FAB検査とは?前頭葉機能を6課題で評価する方法と臨床活用

FAB(Frontal Assessment Battery:前頭葉機能検査)は、前頭前野に関わる実行機能を6つの課題で評価する短時間スクリーニング検査です。
Duboisら(2000)によって開発され、認知症・パーキンソン病・高次脳機能障害など、前頭葉機能の低下を伴う疾患で広く用いられています。

本記事では、FABの基本構成・実施手順・採点と解釈・臨床応用・デジタル化の最新動向まで、セラピスト向けにわかりやすく解説します。



FABとは?前頭葉機能を短時間で評価できる検査

Frontal Assessment Battery(FAB:前頭葉機能検査)は、Duboisら(2000)によって開発された、前頭前野に関する実行機能を簡便に評価するスクリーニング検査です。
6つの課題で構成され、約10分以内に実施できるため、神経内科・精神科・リハビリテーション領域で幅広く用いられています。

FABは前頭葉の障害を反映する“遂行機能の低下”を捉える目的で設計されており、従来のMMSE(Mini-Mental State Examination)やMoCA(Montreal Cognitive Assessment)では把握しにくい、思考の柔軟性や抑制機能、運動系列の異常を検出できます。

FABの基本情報

項目内容主な評価機能
類似性(概念化)2つの言葉の共通点を説明する抽象的思考
語の流暢性(心的柔軟性)“あ”から始まる単語を1分間にできるだけ答える認知的柔軟性
運動系列「こぶし→手刀→手のひら」を交互に繰り返す運動プログラミング
相反する指示(干渉感受性)合図に反する行動を求める課題干渉抑制
Go/No-Go指示に応じて反応・抑制を切り替える反応抑制
把握反射(環境自律性)ペンや手を差し出して反応を観察自動行動の抑制

各項目は0〜3点で採点され、合計18点満点です。FABは、実施が容易でありながらも、行動観察を通して実行機能の特徴を質的に把握できる点に臨床的価値があります。



対象と適応 ― FABが有効なケース


FABは、前頭葉機能の低下が疑われる症例に適用されます。主に以下のような疾患や臨床状況で有用です。

主な適応疾患

  • 前頭側頭型認知症(FTD)
  • アルツハイマー型認知症(AD)
  • レビー小体型認知症(DLB)
  • パーキンソン病、進行性核上性麻痺などの神経変性疾患
  • 脳血管障害(特に前頭葉損傷)
  • 高次脳機能障害(遂行機能障害)
  • 統合失調症やうつ病などの精神疾患に伴う前頭葉機能低下

検査実施の前提条件

  • 意識清明で、理解・反応が可能な状態
  • 聴覚・視覚障害が重度でないこと
  • 言語課題を含むため、重度失語がないこと

FABは、MMSEやMoCAが正常でも実行機能障害を示すケースを拾い上げることができ、早期の前頭葉障害や軽度認知障害(MCI)の補助的評価としても位置づけられます。



実施方法 ― 6つの課題構成と手順


FABの実施は、検査者が口頭とジェスチャーを交えて課題を提示し、反応内容を採点します。
下位項目ごとに前頭葉の異なる側面を評価します。

手順の概要

  1. 類似性(概念化):「バナナとオレンジはどう似ていますか?」などの質問で抽象思考を評価。
  2. 語の流暢性(心的柔軟性):「“あ”から始まる言葉を1分で言ってください。」—発想の転換力を確認。
  3. 運動系列:こぶし→手刀→手のひらの動作をリズムよく繰り返し、運動の順序化を評価。
  4. 相反する指示:「1回叩いたら2回叩く、2回叩いたら1回叩く」—混乱に対する抵抗をみる。
  5. Go/No-Go:手を出す/出さないを切り替える課題で、反応抑制を確認。
  6. 把握反射(環境自律性):検者が手やペンを差し出し、無意識の反応を観察。

ポイント

  • 各課題は0〜3点で評価(0:不能〜3:良好)
  • 全体で約10分
  • 質的観察(遅延反応・衝動性・模倣傾向など)を併記することで臨床的価値が高まる


採点と解釈 ― 数値と行動の両面で判断


FABの採点は単なる合計点だけでなく、各課題のパターン分析が重要です。

採点基準

点数意味
3点適切に実施
2点軽度のエラー・遅延あり
1点明らかな困難・エラー頻発
0点実施不能または理解困難

総得点は18点満点であり、得点が低いほど前頭葉機能障害の可能性が高いと解釈します。
疾患鑑別研究では12点未満をカットオフとする報告があり、特にFTD(前頭側頭型認知症)とAD(アルツハイマー型認知症)の鑑別で感度77%、特異度87%を示した例があります。

解釈の際の留意点

  • 年齢・教育年数の影響があるため、単純な得点比較は避ける。
  • 失語や抑うつなど、他の要因による遂行機能低下を考慮する。
  • 総合評価には質的所見(行動・反応の特徴)を必ず併記する。


標準化と信頼性 ― 日本語版FABの研究


FABは国際的に広く用いられ、日本でも日本語版の標準化研究が複数行われています。

日本語版FABの特徴

  • Duboisらの原版を翻訳・逆翻訳して文化適応。
  • 健常高齢者、認知症、脳卒中患者などを対象に検証。
  • 信頼性(再検査ICC 0.89前後)、内的一貫性(Cronbach’s α 0.7前後)と良好な指標。

研究例

  • 森悦朗ほか(2006):「FAB日本語版の信頼性と妥当性の検討」
  • 田中ほか(2013):「FABを用いた高齢者認知機能評価の臨床的有用性」
  • Slachevskyら(2004):FTDとADの鑑別における有効性報告

FABの日本語版は臨床でも広く使われており、簡便ながら信頼性が確認された前頭葉評価ツールとして位置づけられています。



臨床応用 ― 作業療法・認知リハでの活用


FABはリハビリテーションや認知症ケアの現場で多様に応用されています。

活用シーン

  • 認知症外来での初期スクリーニング
  • 回復期リハでの遂行機能評価
  • 高次脳機能障害患者の行動観察
  • 精神疾患での前頭葉機能モニタリング

作業療法での応用例

  • FABで低得点の項目を介入設計に反映
    • 「語の流暢性」低下 → 言語的課題やコミュニケーション訓練
    • 「反応抑制」低下 → ルール変更を含むボードゲーム訓練
    • 「運動系列」低下 → 手順性課題やADL訓練
  • 継時的に評価し、介入効果を定量・質的に確認

FABは、遂行機能障害の見立てからリハ設計までをつなぐ「橋渡しツール」として機能します。



他検査との関連 ― 包括的な認知機能評価


FABは単独でも有用ですが、他の神経心理検査と組み合わせることで、より包括的な認知機能像を得られます。

検査評価領域FABとの関係
MMSE全般的認知機能認知症の重症度と補完関係
MoCA軽度認知障害FABと併用で初期変化を検出
WCST認知柔軟性・概念転換下位課題との相関報告あり
TMT注意・処理速度遂行機能全体の把握に有用
BADS日常行動型遂行機能実生活行動の再現度を補完

このように、FABは「前頭葉機能の入口評価」として位置づけられ、他検査と組み合わせることで臨床的洞察が深まります。



デジタル対応 ― ICTによる前頭葉機能評価の展望


近年、FABの一部要素をデジタル化・自動化する試みが進んでいます。
ただし、公式にAI採点やクラウド配信を提供する公認版は存在していません。研究レベル・院内ツールとしての開発段階です。

現在の動向

  • タブレットでの記録支援アプリ(研究・院内レベル)
  • 音声認識による語流暢性課題の自動集計実験
  • カメラ解析による動作パターン検出研究
  • 経時比較を容易にする電子カルテ連携ツール

今後の展望

  • 前頭葉機能評価の客観データ化
  • AIによる質的所見の自動分類
  • リハプラン自動提案など、作業療法支援への応用

FABは今後、紙ベースの検査から「デジタル行動評価」へと発展する可能性を秘めています。



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