尿失禁は命に直結する症状ではないものの、本人の尊厳や生活の質(QOL)を大きく左右します。
ICIQ-SF(International Consultation on Incontinence Questionnaire-Short Form)は、その影響を客観的に測定できる国際標準の質問票です。
本記事では、ICIQ-SFの基本構造、採点方法、カットオフ値の考え方、臨床での活用事例、さらにデジタル活用までを、リハビリセラピスト向けにわかりやすく解説します。
基本情報|ICIQ-SFの概要と特徴
ICIQ-SFは、2001年にパリで開催された第2回国際尿失禁会議(2nd International Consultation on Incontinence)で正式に採択された、尿失禁に関する国際的なQOL評価尺度です。
正式名称は「International Consultation on Incontinence Questionnaire – Urinary Incontinence Short Form(ICIQ-UI SF)」で、臨床現場では略してICIQ-SFと呼ばれています。
特徴
- 開発:ICIQグループ(1998年より開発開始)
- 構成:3つの採点項目+1つの補助項目(どんなときに漏れるか)
- 総得点範囲:0〜21点(高得点ほど重症)
- 評価対象:男女問わず、成人の尿失禁
- 用途:尿失禁の重症度と日常生活への影響を定量評価する
評価の意義
ICIQ-SFは、症状の「頻度」「量」「生活障害度」を簡潔に把握することができ、治療効果や介入後の経時的変化を比較するのに有用です。
医療・介護の現場で、患者本人の主観的QOLを可視化するツールとして世界的に活用されています。
対象と適応|成人の尿失禁全般に使用可能
ICIQ-SFは、成人男女を問わず使用できる標準化質問票です。尿失禁の種類(腹圧性・切迫性・混合性など)を問わずに適用できます。
主な対象
- 高齢者や脳卒中後の患者
- 前立腺術後の男性
- 出産後の女性
- 認知機能が保持され、自己回答が可能な方
※小児や高度認知症患者では、別の尺度(例:ICIQ-CLUTSや排尿日誌など)を併用する方が望ましいとされています。
適応の目的
- 尿失禁の自覚症状を定量化
- 日常生活動作(ADL)やQOLへの影響を把握
- 介入(骨盤底筋訓練、薬物療法、環境調整など)の効果判定
このように、ICIQ-SFは介護・リハビリ領域でもQOL支援の基盤となるツールです。
実施方法|質問紙による自己記入式評価
ICIQ-SFは、紙または電子版の質問票を用いて実施します。
対象者が質問に回答する自己記入式の評価法です(必要に応じて口頭補助も可)。
質問内容(原版に準拠)
| 質問 | 内容 | 配点 |
|---|---|---|
| Q1 | 尿漏れの頻度 | 0〜5点 |
| Q2 | 尿漏れの量(なし〜多量) | 0,2,4,6点 |
| Q3 | 日常生活の支障度(0〜10のVAS) | 0〜10点 |
| Q4 | 尿漏れの発生状況(チェック項目) | 非採点項目 |
合計点はQ1〜Q3のスコア(最大21点)で算出します。
実施上のポイント
- 所要時間:約3〜5分
- 設問数が少なく、臨床導入が容易
- 1回の評価だけでなく、経時的に繰り返して比較することで治療効果を明確化できる
採点と解釈|点数が高いほど重症
ICIQ-SFでは、Q1〜Q3の合計点(0〜21点)をスコア化し、数値が高いほど重症度が高いと判断します。
スコアの目安(例)
- 0〜5点:軽度(生活への影響が少ない)
- 6〜12点:中等度(生活に支障を感じる)
- 13点以上:重度(社会生活に明確な制限)
※正式なカットオフ値ではなく、文献上の便宜的な分類例です。
解釈の視点
- Q1とQ2は症状の重さ、Q3は主観的困難度を反映
- Q4のチェック項目で尿失禁のタイプ(腹圧性・切迫性など)を推定可能
- 評価者は点数だけでなく、回答パターンや背景要因を合わせて解釈することが重要です。
カットオフ値|重症度判定より経時比較が中心
ICIQ-SFは診断的なカットオフ値を設定していません。
目的は「尿失禁の有無を判定する」ことではなく、重症度と日常生活への影響を定量的に可視化することにあります。
活用のポイント
- 治療・訓練前後のスコア変化を比較
- 介入効果の客観的データとして提示
- 在宅ケアや介護保険分野でのQOL変化モニタリングにも有効
標準化とバージョン情報|日本語版の開発経緯
ICIQ-SFは1998年に国際尿失禁会議の研究グループにより開発され、2001年の第2回会議で採択されました。
世界的に標準化が進み、40か国以上で翻訳・妥当化が行われています。
日本語版(ICIQ-SF日本語訳)
- 名称:「尿失禁症状・QOL評価質問票」
- 翻訳監修:日本泌尿器科学会関連研究者
- 妥当性:Cronbach’s α = 0.95(内的一貫性)、κ = 0.58〜0.90(再テスト信頼性)
- 検証研究:Averyら(2004, J Urol)ほか多数
入手方法
ICIQ公式サイトまたは一部医療機関(例:松原徳洲会病院など)からPDF形式でダウンロード可能です。
※使用時は引用・出典を明記してください。
臨床応用と活用事例|QOL支援と治療効果の評価に
ICIQ-SFは、以下のような臨床・研究領域で広く使用されています。
主な応用場面
- リハビリ分野:骨盤底筋訓練や行動療法の効果判定
- 看護・介護現場:失禁ケア介入前後のQOL変化評価
- 泌尿器・婦人科:薬物・手術療法のアウトカム評価
- 地域・在宅ケア:介護者負担軽減策の効果測定
リハビリテーションでの利点
- ADL・IADLの補助的指標として使える
- 主観的困難度を数値化し、モチベーション支援ツールにも活用可能
- 尿失禁による社会的活動制限を客観化し、参加支援(Participation)へつなげられる
他検査との関連|包括的なQOL評価の一部として
ICIQ-SF単独では身体機能や心理面を完全に捉えることはできません。
そのため、他の評価法と組み合わせて多面的に把握することが推奨されます。
併用が推奨される主な評価ツール
- Barthel Index / FIM:ADL全般の自立度
- PGCモラールスケール:主観的幸福感・QOL評価
- ICIQ-OAB / ICIQ-LUTS:下部尿路症状の詳細評価
- SF-36 / EQ-5D:包括的健康関連QOL
これらを組み合わせることで、失禁による機能・心理・社会参加への影響をより立体的に理解できます。
デジタル・ICT対応|オンライン評価とデータ管理の展開
近年、ICIQ-SFは紙面だけでなくデジタルツールとしても利用が進んでいます。
電子カルテ連携やリハビリ支援アプリに組み込まれる事例も増加しています。
デジタル化の利点
- タブレット入力による迅速なスコア算出
- 患者自身がスマホで自己記録できる
- 多回数評価のグラフ化・経時比較が容易
- リモートリハビリや在宅支援との親和性が高い
今後は、AI解析やIoTセンサーとの統合により、排尿行動とQOL変化をリアルタイムで可視化する仕組みの発展が期待されています。
参考文献
- Avery K, Donovan J, Peters TJ, Shaw C, Gotoh M, Abrams P. ICIQ: a brief and robust measure for evaluating the symptoms and impact of urinary incontinence. J Urol. 2004;171(3): 1044–1052.
- Abrams P et al. The 2nd International Consultation on Incontinence (Paris, 2001).
- 日本泌尿器科学会・下部尿路機能障害診療ガイドライン(2021年版).