CAS(標準意欲評価)とは?リハビリで意欲・自発性低下を見える化する検査法

リハビリや高次脳機能障害の臨床で、「本人にやる気が見られない」「指示しないと動かない」といった状況に直面することは少なくありません。
その“意欲の低下”を客観的に評価できる検査が、CAS(標準意欲評価:Clinical Assessment for Spontaneity)です。
CASは、日本高次脳機能障害学会のBFT委員会によって開発され、脳卒中・頭部外傷・アパシー症状などにおける自発性の低下を科学的に測定する標準化ツール
として位置づけられています。
単なる「やる気の有無」ではなく、面接・観察・質問紙を組み合わせて意欲の構造を多面的に評価できる点が特徴です。
この記事では、CASの概要・対象・実施方法・採点と解釈・標準化データ・臨床応用までを、リハビリ専門職の視点からわかりやすく解説します。

CASとは?標準意欲評価の基本概要


CAS(標準意欲評価:Clinical Assessment for Spontaneity)は、日本高次脳機能障害学会・BFT委員会によって開発された、脳損傷後の意欲・自発性の低下を定量的に評価する検査です。
この検査は、同委員会が作成した「標準注意検査法(CAT)」と対をなし、高次脳機能障害の包括的評価体系の一部を構成しています。意欲の低下は、脳卒中や頭部外傷後にしばしばみられる症状で、行動開始が遅い、声かけがないと動かない、趣味への関心が失われるといった特徴を示します。
CASはこうした“発動性の障害”を、「質問紙・面接・観察」の三方向から測定し、数値化できる点が大きな特徴です。

項目内容
名称標準意欲評価(CAS)
英語名Clinical Assessment for Spontaneity
開発日本高次脳機能障害学会 BFT委員会
主目的自発性・意欲の低下の有無と重症度を評価
評価法面接・観察・質問紙・行動分析による複合評価

CASは、単に「モチベーションを測る」心理検査ではありません。
前頭葉や線条体の機能低下に起因する**意欲障害(アパシー)**を、臨床的かつ行動科学的に捉えるための標準化ツールです。
その結果は、リハビリ計画や家族支援の指針として活用され、患者の社会参加促進にも役立ちます。



CAS(標準意欲評価)とは?臨床での意義と特徴

CASは、脳損傷後に起こる「自発性の低下(発動性の障害)」を多角的に評価することを目的としています。
日常生活で見られる「行動が少ない」「受け身的」「関心が乏しい」といった症状は、認知障害や抑うつとは異なり、意欲そのものの障害として位置づけられます。

特徴的なのは、観察・質問紙・自由行動分析を統合する評価体系により、本人の主観と実際の行動を比較できる点です。
たとえば「自分ではやる気がある」と答えていても、自由時間中に活動がほとんど見られない場合、行動面での意欲低下が示唆されます。
このようにCASは、内省と行動の乖離を可視化する臨床ツールです。

CASの特長内容
多面的評価面接・観察・質問紙を統合
高い臨床妥当性前頭葉機能障害やアパシー評価に特化
標準化済み健常群・脳損傷群の大規模データに基づく
CATとの併用注意・遂行・意欲を総合的に把握可能

意欲低下はADLや社会参加に直結するため、CASによる定量的評価は、リハビリ計画の個別化や経過モニタリングに欠かせません。



対象と適応:どんな患者にCASが有効か

CASの主な対象は、脳血管障害・頭部外傷・高次脳機能障害を有する成人です。
標準化データは10代から80代までをカバーしており、健常群との比較評価も可能です。

CASが適応となる典型的な症例は以下の通りです。

  • 行動を自分から始めない(発動性の低下)
  • 指示がないと動けない(依存的行動)
  • 表情や言葉が乏しい(情動反応の低下)
  • 以前楽しんでいた趣味・活動への関心が減退
  • リハビリ参加が続かない・中断しやすい

このような症状は「怠け」ではなく、前頭前野―線条体回路の障害によって起こることが知られています。
CASでは、これらの行動変化を数量化し、重症度分類(軽度・中等度・高度)を提示します。
その結果、作業療法・心理療法・家族支援の方向性を立てやすくなります。



実施方法:5つの構成で意欲を多面的に測る

CASは、単一のテストではなく、以下の5つの構成要素で評価します。

構成内容
① 面接による意欲評価スケール検査者が観察と問診を通じて評価
② 質問紙法による意欲評価スケール本人が自己評価として回答
③ 日常生活行動の意欲評価生活上の行動や参加態度を観察
④ 自由時間行動の観察指示がない時間にどのような行動を取るか
⑤ 臨床的総合評価0〜4段階で意欲低下の重症度を統合判断

検査の流れは、まず面接と質問紙で本人の主観を把握し、数日間にわたる行動観察で実際の活動量を確認します。
その後、チームで情報を統合し、最終的な重症度スコアを決定します。
評価には時間的経過の観察が不可欠であり、単回の質問紙では捉えきれない意欲の質的変化を見出すことができます。



採点と解釈:高得点ほど意欲低下が重度

CASの採点原理は「高得点=自発性の低下が重い」です。
多くの心理検査と方向が逆であるため、評価時には注意が必要です。

各尺度は0〜4点で採点され、総合得点によって重症度を以下のように分類します。

総得点評価レベル臨床的特徴
0〜4点なし〜軽度自発的行動が見られる
5〜9点軽度低下声かけで動けるが受動的
10〜14点中等度低下自主的行動がほぼ消失
15点以上高度低下自発行動ほぼ消失・アパシー状態

解釈では、主観的評価と客観的行動の整合性が重要です。
自己評価では「やる気がある」と答えても、自由時間の観察で行動が乏しい場合、行動化の障害(発動性低下)が強いと判断されます。
一方で、行動はあるが目的性が乏しい場合は注意・遂行機能の障害が影響している可能性もあり、CATとの併用評価が推奨されます。



標準化と信頼性:科学的根拠に基づくツール

CASは、健常者315名・脳損傷者214名のデータを基に標準化されています。
対象疾患は脳血管障害が約6割、頭部外傷が約2割を占め、幅広い年齢層(10〜80代)で信頼性が確認されています。

指標内容
標準化対象健常群315名/脳損傷群214名
主な疾患脳血管障害・頭部外傷など
信頼性再検査信頼性・内的一貫性ともに良好
妥当性他検査(CAT・FAB等)との有意相関を確認
改訂情報2022年に新版CAT-R・CASが刊行(新興医学出版社)

新版では、観察項目の整理と判定基準の明確化が行われ、臨床使用の利便性が向上しています。
また、標準化データに基づく統計解析により、年齢・性別によるバイアスの少なさが検証されています。
これにより、CASは科学的根拠を持つ意欲評価ツールとして国際的にも注目されています。



臨床応用:リハビリ現場での使い方

CASは、リハビリテーション領域で「なぜ動けないのか」を明確にするツールとして活用されています。
以下は代表的な応用例です。

  • 高次脳機能障害患者のリハビリ継続要因の分析
  • 作業療法での課題設定(興味・関心の再喚起)
  • アパシー症状の経過観察と回復指標の提示
  • 家族への説明・心理的教育への活用
  • 就労移行支援における発動性の把握

特に、自由時間観察による活動傾向は介入設計に直結します。
たとえば「他者からの刺激で動けるが、自発的には動かない」タイプには、環境調整やスケジュール化による外的サポートを設けることが効果的です。
逆に「やる気はあるが計画性に欠ける」場合は、遂行機能支援が中心となります。

CASの結果は、ADL評価(FIM・BI)や注意検査(CAT)と統合して活用することで、より具体的なリハビリ目標設定につながります。



関連検査との併用:認知と意欲を統合評価

CAS単独では意欲の程度は分かりますが、その背景要因(認知・注意・情動)を明確にするためには、他の検査との併用が有効です。

検査名評価領域併用目的
CAT(標準注意検査法)注意・遂行機能同系列検査。意欲と注意の関係分析
FAB(前頭葉機能検査)遂行・抑制前頭葉障害との関連を把握
MMSE/HDS-R認知機能認知低下と意欲低下の鑑別
FIM/BI日常生活動作意欲低下がADLに及ぼす影響を把握

CASを中心に据えた「認知×意欲」の評価体系を構築することで、活動量・目的意識・自己決定性といった臨床的要素を統合的に理解することができます。



デジタル対応と今後の展望

CAS自体の公式デジタル版はまだ提供されていませんが、対となるCATでは**CPT2(Computerized Performance Test 2)**が導入され、PC上での実施・採点・結果出力が可能です。
一部の医療機関では、CAS評価結果を電子カルテに統合し、経過グラフ化する試みも進んでいます。

今後の展望としては以下のような方向性が考えられます。

  • CASスコアの経時変化を自動可視化する電子版の開発
  • AIによる意欲低下パターンのクラスタ分類
  • データ連携による「意欲リハビリモニタリングシステム」の構築

ただし、CASの本質は「行動観察による臨床的洞察」にあります。
デジタル化はあくまで補助手段であり、評価者の観察眼とチーム共有こそが、患者の意欲を引き出す鍵となります。


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