CES-D(Center for Epidemiologic Studies Depression Scale)は、一般集団を対象に過去1週間の抑うつ症状を短時間で把握できる自己記入式尺度です。20項目・0〜60点で採点し、標準的なカットオフは16点とされています。本記事では、作業療法士をはじめとするリハビリセラピスト向けに、対象と適応、実施方法、採点と解釈、カットオフ値、日本語版・短縮版(CES-D 10/CES-DC)までを整理し、臨床応用や他検査との使い分け、デジタル実装のポイントまで実務目線で解説します。
基本情報:CES-Dの概要と目的
CES-D(Center for Epidemiologic Studies Depression Scale)は、米国国立精神衛生研究所(NIMH)が1977年に開発した自己記入式の抑うつ評価尺度です。
うつ病そのものを診断するものではなく、一般人口における抑うつ症状の程度を把握することを目的としています。
- 正式名称:Center for Epidemiologic Studies Depression Scale
- 開発者:Radloff, L. S.(1977)
- 開発目的:疫学研究における抑うつ症状のスクリーニング
- 構成:20項目、自己記入式
- 評価対象:過去1週間の気分や行動頻度
- 所要時間:約10〜15分
CES-Dは、ZungのSDS、BeckのBDI、MMPIなどの既存尺度を参考に、因子分析を通じて作成されました。
その信頼性と簡便性から世界中で広く使われ、一般成人だけでなく、高齢者や思春期の青年にも応用されています。
日本では1985年に島悟・鹿野達男らによって日本語版CES-Dが作成され、以降、信頼性・妥当性が検証されています。
対象と適応:CES-Dが有効な対象とその意義
CES-Dは15歳前後から高齢者まで幅広い年齢層に使用可能ですが、主に一般成人や地域住民、学生、職場などの集団スクリーニングで活用されます。
特に以下のようなケースで有効です。
- うつ症状の早期発見(医療機関に未受診の人を含む)
- 地域リハ・介護予防事業における心理面評価
- 職場のメンタルヘルス調査や産業保健領域
- 高齢者の孤立感・抑うつ傾向の把握
- 大学・高校生など青年期のストレス評価
一方で、小中学生など13歳未満の児童には、**CES-DC(Child版)**の使用が推奨されます。
これはCES-Dを児童用に改変したバージョンで、6〜17歳を対象としています。
CES-Dの利点は、臨床的診断を受けていない人々における**“こころの健康度”を定量化**できる点にあります。
そのためリハビリテーション領域でも、疾病後の心理変化や活動意欲の低下を把握する目的で活用されています。
実施方法:20項目・4件法のシンプルな質問形式
CES-Dは20項目の質問で構成され、過去1週間の気分や行動の頻度を自己評価します。
回答は以下の4段階で行います。
| 項目 | 回答選択肢 | 配点 |
|---|---|---|
| 1 | ほとんどなかった(0〜1日) | 0点 |
| 2 | 時々あった(1〜2日) | 1点 |
| 3 | しばしばあった(3〜4日) | 2点 |
| 4 | ほとんどいつもあった(5〜7日) | 3点 |
質問内容は「悲しい」「集中できない」「睡眠の問題」「孤独感」など、日常生活に関連した感情・行動を問う形式です。
また、4・8・12・16番の4項目(例:「他の人と同じくらい能力があると思う」「毎日が楽しい」など)はポジティブ項目として逆転採点します。
実施時間は10〜15分程度と短く、認知症や身体疾患を持つ高齢者でも実施しやすいのが特徴です。
自己記入が基本ですが、必要に応じて**面接法(聞き取り形式)**でも実施可能です。
採点と解釈:0〜60点で抑うつの程度をスクリーニング
CES-Dは各項目を0〜3点で採点し、合計点は0〜60点になります。
得点が高いほど、抑うつ症状が強いことを示します。
| 点数範囲 | 解釈の目安 |
|---|---|
| 0〜15点 | 正常範囲(明らかな抑うつなし) |
| 16〜25点 | 軽度の抑うつ傾向(要観察) |
| 26点以上 | 中等度〜重度の抑うつ傾向(要支援・要医療相談) |
ただし、CES-Dは診断ツールではなくスクリーニングツールです。
したがって「うつ病である」と断定するためには、臨床面接や専門医による診断が必要になります。
また、身体疾患・睡眠障害・喪失体験などがある場合は一時的に高得点を示すことがあり、文脈を考慮して解釈することが重要です。
カットオフ値:16点以上が抑うつ傾向の目安
多くの研究で、カットオフ値は16点が標準とされています(Radloff, 1977)。
つまり、16点以上を示した場合には、抑うつ状態の可能性があるとみなされます。
ただし、国や対象群によって適正なカットオフ値は異なります。
日本人一般成人を対象とした研究では、19点以上を推奨する報告もあります。
高齢者や慢性疾患患者では、背景因子の影響によりスコアが高く出る傾向があるため、状況に応じた柔軟な解釈が求められます。
標準化・バージョン情報:日本語版と短縮版の存在
日本語版CES-Dは1985年に島悟・鹿野達男らによって作成され、以降、多数の国内研究で信頼性・妥当性が確認されています。
Cronbachのα係数は0.84〜0.90と高く、心理測定ツールとして十分な内部一貫性を持っています。
また、さまざまな派生バージョンが存在します。
- CES-D短縮版(CES-D 10):10項目版、5分程度で実施可能
- CES-DC(Child):児童用(6〜17歳)
- オンライン版・電子版CES-D:スマホ・タブレット対応
これらの標準化作業により、年代・文化差を超えて使用可能な評価法となっています。
臨床応用と活用事例:リハビリでの心理評価に有用
リハビリテーション領域では、CES-Dは次のような場面で活用されています。
- 脳卒中・整形外科疾患後の抑うつスクリーニング
- 介護予防教室・地域リハでの心身活性度評価
- 就労支援・復職プログラム(リワーク)での経過観察
- 慢性疼痛・がん患者の心理的苦痛の評価
特に作業療法士にとっては、「行動意欲」「活動量」「社会参加」の背景にある心理的エネルギーの低下を可視化できる点が有用です。
また、うつ病予防の観点から、自己効力感や日常の楽しみを再構築する作業プログラムの成果指標としても活用されています。
他検査との関連:うつ関連尺度との比較
CES-Dはうつ症状を評価する多くの尺度の中でも、一般向けスクリーニングに特化しています。
| 尺度名 | 主な特徴 | 主な対象 |
|---|---|---|
| BDI-II(Beck Depression Inventory) | 臨床用、症状の深刻度を詳細評価 | 医療機関・研究 |
| SDS(Zung Self-rating Depression Scale) | 医療・一般兼用、20項目 | 一般〜臨床 |
| GDS(Geriatric Depression Scale) | 高齢者専用、15or30項目 | 高齢者 |
| SRQ-D | 精神科外来向け、日本で開発 | 医療現場 |
| CES-D | 一般集団スクリーニング、20項目 | 成人・地域住民 |
CES-Dは質問が平易で、教育水準や専門知識に依存しないため、非臨床集団での利用に最も適しています。
デジタル・ICT対応:オンライン化と今後の展望
近年はCES-Dをデジタル化したオンライン評価フォームやスマートフォンアプリが増えています。
特にリモート環境下では、以下のような利点があります。
- Webフォームで自動採点・グラフ化が可能
- 結果を即時に共有・フィードバックできる
- 経時的な変化をクラウドで追跡可能
- データの統計分析・AI解析が容易
GoogleフォームやREDCap、心理測定アプリなどで簡単に再現可能です。
また、ウェアラブルデバイスや睡眠アプリと連動することで、抑うつ傾向と生活リズムの相関を多面的に分析できるようになっています。
今後は、リハビリ領域でも「CES-D × バイタル × 行動データ」を組み合わせた心理的健康モニタリングが進むと期待されます。
まとめ
CES-Dは、うつの診断ではなく「心のつらさを見える化する」ための信頼性の高いツールです。
リハビリセラピストが心理・行動面を包括的に理解するうえで、欠かせない評価法といえるでしょう。