GLIM基準とは?リハビリで使える低栄養診断の国際基準と評価方法を徹底解説

GLIM基準(Global Leadership Initiative on Malnutrition)は、成人の低栄養を国際的に診断するための最新基準です。
世界の主要栄養学会が策定したこの基準は、体重減少や筋肉量、食事摂取不足などを総合的に評価し、疾患関連性低栄養まで網羅します。
2024年度の診療報酬改定では、回復期リハビリテーション病棟での必須評価項目にも位置づけられ、セラピストや管理栄養士の現場で注目を集めています。
本記事では、GLIM基準の概要から判定基準、カットオフ値、実践での活用法までを詳しく解説します。



GLIM基準とは?国際的な低栄養診断の新基準


GLIM基準(Global Leadership Initiative on Malnutrition)は、成人の低栄養を世界共通で診断するために策定された国際基準です。ESPEN・ASPEN・FELANPE・PENSAといった主要学会が協力し、2018年に公表されました。
この基準は、単なる「食事摂取不足」だけではなく、「疾患や炎症による低栄養(病因)」まで含めて包括的に評価する点が特徴です。

診断は、以下2系統からそれぞれ1項目以上を満たす場合に「低栄養あり」とされます。

区分内容主な評価項目
表現型基準身体の変化を評価①体重減少 ②低BMI(年齢別)③筋肉量減少
病因基準原因を評価④摂取量減少/吸収障害 ⑤炎症/疾患負荷

この2系統を組み合わせることで、低栄養をより正確に診断できます。
さらに、重症度(Stage 1:中等度、Stage 2:重度)は表現型の異常度により判定されます。

GLIM基準の導入により、世界各国で栄養診断の統一が進み、研究や臨床比較が容易になりました。リハビリ現場でも、筋肉量・体重・摂取量の変化を多職種で共有する基盤として活用が広がっています。

  • 国際合意に基づく信頼性の高い基準
  • 栄養スクリーニング後の確定診断ツール
  • 病態に応じた重症度判定が可能

GLIMは、今後の診療報酬・リハ栄養ケアプロセスの中心的基準として位置づけられています。



評価対象と適応範囲|誰に、いつ行うか


GLIM基準の対象はすべての成人ですが、特に高齢者、リハビリ対象者、慢性疾患患者において有用です。入院・外来・在宅のいずれでも適応できます。

適応となる主なケース

  • 脳卒中、骨折、整形外科術後の患者
  • がん、心不全、慢性閉塞性肺疾患(COPD)など慢性疾患
  • サルコペニアやフレイルを疑う高齢者
  • 長期臥床や嚥下障害による食事摂取量低下

これらの患者では、体重や筋肉量の変化が機能回復に直結するため、早期評価が重要です。

非適応・留意点

末期の緩和ケアや侵襲的検査が困難な場合は、簡便な周囲径測定や既往データを活用します。地域包括ケアでは、訪問リハや介護職によるスクリーニングも有効です。

評価の流れ

  1. スクリーニング(MUST・NRS-2002・MNA-SFなど)
  2. リスク陽性者にGLIM基準を適用
  3. 表現型+病因の組み合わせで診断確定
  4. 重症度を決定し、介入内容を設定

このようにGLIMは、臨床栄養の「入口から出口」までを一貫して管理する実践的フレームワークです。



評価方法|ステップで見るGLIMの実施手順


GLIM基準は、次の3ステップで行います。

① スクリーニング

まず全患者に栄養リスクスクリーニングを実施します。
代表的ツールは以下の通りです。

ツール名対象特徴
MUST入院・外来体重減少・疾患・摂取量で判定
NRS-2002急性期炎症の影響も評価
MNA-SF高齢者生活状況と摂取を含めて評価

② GLIMによる確定診断

スクリーニング陽性者に対し、以下の項目で診断を確定します。

  • 表現型基準:体重減少、低BMI(年齢別)、筋肉量減少(DXA/BIA/CT/MRI)
  • 病因基準:摂取不足/吸収障害、炎症や疾患負荷

③ 重症度判定

重症度は表現型の程度で判定します。

  • 中等度(Stage 1):体重減少5–10%(6か月)またはBMI<20/<22(70歳区分)
  • 重度(Stage 2):体重減少>10%(6か月)またはBMI<18.5/<20

これにより、介入優先度や投与エネルギー量を決定します。

リハビリ科・NST・栄養科が連携して評価し、週ごとの再評価で回復速度を可視化すると効果的です。



採点と解釈|重症度の見方と臨床判断


GLIMの診断は、**「表現型」+「病因」**の両方が該当して初めて低栄養とされます。
判定後は、重症度に基づいて介入レベルを決めます。

指標中等度(Stage 1)重度(Stage 2)
体重減少(6か月以内)5〜10%>10%
体重減少(6か月超)10〜20%>20%
BMI(70歳未満)<20<18.5
BMI(70歳以上)<22<20
筋肉量減少あり明確な低下(DXA/BIAで確認)

BMIは年齢に応じて閾値が異なり、70歳以上では基準が高めです。
筋肉量はDXAやBIAなどの機器を用いて測定し、握力は参考情報とします。

解釈の際には、低栄養の「原因」が摂取不足か炎症性かを特定することが重要です。炎症性の場合、単なる経口強化では改善が難しいため、抗炎症治療や代謝管理を併用します。



カットオフ値|年齢・指標別の基準一覧


GLIMでは、年齢や評価項目に応じたカットオフ値が設定されています。

項目中等度重度備考
体重減少(6か月)5–10%>10%6か月超は10–20%/>20%
BMI(70歳未満)<20<18.5若年~中年
BMI(70歳以上)<22<20高齢者
筋肉量減少明確な低下DXA/BIA/CT/MRI使用推奨

下腿周囲長(CC)はGLIM基準では正式に定められていませんが、AWGS 2019においてはスクリーニング目安として「男性<34cm、女性<33cm」が示されています。
ただし、これはサルコペニアの簡易指標であり、GLIMでは筋肉量評価の代替として慎重に用います。

これらのカットオフ値をもとに、体重・BMI・筋肉量のトレンドを追うことで、早期発見と再悪化防止につながります。



標準化とバージョン情報|日本での導入状況


GLIM基準は2018年の国際合意をもとに世界的に普及しており、日本では「リハ栄養ケアプロセス」や「診療報酬改定」で公式に注目されています。

日本での標準化動向

  • 令和6年度診療報酬改定で、回復期リハビリテーション病棟入院料1にGLIM評価が必須化。
  • 入院料2〜5では「望ましい」とされ、段階的導入が進行中。
  • 管理栄養士・OT・PT・ST・看護師によるチーム評価が求められる。

標準化のポイント

  • 評価テンプレートを電子カルテに統一。
  • 筋肉量測定機器(BIA等)の院内校正。
  • スタッフ教育と用語統一。

この標準化により、施設間での栄養状態比較が可能となり、研究・品質改善(QI)・学会報告に応用できます。



臨床応用|リハビリ現場での活用例


GLIM基準は、低栄養の早期発見と介入の指標として、さまざまなリハビリ領域で活用されています。

応用例

  • 脳卒中リハビリ:炎症・摂取低下を背景に、体重減少と筋力低下を早期に検出。
  • 整形外科術後:創傷治癒促進と筋回復に向け、タンパク質強化を行う。
  • がん治療中:副作用による摂取低下をモニタリングし、経腸・静脈栄養を段階的に導入。
  • 慢性疾患(COPD・心不全):代謝亢進に対応したエネルギー投与。

介入後は、体重・摂取量・FIM・SPPBなどを定期的に記録し、GLIMスコアと併せて効果判定を行います。

また、栄養サポートチーム(NST)との連携で、食形態調整・経腸栄養・運動療法を組み合わせた多職種アプローチが推奨されます。



他検査との関連|スクリーニングと補助評価


GLIMは確定診断基準であり、以下のようなスクリーニングや補助検査と組み合わせて活用されます。

カテゴリ主な検査目的
栄養スクリーニングMUST、NRS-2002、MNA-SF栄養リスク判定
サルコペニア評価AWGS 2019、EWGSOP2筋肉量・筋力・機能を多面的に評価
嚥下評価MWST、RSST摂取困難の要因分析
認知・注意機能HDS-R、FAB、TMT食事動作やADL支援の設計に活用

GLIMにより得られた栄養診断を、これらの検査データと統合して解釈することで、より正確なリハビリプランニングが可能となります。



デジタル・ICT対応|電子化で効率化する栄養管理


近年、GLIM基準は電子カルテ(EHR)やICTツールに組み込まれ、評価から介入までの自動化が進んでいます。

デジタル運用例

  • 電子カルテテンプレート:GLIM項目を自動採点、重症度を即時算出。
  • BIAデータ連携:測定値を自動保存し、体組成変化をグラフ表示。
  • AI解析:体重推移と炎症マーカーを組み合わせ、低栄養リスクを早期警告。
  • 遠隔栄養指導:在宅患者が体重・食事写真を送信し、栄養士が遠隔フォロー。

また、リハスタッフが入力するFIMや歩行速度などの機能指標と連動させることで、**「栄養×機能回復」**のリアルタイムモニタリングが可能です。
今後は、GLIMデータを活用したAI予測や多施設データベース研究も期待されています。



このように、GLIM基準はリハ栄養の国際標準として、評価・介入・研究のすべてに活用できる汎用性の高い診断枠組みです。

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