握力測定(Hand Grip Strength Test)は、リハビリテーションや介護現場で最も多く活用される筋力評価の一つです。
その簡便さから日常的に行われますが、正しい測定方法や解釈を理解していないと、得られるデータが誤ってしまうこともあります。
本記事では、握力測定の基本情報・対象と適応・正しい測定方法・カットオフ値・臨床応用までを、最新エビデンスと国際基準(ASHT・AWGS 2019)に基づいて詳しく解説します。
特に高齢者リハビリ・サルコペニア予防・フレイル評価に携わるセラピストにとって必見の内容です。
握力測定(Hand Grip Strength Test)とは|目的と臨床での活用法
握力測定は、リハビリ臨床や介護現場で最も頻繁に行われる筋力評価の一つです。
「物を握る力」を測るだけでなく、全身の筋力や健康リスクを推定する重要な指標として、世界中で研究・実践されています。
特に高齢者ではサルコペニアやフレイルのスクリーニングに活用されており、近年は死亡や循環器疾患の予測因子としても注目されています。
簡便で非侵襲的に測定できる点が大きな利点ですが、正確な方法を理解していないと誤差が生じやすい検査でもあります。
この記事では、臨床現場で役立つ「目的・方法・カットオフ・注意点」を最新エビデンスとともに整理します。
握力測定の目的と臨床的意義
主な目的
- 全身筋力の簡易的評価
握力は上肢だけでなく、下肢筋力や体幹筋力とも強く相関します。
複数の研究(Bohannon, 2019など)では「全身筋力の代表値」として有用性が確認されています。 - 健康・疾病リスクのスクリーニング
握力の低下や経年変化は、総死亡・循環器死亡・認知症・サルコペニア発症などのリスク増加と関連します。
特に中高年において「経年低下の速度」が重要な指標とされています。 - サルコペニアのスクリーニング
Asian Working Group for Sarcopenia(AWGS)2019では、握力が筋力低下の一次指標に設定されています。
握力測定で得られる臨床情報
- 上肢・下肢の筋力バランス
- ADL自立度の推定
- 栄養状態や体力レベル
- 疾患進行の早期兆候
対象と適応
握力測定は年齢・性別・疾患を問わず幅広い対象に適応できます。
特に以下の領域で有用です。
| 対象群 | 目的・意義 |
|---|---|
| 高齢者 | サルコペニア・フレイル・転倒リスク評価 |
| 脳卒中・神経疾患 | 上肢麻痺・巧緻動作・機能回復の指標 |
| 整形外科疾患 | 手部外傷・手根管症候群・リウマチ等の経過評価 |
| 内科系疾患 | 糖尿病・心疾患・CKDにおける全身筋力低下のスクリーニング |
| 健常者 | 体力測定・スポーツパフォーマンス評価 |
測定を避けるべきケース
- 急性期の骨折・腱損傷・炎症がある場合
- 強い痛み・拘縮がある場合
- 握力測定に伴い症状が悪化する恐れがある場合
握力測定の正しい実施方法
使用機器
- スメドレー式握力計(アナログまたはデジタル式)
- 精度0.1kg単位、定期校正が望ましい
姿勢と手順
日本国内では文部科学省の「新体力テスト」手順が基準とされていますが、国際的にはASHT(American Society of Hand Therapists)法も併用されます。
| 方法 | 姿勢・条件 | 特徴 |
|---|---|---|
| 日本法(文科省) | 立位、腕を自然に下垂し体や衣服に触れないように測定 | 学校・体力測定・一般健診向け |
| ASHT法(国際標準) | 座位、肩内転中間位・肘90°屈曲・前腕中間位・手関節0–30°伸展 | 研究・リハビリ評価向け |
手順(文科省法に準拠)
- 握力計を0kgにリセット(デジタルは電源ON)
- 人差し指の第2関節が直角になるようにハンドルを調整
- 体に触れないように腕をまっすぐ下げて立つ
- 「はい、握ってください」で最大握力を測定
- 左右交互に2回ずつ測定(同一手を連続で行わない)
※同一手で2回続けて測定すると筋疲労による誤差が生じるため、交互または60秒以上休息を取ります。
採点と解釈
握力は「最大値(kg)」で記録します。
2回の測定のうち、より高い方を代表値とするのが一般的です。
評価のポイント
- 同年代・同性の平均値との比較
- 経時的な変化(年次測定による推移)
- 利き手と非利き手のバランス(差が20%以上ある場合は留意)
平均値(日本・文科省 令和4年度体力・運動能力調査より)
| 年齢群 | 男性平均(kg) | 女性平均(kg) |
|---|---|---|
| 20–24歳 | 46.3 | 27.8 |
| 40–44歳 | 46.9 | 29.4 |
| 60–64歳 | 42.9 | 26.3 |
| 70–74歳 | 37.4 | 23.8 |
| 75–79歳 | 35.1 | 22.5 |
※値は全国平均。年次や対象により若干異なります。
カットオフ値(サルコペニア指標)
アジア・欧州の両ガイドラインでカットオフが定義されています。
| ガイドライン | 男性 | 女性 | 備考 |
|---|---|---|---|
| AWGS 2019(アジア) | <28kg | <18kg | アジア人向け推奨値 |
| EWGSOP2(欧州) | <27kg | <16kg | 欧州人向け推奨値 |
これらの値を下回る場合、サルコペニアやフレイルのリスクが高いと判断されます。
ただし、年齢・疾患・地域差を考慮して解釈することが重要です。
標準化とバージョン情報
握力測定は国際的に標準化された測定法が存在します。
標準化の主な体系
- ASHT法(American Society of Hand Therapists)
座位・肘90°・前腕中間位を基本姿勢とする国際標準法。 - 文部科学省「新体力テスト」
日本国内の学校・高齢者測定に広く採用されている立位法。
バージョン・機器の違い
- アナログ式:スメドレー型(針式)
- デジタル式:スメドレーD式など(自動リセット機能付き)
校正や再現性の確認は年1回以上が望ましく、複数機器を用いる場合は同一個体での測定誤差を比較しておくと信頼性が高まります。
臨床応用と活用事例
握力は単なる上肢筋力の指標にとどまらず、全身状態を反映する「健康バイタル」として多面的に活用されています。
臨床応用の具体例
- 回復期リハビリ:筋力全般の回復指標として
- 外来フォロー:握力の低下による体力・栄養状態の変化を早期発見
- 地域包括ケア:在宅高齢者のフレイル評価
- 介護予防教室:集団評価・運動効果の見える化
研究・疫学領域での活用
- 大規模コホート(PURE研究など)で死亡・心血管疾患予測因子
- 認知症リスクの早期予測指標
- 栄養介入や運動療法の効果測定指標
他検査との関連
握力は他の身体機能指標とも密接に関連します。
| 関連検査 | 関係・補完意義 |
|---|---|
| 下肢筋力(膝伸展筋力・5回椅子立ち上がり) | 握力と高い相関あり(r≈0.6〜0.8) |
| 歩行速度 | 握力低値群では有意に低下する傾向 |
| 体組成(筋量測定:BIA・DXA) | 握力は筋量と中等度の相関 |
| FIM・Barthel Index | 握力はADL自立度と関連(機能予後予測に有効) |
複合的に用いることで、単一指標よりも正確な身体機能の全体像を把握できます。
デジタル・ICT対応
近年は、デジタル握力計やアプリ連携による測定データの活用が進んでいます。
主なICT活用例
- Bluetooth対応握力計によるクラウド記録
- 電子カルテ連携による経時的データ追跡
- AI解析でのサルコペニア予測モデル構築
- ウェアラブル機器との統合による総合体力スコア化
また、在宅リハビリや遠隔医療の分野でも「自己測定+自動記録」が可能になっており、今後の臨床データ基盤として期待されています。
まとめ
握力測定は、「簡単・安全・高信頼性」という3拍子が揃った評価です。
測定姿勢や手順を統一し、年齢・性別・疾患別に解釈することで、単なる「力試し」から「健康・機能のバロメーター」へと変わります。
正確な測定を積み重ねることが、患者の回復や予防の第一歩につながります。