脳卒中や高齢者のリハビリで、ADLの自立だけでなく「社会的な生活の再構築」をどう測るか——。
FAI(Frenchay Activities Index)は、そんな課題に応えるIADL・社会参加レベルの評価ツールです。
この記事では、FAIの基本構造、採点方法、活用事例、そしてICT化の最新動向まで、臨床で使える形でわかりやすく解説します。
評価指標の選定やゴール設定の参考に、お役に立てれば幸いです。
基本情報|FAIの概要と開発背景
FAI(Frenchay Activities Index)は、脳卒中患者の社会的活動やIADL(手段的日常生活動作)を定量的に評価するために開発された尺度です。
1983年、HolbrookとSkilbeckによって発表され、当初は脳卒中のアウトカム評価を目的に作成されました。
FAIは、日常生活動作(ADL)の自立度を測るBarthel Indexなどでは捉えにくい「生活の広がりや社会的活動性」を可視化できる点が特徴です。
評価項目は家事・余暇活動・外出・労働など多岐にわたり、患者の生活再建や社会復帰の支援に有用とされています。
主な特徴は以下の通りです。
- 評価対象:過去3か月または6か月間の生活活動
- 構成項目:15項目(家事・余暇・社会活動など)
- 採点範囲:0〜45点(高得点ほど活動的)
- 所要時間:10〜15分程度(面接式)
- 開発者:Holbrook & Skilbeck(1983)
- 原論文:Age and Ageing, 12(2):111–118
FAIは、生活の“量”だけでなく“質”の指標としても位置づけられており、活動再開のプロセスを追跡する上で有用な尺度といえます。
対象と適応|FAIを使うべき対象者と臨床での使いどころ
FAIはもともと脳卒中後の生活再建評価を目的に作成された指標ですが、その後の研究では高齢者、外傷性脳損傷、整形疾患、地域在住高齢者などにも応用されています。
主な適応対象
- 脳卒中後の在宅生活者
- 高齢者の活動性評価
- リハビリテーション後の社会参加レベル把握
- 自立支援・介護予防の効果測定
- IADL・QOLの経時変化のモニタリング
FAIは、身体能力だけでなく意欲・社会的関与・役割遂行などの多面的な側面を反映するため、退院後・地域リハでの「生活再建」の到達度を把握するのに適しています。
不適応・注意点
- 急性期や活動制限が明確な時期では適用が難しい
- 認知症などで「過去の活動頻度」を正確に想起できない場合は代理回答が必要
- 文化・生活習慣の違いにより、一部項目の妥当性が変化する可能性あり
FAIは、単独での使用よりもBarthel IndexやLawton IADLなどとの併用で、活動全体像を包括的に把握することが推奨されます。
実施方法|15項目の構成と質問内容
FAIは15項目で構成され、過去3か月または6か月間の活動頻度を面接または質問紙形式で確認します。
前半10項目は「過去3か月間の家事・日常活動」、後半5項目は「過去6か月間の社会活動・余暇」を扱います。
FAIの全15項目
| 分類 | 項目名 | 内容の要約 |
|---|---|---|
| 家事関連 | 食事の用意 | 献立を考え、調理を行う(再加熱のみは不可) |
| 〃 | 後片付け | 食器を運び、洗い、拭き、収納まで実施 |
| 〃 | 洗濯 | 手洗い・洗濯機いずれでも可。乾燥まで含む |
| 〃 | 掃除・整頓 | 掃除機やモップ使用、整理整頓 |
| 〃 | 力仕事 | 家具移動、床拭きなど重作業 |
| 社会活動 | 買い物 | 店舗で自分で購入する(配達依頼のみは不可) |
| 〃 | 外出 | 外食、映画、地域イベントなど能動的外出 |
| 〃 | 屋外歩行 | 15分以上の屋外歩行を週単位で評価 |
| 余暇活動 | 趣味 | 園芸、スポーツなど能動的趣味(TV視聴は除外) |
| 交通関連 | 交通手段利用 | 自動車運転または自立したバス利用 |
| 旅行・余暇 | 旅行 | 楽しみ目的の旅行(出張・冠婚葬祭は除外) |
| 家事拡張 | 庭仕事 | 草刈り、水やり、掃除など |
| 〃 | 家や車の手入れ | 窓拭き、ペンキ塗り、車洗い等 |
| 知的活動 | 読書 | 書籍の読書(新聞・雑誌は除外) |
| 社会的役割 | 仕事 | 有償労働のみ。ボランティアは除外 |
実施は面接形式が望ましく、回答に迷う場合は「平均的な生活状況を想定」して回答を促します。
質問は平易な言葉で行い、必要に応じて家族・介護者への聞き取りも有効です。
採点と解釈|スコアリングと結果の読み方
各項目は0〜3点で採点しますが、項目によって評価軸(頻度・強度・時間数)が異なります。
以下に代表的な基準を示します。
| 評価軸 | 内容 | 対象項目 |
|---|---|---|
| 頻度基準 | 0:していない〜3:ほぼ毎日行う | 大多数(例:食事・掃除・外出など) |
| 強度基準 | 軽・中・重の活動レベルを自己申告 | 庭仕事・家や車の手入れ |
| 時間基準 | 仕事時間に応じて段階化 | 就労活動(週1時間未満〜週30時間以上) |
総得点範囲は0〜45点で、高得点ほど活動的と解釈されます。
ただし、点数のみで生活の質を判断するのではなく、どの領域が活動的/制限されているかを分析することが重要です。
解釈のポイント
- 0〜15点:非活動的、要支援または介護リスクが高い
- 16〜30点:中程度の活動性
- 31〜45点:活動的、社会参加レベルが高い
- 趣味・外出・旅行などの得点低下は「社会的孤立」のサインとなることも
FAIは「量」よりも「多様性」や「能動性」を読み取ることが重要であり、単一スコアでの評価は避けるべきとされています。
カットオフ値|活動性の臨床判断基準
FAIには明確な国際的カットオフ値は設定されていません。
ただし、研究的には以下のような目安が提案されています。
- 一般高齢者平均:25〜35点程度(Turnbull et al., 2000)
- 脳卒中発症後6か月時点:20点前後(Hobson et al., 2001)
- 要介護高齢者:15点以下が多い傾向
このため、疾患群別の平均値や経時変化を参照し、同年代・同疾患内での相対的評価として扱うのが現実的です。
標準化・バージョン情報|日本版FAIと改訂版の特徴
日本では、FAIの日本語版が複数の研究グループによって翻訳・検証されています。
大きな改訂版や短縮版はありませんが、文化的背景に合わせた日本版FAIが学術的に使用されています。
日本語版FAIの特徴
- 原版の15項目構成を保持
- 翻訳時に「家事・仕事・余暇」などの語彙を文化適応
- 高齢者対象研究で信頼性・妥当性を確認済み
- Cronbach α=0.81〜0.88と高い内的一貫性
- Barthel IndexやLawton IADLとの相関が中〜高(r=0.6〜0.8)
また、脳卒中後の社会復帰や地域在住高齢者の活動性評価など、日本でも広く活用されています。
臨床応用と活用事例|FAIをどう活かすか
FAIは、単なる活動頻度のスコア化だけでなく、生活再建支援・社会参加促進の道しるべとして使うことができます。
臨床での主な活用例
- 退院前評価で「自宅復帰に必要な活動レベル」を可視化
- 在宅リハでの「社会的孤立リスク」スクリーニング
- 趣味・余暇活動の再開を目標としたプログラム設計
- 外出や買い物などIADL領域の再訓練プラン作成
- 就労支援・社会参加リハビリの成果測定
活用のコツ
- スコアの変化だけでなく、得点構成の変化に注目
- 「活動が少ない」背景に、身体機能・交通手段・心理的要因などがないかを確認
- FAIをナラティブ面接(OSA-IIなど)と併用すると動機づけ要因の分析がしやすい
他検査との関連|Barthel IndexやLawton IADLとの違い
FAIは、ADLの基本動作(Barthel Index)よりも広範囲な活動を捉えます。
| 評価法 | 評価範囲 | 特徴 | 主な対象 |
|---|---|---|---|
| Barthel Index | 基本ADL(食事・更衣など) | 自立度中心 | 回復期〜維持期 |
| Lawton IADL | 手段的ADL(買い物・調理など) | 女性中心設計 | 高齢者一般 |
| FAI | IADL+社会的活動 | 性差を問わず社会参加レベルまで評価 | 脳卒中・高齢者 |
このため、Barthel+FAIの併用により、身体面と社会活動面を包括的に把握できます。
また、FAIは「Participation(参加)」に近い概念を評価するため、ICFのd920(レクリエーション・余暇)やd850(仕事)領域に関連します。
デジタル・ICT対応|FAIのデジタル評価と今後の展望
近年、FAIをタブレットやスマートフォンで評価できるデジタルFAI(e-FAI)の開発が進んでいます。
これにより、従来の紙筆評価では得られなかった活動履歴の可視化・自動スコアリング・経時比較が可能となっています。
ICT化の主な利点
- 入力支援機能による誤回答防止
- 自動グラフ化・経過モニタリングで在宅リハの効果判定が容易
- クラウド連携により多職種で情報共有が可能
また、ウェアラブルデバイスやGPSデータを併用することで、実際の外出行動や活動量をFAIスコアと連動させる試みも行われています。
デジタル評価化により、「活動の質的変化」をリアルタイムに把握する時代が到来しつつあります。
参考文献
- Holbrook M, Skilbeck CE. An activities index for use with stroke patients. Age and Ageing. 1983;12(2):111–118.
- Turnbull JC et al. The Frenchay Activities Index: a measure of functional activity after stroke. Clin Rehabil. 2000.
- Hobson P et al. Long-term outcome after stroke: FAI validation study. Stroke. 2001.
- StrokEngine, RehabMeasures Database(Northwestern Univ., 2023)
- 高橋ら「日本版Frenchay Activities Indexの信頼性と妥当性の検討」リハビリテーション医学, 2005