うつ病や抑うつ状態の評価は、リハビリテーション現場でも欠かせない課題です。
「BDI-Ⅱ(Beck Depression Inventory-Second Edition)」は、主観的な抑うつ感情を点数化し、数値で“見える化”できる信頼性の高い心理検査です。
本記事では、BDI-Ⅱの基本情報・対象と適応・実施方法・採点と解釈・カットオフ値を専門家の視点でわかりやすく解説します。
作業療法士や理学療法士などのセラピストが、臨床現場で活用できる評価スキルを身につけるための実践的ガイドです。
基本情報:BDI-Ⅱの概要と特徴
日本版BDI-Ⅱ(Beck Depression Inventory-Second Edition)は、DSM-IVの診断基準に基づいて開発された自己記入式の抑うつ評価尺度です。
原版は精神科医アーロン・T・ベック博士によって考案され、初版BDI(1961)から改訂を重ね、現在のBDI-Ⅱ(1996年版)が世界的に標準化されています。
主な特徴
- 質問項目数:21項目
- 回答形式:各項目0~3点の4段階評定
- 評価期間:「過去2週間(当日を含む)」
- 総得点範囲:0~63点
- 実施時間:5〜10分程度
この検査の目的は、「主観的な抑うつの強さを客観的に把握すること」にあります。
短時間で施行できるため、医療・教育・職域メンタルヘルスなど幅広い分野で活用されています。
対象と適応:どんなクライアントに有効か
BDI-Ⅱは成人を主対象とした自己記入式質問紙です。
リハビリテーションの現場では、以下のようなケースに適応が考えられます。
主な適応対象
- うつ病・うつ状態が疑われるクライアント
- 脳卒中や外傷後に抑うつ傾向を示す利用者
- 身体疾患に伴う情動低下が見られる場合
- 就労支援・社会参加支援において心理状態を把握したい場合
注意点
- 認知症や重度失語症、識字困難者には不適切な場合あり。
- 視覚障害や注意障害がある場合は、検者が口頭で質問を読み上げて代行可能。
- 質問項目には「自殺念慮」などのセンシティブな内容が含まれるため、信頼関係を築いた上で実施することが重要です。
実施方法:BDI-Ⅱの手順とポイント
BDI-Ⅱは自己記入式の検査ですが、状況に応じて面接形式でも実施可能です。
実施手順
- 被験者に「過去2週間の状態」を振り返るよう説明。
- 各設問の4つの選択肢の中から、自分の状態に最も近いものを1つ選択。
- 記入にかかる時間はおおむね5〜10分程度。
構成項目の例(抜粋)
| 項目 | 内容のテーマ |
|---|---|
| 1 | 悲しみの程度 |
| 2 | 将来への希望・絶望感 |
| 3 | 自己評価・失敗感 |
| 4 | 興味や喜びの喪失 |
| 5 | 罪悪感 |
| 9 | 自殺念慮 |
| 16 | 睡眠パターンの変化(増減) |
| 18 | 食欲の変化(増減) |
| 19 | 集中力の困難 |
| 20 | 疲労感・倦怠感 |
| 21 | 性への興味の低下 |
※本文中の旧版BDI-Iで用いられていた「体重減少」「身体症状へのこだわり」などはBDI-Ⅱには含まれません。
採点と解釈:得点の見方と臨床での意味
各項目0〜3点で採点し、合計点を算出します。
最大得点は63点であり、得点が高いほど抑うつ傾向が強いと解釈します。
標準的な重症度分類(Beck et al., 1996)
| 総得点 | 重症度分類 | 臨床的目安 |
|---|---|---|
| 0〜13 | 最小(正常範囲) | 一般的な気分変動の範囲 |
| 14〜19 | 軽度 | 注意深く観察が必要 |
| 20〜28 | 中等度 | 臨床的うつ状態が疑われる |
| 29〜63 | 重度 | 専門的治療介入が必要 |
臨床現場では、他の心理検査や面接評価と併用して総合的に判断します。
単独で診断を下すものではなく、心理的変化のモニタリングとして用いることが望ましいです。
カットオフ値:どの点数で“うつ状態”とみなすか
BDI-Ⅱには一律のカットオフ値は存在しません。
目的・対象集団によって適切な閾値が異なります。
代表的なカットオフ例
| 研究・集団 | カットオフ | 備考 |
|---|---|---|
| 一般成人(Kojima et al., 2002) | 13/14以上 | 日本語版妥当性研究での基準 |
| 臨床群(うつ病患者 vs 健常者) | 19以上 | 診断的スクリーニングとして高い精度 |
| 高齢者・身体疾患群 | 16前後 | 疾患特性により調整 |
つまり、13点以上で抑うつ傾向がある可能性、20点以上で臨床的うつ状態が疑われるとするのが一般的です。
標準化と日本語版:信頼性と妥当性の検証
日本語版BDI-Ⅱは、Kojimaら(2002)によって翻訳・標準化され、国内でも信頼性と妥当性が検証されています。
日本版の標準化研究
- 内的一貫性:Cronbach’s α = 0.87(高信頼)
- 再検査信頼性:r = 0.74
- 因子構造:認知・情動・身体の3因子構造が確認
- 妥当性:SDS・CES-Dなど他尺度と強い相関を示す
また、医療・教育・産業領域で広く利用されており、英語・韓国語・中国語など多言語版との国際比較研究も進んでいます。
臨床応用と活用事例:セラピストが使う場面
リハビリテーション領域では、BDI-Ⅱは心理状態の可視化ツールとして有効です。
活用例
- **脳卒中後うつ(PSD)**のスクリーニング
- 慢性疼痛・がんリハにおける心理的苦痛の評価
- 作業療法プログラム前後の心理変化の定量化
- **リワーク(職場復帰支援)**における自己モニタリング指標
活用のポイント
- 定期的に実施し、点数変化を縦断的に比較する。
- 高得点時は、臨床心理士・精神科医との連携を図る。
- 介入計画(活動量、社会参加支援)の調整に活用。
他検査との関連:多角的評価のすすめ
抑うつの評価は単一検査では不十分な場合があります。
BDI-Ⅱは以下のような心理検査と併用されることが多いです。
| 検査名 | 特徴 | 併用目的 |
|---|---|---|
| SDS(自己評価式抑うつ尺度) | 短時間で実施可能 | 簡易スクリーニング |
| CES-D | 疫学調査に多用 | 大規模調査や地域支援に有用 |
| GDS(高齢者うつ尺度) | 高齢者に特化 | 加齢による抑うつ傾向把握 |
| HADS | 身体疾患併発時の情動評価 | 医療現場との親和性高い |
複数の検査を組み合わせることで、うつ状態の重症度・性質・背景要因をより正確に捉えることができます。
デジタル・ICT対応:オンライン評価と臨床応用の展望
BDI-Ⅱは現在、デジタル化が進んでいる心理検査の一つです。
ICT活用の例
- **オンライン版(Web・アプリ形式)**による自己回答
- 電子カルテ連携システムでの自動採点
- 在宅リハやテレリハにおける心理状態モニタリング
- AI解析を用いた経時変化の自動グラフ化
Pearson社では公式電子版ライセンスを提供しており、研究用途でのデジタル活用も増加中です。
ただし、著作権の関係上、質問項目の無断複製は禁止されている点に注意が必要です。
まとめ
BDI-Ⅱは、抑うつ症状を可視化し、リハビリや社会参加支援の計画立案に大きく貢献するツールです。
正確な実施と適切な解釈を行うことで、クライアントの「こころの回復」を支援する重要な指標となります。