上肢(肩・腕・手)の障害をどのように定量的に評価するか――。
そんな課題に応えるのが、**DASH(Disabilities of the Arm, Shoulder, and Hand)**です。
国際的に標準化されたこの自己記入式質問票は、痛み・動作制限・日常生活・社会参加までを多面的に測定でき、整形外科・リハビリ・作業療法の現場で広く活用されています。
この記事では、DASHの構造・採点法・DASH-JSSH(日本版)・臨床応用・デジタル対応までを、最新のエビデンスを基に解説します。
基本情報|DASHとはどんな検査か
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | Disabilities of the Arm, Shoulder, and Hand(DASH) |
| 開発者 | Hudak, Amadio, Bombardier(1996年, J Hand Ther) |
| 評価対象 | 上肢の筋骨格障害(肩・腕・手) |
| 質問数 | 30項目(+任意のモジュール4項目×2:仕事・スポーツ) |
| 評価方法 | 自己記入式質問票(過去1週間の活動制限・痛み・社会的影響を回答) |
| 採点範囲 | 0〜100点(高得点ほど障害が重い) |
| 日本語版 | DASH-JSSH(日本手外科学会版, 2004年前後導入, 2005–2006年に妥当性報告) |
| 開発背景 | 上肢全体の機能を総合的に捉える患者立脚型尺度として開発 |
DASHは単に「動作ができるかどうか」を測る検査ではなく、
**「痛み・活動制限・社会参加・心理的自信」**を多次元的に評価できる点が特徴です。
患者の主観的体験を直接反映できるため、リハビリ評価においても非常に価値が高いツールといえます。
対象と適応|どんな症例に使えるか
DASHは上肢に関わる広範な疾患・障害に適応できます。
以下のような臨床場面で用いられています。
● 主な適応疾患
- 整形外科疾患:骨折、腱損傷、脱臼、上腕骨外側上顆炎など
- リウマチ性疾患:関節リウマチ、変形性関節症など
- 神経疾患:脳卒中、末梢神経損傷、頸椎症性神経根症など
- 慢性疼痛症候群:複合性局所疼痛症候群(CRPS)など
- 職業性障害:反復動作障害、腱炎、手根管症候群など
- スポーツ障害:テニス肘、野球肩、腱板損傷など
- 手術後リハビリ:腱縫合・人工関節置換術後など
- 高齢者の機能低下:加齢による巧緻動作・筋力低下の評価にも有効
● 使用目的
- 日常生活動作(ADL)の制限度を把握
- 治療・リハビリの前後比較による機能改善評価
- 痛みや活動制限の主観的変化を数値化
- 生活の質(QOL)への影響を客観視
DASHは疾患横断的に使用可能な汎用ツールであり、特定疾患専用の検査よりも幅広い症例に適応できます。
実施方法|評価の流れと質問構成
● 評価の手順
- 患者自身が質問票に回答(通常は紙または電子フォーム)
- 対象期間は直近1週間
- 各項目を 1(できる)〜5(非常に困難) の5段階で評価
- 30項目のうち少なくとも 27項目に回答が必要
● 主な質問項目例
- ビンのフタを開ける
- 書く・鍵を回す
- 家事(掃除・洗濯・料理)を行う
- 買い物袋を持つ
- 背中を洗う・服を着る
- 頭上の棚に物を置く
- 趣味・レクリエーション活動
- 社会的交流や性生活への影響
- 痛み・こわばり・力の入りにくさ
- 「自分の腕や手の能力に自信があるか」
● 任意モジュール(Optional Modules)
- 仕事モジュール(職業活動の制限度)
- スポーツ・芸術モジュール(パフォーマンス活動の制限度)
これらを組み合わせることで、
上肢の生活機能を包括的に捉えることが可能です。
採点と解釈|DASHスコアの読み方
● スコア算出方法
- 各項目(1〜5点)の平均を算出
- 平均値を次式で換算:
スコア = [(平均値 − 1) × 25] - 結果を0〜100点で表す
| スコア範囲 | 解釈の目安 |
|---|---|
| 0〜20点 | 障害がほとんどない |
| 21〜40点 | 軽度の機能制限 |
| 41〜60点 | 中等度の障害 |
| 61〜80点 | 重度の障害 |
| 81〜100点 | 非常に重度の障害 |
※この分類は便宜的な目安であり、公式カットオフではありません。
● 解釈のポイント
- スコアが高いほど障害が重い
- 治療前後の差(Δスコア)が 10〜15点 以上あれば「臨床的に意味のある変化(MCID)」とされます
- 個人の経過比較、群間比較、治療効果の可視化に適します
カットオフ値|固定の基準はなし
DASHには明確な「カットオフ値」は定められていません。
これは、DASHが連続変数として障害の程度を測定するためです。
ただし臨床的には、
- 軽度:20点未満
- 中等度:20〜40点前後
- 重度:40点以上
といった実用的な範囲で分類されることがあります。
また、10〜15点程度の変化が最小重要差(MCID)として扱われることが多く、
治療効果の判定や研究で活用されています。
スコアはあくまで「患者本人の基準」で解釈することが重要であり、
他者比較よりも前後比較に重点を置くのが望ましいです。
標準化とバージョン情報|DASH-JSSHと国際版
| バージョン | 言語・地域 | 特徴 |
|---|---|---|
| DASH(原版) | 英語(IWH) | オリジナル。1996年開発 |
| QuickDASH | 英語 | 短縮版(11項目) |
| DASH-JSSH | 日本手外科学会版 | 文化的適応を経て2004年前後に導入、2005–06年に妥当性報告 |
| 他言語版 | スウェーデン語・韓国語・イタリア語・アラビア語など | 多文化間での信頼性検証済み |
● 日本版(DASH-JSSH)の特徴
- 日本語・文化に合わせた翻訳と逆翻訳プロセス
- 高い信頼性(Cronbach’s α > 0.95)と妥当性を確認
- リハビリ現場で広く使用される標準尺度
臨床応用と活用事例|OT・PTにおける使い方
DASHは以下のような目的で臨床応用されています。
● 評価・モニタリング
- リハビリ初期・中期・退院時の評価に活用
- 治療方針変更の判断材料
- 群データとして研究・報告に使用可能
● 臨床での具体例
- 肩関節周囲炎での可動域訓練前後の変化
- 上肢骨折術後の生活復帰評価
- 末梢神経再建術後の機能回復モニタリング
- 関節リウマチ患者のADL改善指標
● 利用上の利点
- 患者自身が改善を「数値」として実感できる
- 医療者が治療効果を説明しやすくなる
- QOL向上に焦点を当てた目標設定が可能
DASHは「身体機能」と「生活実感」をつなぐ橋渡しとして、
作業療法・理学療法のどちらの現場でも有用です。
他検査との関連|上肢機能評価との比較
| 検査名 | 評価内容 | 特徴 |
|---|---|---|
| DASH | 上肢全体の機能・痛み・活動制限 | 汎用的・多次元的・患者報告式 |
| QuickDASH | DASH短縮版 | 時間短縮・モニタリング向き |
| PRWE/PRWHE | 手関節・手部特化 | 局所評価に優れる |
| MHQ(Michigan Hand Questionnaire) | 手の外科手術後などに特化 | 美観・満足度も含む評価 |
| SPADI(Shoulder Pain and Disability Index) | 肩関節中心 | 肩疾患の特異的スケール |
DASHは**「上肢全体」を包括的に捉える唯一の国際標準尺度**です。
疾患特異的スケールと併用することで、局所+全体のバランス評価が可能になります。
デジタル・ICT対応|電子評価の動向
近年、DASHは電子カルテ・モバイルアプリ・Webアンケートなどに実装されています。
● デジタル化の利点
- 回答時間の短縮(自動スコア算出)
- リアルタイムで経過グラフを表示
- データベース連携で研究活用が容易
- 在宅・遠隔リハビリでの自己評価にも対応
● 代表的なICT活用事例
- QuickDASHオンラインフォーム(IWH公式提供)
- リハビリ記録アプリ内DASHモジュール
- 電子カルテ連携スコア管理システム
- AI分析による経時変化の自動可視化
電子化によって、DASHは単なる質問票から「患者中心のフィードバックツール」へと進化しています。
遠隔リハビリやハイブリッド支援の現場でも、今後ますます重要な役割を果たすでしょう。
まとめ
- DASHは上肢全体の機能障害を多面的に評価する国際標準ツール。
- 日本版(DASH-JSSH)は信頼性・妥当性ともに高く、臨床での使用に適しています。
- 治療効果の見える化や、患者参加型リハビリに欠かせない評価法です。