エプワース眠気尺度(ESS)の評価方法とカットオフ値|睡眠時無呼吸症候群やリハビリ臨床での活用法を解説

眠気の評価は主観的になりがちですが、リハビリや睡眠医療では客観的な指標が求められます。
エプワース眠気尺度(Epworth Sleepiness Scale:ESS)は、日中の眠気を8つの質問で数値化する国際的な評価法です。
本記事では、ESSの目的・評価方法・カットオフ値・日本語版(JESS)の特徴、さらにリハビリ臨床での活用事例やデジタル対応のポイントまで、エビデンスに基づいてわかりやすく解説します。



基本情報|エプワース眠気尺度とは

エプワース眠気尺度(Epworth Sleepiness Scale:ESS)は、日中の眠気を定量的に評価するための自己記入式質問票です。
1991年にJohns MWによって開発され、「A New Method for Measuring Daytime Sleepiness」(Sleep, 1991)として発表されました。

ESSは、睡眠時無呼吸症候群(OSA)などの睡眠関連疾患のスクリーニングに広く用いられ、世界各国で臨床・研究の両面から活用されています。
なお、ESSは診断テストではなく、主観的な眠気の程度を数値化する補助的な評価法です。診断にはポリソムノグラフィー(PSG)などの客観的検査が必要になります。

主な特徴は以下の通りです。

  • 8つの日常的な状況で「うとうとする可能性」を0〜3点で自己評価する
  • 合計点が高いほど、日中の過度な眠気を示唆する
  • シンプルな構成で、臨床現場でも迅速に実施可能
  • 英語版・日本語版(JESS)が存在し、信頼性・妥当性が確認されている


対象と適応|どんなケースで使用するか

ESSは、以下のような対象者や臨床場面で使用されます。

対象者

  • 睡眠時無呼吸症候群(OSA)などの睡眠障害が疑われる患者
  • 慢性的な倦怠感・集中困難・作業効率低下を訴える成人
  • 高齢者や脳卒中後の患者など、日中の覚醒維持が難しいケース

適応の目的

  • 主観的な眠気を数値化して、治療前後での比較を行う
  • 睡眠衛生指導や行動療法の評価指標として活用する
  • 睡眠薬やCPAP導入の効果判定に用いる
  • リハビリテーション計画立案時に、覚醒レベルを客観的に捉える

英国のNICEガイドラインでも、睡眠障害の初期評価指標としてESSを用いることが推奨されています。
一方で、ESS単独での診断や治療方針決定は推奨されていません。他の臨床指標と組み合わせて解釈することが重要です。



実施方法|ESSの質問内容と評価手順

ESSは、次の8項目について「うとうとする可能性」を0〜3点で自己評価します。

質問項目内容の例
1座って読書しているとき
2テレビを見ているとき
3会議や劇場などで座って何もしていないとき
41時間以上、車に同乗しているとき
5午後、横になって休憩しているとき
6座って人と話しているとき
7アルコールを飲まずに昼食をとった後、静かに座っているとき
8車を運転中、交通渋滞で数分停止しているとき

評定方法(0〜3点)

  • 0:決して眠くならない
  • 1:まれに眠くなる可能性がある
  • 2:ときどき眠くなる可能性がある
  • 3:頻繁に眠くなる可能性がある

合計点(0〜24点)を算出し、総合的な眠気の強さを評価します。
実施時間は3〜5分程度で、患者本人の自己申告を基本としますが、家族や介護者からの補足情報も推奨されています。



採点と解釈|点数の意味と留意点

ESSのスコアは0〜24点の範囲で集計され、点数が高いほど眠気が強いことを示します。

一般的な解釈の目安

  • 0〜10点:正常範囲(日中の眠気なし〜軽度)
  • 11〜24点:過度の眠気あり(臨床的対応が必要)

ただし、文化的背景や生活習慣による差があるため、単独で断定せず、問診・観察・他検査との併用評価が望まれます。
また、ESSは自己記入式のため、主観的要素が含まれることを理解し、認知症や失語症など自己申告困難な患者では代替的手段(家族評価・観察記録など)を併用します。



カットオフ値|11点以上を目安に評価

多くの研究で、11点以上(>10)を日中過度の眠気を示唆する閾値としています。
この基準は、オリジナル論文(Johns, 1991)および日本語版検証研究(Takegami et al., 2009)でも確認されています。

ただし、臨床では10点を超える段階で注意を払い、

  • 生活への支障
  • 居眠り運転リスク
  • 作業中の集中困難
    などを確認することが重要です。

リハビリテーション領域では、眠気のスコアが高い場合、訓練時間の設定や環境調整(照度・姿勢・刺激量)の見直しに役立ちます。



標準化とバージョン情報|日本語版(JESS)について

日本語版ESS(JESS:Japanese version of ESS)は、日本呼吸器学会「睡眠時無呼吸症候群に関する検討委員会」の依頼により、**Johns MWと福原俊一(Fukuhara S)**らによって作成されました。
信頼性・妥当性の検証はTakegamiら(2009, Sleep Medicine)によって行われています。

  • 作成者:Johns MW, Fukuhara Sほか
  • 管理・配布:Qualitest株式会社
  • 利用条件:営利・非営利を問わず登録申請が必要

登録手続きにより、JESSの最新版・使用マニュアル・採点表が入手可能です。
また、翻訳・文化的適応を経て、日本人の生活習慣や環境に即した質問内容が整備されています。



臨床応用と活用事例|リハビリ領域での実際

ESSは医療・リハビリの両分野で幅広く活用されています。

応用例

  • 睡眠時無呼吸症候群のスクリーニング
  • 高齢者や脳卒中患者の昼間覚醒レベル把握
  • 日中活動プログラムの設計指標
  • 薬剤性眠気のモニタリング
  • シフト勤務者・介護職員の睡眠評価

臨床的利点

  • 手軽に繰り返し測定可能
  • 患者自身の睡眠意識を高める
  • リハビリ中の集中持続や安全性確保に寄与

注意点

  • 主観的評価であるため、観察・バイタルデータと組み合わせて解釈
  • 高齢者では「眠気」自体の認識が鈍い場合があるため補助者の助言が有効


他検査との関連|客観的検査との併用が鍵

ESSは主観的評価であり、以下のような客観的検査や補助指標と併用されることが望まれます。

評価法評価対象特徴
アクチグラフ(Actigraphy)睡眠・覚醒リズム生活下での客観的睡眠量を測定
PSG(Polysomnography)睡眠構造・呼吸障害診断に必須。ESSはその補助的スクリーニング
MSLT(Multiple Sleep Latency Test)睡眠潜時日中の眠気を生理学的に評価
睡眠衛生チェックリスト睡眠環境・習慣行動療法や教育に有効

臨床実践では、ESS+PSG/アクチグラフ/問診を組み合わせ、睡眠障害の有無と日中活動への影響を総合的に判断します。



デジタル・ICT対応|オンライン評価の可能性

ESSは紙媒体に加え、オンライン・アプリ形式でも実施可能です。
現在、医療機関や研究施設ではタブレット入力やウェブフォームを利用した評価が増えています。

ICT対応のメリット

  • 自動集計でヒューマンエラーを防ぐ
  • 長期モニタリングに便利
  • 在宅患者や遠隔リハビリにも対応可能

注意点

  • 無断転載・アプリ化は著作権違反となる可能性あり
  • 商用利用の場合、必ずQualitestへの登録が必要

デジタル評価を導入する際は、プライバシー保護とデータ管理を徹底し、信頼性のある認定版を使用することが求められます。



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