MFT(脳卒中上肢機能検査)- 方法・注意点・解釈・カットオフ値について

MFT(Manual Function Test)は、脳卒中後の片麻痺患者の上肢機能を短時間で客観的に評価できる信頼性の高いリハビリ検査です。8つの動作課題で肩・肘・手指の動きを段階的に測定し、訓練効果やADL自立度の把握に役立ちます。本記事では、MFTの実施方法や採点、臨床応用までリハビリ専門職向けにわかりやすく解説します。



基本情報|MFTの概要と特徴

MFT(Manual Function Test)は、脳卒中後片麻痺患者の上肢機能を8つの動作課題で評価する信頼性の高い検査です。肩関節から手指までの可動性・巧緻性を段階的に測定し、上肢の実用レベルを定量的に把握できます。

MFTの基本データ

項目内容
名称Manual Function Test(上肢機能検査)
開発機関東北大学鳴子分院・国立身体障害者リハセンター
発表時期1980年代後半
評価対象片麻痺者(主に脳卒中)
構成8課題・32サブテスト(最大32点)
所要時間約5〜10分
評価方式実際の動作を基準に採点するパフォーマンスベース方式
信頼性ICC>0.95、Cronbach’s α=0.95と高信頼性を示す

特徴まとめ

  • 短時間・高再現性:10分以内で実施可能。
  • 臨床的有用性:ADL動作(更衣・整容・摂食など)と高い相関を示す。
  • 段階的構成:近位(肩・肘)→末梢(手・指)へと発達段階を反映。
  • 標準化された器具(SOT-5000)により、施設間比較も容易。

MFTは、急性期・回復期・生活期のすべてで利用でき、特に回復過程の見える化に優れています。



対象と適応|どんな患者にMFTが有効か

MFTは、脳卒中後の上肢麻痺をもつ患者を中心に、多様な病期・疾患に対応できる汎用性の高い評価法です。

主な対象疾患

  • 脳卒中(脳出血・脳梗塞など)による片麻痺
  • 外傷性脳損傷・脊髄損傷などの上肢麻痺
  • 整形外科的疾患後の巧緻性評価
  • 高齢者の上肢機能低下やリハビリ効果の判定

評価に適した病期

  • 急性期:ベッドサイドでの簡易スクリーニングに有効。
  • 回復期:週単位での機能改善を定量化。
  • 生活期:在宅・通所リハでの維持確認に使用可能。

対応ステージ(Brunnstrom Stage)

ステージ機能レベルMFTの活用例
II〜III重度〜中等度近位動作の確認(FE/LE/PO/PD)
IV〜V中等度〜軽度手指課題(GR/PI/CC/PP)を中心に評価
VI軽度ADLレベルでの実用性確認

注意点

  • 強い疼痛や拘縮がある場合は無理に実施しない。
  • 指示理解が難しい失語・失行患者には、デモを併用する。
  • 両手評価では、健側の比較を記録に残すと経過把握に有用。

MFTは短時間で「今の上肢がどのレベルにあるか」を示せるため、チームカンファレンスや家族説明にも役立ちます。



実施方法|8つの課題と手順のポイント

MFTは8課題・32サブテストで構成され、近位・末梢の両方の運動機能を評価します。
専用器具を使用することで、施設間の再現性を確保できます。

使用器具

  • MFT専用キット(酒井医療SOT-5000)
     →立方体、ペグボード、コイン、針、ボール、角度計、ストップウォッチなど

実施手順

  1. 椅子座位(背もたれなし)で実施。
  2. 患側上肢を使い、検者の口頭指示に従って動作を行う。
  3. 各課題を3回まで試行。
  4. 達成した最高レベルに1点を付与。
  5. 8課題の合計点を算出(最大32点)。

8課題の概要

分類課題名内容
近位前方挙上(FE)肩屈曲角度を段階的に評価
近位側方挙上(LE)肩外転角度を評価
近位後頭部タッチ(PO)手が後頭部に届くかを確認
近位背部タッチ(PD)背部到達可否を評価
末梢握る(GR)ボールやコインを握る課題
末梢つまむ(PI)針などの微細物をつまむ
末梢立方体運搬(CC)指定距離への立方体移動
末梢ペグボード(PP)ペグを一定時間で挿入

注意事項

  • 代償動作(体幹傾斜・肩挙上)は最小限に抑える。
  • 疼痛・痙縮・疲労に注意し、必要に応じて休憩を挟む。
  • 安全確保と同時に、動作の質(速度・協調性)も観察する。


採点と解釈|MFTスコアの意味と読み方

MFTは8課題・32点満点で評価され、点数が高いほど上肢機能が良好と判断されます。

採点方法

  • 各課題は4段階(0〜4点)で評価。
  • できた課題の最高レベルを記録。
  • 総合点(0〜32点)を算出。

信頼性・妥当性

  • 評価者間信頼性(ICC=0.97)
  • 再検査信頼性(ICC=0.95)
  • 内的一貫性(Cronbach’s α=0.95)
  • FMA-UEやSIASとの高相関(r>0.8)

解釈の目安

得点範囲麻痺レベル動作例
0〜10点重度麻痺近位動作困難、ADL全介助
11〜20点中等度麻痺肩・肘可動あり、ADL一部自立
21〜32点軽度麻痺実用的動作が可能、ADL自立可能域

臨床での見方

  • 近位(FE〜PD)と末梢(GR〜PP)の差で訓練目標を立てる。
  • 得点推移を折れ線グラフ化すると回復カーブが見やすい。
  • “動作の質”と“代償動作”を合わせて記録すると、治療方針の検討に有効です。


カットオフ値|MFTにおける臨床判断の基準

MFTには公式なカットオフ値はありませんが、研究や臨床経験から以下の目安スコアが活用されています。

MFT得点機能レベル臨床的目安
0〜10点重度麻痺介助中心。自動運動は限定的。
11〜20点中等度麻痺実用動作が一部可能。ADLに部分介助が必要。
21〜32点軽度麻痺自主的動作が可能。ADL自立レベル。

研究的基準

  • 20点以上で「更衣・整容」動作の自立率が有意に高い。
  • FMA換算ではMFT25点=FMA上肢約60点に相当。
  • 軽度麻痺者では天井効果に注意が必要。

臨床活用のポイント

  • “変化量(ΔMFT)”に注目し、週ごとの改善を数値化。
  • 改善が停滞した場合は、介入内容の再検討を行う。


標準化・バージョン情報|MFTの規格と研究背景

標準化情報

  • MFT公式マニュアル(国立身体障害者リハセンター発行)に準拠。
  • 酒井医療(SOT-5000)製器具を使用。ペグ・立方体などのサイズが規定。

研究とエビデンス

  • Tohoku J Exp Med(2008):健常者参照値の年齢・性別影響を分析。
  • Am J Phys Med Rehabil(2009):信頼性・妥当性を国際的に検証。
  • 韓国語版MFT(2017):文化的翻訳・再現性評価。

MFT-S(Raschスコア版)

  • Rasch分析により等間隔化されたスコア。
  • 経時的評価や研究解析での統計的信頼性が高い。

使用上の注意

  • 各器具は規格外の代替物を使うと再現性が低下。
  • 評価記録には器具モデル名・測定条件を明記する。


臨床応用と活用事例|MFTの実践的使い方

1. 経時的モニタリング

  • 回復期では週1回測定し、改善曲線を確認。
  • グラフ化で回復プラトーを早期に把握できる。

2. 目標設定

  • 「近位動作から末梢巧緻へ」という回復プロセスに沿って計画。
  • MFTの課題をそのまま訓練課題として利用できる。

3. チーム連携

  • 医師・PT・OT・STが共通指標として使用し、情報共有が容易。
  • カンファレンスで回復レベルを視覚的に共有可能。

4. 教育・研究

  • 学生・新人OT教育の標準教材。
  • FMAやARATとの併用研究でも頻用される。

5. 在宅・生活期応用

  • 簡易版MFTで自宅訓練のモニタリングが可能。
  • 家族教育ツールとしても活用しやすい。


他検査との関連|FMA・ARATとの比較でみるMFTの位置づけ

検査名相関特徴活用目的
FMA-UEr=0.83障害構造を詳細に分析神経回復段階の把握
ARATr=0.79実用動作中心リハゴール設定
BBTr=0.68巧緻性重視手指訓練効果の判定
SIASr=0.82運動麻痺全体をカバー評価補完
BIr=0.65ADL全般自立度予測

まとめ

  • MFTは短時間で上肢全体の回復段階を把握できる。
  • FMAやARATと組み合わせることで、能力(capacity)と実行(performance)を包括的に評価できる。


デジタル・ICT対応|電子化とAI活用の可能性

電子カルテ連携

  • 各課題をチェックリスト化し、スコアを自動集計。
  • Excel・Googleスプレッドシートでグラフ化も容易。

ICT化の実例

  • 動作解析アプリで角度計測を自動化。
  • AIカメラが肩屈曲角度や手指動作をリアルタイム検出。

テレリハでの活用

  • オンラインリハで家庭用代替具を使用して簡易評価が可能。
  • 動画提出型の遠隔フォローにも対応できる。

今後の展望

  • MFT-SとAI評価の統合により、自動スコアリング化が進行。
  • ウェアラブルデバイスとの組み合わせで在宅計測も現実的に。

MFTは、今後デジタル技術と融合し、より正確で効率的な上肢評価法へ進化していくことが期待されます。



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