特に尿道括約筋や骨盤底筋といった筋力の低下による尿失禁の症状がみられる場合があります。
この場合は排尿システムの障害というよりは単純に尿漏れを防ぐための筋力の低下を原因とするものなので、骨盤底筋体操といった筋力強化訓練によって改善がみられます。
便秘
実は慢性的な便秘を原因とする尿失禁もあるようです。
この発生機序としては便秘によって膀胱の神経が一時的に麻痺し、その結果頻尿や尿失禁を招く…というもののようです。
まとめ
今回はそ高齢者の一時的な尿失禁の原因について解説しました。
それが一時的でも慢性的でも、尿失禁という症状は非常に精神的負担が多くなる問題といえます。
その原因をしっかりと把握し、対処することが作業療法士や医療スタッフにも求められてくるはずです。