HADS(病院不安抑うつ尺度)とは?身体疾患患者の不安・抑うつを短時間で評価する方法と活用ポイント

身体疾患を抱える患者の「不安」や「抑うつ」は、治療やリハビリの経過に大きな影響を及ぼします。
HADS(病院不安抑うつ尺度)は、わずか数分で心理的苦痛を数値化できる信頼性の高いスクリーニングツールです。
本記事では、HADSの基本構造・採点方法・カットオフ値・臨床活用のポイントを、リハビリセラピスト向けにわかりやすく解説します。



基本情報:HADSの概要と特徴

病院不安抑うつ尺度(Hospital Anxiety and Depression Scale:HADS)は、身体疾患を有する患者の不安(Anxiety)と抑うつ(Depression)を同時に評価できる自己記入式の心理検査です。1983年に英国の精神科医ZigmondとSnaithによって開発され、世界中で標準的なスクリーニングツールとして利用されています。

特徴は以下のとおりです。

  • 全14項目(不安7項目・抑うつ7項目)で構成
  • 各項目は4件法(0~3点)で回答
  • 評価対象期間は「直近1週間」
  • 平均実施時間は2~6分と短時間
  • 身体症状(食欲低下・睡眠障害など)に関する設問を意図的に除外

この構成により、身体症状に左右されずに純粋な心理的苦痛を数値化できる点が最大の強みです。
HADSは診断ツールではなく、スクリーニング(早期発見)目的の指標として使用されます。高スコアが出た場合には、精神科・心療内科などの専門評価へつなぐ「トリアージツール」としても機能します。

日本語版(HADS-J)は1998年に久我谷らにより翻訳・検証され、日本人患者においても信頼性・妥当性が確認されています。



対象と適応:身体疾患患者を中心に幅広く活用可能

HADSは、身体疾患を持つ患者の心理的苦痛を評価するために設計されており、医療・介護・リハビリテーションの現場で広く使用されています。

主な対象者

  • がん、心疾患、脳卒中、整形外科疾患などの慢性疾患患者
  • 手術や治療に対して不安を抱く入院・外来患者
  • リハビリ期に情動低下がみられる患者
  • 終末期医療、緩和ケア、在宅医療の利用者
  • 精神科以外の一般病棟で心理的支援を要する患者

適応の目的

  • 不安・抑うつの早期発見と介入判断
  • リハビリ参加意欲の低下や離脱リスクの把握
  • 精神的苦痛が治療経過に与える影響のスクリーニング
  • チームカンファレンスでの心理状態の共通言語化

HADSは高齢者や軽度の認知障害を持つ患者にも理解しやすい設問構成であり、外来待機時間中でも数分で実施できます。
また、質問紙法のため医療スタッフの負担が少なく、看護師・リハ職・MSWなどが主体的に実施可能です。



実施方法:簡便で再現性の高い自己記入式評価

HADSは患者本人による自己記入式の質問紙法で実施されます。
医療者が面接を行う必要はなく、静かな環境で患者が自分の状態を振り返りながら回答します。

実施手順

  1. 評価対象期間は「直近1週間」と説明
  2. 14項目の質問に対し、0~3の4件法で回答
  3. 不安(HADS-A)と抑うつ(HADS-D)に分けて集計
  4. 各サブスケールの合計点(最大21点)を算出
  5. スコアを基に心理的苦痛の程度を判定

実施時の配慮

  • 視覚障害や識字困難のある患者にはスタッフが代読
  • 誘導的説明を避け、中立的な態度で支援
  • 記入環境は静かで落ち着いた場所を確保
  • 定期的に再評価し、経時的変化を追跡

平均所要時間は2〜6分
短時間かつ再現性が高く、病棟回診前やリハビリ前の心理状態チェックとして活用できます。



採点と解釈:不安と抑うつを独立してスコア化

HADSでは、**不安(HADS-A)抑うつ(HADS-D)**を独立したサブスケールとして採点します。
各項目は0〜3点で評価され、サブスケールごとの最大点は21点、合計点(HADS-T)は最大42点です。

採点方法

スコア範囲評価内容
0~7点正常範囲(心理的苦痛なし)
8~10点疑いあり(軽度の心理的苦痛)
11点以上明確な症状あり(臨床的に有意)

スコアが高いほど心理的苦痛が強いことを意味します。
なお、HADSは診断を目的としたものではなく、心理的苦痛を可視化するスクリーニング指標です。
高得点の場合には、心理士・精神科医による詳細評価を検討します。

また、設問には逆転採点項目(高得点ほど症状が弱い)が含まれているため、採点時のチェック体制を整えることが推奨されます。
電子カルテにスコア入力後、自動グラフ化・トレンド表示を行うと、心理状態の変化を視覚的に把握できます。



カットオフ値:3段階で判断する明快な基準

HADSでは、心理的苦痛の程度を3段階のカットオフ値で判定します。

  • 0〜7点:正常範囲。心理的苦痛なし。
  • 8〜10点:軽度または疑い。経過観察・再評価を推奨。
  • 11点以上:明確な症状あり。精神科的評価を検討。

これらの基準は原著論文(Zigmond & Snaith, 1983)およびBjellandら(2002)の総説でも支持されています。

臨床では、不安スコアが高ければ急性ストレス反応、抑うつスコアが高ければ慢性的情動低下の可能性を考慮します。
また、HADS合計点(HADS-T)15点以上を“全体的ディストレスの指標”として扱う報告もありますが、施設ごとに運用を調整することが望ましいです。

HADSは簡便でありながら、精神科面接のトリアージやチーム医療での共通指標として有効に機能します。



標準化とバージョン情報:日本語版HADS-Jの信頼性

HADSは開発以来、世界60か国以上で翻訳・検証されており、国際的に信頼性の高い尺度です。
日本語版(HADS-J)は、**久我谷ら(1998)**が翻訳し、国内のがん患者を対象に妥当性が確認されています。

主な信頼性・妥当性研究

  • Zigmond & Snaith (1983):原著論文
  • Kugaya et al. (1998):日本語版信頼性・妥当性検証
  • Bjelland et al. (2002):国際的メタレビュー(HADS-A/Dともに高い内部一貫性)

使用上の注意

  • HADSは著作権管理下の質問紙です。
  • 設問全文の掲載・配布には**MAPI Research Trust(ePROVIDE)**への申請が必要です。
  • 学術・臨床利用の場合も、正式版の利用を推奨します。

HADS-Jは一般病院・リハビリ施設・介護事業所での使用実績が多く、多職種連携の共通評価尺度として定着しています。



臨床応用と活用事例:チーム医療・リハビリでの実践

HADSはリハビリ現場における心理的苦痛の早期発見と継続支援に大きく貢献します。

活用シーン

  • 脳卒中・骨折後のリハビリ意欲の低下を早期に察知
  • がんリハビリ・化学療法期の情動変化のモニタリング
  • 整形・外科病棟での術後不安のスクリーニング
  • 在宅医療や介護施設での情動ケア評価

チーム活用例

  • リハスタッフがHADSを実施 → スコアをカンファレンスで共有
  • 高スコア例は心理士・MSWに情報連携
  • 継続測定により治療・リハビリへのモチベーション変化を可視化

研究的応用

  • HADSスコアを介入効果の指標として活用(運動療法・心理教育プログラムなど)
  • 介入前後のスコア推移をグラフ化し、心理変化をアウトカムとして提示

HADS導入後、心理的支援が早期化し、治療アドヒアランス向上や生活の質(QOL)改善が報告されています。



他検査との関連:心理スクリーニングツールとの比較

HADSは多くの心理評価との関連が検証されています。

検査名主な評価領域HADSとの関係
PHQ-9抑うつ症状全般中等度の正相関(r=0.7前後)
GAD-7不安症状不安スコア(HADS-A)と高い相関
BDI-II抑うつ重症度HADS-Dと有意な関連性
STAI状態・特性不安状態不安スコアと一致傾向
POMS情動プロファイル不安・抑うつ下位尺度と高い一致

HADSの特長は、身体疾患患者にも適用できる汎用性にあります。
他尺度に比べて身体症状を排除しているため、リハビリや慢性疾患領域での使用に特に適しているといえます。



デジタル・ICT対応:電子カルテ連携と遠隔測定

近年は、HADSのデジタル化による運用効率の向上が進んでいます。

ICT活用の事例

  • 電子カルテ連携:入力後に自動集計・グラフ化
  • クラウド共有:多職種間でスコア推移をリアルタイム共有
  • スマートフォン回答:在宅患者が週1回自己記入 → 自動通知
  • AI解析:HADS時系列データを用いた抑うつ再発予測モデル研究

これにより、心理状態の変化を遠隔でモニタリングでき、異常値を自動検知して早期対応が可能となります。
ICT活用は、精神科スタッフが常駐しない地域病院や在宅支援チームでも有効であり、デジタルメンタルヘルス支援の基盤ツールとして期待が高まっています。



参考文献

  • Zigmond AS, Snaith RP. The Hospital Anxiety and Depression Scale. Acta Psychiatr Scand. 1983.
  • Bjelland I, et al. The validity of the Hospital Anxiety and Depression Scale. J Psychosom Res. 2002.
  • Kugaya A, et al. Validation of the Japanese version of the HADS. Jpn J Psychosom Med. 1998.
  • Snaith RP. The Hospital Anxiety and Depression Scale: A decade of experience. Br J Clin Psychol. 2003.
  • RehabMeasures Database, University of Illinois Chicago.

関連文献

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