カッツインデックス(Katz Activities of Daily Living Index)は、入浴・更衣・食事など6つの基本的ADL領域をもとに、自立度をA〜Gの7段階で評価する指標です。
高齢者のADL能力や介護度の把握、リハビリ目標設定に役立つスケールとして、Barthel IndexやFIMと並び臨床現場で広く活用されています。
基本情報:Katz ADL Indexの概要
カッツインデックス(Katz ADL Index)は、アメリカ・オハイオ州クリーブランドのBenjamin Rose Hospitalの研究チームによって開発されました。
開発責任者であるSidney Katzらは、1001名・2000件以上の評価データをもとに、日常生活動作の自立度を定量的に表す指標を作成し、1959年にJournal of Chronic Diseases誌に報告、最終的に1963年にJAMA誌で「Index of ADL」として発表しました。
この指標は、次の6つの基本ADL領域を対象としています。
| 評価領域 | 内容 |
|---|---|
| 入浴(Bathing) | 浴槽やシャワーを用いた入浴の自立度 |
| 更衣(Dressing) | 下着・衣服・装具の着脱 |
| トイレ動作(Toileting) | トイレへの移動・排泄・衣服の整理 |
| 移乗(Transferring) | ベッドや椅子への移動動作 |
| 失禁コントロール(Continence) | 尿便意の保持とコントロール |
| 食事(Feeding) | 食物を自ら摂取できるかどうか |
この6領域の自立・依存の組み合わせによってA~G(およびO)の7段階に分類されます。
シンプルで再現性が高い評価法として、世界中の研究・臨床で用いられています。
対象と適応:どんな場面で使えるか
カッツインデックスは、主に高齢者や慢性疾患患者のADL能力の全体像を把握するために用いられます。
対象となる患者層
- 脳血管障害や整形外科疾患によるADL低下を有する成人・高齢者
- 慢性心不全や呼吸器疾患など、全身的機能低下を伴う症例
- 高齢期の機能変化や介護度評価を行いたい場合
- 介護施設や地域リハビリでの自立度評価・介護計画作成時
適応の特徴
- 観察・質問による評価が中心のため、特別な器具や機材を必要としません。
- 評価時間は約10分程度と短時間で、病棟・訪問・通所などさまざまな環境に対応できます。
- 「日常生活動作(Basic ADL)」のみに特化しているため、IADL評価(Lawtonなど)と併用することでより包括的な生活評価が可能です。
このスケールは特に、「ADL能力の低下には一定の順序がある」というカッツらの仮説をもとに設計されており、機能衰退の段階的把握に優れています。
実施方法:6領域の観察と判断基準
カッツインデックスは、実際の生活行為または介助場面の観察を通して、各項目を「自立」または「依存」で判定します。
ここでの「自立」は、監視・指示・介助を一切必要としないことを意味します。
| 領域 | 自立の判断基準 | 依存とみなす条件 |
|---|---|---|
| 入浴 | 背中や脚など一部にのみ介助が必要 | 入浴しない、または複数部位に介助 |
| 更衣 | 自ら衣服を取り出し、着脱可能(靴紐の結びは除く) | 一部でも介助が必要 |
| トイレ動作 | トイレ移動・排泄後の後始末・衣服整理が可能 | いずれかに介助が必要 |
| 移乗 | 杖やウォーカー使用でベッド・椅子移動が可能 | 移乗に介助を要する |
| 失禁コントロール | 尿便を自制できる | 失禁、カテーテル、下剤・介助を要する |
| 食事 | 自ら食物を口へ運ぶ(肉切り・バター塗りは除く) | 介助または経管栄養 |
評価は、実際に行っている動作をもとに判断する点が特徴です。
一時的な体調や入院環境の影響もあるため、可能であれば複数回の観察で信頼性を高めることが推奨されます。
採点と解釈:A〜Gの段階的評価
各領域を「自立=1点」「依存=0点」として判定し、その**組み合わせパターンに応じて7段階(A〜G)**に分類します。
| スコア | 判定 | 概要 |
|---|---|---|
| A | 6項目すべて自立 | 完全自立状態 |
| B | 5項目自立 | 軽度介助レベル |
| C | 入浴+他1項目依存 | 部分的自立の喪失 |
| D | 入浴+更衣+他1項目依存 | 中等度介助レベル |
| E | 入浴+更衣+トイレ+他1項目依存 | 介護中期レベル |
| F | 入浴+更衣+トイレ+移乗+他1項目依存 | ほぼ全介助状態 |
| G | すべて依存 | 全面的介護が必要 |
| O | その他 | 明確に分類できない場合 |
カッツらは、ADL能力が低下する際には「入浴→更衣→トイレ→移乗→失禁→食事」の順に衰退する傾向があると報告しています。
この**段階的喪失パターン(階層性)**は、リハビリ計画や介護度判定において重要な示唆を与えます。
カットオフ値:自立・介助の境界
カッツインデックスは点数化(0〜6点)されることも多く、以下のような臨床的区分が用いられます。
| 総得点 | 機能レベル | 介護度の目安 |
|---|---|---|
| 6点 | 完全自立 | 介助不要 |
| 4〜5点 | 軽度障害 | 部分的介助 |
| 2〜3点 | 中等度障害 | 介助が日常的に必要 |
| 0〜1点 | 重度障害 | 全介助 |
明確な「カットオフ値」は存在しませんが、在宅復帰や施設入所の判断指標として4点を境にする報告もあります。
評価結果は単独で判断せず、Barthel IndexやFIMなどとの併用が望まれます。
標準化とバージョン情報:信頼性の高さ
- 原版:Katz S, Ford AB, et al. (1963). JAMA
- 信頼性:高い再現性・信頼性が検証され、看護・リハ・介護領域で国際的に使用。
- 改訂版:0/1スコア方式や合計6点満点版など複数の改変版が存在。
- 日本語版:明確な標準化は限定的だが、国内研究で妥当性・信頼性の確認報告あり。
また、加齢や疾患に伴うADL低下の順序(入浴→更衣→トイレ…)は、多くの疫学研究で追試されています。
この「階層的構造(hierarchical loss)」は、老年期リハビリ研究の基礎概念の一つとされています。
臨床応用と活用事例:予後予測とケアプラン
カッツインデックスは以下のような臨床目的で活用されています。
- 入院時のADLベースライン評価
- リハビリ効果判定・経時的変化の追跡
- 介護サービス区分・施設入所基準の判断
- 予後予測モデルへの導入(死亡・再入院リスク)
- 他尺度(FIM・BI)との比較研究
リハビリセラピストにとっては、「自立度の段階」からリハビリゴール設定を明確化できる点が強みです。
たとえば「更衣動作の再獲得」が次の段階の目標となり、介入順序を立てやすくなります。
他検査との関連:Barthel Index・FIMとの違い
| 指標 | 主な特徴 | スコア方式 | 適用範囲 |
|---|---|---|---|
| Katz Index | 6領域の二値評価。段階的ADL喪失の追跡に適す | 自立/依存(二択) | 短時間評価に最適 |
| Barthel Index | 10項目を0〜15点で段階評価 | 0〜100点 | リハビリ効果判定に強い |
| FIM | 18項目を7段階評価 | 18〜126点 | 精密な介護度・リハ判定に使用 |
カッツインデックスは「構造の簡便さ」と「衰退順序の概念性」に優れます。
そのため初期スクリーニングや高齢者の縦断追跡研究に最適です。
デジタル・ICT対応:電子カルテ・アプリ連携の動向
近年では、電子カルテ・リハビリ支援アプリにKatz Index自動計算機能が搭載されています。
たとえば…
- 電子カルテ連携:ADL欄にチェックを入れるだけでA〜Gを自動表示
- モバイルアプリ:「ADL評価支援」系ツールで即時スコア化
- データベース活用:リハビリ経過や在宅復帰率との統計分析
また、AI・IoT技術を用いた行動センシング(例:入浴・食事動作の自動検知)との統合研究も進んでいます。
これにより、今後は定量的かつ客観的なADL変化モニタリングが可能になると考えられます。
まとめ
カッツインデックスは、簡便で信頼性の高いADL評価として世界的に活用されています。
6つの基本領域の自立・依存を確認するだけで、対象者の生活機能レベルとケア方針を明確にできる点が最大の魅力です。
リハビリセラピストとしては、FIMやBarthel Indexと併用しながら、経時的なADL変化の「順序性」を意識して支援を設計することが重要です。