mRS(modified Rankin Scale)は、脳卒中リハビリテーションで最も広く用いられている機能的自立度評価法です。
簡便に実施できるうえ、国際的にも標準化されており、FIMやBarthel Indexとも高い相関を示す信頼性の高い指標です。
本記事では、mRSの評価方法・採点基準・臨床応用・ICT化の最新動向まで、リハビリ専門職向けにわかりやすく解説します。
基本情報:mRS(Modified Rankin Scale)の概要
mRS(Modified Rankin Scale、モディファイド・ランキン・スケール)は、脳卒中後の機能的自立度(活動能力・ADLの自立度)を簡便に評価できる国際的な指標です。
もともと1957年にRankinが発表したスケールを1988年に修正(modified)したもので、現在は世界中の脳卒中臨床試験・リハビリ研究で標準的に用いられています。
特徴:
- 評価対象:脳卒中を中心とした神経疾患患者
- 評価項目:全体的な日常生活自立度(Global disability)
- 評価方法:患者または家族への面接による7段階評価(0〜6)
- 評価時間:5〜15分程度で実施可能
- 特別な機器:不要(口頭面接で完結)
スケール構成(0〜6の定義)
| スコア | 判定名 | 判断基準(概要) |
|---|---|---|
| 0 | 症状なし | まったく症候や障害がない状態 |
| 1 | 障害なし | 症状はあるが日常生活・仕事に制限なし |
| 2 | 軽度障害 | 自立しているが以前の活動に一部制限あり |
| 3 | 中等度障害 | 何らかの介助が必要だが歩行は自立 |
| 4 | 中等度~重度障害 | 歩行や身辺動作に介助が必要 |
| 5 | 重度障害 | 寝たきり・失禁状態で常時介助が必要 |
| 6 | 死亡 | 致死的転帰 |
この定義は国際基準(AHA・NINDS)および日本語版ガイドラインの内容と一致しています。
mRSは「全体的な生活機能」を把握するうえで極めて有用な指標です。
対象と適応:脳卒中患者の機能的転帰評価に最適
mRSは**脳卒中全般(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血など)**の患者を主対象とします。
評価の焦点は、身体的な麻痺だけでなく、ADL・IADLを含む社会生活能力の総合的な自立度です。
適応例:
- 脳卒中後の急性期〜生活期リハビリ評価
- 医療・介護保険領域におけるADL経過追跡
- 臨床研究・治験(特に脳卒中転帰評価の主要アウトカムとして標準化)
- 退院判定・予後予測の参考指標
- 病院の臨床指標(クリニカルインディケーター)
非適応例:
- 意識障害や失語が極めて重度で本人回答が不可能な場合(ただし代理回答で代替可)
- 精神疾患などで日常生活能力が脳卒中以外の要因で強く制限されている場合
mRSは、脳卒中に限らずパーキンソン病、外傷性脳損傷、神経変性疾患などにも応用例がありますが、信頼性の担保には訓練された評価者による標準化が重要です。
実施方法:口頭面接による7段階評価
mRSの実施は非常にシンプルで、患者本人または家族・介護者に対して面接形式で行います。
評価者が質問を通じて、ADL・移動・介助の要否を総合的に判断します。
実施手順:
- 評価者が対象者または家族に対して、日常生活・移動・介護の状況を聴取。
- 標準質問票(Structured mRS Questionnaire:smRSq)または電話面接版を使用して確認。
- 得られた情報を基に、7段階(0〜6)のうち最も適切なスコアを決定。
- 評価者間のバラツキを防ぐため、構造化面接または教育プログラムを受けた評価者が望ましい。
評価時間:
- 簡易面接:約5分
- 構造化面接:約10〜15分
使用環境:
- 対面・電話・オンラインいずれも実施可能
- 特別な測定器具は不要
信頼性を高めるために、構造化面接(Structured mRS Interview)や音声記録によるチェックが推奨されています。
採点と解釈:全体的自立度の把握に有効
mRSは「0〜6点」の序数尺度です。
点数が高いほど障害が重度であり、機能的自立度が低下していることを示します。
評価結果の読み方:
- 0〜2:自立群(good outcome)
- 3〜5:非自立群(poor outcome)
- 6:死亡
この二分法(0–2 vs 3–6)は、臨床研究や治験での転帰評価として広く使用されています。
解釈のポイント:
- 点数の変化はADL全般の改善・悪化を反映。
- ただし粗い段階区分であるため、FIMなど詳細尺度と併用が望ましい。
- 長期追跡ではFIM・Barthel Indexとの組み合わせでより正確な機能変化を捉えられます。
カットオフ値:臨床では自立・非自立の境界で使用
臨床や研究において、mRSはしばしば以下のようにカットオフ値が設定されます。
| 分類 | mRSスコア | 機能的分類 | 意味 |
|---|---|---|---|
| 自立 | 0〜2 | 独歩・介助なしで生活可能 | 社会的自立を維持 |
| 要介助 | 3〜5 | 介助・監視を要する | 介護サービス依存度あり |
| 死亡 | 6 | 致死的転帰 | – |
これは臨床試験(例:NINDS、AHA Stroke Trial)などでも採用される基準で、脳卒中リハビリでは「退院時mRS ≤2を良好転帰」と定義することが一般的です。
標準化・バージョン情報:信頼性を高める工夫
mRSは評価者間のばらつきが生じやすいことが知られています。
そのため、信頼性を高めるための標準化が進められています。
主な改良・派生版:
- Structured mRS (smRSq):構造化質問票により客観性を向上
- Telephone mRS:電話面接でも高い一致率(κ≈0.8)
- Japanese version(日本語版mRS):篠原ほか(2007)によりガイドライン化
- e-mRS:電子化された入力フォーム・オンライン判定ツール
信頼性に関するポイント:
- 構造化面接によって評価者間一致率が大幅に改善(Quinn 2010, Wilson 2005)
- 教育プログラム受講者による評価でκ係数が向上
- 妥当性・反応性はいずれも中等度〜良好と報告
臨床応用と活用事例:病院評価にも応用可能
mRSは脳卒中リハビリだけでなく、医療の質評価にも応用されています。
臨床応用例:
- 入退院時のmRS変化による回復度の数値化
- 多職種カンファレンスでの予後予測指標
- 介入効果(理学療法・作業療法・言語療法)の定量的評価
- 病院クリニカルインディケーターへの応用
実際の活用事例:
岐阜県・松波総合病院では、脳卒中患者の「入院前→退院時のmRS変化率」を病院全体の臨床指標として公開。
これによりリハビリテーション医療の質を数値で可視化しています。
→ 松波総合病院 脳神経外科 指標ページ
mRSはこのように、患者の転帰評価と医療の質管理をつなぐ共通指標として活用されています。
他検査との関連:FIMやBarthel Indexとの相関
mRSは、FIM(Functional Independence Measure)やBarthel Indexと強い相関関係を示すことが報告されています。
主な知見:
- 入院時・退院時のmRSとFIM運動項目の合計点に強い相関(r=−0.80前後)
- FIMやBarthel Indexより粗いが、短時間で機能自立度を概観できる
- 重症度の把握よりも「転帰(outcome)」に適した指標
ただし、mRSは段階幅が広く、FIMのような細かなADL変化を捉えるには限界があります。
したがって、「mRS+FIM」または「mRS+BI」併用が望ましいとされています。
デジタル・ICT対応:オンライン評価への展開
近年はmRSのデジタル化・ICT対応も進んでいます。
主なトレンド:
- e-mRS(電子版mRS):Webフォームによる入力・自動スコア判定
- Tele-mRS:電話・ビデオ通話によるリモート評価(信頼性高)
- AI解析支援:音声認識で回答内容を自動分類・スコアリング
- 電子カルテ連携:mRSの経時変化をグラフ化・データベース化
これらの仕組みにより、在宅・遠隔リハビリや地域連携パスでの継続評価が可能になりつつあります。
デジタルツールは、リハビリの質を見える化する次世代の臨床支援として注目されています。
まとめ
- mRSは世界的に使用される脳卒中機能転帰の標準指標。
- 評価は簡便かつ国際比較可能。
- 構造化面接で信頼性向上、電子化で臨床応用が拡大中。
- FIM・BIとの併用により、リハビリ介入の成果をより多角的に捉えられる。