LASMIとは?統合失調症の社会生活能力を多面的に評価できる信頼性の高い尺度を徹底解説

社会生活を送るための「生活能力」を客観的に把握することは、精神科リハビリテーションにおいて極めて重要です。
特に統合失調症の方を対象にした社会生活能力評価として「LASMI(Life Assessment Scale for the Mentally Ill:精神障害者社会生活評価尺度)」があります。
本記事では、LASMIの目的・構成・採点方法・活用方法について、リハビリセラピストの視点から解説します。



基本情報:LASMIとはどんな評価?

LASMI(精神障害者社会生活評価尺度)は、1994〜1995年に岩崎ら(障害者労働医療研究会精神障害部門)によって開発された、精神障害者の社会生活能力を包括的に評価するための尺度です。
統合失調症を中心とした精神障害者の「生活のしづらさ」や社会適応度を把握する目的で作成されました。

特徴

  • 精神障害者の日常生活・対人関係・就労能力・自己認識を多面的に評価
  • 「生活経過の安定性」「現実検討力」「自己理解」など、他尺度では捉えにくい要素を含む
  • GAFやREHABと異なり、過去1か月間の生活状況を基準に包括的に判定

LASMIは、精神科領域だけでなく地域移行支援や就労支援など、幅広い現場で使用されています。



対象と適応:どんな人に使う評価か

LASMIの主な対象は統合失調症を中心とする精神障害者です。
ただし、近年では以下のような対象にも応用されています。

主な適応範囲

  • 統合失調症による社会生活上の困難を有する方
  • 精神疾患により日常生活・対人関係・職業適応に課題を持つ方
  • デイケア、就労支援施設、地域生活支援センターなどで支援を受ける方

適用目的

  • 退院後の地域生活移行支援の計画立案
  • 就労支援や社会復帰プログラムの進捗評価
  • 多職種チームにおけるアセスメント共有ツール

LASMIは、ケアマネジメントにおける「社会生活能力評価」の代表的指標のひとつとしても位置づけられています。



実施方法:5領域と下位項目

LASMIは次の5領域・40項目で構成されています。各項目は行動観察・面接を通じて評価します。

領域内容主な下位項目例
D(日常生活)生活習慣・整容・金銭管理など生活リズム、身だしなみ、掃除、金銭管理、買い物など(12項目)
I(対人関係)コミュニケーション能力発話の明瞭さ、自発性、協調性、援助者とのつきあいなど(13項目)
W(労働・課題遂行)役割意識・課題達成力課題への挑戦、手順理解、ストレス耐性など(10項目)
E(持続性・安定性)精神状態・社会適応度の安定性現在の社会適応度、安定性傾向(2項目)
R(自己認識)障害認識・現実検討障害理解、自己認識の妥当性、現実感(3項目)

評価者は、本人の行動観察・面談・他職種の情報を総合して評価します。
原則として直前1か月間の状態をもとに評価します。



採点と解釈:0〜4点の5段階評価

各項目は**0〜4点(0=問題なし、4=大きな問題)**の5段階で採点します。

採点基準

  • 0点:支援を必要としない、安定している
  • 1点:わずかに支援を要する
  • 2点:一部支援を要する
  • 3点:多くの支援を要する
  • 4点:全面的支援が必要

各領域の平均値を算出し、レーダーチャートなどで可視化することも可能です。

評価の留意点

  • 評価者が生活全般に関与していることが望ましい
  • 短期的変動ではなく、過去1か月の平均的な状態を捉える
  • 複数評価者(OT・PSW・看護師など)で共有し、妥当性を高める


カットオフ値:明確な閾値はなし

LASMIには**明確なカットオフ値(判定基準値)**は設定されていません。
その理由は、個々の生活環境・支援状況・目標設定が異なるためです。

しかし、研究や実践現場では以下のように参考値として扱われています。

  • D・I・W領域の平均スコアが2.0以上:日常生活に支援が必要
  • E・R領域のスコアが高い場合:再発リスク・社会的安定性の低下が懸念される

したがって、LASMIは“合否”や“診断”のためではなく、支援計画立案と経時的変化の把握に用いるのが基本です。



標準化とバージョン情報

LASMIは、1995年の初版以降、複数の実践研究を経て運用が定着しています。
正式な改訂版(Ver.2など)は公表されていませんが、施設単位での運用マニュアル独自の集計シートが多く作成されています。

標準化の概要

  • 初期報告:岩崎他(1994〜1995年)による信頼性・妥当性検討
  • 項目の内的一貫性・再現性ともに良好
  • 他尺度(REHAB、GAF)との中程度の相関が報告

現在では、精神科リハビリテーションや地域生活支援のアセスメントツールとして厚生労働省の報告書でも引用されています。



臨床応用と活用事例

LASMIは、臨床現場で以下のように活用されています。

活用例

  • 入院〜地域移行期の生活スキル評価
  • デイケア・就労支援における社会生活訓練の目標設定
  • ケースカンファレンスでの多職種共有ツール
  • 支援計画の効果測定(再評価)

メリット

  • E・R領域により、生活の安定性や現実検討力を把握可能
  • 経時的評価で、支援効果や生活リズムの変化を可視化できる
  • 他職種連携の「共通言語」として活用しやすい

デメリット

  • 評価者が習熟するまでに時間がかかる
  • 評価者が生活全体を把握していないと不明値が生じやすい


他検査との関連:GAFやREHABとの違い

尺度主な対象特徴
LASMI統合失調症中心社会生活全般+持続性・自己認識を評価
GAF(Global Assessment of Functioning)精神障害全般全体的な機能レベルを0〜100で評価
REHAB(精神科リハビリ行動評価尺度)精神科患者全般行動面中心、経過の短期変化に強い

LASMIは、GAFやREHABではカバーしきれない長期的な生活の安定性や障害理解を評価できる点で補完的役割を果たします。



デジタル・ICT対応:電子化の動き

LASMIはもともと紙媒体で開発されましたが、近年は以下のようなICT化の取り組みが進んでいます。

デジタル化の例

  • ExcelやGoogleフォームでのスコア自動集計
  • 電子カルテ・地域ケア記録との連携
  • レーダーチャートの自動生成による可視化ツールの開発

今後の展望

  • 精神科OT・PSW領域でのオンライン評価共有
  • AIを活用した「生活機能変化予測モデル」への応用
  • データベース化による地域間比較・研究利用

LASMIは、単なる評価尺度にとどまらず、今後はデータ駆動型ケアマネジメントの基盤として発展していくことが期待されています。



まとめ

LASMIは、統合失調症を中心とする精神障害者の社会生活能力を多面的かつ包括的に評価できるツールです。
生活・対人関係・就労・安定性・自己認識という5領域をバランスよく評価でき、支援計画の立案や多職種連携の共通言語として非常に有用です。


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