脳卒中後の片麻痺リハビリでは、回復の進行を正確に把握することが重要です。
「ブルンストロームステージ(Brunnstrom Stage)」は、脳血管障害後の運動機能回復を6段階で評価する代表的スケールです。
本記事では、その評価方法・解釈・活用事例・ICT化の最新動向まで、作業療法士・理学療法士が臨床で役立つ視点から詳しく解説します。
ブルンストロームステージの基本情報
ブルンストロームステージ(Brunnstrom Stage)は、脳血管障害後の片麻痺回復を6段階で評価する国際的なスケールです。スウェーデンの神経生理学者シグリッド・ブルンストローム(Signe Brunnstrom)が提唱しました。
このスケールは、痙性と共同運動パターンの出現・消失をもとに回復の進行を捉え、リハビリテーション計画の立案や効果判定に活用されます。
一部の文献では「第VII段階=正常運動」を追加して7段階表記とするものもありますが、臨床・研究上の標準は6段階(I~VI)です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | ブルンストロームステージ(Brunnstrom Stage) |
| 開発者 | Signe Brunnstrom(スウェーデン) |
| 対象 | 脳血管障害後の片麻痺患者 |
| 評価内容 | 筋緊張、共同運動、随意運動の出現と分離 |
| 評価段階 | 6段階(I~VI) |
| 評価部位 | 上肢・下肢それぞれ独立して評価 |
| 主な使用場面 | 急性期・回復期リハビリの運動機能評価、予後予測、記録 |
ブルンストロームステージは、単なるスコアリングツールではなく、神経生理学的回復の理解を促す臨床的フレームワークとして今も広く使用されています。
対象と適応
ブルンストロームステージの対象は、脳血管障害(脳梗塞・脳出血など)により片麻痺を呈する患者です。特に以下のようなケースに有用です。
- 脳卒中発症後、運動麻痺を呈している患者
- 上肢・下肢それぞれの麻痺回復過程を追跡したい場合
- 痙性出現や運動分離の段階を把握したいケース
- リハビリ効果や治療プログラムの妥当性をモニタリングしたい場合
ただし、次のような場合は注意が必要です。
- 軽度麻痺例や感覚障害が主な症状のケースでは感度が低い
- 認知症や注意障害が重度な場合は正確な評価が難しい
- 進行性疾患や外傷性損傷では必ずしもこの回復モデルに沿わない
ブルンストロームステージは重度~中等度の運動障害を呈する脳卒中患者に最も適しており、Fugl-Meyer Assessment(FMA)などと併用することで信頼性を高められます。
実施方法
評価は、上肢・手・下肢をそれぞれ独立して観察的に行います。被検者は座位または臥位で評価し、筋緊張、反射、運動パターン、随意運動の質を総合的に判断します。
評価の流れは以下の通りです。
- 弛緩の有無を確認(Stage I判定)
- 反射や共同運動(synergy)の出現を確認
- 自発的なシナジー内運動が可能か観察
- シナジー外の運動がどの程度可能か確認
- 分離運動・協調性・速度を観察
- 両側運動・複雑な課題運動の実施を通じてStage VIへ
評価時間は片側あたり5〜10分程度が目安です。
評価中は以下に留意します。
- 無理に動作を誘導せず自然な随意運動を重視
- 疲労・疼痛による誤判定に注意
- 反射的な動きと随意的動きを区別する
上肢と下肢は別々にステージを判定するため、同一患者でも上肢がStage III、下肢がStage Vなど異なることが一般的です。
採点と解釈
ブルンストロームステージは6段階で構成され、それぞれの段階は以下のような意味を持ちます。
| ステージ | 状態 | 特徴 |
|---|---|---|
| I | 弛緩(Flaccidity) | 筋緊張が著しく低下。随意運動は見られない。反射は低下または消失する場合がある。 |
| II | 痙性の出現 | 筋緊張がわずかに上昇し、共同運動が誘発される。 |
| III | 痙性の増強 | 痙性が最大となり、シナジー内の随意運動が可能。 |
| IV | 痙性の減少 | シナジー外の単独運動が一部可能に。選択的な動作が出現。 |
| V | 分離運動 | 複雑な運動が可能となり、痙性は著明に減少。 |
| VI | 正常化 | 協調的で滑らかな随意運動が可能。ほぼ正常な筋緊張。 |
解釈のポイント
- Stage I~III:回復初期(痙性出現期)
- Stage IV~VI:回復後期(運動分離・協調期)
ステージの上昇は、神経可塑性の促進や機能的再統合を示すとされます。
ただし、すべての患者が段階的に回復するわけではなく、途中で停滞する例もあるため、経過評価が重要です。
カットオフ値
ブルンストロームステージは連続的な段階評価であり、明確なカットオフ値は存在しません。
しかし、臨床的には以下のような解釈が参考になります。
| 段階 | ADL・機能的意味 |
|---|---|
| Stage I–II | ベッド上での基本動作に介助が必要。 |
| Stage III | 立位保持・移乗動作への介助量が減少。 |
| Stage IV | 基本ADLに部分的自立。歩行練習開始。 |
| Stage V | ADLの多くが自立。巧緻動作が課題。 |
| Stage VI | 社会復帰・就労が可能なレベル。 |
多くの研究で、Stage IV以上の到達が日常生活自立の指標とされています。
ただし、ADL自立には感覚機能・認知機能・環境要因も関与するため、FIMなど他指標との併用評価が望ましいです。
標準化・バージョン情報
ブルンストロームステージは1940〜1950年代に提唱され、のちにTwitchell(1951)やFugl-Meyer(1975)により標準化が進みました。
現在は「Brunnstrom Recovery Stages (BRS)」として国際的に引用され、Fugl-Meyer Assessmentの運動項目の理論的基盤となっています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 原著 | Brunnstrom S. Movement Therapy in Hemiplegia: A Neurophysiological Approach. (1970) |
| 派生尺度 | Fugl-Meyer Assessment (FMA) |
| 評価領域 | 上肢・手・下肢に分けた6段階 |
| 標準化 | 日本語版リハ文献・脳卒中ガイドラインで一般化 |
| 注意 | FMAなどより再現性は低く、観察者間差が生じやすい |
近年では、デジタルモーション解析や筋電図計測との併用による客観的なブルンストロームステージ推定の試みも行われています。
臨床応用と活用事例
ブルンストロームステージは臨床現場で以下のように活用されています。
- 回復過程のモニタリング:発症後数週〜数か月の経過を客観的に把握
- 治療プログラムの調整:ステージI〜IIIでは痙性抑制訓練、IV〜VIでは協調・巧緻動作訓練
- 多職種間共有:医師・PT・OT・ST間で回復段階を共通言語として使用
- 予後予測:Stage V以上でADL自立率が高い傾向
- 教育・研究:学生教育・臨床試験で標準枠として使用
事例:
発症2週の患者(上肢Stage II → 3か月後Stage IV)では、回復期リハの筋再教育訓練が有効であったとの報告も多く、痙性減弱・協調改善を指標に経過を追うことが推奨されます。
他検査との関連
ブルンストロームステージは他の運動機能評価と密接に関連しています。
| 評価法 | 評価対象 | 関連性 |
|---|---|---|
| Fugl-Meyer Assessment(FMA) | 運動・感覚・バランス・関節痛 | ブルンストローム理論を基に項目化。信頼性が高い。 |
| Modified Ashworth Scale(MAS) | 筋緊張・痙性 | ステージIII〜IVの痙性評価と併用される。 |
| Motor Assessment Scale(MAS-AUS) | 日常動作・バランス | Stage IV以降の動作能力を細かく評価可能。 |
| FIM(Functional Independence Measure) | ADL全般 | ステージ上昇に伴いFIM点数が上昇する傾向。 |
複数の尺度を組み合わせることで、運動・感覚・ADLの統合的な予後評価が可能になります。
デジタル・ICT対応
近年、ブルンストロームステージのデジタル化・客観化が進んでいます。
主な開発動向:
- モーションキャプチャシステムによる関節角度・速度解析
- 筋電図(EMG)センサーによる痙性・共同運動パターンの定量化
- AIによる動画解析でステージを自動分類する研究
- **ウェアラブル端末(加速度・ジャイロセンサー)**で自宅リハ中の動作解析
- 電子カルテ・クラウド連携によるステージ経過の自動グラフ化
これらの技術は、評価の再現性と客観性の向上に寄与します。
特にAI解析を用いた「BRS推定モデル」は、評価者間の誤差を減らし、在宅リハ領域でも標準化評価が可能になることが期待されています。
まとめ
ブルンストロームステージは、脳卒中後の麻痺回復を理解し、治療戦略を立てる上で欠かせない古典的評価法です。
ただし、単独評価に頼らず、Fugl-MeyerやFIMなどと組み合わせて多面的に活用することが、現代のリハビリテーション実践における鍵となります。