FAB(前頭葉機能検査)の採点方法と解釈|得点基準・カットオフ値・臨床での見方を解説

FAB(Frontal Assessment Battery)は、前頭葉の遂行機能を評価する検査として、各サブテストを0~3点で採点し、合計18点満点でスコア化されます。
本記事では、採点基準やカットオフ値、点数の臨床的な意味、反応パターンの解釈など、FABの正しい評価方法について詳しく解説します。
認知症の鑑別やリハビリテーション評価に活用するためのポイントを、医療・介護従事者向けにわかりやすく整理しました。

FAB採点基準を完全理解するためのポイント

FABは全6つのサブテストについて、それぞれ0~3点で採点され、合計18点満点となります。
各サブテストには具体的な配点基準が設定されており、類似性では3問中の正答数に応じて点数が決まります。
語の流暢性では、日本語版・英語版ともに10語以上で3点、6〜9語で2点、3〜5語で1点、2語以下で0点になります。
運動系列では、Luria課題の動作を正確に実行できたかどうかで採点されます。
葛藤指示とGO/NO-GOでは、課題のルールに従い適切に反応できたかが評価され、注意と抑制能力を反映します。
把握行動では、自発的に手を握るかどうかで環境への依存性や抑制機能が判断されます。
点数は部分点も含めて観察と基準に従って評価され、検査者の熟練度が採点の精度に影響を及ぼします1
簡便ながら前頭葉の多様な機能を定量的に可視化できることが、FABの評価上の大きな利点です。



FABスコア範囲の基本と意味づけ

FABの総得点は最低0点から最高18点までの範囲となり、被験者の前頭葉機能の全体像を示します。
すべてのサブテストで不正答または反応不能だった場合は0点となり、極めて重度の機能障害が疑われます。
逆に、すべての項目で満点を取得した場合は18点となり、前頭葉機能が良好である可能性が高いと評価されます2
このような広い得点レンジにより、軽度から重度までの障害を柔軟に捉えることが可能となります3
スコアの幅があることで、年齢や教育レベル、症状の程度に応じた経時的評価にも有用です4
また、得点分布を見ることで、特定の機能に偏った障害があるかどうかも把握しやすくなります5
スコアは数値として可視化されるため、医師や他職種への情報共有にも役立ちます。
そのため、リハビリや治療計画立案の基礎データとして幅広く活用されています6



FABのカットオフ値の科学的根拠と臨床的意味

FABの臨床的なカットオフ値として、12点という基準が広く用いられています7
この基準は、特に前頭側頭型認知症(FTD)とアルツハイマー型認知症(AD)の鑑別において有効とされています8
研究報告では、12点以下でFTDを示唆する可能性があり、感度77%、特異度87%という高い診断精度が示されています9
このカットオフは一つの目安であり、他の検査や臨床所見と合わせて総合的に判断する必要があります。
12点という基準により、早期の前頭葉機能低下を検出しやすくなり、早期介入にもつながります10
ただし、文化や教育歴による影響を受けるため、背景要因を考慮しつつ慎重に解釈する必要があります。
臨床では、1回のスコアよりも経時的変化を追うことのほうが重要なこともあります11
このカットオフは、スクリーニングツールとしてのFABの実用性を高める要素となっています。



FABスコアの読み取り方

FABのスコアは、得点の高低に応じて前頭葉機能の程度をおおよそ把握するための指標になります。
15点以上であれば前頭葉機能が良好と考えられ、認知的柔軟性や抑制機能にも大きな問題はないとされます12
12〜15点は軽度障害または年齢・教育歴などの影響も含めた範囲とされ、追加の評価が望まれる領域です13
12点未満では、前頭葉機能障害の可能性が高く、ADLやIADLへの影響も考慮した支援が必要となることがあります14
また、教育歴が短い方ではスコアが低めに出ることもあるため、背景因子を踏まえた解釈が必要です15
地域差や文化的背景にも配慮し、標準スコアや補正式が提示されている場合は活用が推奨されます16
点数そのものよりも、どのサブテストでつまずいているかを分析することが、支援計画に直結します17
スコアはあくまで指標であり、行動観察や他の検査と組み合わせることで、より精度の高いアセスメントが可能となります。



FABの誤答・不完全応答採点基準

FABではサブテストごとに採点基準が明確に定められており、誤答や不完全な応答も基準に従って点数化されます。
たとえば、語の流暢性では2語以下であれば0点、5語であれば1点というように、語数で明確に区分されます。
類似性テストでは、初回の問題に失敗した場合にはヒントを与えてもよいとされていますが、後の2問ではヒントは認められていません18
このように、一部の課題には補助が許容される場合もありますが、正答率や自然な反応が重視されます。
運動課題や抑制課題では、指示通りに動けたか、反応を抑えられたかが評価の基準となります。
不完全な応答でも、一定の反応が見られれば部分点が与えられることが多く、細かな観察が求められます。
誤答や反応のパターンにも意味があるため、単に点数化するだけでなく、背後の認知プロセスに注目する必要があります19
そのため、検査者は基準を理解したうえで、柔軟かつ正確に採点を行うことが重要です。



FAB反応パターンで読み解く前頭葉機能:具体例と理論的背景

FABのスコアだけでなく、反応の仕方から得られる情報も非常に重要です20
たとえば、類似性課題で「どちらも皮をむく」といった具体的な答えしか出ない場合、抽象的思考の困難が示唆されます21
語の流暢性で語数が極端に少ない場合、注意の分配や言語的想起に問題がある可能性が考えられます22
運動系列で正しい順序の動作ができない場合は、運動のプログラミングや順序化の障害が疑われます23
葛藤指示やGO/NO-GOでルールに従えない場合は、注意の切り替えや抑制の困難さが明らかになります。
把握行動では、検査者の手を反射的に握ってしまうと、自動行動の抑制が困難であることがわかります24
こうした反応パターンは点数に表れない「質的情報」として、リハビリ計画に重要なヒントを与えます。
したがって、FABは単なる得点評価ではなく、行動の観察を通じてより深い理解を導く検査といえます。

FABは各サブテストを0〜3点で採点し、合計18点満点で前頭葉機能の評価を行うんだ!
12点未満は前頭葉機能障害の可能性が高く、得点だけでなく反応の質やパターンも臨床判断に重要な情報となりますね!

関連文献

脚注

  1. 行動観察を伴うため、経験豊富な検査者ほど採点の再現性が高まることが報告されています。PsychDB ↩︎
  2. 高得点は実行機能が保たれている指標となり、18点は健常若年層でしばしば観察される天井値です。PsychDB ↩︎
  3. 6段階×6項目の組合せにより、微小な変化から顕著な障害まで幅広い重症度を定量化できます。BioMed Central ↩︎
  4. FABには年齢・教育年数別ノルムが報告されており、同一被検者の経時評価にも利用されています。PsychDB ↩︎
  5. サブテストごとの点差を分析することで、抽象化・抑制など前頭葉下位機能の偏りを視覚化できます。PsychDB ↩︎
  6. FABはリハビリ効果判定や薬物治療前後比較にも推奨され、臨床意思決定を支援します。サイエンスダイレクト ↩︎
  7. 主要文献と教育付きノルムをまとめたレビューサイトでも、12/18点が「標準的なカットオフ」と明記されています。PsychDB ↩︎
  8. 12点を閾値にしたROC解析でFTDとADを高精度で弁別できることが報告されています。 ↩︎
  9. Slachevsky らの研究で感度77%・特異度87%が再現され、複数のレビューでも引用されています。 ↩︎
  10. 軽度認知障害やALSなど早期段階でも実行機能低下を捉えられるとの報告があります。 ↩︎
  11. FABは短時間で再検査が可能で、経時的推移をアウトカムとして利用する研究が増えています。 ↩︎
  12. 健常成人の平均は16点前後であり、年齢・教育歴を加味すると15点以上は概ね正常域とみなされます。 ↩︎
  13. 高齢者や低学歴群のノルムが14~15点程度であるため、この範囲は追加評価が推奨されます。 ↩︎
  14. 12点未満はFTDとADの鑑別で感度77%・特異度87%を示し、臨床的に要注意域です。 ↩︎
  15. 年齢・教育別ノルムでは低学歴群で平均点が1〜3点低下することが示されています。 ↩︎
  16. イタリア・ブラジルなど複数国の研究で年齢/教育補正式が公開され、臨床での活用が推奨されています。Semantic Scholar ↩︎
  17. 近年の脳卒中研究ではサブテスト4・6の失点が重度群を抽出する指標になると報告されています。ResearchGate ↩︎
  18. 初問で失敗した場合のみカテゴリー名を誘導できますが、その場合は0点扱いとなり、残りの2問は誘導禁止です。 ↩︎
  19. 研究では各サブテスト得点と脳損傷部位の関連が検討され、誤答様式が機能局在の指標となると示されています。BioMed Central ↩︎
  20. FAB は量的得点に加えて行動観察を推奨しており、質的所見が実行機能障害の早期検出に役立つとされています。PMC ↩︎
  21. 同課題は「概念形成・抽象化」を測定し、具体‐具体回答は前頭葉性の抽象化困難を示すと解説されています。 ↩︎
  22. 言語想起には選択的注意・抑制・検索戦略が必要であり、低得点はこれらの実行系の障害を示します。SpringerLink ↩︎
  23. Luria 手順の失敗は前頭葉‐基底核回路の時系列化障害と関連すると記述されています。
    PsychDB・PsychDB ↩︎
  24. Prehension 行動は環境依存症候群の一部で、前頭前野の抑制低下を反映します。 ↩︎

関連文献

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