JART(Japanese Adult Reading Test)とは?認知症の病前IQを推定する日本語版リーディング検査の解説|実施方法・診療報酬・臨床応用

JART(Japanese Adult Reading Test)は、認知症や高次脳機能障害の患者における「病前の知的水準(IQ)」を短時間で推定できる日本語版のリーディング検査です。
英国のNARTを基に開発され、臨床・研究の両分野で活用されています。
本記事では、JARTの目的・方法・診療報酬・臨床応用まで、リハビリセラピスト向けにわかりやすく解説します。



基本情報|日本語版リーディングテストで病前IQを推定

JART(Japanese Adult Reading Test)は、認知症や脳損傷などで知的機能が低下した患者の「病前の知的水準(premorbid IQ)」を推定する目的で開発された日本語版のリーディングテストです。
もともとは英国のNational Adult Reading Test(NART)を基に、松岡洋夫らによって日本語に適応されました(Matsuoka et al., 2006)。

項目内容
名称Japanese Adult Reading Test(JART)
開発者松岡洋夫ほか(2006年)
原型National Adult Reading Test(NART, Nelson, 1982)
目的病前IQの推定
構成50語の漢字熟語を音読
所要時間約10分
診療報酬D283-1に該当(80点:実務運用)

この検査は、知的能力の保持要素である「語彙・読字力」を指標に、WAIS系IQとの回帰式を用いて病前IQを推定します。
短時間で実施でき、臨床・研究の両面で信頼性が高いツールです。



対象と適応|認知症・脳血管障害など病前能力の把握に有効

JARTは以下のような対象に適しています。

●主な対象

  • アルツハイマー型認知症(AD)
  • 血管性認知症
  • 前頭側頭型認知症
  • 外傷性脳損傷や脳卒中後の高次脳機能障害
  • 認知症疑いで知的低下の程度を把握したいケース

●適応の目的

  • 病前の知的水準を把握
  • 現在の認知機能低下との比較
  • 治療・リハビリテーション方針の参考
  • 研究での共変量(premorbid IQ)として利用

アルツハイマー型認知症では、漢字熟語の読み能力が比較的保持されやすいため、JARTによる推定IQが観察IQよりも高く出る傾向があります。
これは病前の水準を推定する上で重要な手がかりとなります。

一方で、失語症や重度の視覚障害、読字困難のある方には不適応です。



実施方法|簡便で10分以内に完了する流れ

JARTの実施手順は非常にシンプルで、臨床現場でも短時間で行えます。

実施手順

  1. 準備:検査票・記録用紙・筆記具を準備。
  2. 説明:「漢字熟語を声に出して読む検査」であることを伝える。
  3. 実施:50語の熟語リストを一語ずつ音読してもらい、誤読を記録。
  4. 集計:誤答数をカウント。
  5. 評価:回帰式にあてはめて推定IQを算出。
  6. 解釈:病前IQと現在のWAISやMMSEの結果を比較して理解。
  7. フィードバック:結果を本人・家族・チームに共有。

ポイント

  • 実施時間は約10分。
  • 原則としてスキップや推測読みの扱いはマニュアルに基づく。
  • 記録者は誤読・正読を正確に判定することが重要。

簡便でありながら精度が高く、外来・病棟・研究いずれにも適しています。



採点と解釈|誤答数からWAIS系IQを推定

JARTのスコアリングは非常に明確です。

●採点方法

  • 50語のうち誤読数(errors)を数える。
  • その誤読数をもとに、原著の回帰式に代入してIQを推定する。

例:

推定VIQ(言語性IQ)=127.8 − 1.093 × 誤読数(Matsuoka et al., 2006)

●解釈のポイント

  • 誤読が少ないほど推定IQが高い。
  • 認知症患者では観察IQよりも推定IQが高く出る傾向あり。
  • 現在の知的水準との乖離は、病的低下の程度を示す。

●臨床での使い方

  • 現在のWAIS-IVやMMSE結果と比較し、低下度を推定。
  • 認知症や高次脳機能障害の「認知予備力(cognitive reserve)」を考慮。


カットオフ値|標準IQの基準と誤答数の目安

JARTには「診断カットオフ値」というより、IQ推定値の範囲があります。

誤読数推定VIQ(目安)解釈
0〜5約120以上高知能域
6〜15約110〜119平均上位
16〜25約100前後平均
26〜35約90前後平均下位
36以上約80以下低知能域(推定)

この範囲をもとに、病前IQの推定や知的低下の度合いを判断します。
JARTはあくまで補助的な指標であり、他の知能検査や行動観察と併せて総合的に評価することが望まれます。



標準化・バージョン情報|信頼性と日本語適応の経緯

●開発と標準化

  • 2006年に松岡らが日本人健常成人を対象に開発。
  • WAIS-Rとの高相関(r=0.78)を報告。
  • 高い再現性と信頼性を有する。

●短縮版(JART-25)

  • 2016年に25語版(JART-25)が開発。
  • 臨床や研究で簡便に使用できるよう改良。
  • 原版と高い相関が確認されている。

●診療報酬

  • 厚労省「D283-1(80点)」の区分で運用されることが多い。
  • 保険算定の対象として臨床使用が可能。

これらの標準化情報により、JARTは臨床・研究いずれでも信頼できる評価ツールとされています。



臨床応用と活用事例|治療・リハ計画の個別化に役立つ

JARTの活用は、単に病前IQを推定するだけでなく、リハビリテーション戦略にも役立ちます。

●臨床応用例

  • 認知症の初期評価で病前能力を把握。
  • 高次脳機能障害リハで「現状との乖離」を可視化。
  • 介護チームや家族への説明資料として活用。
  • 研究における知的水準の統制変数。

●活用の意義

  • 病気による低下を区別し、患者の潜在能力を理解。
  • ゴール設定やリハ内容を個別化。
  • 患者の「できること」を基準に支援を設計できる。

JARTを用いることで、治療・介入が“本来の知的基盤”に基づく、より的確なアプローチになります。



他検査との関連|MMSEやWAISとの併用が有効

JART単独では認知症を診断できませんが、他の検査と組み合わせることでより精度が高まります。

検査評価対象併用意義
MMSE / HDS-R認知機能の現状現在IQとの乖離を比較
WAIS-IV詳細な知能構造病前と現在の差を数値化
FAB / MoCA-J前頭葉機能認知低下領域の特定
RBANS / WMS-R記憶機能病前知的水準との関係を検討

このように、JARTは「病前能力の基準」として他検査の解釈を支える位置づけにあります。



デジタル・ICT対応|音声認識や遠隔評価の可能性

近年、JARTのデジタル化や自動採点技術の研究も進んでいます。

●ICT化の展開

  • タブレットやPCによるデジタル版の開発。
  • 音声認識AIによる誤読自動検出。
  • 遠隔リハやオンライン診療での利用。

●今後の展望

  • 自動音読解析とクラウド記録により、評価時間の短縮が可能。
  • 機械学習モデルを用いた「誤読パターン分析」により、認知低下の早期発見への応用も期待。
  • 認知症予防アプリや脳活教材との連携も進みつつある。

JARTはアナログ検査としての信頼性を保ちながら、今後はデジタル・リモート時代の知的機能評価ツールへと進化していくでしょう。



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