褥瘡(じょくそう)の評価に欠かせないのが、NPIAP(旧NPUAP)分類です。
ステージⅠ〜Ⅳ、深部組織損傷(DTI)、深さ不明(Unstageable)といった6分類で構成され、創の深達度を国際基準で明確化します。
本記事では、各ステージの特徴・リハビリでの活用法・DESIGN-Rとの違いを、最新のガイドライン(2023年時点)に基づいて解説します。
褥瘡ケアやポジショニング、体圧分散を担当するリハビリセラピストにとって必読の内容です。
基本情報:NPIAP分類とは
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | NPIAP分類(National Pressure Injury Advisory Panel) |
| 旧名称 | NPUAP(National Pressure Ulcer Advisory Panel) |
| 改訂 | 2016年に「Ulcer」から「Injury」へ変更 |
| 分類区分 | ステージI〜IV、Unstageable(深さ不明)、DTI(深部組織損傷) |
| 評価目的 | 褥瘡(圧迫創)の深達度と組織損傷の範囲を明確にする |
| 参考指針 | 日本褥瘡学会「DESIGN-R 2020」スコアとの併用が推奨 |
NPIAP分類は、皮膚および皮下組織がどの程度損傷しているかを評価するものであり、**創の「深さ」**に基づいて段階づけされます。
また、DESIGN-Rのような日本のスコアリング法と併用することで、治癒経過や重症度をより多面的に評価できます。
対象と適応:どのような場面で使用するか
褥瘡リスクがある、またはすでに皮膚損傷が生じている患者が対象です。
リハビリセラピストにとっては、**「動作訓練・ポジショニング・体位変換の設計」**に直結する評価となります。
主な対象例
- 長期臥床患者、麻痺・意識障害を有する方
- 栄養状態の低下、循環不全、浮腫を伴う患者
- 車椅子使用者や義肢装着者で局所圧が生じやすい症例
- 経過観察中の褥瘡がある患者(進行や改善の評価)
適応目的
- 皮膚の損傷程度を正確に把握し、チーム内で情報共有する
- ステージに応じた体位変換間隔や減圧方法を選択する
- 創傷管理・リハビリ負荷量の設定に反映させる
リハビリ領域では、「どのステージにあるか」を理解することが、安全な離床・歩行訓練の可否判断にもつながります。
実施方法:観察の手順と注意点
① 評価手順
- 照明下で全身観察(仙骨部・踵・肘・坐骨部など)
- 皮膚の発赤・硬結・びらん・潰瘍の有無を確認
- 発赤が非退色性(指で押しても白く戻らない)かを判定
- 皮膚が破綻している場合は、欠損の深達度・組織露出範囲を確認
- 必要に応じて写真記録やDESIGN-Rによるスコア併用
② 観察上のポイント
- 照明・体位・皮膚温など環境条件を一定に保つ
- 褥瘡の境界・色調・滲出液・臭気なども併記する
- 感染兆候(発熱・発赤・膿汁)を見逃さない
- DTIやUnstageableでは皮下壊死の深さを視覚的に判断できないため、医師と連携して管理
正確なステージングは皮膚破綻の有無と深さに基づいて行い、**壊死組織や痂皮(エスカー)**の存在は別途記録します。
採点と解釈:ステージ別の特徴
| ステージ | 定義 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| ステージI | 非退色性紅斑。皮膚は損傷していない。 | 発赤が指圧で消えない。温感・硬結・痛みを伴う場合も。 |
| ステージII | 真皮までの部分欠損。浅い潰瘍または血清水疱。 | 壊死組織はなし。感染リスクあり。適切な創保護で治癒可能。 |
| ステージIII | 全層皮膚欠損。皮下脂肪まで到達。 | 筋・骨は露出しない。肉芽形成やポケット形成を伴う。 |
| ステージIV | 全層組織欠損。筋・腱・骨が露出。 | 感染・骨髄炎・敗血症を伴うことも。外科的処置が必要。 |
| Unstageable | 壊死組織や痂皮に覆われて深さ判定不能。 | デブリードマン後に再分類。 |
| DTI | 深部組織損傷。紫〜栗色の変色や血疱。 | 数時間〜数日で潰瘍化する場合がある。早期圧抜きが重要。 |
NPIAP分類は**「深達度による分類」であり、創の大きさ・ポケット・感染などの要素は日本のDESIGN-Rスコア**で評価します。
カットオフ値:重症度の目安
NPIAP分類自体に「数値的カットオフ値」は存在しませんが、臨床上の重症度を以下のように整理できます。
- 軽度(I〜II):皮膚表層の損傷。体位変換や除圧で回復可能。
- 中等度(III):皮下まで達する。感染・滲出液を伴うことが多い。
- 重度(IV・Unstageable・DTI):深部構造まで破壊。多職種連携による包括的治療が必要。
また、発生リスクの予測にはBraden Scaleなどを併用し、スコア12点以下で高リスクと判断されることが一般的です。
標準化・バージョン情報:国際的な整合性
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 改訂履歴 | 2016年:NPUAP → NPIAPに名称変更、「Ulcer」→「Injury」へ |
| 現行版 | NPIAP Pressure Injury Staging System(2023年時点最新) |
| 国内適用 | 日本褥瘡学会「褥瘡予防・管理ガイドライン2022」準拠 |
| 補助スコア | DESIGN-R 2020(Depth, Exudate, Size, Infection, Granulation, Necrosis, Pocket) |
| 教育・研修 | WOCナース、OT・PTが共通言語として使用可能 |
NPIAP分類は国際標準であり、日本国内でも褥瘡学会のガイドラインと整合しています。
リハスタッフもこの分類を理解しておくことで、共通言語によるチーム医療が実現します。
臨床応用と活用事例:セラピストの視点から
活用ポイント
- ポジショニング設計:ステージ別に除圧時間・体位を調整。
- リスク管理:DTI疑い部位を早期に発見し、発症を予防。
- 訓練強度設定:重度例では安静・離床時期の判断に直結。
- 経過評価:DESIGN-Rとの併用で創の治癒度を追跡。
具体的事例
- ステージI〜II:ROM訓練・座位練習の際に摩擦力軽減マットを使用。
- ステージIII〜IV:体圧分散クッション・エアマットレスの選定をOT/PTで協働。
- DTI疑い例:リハビリ中止ではなく、圧抜き+循環促進訓練に切り替える。
褥瘡分類の理解は、単なる皮膚観察にとどまらず、ADL維持・QOL改善のリスクマネジメントに直結します。
他検査との関連:リスクスコアとの併用
褥瘡リスク評価には以下のスケールとの組み合わせが推奨されます。
| スケール名 | 評価内容 | 用途 |
|---|---|---|
| Braden Scale | 知覚、湿潤、活動、移動、栄養、摩擦・ずれ | 発生リスク予測 |
| DESIGN-R 2020 | 褥瘡の重症度・治癒経過の定量化 | 経過観察・報告書作成 |
| NPIAP分類 | 深達度に基づく重症度評価 | 共通言語・分類指標 |
NPIAP分類は“創の深さ”、Bradenは“発生リスク”、DESIGN-Rは“治癒度”と、目的が異なります。
これらを併用することが最も臨床的価値が高いとされています。
デジタル・ICT対応:AI・記録支援の進化
近年では、褥瘡評価をサポートするデジタルツールが増えています。
- AI画像解析:スマートフォンで撮影した創画像を自動分類(NPIAP準拠)
- 電子カルテ連携:NPIAPステージとDESIGN-Rスコアを同時入力できる機能
- リモート観察:訪問リハ・在宅ケアでの創部モニタリング
- 教育システム:VR・3Dモデルでステージ別症例を学習
これらのICT活用により、セラピストも創傷管理におけるデータ活用スキルが求められます。
また、AI分類は補助的評価として扱い、最終判断は臨床観察とチーム判断に基づくことが重要です。