D-CAT(Digit Cancellation Test)は、わずか数分で注意機能を評価できるスクリーニング検査です。
高次脳機能障害や認知低下を早期に見つけるため、作業療法士をはじめとしたリハビリ専門職に広く活用されています。
この記事では、D-CATの基本情報・対象・実施方法・採点と解釈・臨床での活用法まで、最新の研究と信頼できる情報をもとにわかりやすく解説します。
現場での評価精度を高めたい方、注意機能検査の導入を検討している方は必見です。
基本情報:D-CATとは
D-CAT(Digit Cancellation Test)は、注意機能を簡便にスクリーニングするための紙筆式検査です。
Hattaら(2012)により信頼性・妥当性が検証されており、前頭葉機能や情報処理速度、注意維持力の低下をスクリーニングする目的で臨床現場や研究で広く用いられています。
検査概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | D-CAT(Digit Cancellation Test) |
| 分類 | 注意機能スクリーニング検査 |
| 対象 | 成人(18歳以上) |
| 所要時間 | 約4〜5分(各試行1分×3、説明・練習含む) |
| 実施形態 | 紙筆式(3枚構成) |
| 使用物品 | 問題用紙・鉛筆・秒針付き時計 |
| 開発者 | Hatta, Yoshizaki, Ito, Mase, Kabasawa(2012) |
| 理論背景 | Sohlberg & Mateer(1989)の注意機能臨床モデル |
| 評価指標 | 作業量、見落とし率、変化率、虚報数(誤反応) |
D-CATは短時間・低コスト・訓練不要という「実用性の要件」を満たし、神経心理学的検査ツールとして高い信頼性を確立しています。
対象と適応:どんなケースに有効か
D-CATは、高次脳機能障害が疑われる成人患者を対象に設計されています。
特に以下のようなケースで有用です。
適応例
- 脳卒中・外傷性脳損傷後の注意障害スクリーニング
- 認知機能低下(軽度認知障害、前頭葉機能障害など)の早期発見
- 精神疾患や加齢による注意持続の変化評価
- 高齢者施設・通所リハでの簡易評価
D-CATの特徴は、特別な装置を必要とせず、数分で評価が完了する点にあります。
臨床現場では「MMSEやMoCAでは把握しづらい注意機能の変化」を簡易的に補足できる検査として重宝されています。
また、心理的負担が少なく、グループ施行も可能なため、被検者にストレスを与えにくい点も利点です。
検査者が特別な訓練を受けていなくても実施可能であり、OT・PT・STいずれのセラピストでも導入しやすい構造になっています。
実施方法:簡便で標準化された手順
D-CATは3段階(3枚構成)で構成され、ランダムに配置された数字の中から、指定された数字をできるだけ早く、正確に抹消していく課題です。
手順の流れ
- 準備
- 問題用紙(3枚)と鉛筆、秒針付き時計を用意します。
- 説明と練習
- 被検者に課題内容を説明し、短い練習を実施します。
- 実施(本番3回)
- 第1試行:1種類の数字(例:6)を抹消
- 第2試行:2種類の数字(例:9・4)を抹消
- 第3試行:3種類の数字(例:8・3・7)を抹消
- 各試行は1分間。合計約3分。
- 休憩
- 各試行の間に短い休息を挟みます。
測定指標
| 指標 | 内容 |
|---|---|
| 作業量 | 抹消した数字の総数 |
| 見落とし率 | 指定数字を見逃した割合 |
| 虚報数 | 間違って別の数字を抹消した数 |
| 変化率 | 回を重ねた際の作業効率変化(疲労や集中力低下の指標) |
所要時間は全体で約4〜5分と短く、他の評価との併用もしやすい形式です。
採点と解釈:注意機能の変化を見える化
採点は非常にシンプルです。
用紙上で抹消結果を数え、以下の4指標を定量化します。
主な評価項目
- 作業量(Total Performance):処理速度・集中力の指標
- 見落とし率(Omission Ratio):注意持続の欠如を示唆
- 変化率(Reduction Ratio):疲労・注意維持の変化を評価
- 虚報数(False Alarms):衝動性・選択的注意の問題を示唆
評価の考え方
- 作業量の低下+見落とし増加 → 注意集中の困難
- 変化率の大きさ → 維持困難や疲労影響
- 虚報数の多さ → 衝動的反応・選択的注意低下
これらを総合的に解釈することで、注意の焦点化・維持・選択的注意の3要素を把握できます。
D-CAT単独では「注意の切り替え」や「分割注意」は直接測定できませんが、CATなどの詳細検査と組み合わせることで包括的評価が可能になります。
カットオフ値:臨床判断の目安
D-CATには厳密な「カットオフ値」は設定されていません。
これは本検査がスクリーニング目的であり、疾患の診断や障害等級を直接判断するものではないためです。
ただし、臨床的には以下のような相対的基準が参考になります。
目安となる解釈
| 指標 | 参考範囲 | 臨床的示唆 |
|---|---|---|
| 作業量 | 健常者平均−1SD以下 | 注意集中・速度低下 |
| 見落とし率 | 10%以上 | 注意維持障害 |
| 虚報数 | 3件以上 | 衝動性または抑制困難 |
| 変化率 | 20%以上減少 | 疲労・集中持続困難 |
個々の背景(年齢・教育歴・疾患特性)により解釈は異なるため、他検査・観察所見と併用して判断することが重要です。
標準化とバージョン情報:信頼性の裏づけ
D-CATは以下のように標準化・改訂が行われています。
標準化の経緯
- 2001年版:「注意機能スクリーニング検査D-CAT 手引き」刊行
- 2006年改訂版:成人18〜89歳を対象に新規ノーム作成
- 2012年 Hattaら論文(Psychologia)で信頼性・妥当性を検証
信頼性と妥当性
- テスト–再テスト信頼性:良好(r=.79〜.89)
- 構成妥当性:脳損傷群で有意差を確認
- 内的一貫性:高水準(Cronbach’s α=.82)
これらの結果から、D-CATは短時間で信頼性の高いスクリーニングとして確立しています。
また、群施行・低コスト・特別装置不要という特性が「実用性の要件」を満たしており、教育・研究現場にも適用可能です。
臨床応用と活用事例:リハビリ現場での活用法
D-CATはOT・PT・STなど多職種で広く使用されています。
臨床応用の具体例を以下に示します。
活用事例
- 脳卒中リハ初期評価:注意低下を早期に把握し、リハビリ内容を調整
- 高齢者デイケア:集団実施で全体の認知状態を可視化
- 就労支援プログラム:集中・持続力のベースライン確認
- 認知リハ計画立案:注意維持・選択的注意の訓練効果判定
OT視点でのメリット
- 施行が容易 → 日常業務内で導入可能
- データ蓄積が容易 → 経時的変化を追える
- 結果が即座に反映できる → 介入方針の修正に役立つ
D-CAT結果を他の高次脳検査やADL/IADL評価と統合することで、より包括的なアセスメントが可能になります。
他検査との関連:CATやストループとの違い
D-CATは「スクリーニング検査」として位置づけられ、他の詳細検査と補完関係にあります。
関連性のある主な検査
| 検査名 | 特徴 | D-CATとの関係 |
|---|---|---|
| CAT(標準注意検査) | 注意切替・分割注意を含む総合検査 | D-CATより精密で補完的 |
| ストループ色語テスト | 抑制・選択的注意を評価 | D-CATと中等度の相関あり |
| Trail Making Test | 注意転換と処理速度を評価 | D-CATの切替側面を補う |
| WAIS作動記憶課題 | 作業記憶と集中維持を評価 | D-CAT維持側面との関連あり |
特にNagaharaら(2012)は、ストループ色語テストとD-CATが異なる注意要素を反映していることを報告しています。
したがって、複数検査を組み合わせる多面的アプローチが推奨されます。
デジタル・ICT対応:電子化と今後の展望
近年、D-CATのデジタル化も進行しています。
タブレットやPC上での実施により、反応時間・誤反応の自動集計が可能になりつつあります。
ICT化の利点
- 自動採点・集計による誤差軽減
- クラウド保存で経時的比較が容易
- 在宅・遠隔リハビリへの応用可能
- AI分析による注意傾向のパターン化
一方で、電子化にはデバイス差や操作習熟度の影響があるため、現時点では紙筆版の標準版との互換性確認が必須です。
今後は、VR・ゲーム的要素を用いた注意訓練との連携や、リハビリ支援AIとの統合評価も期待されています。
まとめ
D-CATは、短時間で注意機能を評価できる信頼性の高い検査です。
臨床・研究・教育のいずれにも導入しやすく、高次脳機能障害リハの初期スクリーニングツールとして非常に実用的です。
特にリハビリセラピストにとって、患者の集中力や注意の持続を客観的に把握できる貴重な手段となるでしょう。