パーキンソン病の進行度を客観的に評価できる「ホーン・ヤール重症度分類」。
本記事では、原著から改訂版(1〜5+1.5・2.5)までの詳細、臨床での使い方、生活機能障害度との関係、リハビリでの活用法を分かりやすく解説します。
ホーン・ヤール重症度分類の基本情報(パーキンソン病の進行を5段階で評価する指標)
ホーン・ヤール(Hoehn & Yahr:HY)重症度分類は、パーキンソン病(Parkinson’s disease:PD)の進行度を客観的に評価する代表的なスケールです。
1967年にMelvin YahrとMargaret Hoehnによって『Neurology』誌に発表され、以来、臨床・研究の両面で世界的に使用されています。
この分類は、PDの症状の広がり(片側・両側)、姿勢保持機能、自立度などを基準に**1〜5段階(改訂版では7段階)**で評価します。
パーキンソン病は進行性の神経変性疾患であり、震戦(ふるえ)・筋固縮・動作緩慢などが徐々に拡大する特徴があります。
HY分類を用いることで、以下の点が明確になります。
- 症状の重症度と生活機能への影響を可視化できる
- 医師・療法士・看護・介護スタッフ間での共通言語となる
- リハビリテーション・薬物療法・介助レベルの目安を統一できる
✅ 原著論文: Hoehn MM, Yahr MD. Parkinsonism: onset, progression and mortality. Neurology. 1967;17(5):427–442.
この分類は、非常に簡便で再現性が高く、短時間で進行度を把握できる実用的ツールとして医療現場で広く活用されています。
対象と適応(どんなクライアント・状況で活用するか)対象と適応
ホーン・ヤール重症度分類の主な対象はパーキンソン病患者です。
運動症状が中心となる疾患のため、神経内科・リハビリテーション・介護分野で幅広く使用されています。
▶ 適応対象
- パーキンソン病の診断が確定している方
- 進行度・治療効果・リハビリの経過を追う必要がある方
- 多職種間で状態共有を行う必要がある方
▶ 非適応または注意点
- パーキンソン症候群(PS)には正式には適用外
(ただし臨床上、進行度の“イメージ共有”として便宜的に使われることがあります) - HYは進行性疾患を前提にしているため、症状固定型の疾患には不向き
▶ 使用目的の例
- 医師による薬物療法調整の目安
- 作業療法士・理学療法士による転倒リスクやADLレベルの推定
- 看護師・介護士との情報共有・介護計画立案
HY分類は「疾患の重さ」を示すだけでなく、リハビリのゴール設定や在宅支援方針を考える際の判断材料としても有効です。
実施方法(ホーン・ヤール分類のステージの見方)
ホーン・ヤール分類は観察評価で行い、特別な機器を必要としません。
主に歩行・姿勢・運動の左右差・平衡機能を観察して判定します。
▶ 改訂版ホーン・ヤール分類(7段階)
| ステージ | 症状の特徴 | 日常生活への影響 |
|---|---|---|
| 1 | 一側性の症状(片側の震え・固縮・動作遅延) | 生活への影響ほぼなし、自立歩行可能 |
| 1.5 | 一側性+体幹症状の軽度出現 | 軽い姿勢不安定、転倒リスクわずかに増加 |
| 2 | 両側性だが姿勢保持障害なし | 自立歩行可能、ADLほぼ自立 |
| 2.5 | 両側性+後方突進(Pull test)で立ち直り可能 | 転倒リスク増加、リハビリ介入推奨 |
| 3 | 軽〜中等度両側性+姿勢保持障害あり | 転倒頻度上昇、自立度低下し始める |
| 4 | 重度両側性障害、歩行・起立は自力で可能 | 一部介助や補助具が必要 |
| 5 | 車いすまたは臥床状態 | 全面的介助が必要、寝たきりに近い状態 |
▶ 評価時の観点
- 一側性か両側性か
- 姿勢反射の有無
- 歩行の安定性
- 介助の必要度
特別な採点用紙は不要で、短時間で実施可能です。
リハビリ室や病棟での動作観察から、容易にステージを推定できます。
採点と解釈(進行度に応じた症状理解と評価のポイント)
HY分類は、症状の進行度に合わせて重症度と生活自立度の両面を評価します。
▶ ステージ別のリハビリ目安
- Stage 1〜2:早期介入で症状進行を抑える。筋力・姿勢保持トレーニングを重視。
- Stage 3:転倒予防・歩行補助具の使用・バランス再教育が中心。
- Stage 4〜5:介助動作訓練・環境調整・褥瘡・拘縮予防が重要。
▶ 生活機能障害度(日本の分類)
| 等級 | 定義 | 対応例 |
|---|---|---|
| 1度 | 日常生活ほぼ自立、通院も介助不要 | 定期的なリハと服薬管理 |
| 2度 | 一部のADLで介助要 | 補助具・家族指導・転倒予防 |
| 3度 | 全面的介助が必要、立位・歩行困難 | ベッド上生活支援、介護計画 |
※日本の医療費助成では「HY 3以上 かつ 生活機能障害度2以上」が基準となっています(難病情報センターより)。
▶ 評価の留意点
- HYは機能障害と能力障害の両方を含むため非線形
- 同じステージでも個人差が大きく、UPDRSなどとの併用が望ましい
- 評価は定期的(例:3〜6か月ごと)に再実施すると経過把握に有効
標準化とバージョン情報(原著・改訂版の違いと信頼性)
| バージョン | 公表年 | 段階数 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 原著 Hoehn & Yahr (1967) | 1967 | 5段階 | シンプルで広く使用される。姿勢反射障害の有無で3〜4を区別。 |
| 改訂版(Modified HY) | 1987以降使用 | 7段階(1.5、2.5追加) | 中間段階を追加し、進行の微細変化を把握可能。 |
| MDS推奨(UPDRSとの併用) | 2000年代以降 | ー | MDS-UPDRSに包含し、より詳細な運動評価が可能。 |
▶ 標準化の現状
- 世界的に改訂版7段階が標準的に使用されている。
- 研究では「HY 3以上」を中等度以上の指標として扱うことが多い。
- MDS(Movement Disorder Society)は、UPDRSと併用して使用することを推奨。
🔎 HYはシンプルで迅速な判定が可能だが、症状の細部を反映しにくいため、**UPDRS(Unified Parkinson’s Disease Rating Scale)**との併用が国際的に一般的です。
臨床応用と活用事例(リハビリ・看護・介護での実践例)臨床応用と活用事例
▶ リハビリテーションでの応用
- 運動療法の指標:ステージに応じて強度・内容を調整
- ADL評価:自立度の客観的共有に活用
- 転倒予防プログラム:HY 3以上では特に重点課題
- 在宅復帰判定:介助レベルの目安に使用
▶ 看護・介護分野での活用
- スタッフ間での情報共有の基準
- 記録・カンファレンスでの統一した進行度表現
- ケアマネージャーがサービス区分を検討する際の補助指標
▶ 事例(例)
HY 3 → 平衡障害が出現し始め、外出には杖が必要。
HY 4 → 室内歩行は介助あり。介護予防住宅改修を検討。
HY 5 → 臥床中心の生活。呼吸・褥瘡予防の重点ケア。
このように、ホーン・ヤール分類は疾患進行・生活支援・介護連携を橋渡しする評価軸として機能します。
他検査との関連(UPDRS・DIEPSS・生活機能尺度との関係)
ホーン・ヤール分類は簡便な一方で、症状の細部評価には限界があります。
そのため、以下のような検査と組み合わせるとより正確な全体像を把握できます。
| 評価ツール | 評価内容 | HYとの関係 |
|---|---|---|
| UPDRS / MDS-UPDRS | 運動症状・非運動症状・ADL | HYの補完的尺度として国際標準 |
| DIEPSS | 薬剤性錐体外路症状 | HYと鑑別的に使用(薬剤性評価用) |
| 生活機能障害度(日本) | ADL自立度 | HYと併用で医療費助成判定にも使用 |
| BBS / TUG / FAB | バランス・実行機能 | HY 3以降で転倒リスク補足に有効 |
複数の尺度を組み合わせることで、運動障害・精神症状・ADL・社会的機能を多面的に把握でき、介入計画の精度が高まります。
デジタル・ICT対応(評価の電子化とアプリ連携の現状)
ホーン・ヤール分類は紙・口頭評価が主流ですが、近年ではICTによるデータ管理・共有が進んでいます。
▶ 電子カルテ・アプリ連携の例
- 電子カルテにステージを直接入力し経時変化をグラフ化
- **スマートフォンアプリ(例:MDS-UPDRS対応ツール)**で動画解析による歩行・姿勢評価
- AI解析による**運動データ(加速度センサー)**からのHY推定研究も進行中
▶ メリット
- 進行度の経時比較が容易
- 医師・療法士・介護職がクラウド上で情報共有可能
- 研究データとして統計解析に利用しやすい
▶ 現時点での課題
- HY専用の公式電子実施システムは未確立
- 評価者間の主観差を補うため、動画ベース記録+AI解析への移行が検討段階
ICTの進展により、ホーン・ヤール分類は**「紙のスケール」から「動作解析指標」へ進化しつつあります。
リハビリ領域でも、デジタルツールを併用することで経過評価の客観性と効率**が大幅に高まるでしょう。