POMS2日本語版の使い方と臨床活用|7つの気分尺度でうつ・不安を可視化する検査法

POMS2(Profile of Mood States 2nd Edition)は、気分や情動の変化を「7つの気分尺度」と「TMD得点」で客観的に測定できる心理検査です。
医療やリハビリテーションの現場では、うつ・不安・ストレスの評価や介入効果の可視化に活用されています。
本記事では、POMS2日本語版の基本情報から対象、実施方法、採点と解釈、標準化データ、臨床での活用事例までを、リハビリ専門職の視点でわかりやすく解説します。



基本情報|POMS2とは何か

POMS2(Profile of Mood States Second Edition)は、個人の一時的な気分や情動状態を定量的に測定する自己記入式検査です。

特徴として、次の7つの気分尺度で構成されています。

尺度名意味する心理状態
怒り–敵意(Anger–Hostility)怒りや苛立ちの強さ
混乱–当惑(Confusion–Bewilderment)集中力の低下や混乱感
抑うつ–落ち込み(Depression–Dejection)意欲低下、無力感
疲労–無気力(Fatigue–Inertia)身体的・精神的疲労感
緊張–不安(Tension–Anxiety)神経の高ぶり、不安感
活気–活力(Vigor–Activity)積極性や活力の程度
友好(Friendliness)他者への親近感や信頼感

さらに、これらの結果を統合した**TMD(Total Mood Disturbance:総合的気分状態得点)**が算出され、全体的な気分の安定度やストレス反応を評価できます。

POMS2は「過去1週間(今日を含む)」の気分状態を基準に標準化されており、自己認識の変化を定量的に把握するツールとして有効です。



対象と適応|どのような場面で使う検査か

POMS2は幅広い年齢層と目的に対応しており、以下の4つのフォームが用意されています。

区分対象年齢項目数使用目的所要時間
成人用全項目版18歳以上65項目詳細な気分評価回答10分/採点5分
成人用短縮版18歳以上35項目スクリーニング・モニタリング回答5分/採点5分
青少年用全項目版13~17歳60項目心理的変化の詳細把握回答10分/採点5分
青少年用短縮版13~17歳35項目簡易チェック回答5分/採点5分

主な適応場面

  • 医療・リハビリテーション:うつ・不安症状の経過観察、治療前後の気分変化の把握
  • 企業・学校:メンタルヘルスチェック、ストレスマネジメント教育
  • スポーツ:試合前後の心理的コンディションの確認
  • 研究領域:感情調整、動機づけ、ストレス反応の研究など

リハビリ現場では、患者の主観的な心理状態を客観化する指標として有用です。



実施方法|実際の施行と手順

  1. 実施環境:静かで落ち着いた環境を確保します。
  2. 時間枠の設定:「今日を含む過去1週間」を標準とし、目的に応じて「今の気分」「過去1か月」など柔軟に設定可能です。
  3. 回答形式:各項目に対し、「まったく感じなかった」から「非常に強く感じた」までの5件法で回答します。
  4. 回答時間:全項目版で約10分、短縮版で約5分が目安です。
  5. 採点方法:マニュアルまたは自動採点ソフトを使用して各尺度の素点を算出し、Tスコアに変換します。

POMS2は自己記入式検査であるため、検者は説明を簡潔にし、被験者の主観を尊重することが重要です。



採点と解釈|TMDを中心に見る

POMS2の採点結果は以下のように解釈します。

  • 各尺度のTスコアは平均50、標準偏差10を基準とする。
  • TMD(Total Mood Disturbance)=ネガティブ気分の合計-活気得点
     → 数値が高いほど気分が不安定または抑うつ傾向を示す。
  • 友好(Friendliness)はTMDに含まれない独立尺度として扱います。

Tスコアの比較により、「疲労が優位」「抑うつと緊張が高い」「活気が高く安定している」といった特徴を把握できます。
また、リハビリ経過中に定期的に実施することで、心理的回復や治療効果の可視化が可能です。



カットオフ値|臨床判断の目安

POMS2には明確な疾患診断カットオフは設定されていません。
ただし、以下のような臨床的目安が参考になります。

  • TMDスコアが平均より+1SD(T=60)以上:心理的負担が高い可能性
  • 抑うつ・疲労・緊張がいずれも高値:情緒的ストレス反応が強い
  • 活気スコアが著しく低い:意欲・自発性の低下が示唆される

このため、POMS2はスクリーニングや経過観察に適し、臨床判断は他の心理検査や面接情報と併用して行うことが望ましいです。



標準化・バージョン情報|日本版の特性

  • 原版刊行:2012年(米国MHS出版)
  • 日本語版:2015年(金子書房・千葉テストセンター)
  • 標準化母集団:日本の一般人口を対象(性別・年齢別に標準化)
  • 時間枠:「今日を含む過去1週間」で標準化
  • フォーム:成人・青少年用の全項目版/短縮版の4種類

初版(1994年)POMSからの主な変更点:

  • 新たに「友好(Friendliness)」尺度を追加
  • 標準化データの更新
  • 質問文の平易化・回答選択肢の明確化

この改訂により、現代日本人の心理特性に即した評価が可能になりました。



臨床応用と活用事例|リハビリ領域での実践

POMS2は、患者の心理的側面を評価・共有するための有力ツールです。

リハビリでの活用例

  • うつ・不安障害患者:治療初期・中期・終末期の気分変化を数値化し、介入効果を確認。
  • 脳卒中・整形疾患:慢性疼痛や疲労、意欲低下の客観的評価。
  • リワークプログラム:復職準備期におけるストレス耐性・情緒安定度の確認。
  • 高齢者支援:活動意欲や孤独感の可視化によるQOL支援。

活用のポイント

  • POMS2はクライアント自身の気分状態を“見える化”するため、セルフモニタリングを促進します。
  • 結果を共有することで、心理教育・行動変容支援にも応用できます。


他検査との関連|心理・認知評価との併用

POMS2は情動や気分の変化を測定するため、以下の検査と補完的に用いられます。

検査名主な評価領域POMS2との関連
HADS(Hospital Anxiety and Depression Scale)不安・抑うつ病的傾向のスクリーニングに有用
CES-D(うつ病自己評価尺度)抑うつ抑うつ状態の詳細評価として併用可
STAI(状態・特性不安検査)不安緊張–不安尺度との比較分析
WHO-5、GHQなどQOL・ストレス心理的健康全体の補完指標として利用

複数の検査を組み合わせることで、情動・意欲・ストレス耐性の全体像を多角的に把握できます。



デジタル・ICT対応|オンライン化と自動集計

POMS2は現在、デジタル化にも対応が進んでいます。

  • 自動採点システム:千葉テストセンターによる電子採点サービス
  • オンライン評価:PCやタブレットでの実施が可能(企業・教育現場で活用)
  • 統計処理:CSV出力によるデータ管理・グラフ化
  • 遠隔リハビリへの応用:在宅患者の心理モニタリングに有効

ICT活用により、時間・場所を問わず気分変化を定量的に追跡できる環境が整いつつあります。



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