嚥下障害の早期発見や誤嚥性肺炎の予防に欠かせないのが「改訂水飲みテスト(Modified Water Swallow Test:MWST)」です。
3mLの水を用いて嚥下反射や誤嚥の有無を安全に評価できるシンプルな検査で、病院や在宅医療の現場で広く実施されています。
本記事では、MWSTの正しい手順、採点基準、臨床応用、ICT化の最新動向までをセラピスト向けに詳しく解説します。
改訂水飲みテスト(MWST)の基本情報
改訂水飲みテスト(MWST)は、1980年代に報告された水飲みテスト(Water Swallow Test:WST)を安全に改良した嚥下スクリーニング検査です。
従来のWSTでは30mLの水を一気に飲ませて評価していましたが、高齢者や脳血管障害患者では誤嚥の危険が高く、安全性に課題がありました。
1990年代後半、日本の研究班(藤島一郎ら)により改訂版が提案され、2003年のToharaらによる研究で感度・特異度などの妥当性が報告されました。
以後、MWSTは日本摂食・嚥下リハビリテーション学会で推奨される非造影スクリーニングの一つとして定着しています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 検査名 | 改訂水飲みテスト(MWST) |
| 使用水量 | 3mL(冷水) |
| 検査目的 | 嚥下反射と誤嚥リスクの評価 |
| 実施時間 | 約1〜2分 |
| 実施者 | 医師、ST、OT、PT、看護師など |
| 評価項目 | 嚥下反射、咳反射、呼吸変化、声質変化 |
特徴:
- 特別な機器を用いずベッドサイドで実施可能。
- 嚥下障害の早期発見や経口摂取再開の判断に有用。
- 非侵襲的かつ短時間で安全に評価できる。
対象と適応:安全に評価できる患者とは
MWSTは、嚥下機能低下が疑われる患者に対して広く用いられます。特に次のような対象に適しています。
適応対象の例
- 脳血管障害やパーキンソン病など中枢性疾患患者
- 高齢者や誤嚥性肺炎既往者
- 摂食嚥下リハビリ導入前の評価が必要な方
- 経口摂取再開を検討している入院・在宅患者
実施前の条件
- 意識が清明で、検査指示を理解できること
- 座位または30〜60度の半座位が保てること
- 呼吸状態が安定していること
禁忌・注意点
- 強い意識障害、重度呼吸不全、気管切開直後などは避ける。
- 誤嚥の既往が多い場合は、まずRSSTなどでリスク確認を行う。
MWSTは「診断」ではなく、あくまで「スクリーニング」です。異常が見られた場合は、嚥下造影(VF)や嚥下内視鏡(VE)による精査が推奨されます。
実施方法:3mLの水で安全に評価する手順
MWSTの手技は簡便ですが、安全性を確保するための正確な手順が重要です。
標準的な実施手順
- 被検者を安定した座位または半座位(30〜60度)に設定。
- 意識状態と呼吸の安定を確認。
- スプーンまたはシリンジで冷水3mLを口腔前方に注ぐ。
- 「ごっくんと飲み込んでください」と指示。
- 嚥下動作を観察し、咳・嗄声・呼吸変化をチェック。
- 嚥下後30秒以内に2回の空嚥下があればスコア5と判定。
観察ポイント
- 嚥下反射の有無・遅延
- 咳反射(有無とタイミング)
- 呼吸状態の変化
- 嗄声(濁声)の有無
安全管理の注意点
- 急いで飲ませず、頭頸部の角度を適切に保つ。
- 必ず吸引器を準備し、誤嚥時の対応を即時行える体制にする。
- 実施後は咳や湿性嗄声の遅発反応も確認する。
この手法により、嚥下反射の有無だけでなく、嚥下の協調性・安全性・呼吸連携の崩れも総合的に判断できます。
採点と解釈:5段階スコアによる評価基準
MWSTは5段階でスコア化され、嚥下の安全性を簡潔に判定できます。
| スコア | 判定 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| 1 | 嚥下不能 | 水が口腔内に残留、嚥下動作なし |
| 2 | 嚥下できるが咳反射あり | 明らかな誤嚥の疑い |
| 3 | 嚥下できるが湿性嗄声あり | 軽度誤嚥の可能性 |
| 4 | 嚥下後に呼吸変化あるがむせなし | 軽度障害またはリスク境界 |
| 5 | 嚥下後30秒以内に空嚥下2回あり | 正常嚥下と判断 |
カットオフ値:
3点以下 → 嚥下障害または誤嚥リスクが高い
4点以上 → 経口摂取可能性が高い(臨床判断を要す)
報告されている精度(目安):
- 感度:約55〜70%
- 特異度:約80〜88%
(Tohara et al., 2003 ほか複数研究)
解釈のコツ
- スコア3以下はVFやVEによる精査を検討。
- スコア4は慎重な段階的摂食訓練を行う。
- スコア5でも油断せず、嚥下環境・体調変化を観察する。
標準化と改訂版:信頼性を支える日本発の検査
MWSTは1990年代後半に開発され、2003年に信頼性と妥当性が報告されました。以降、**RSST(反復唾液嚥下テスト)やFT(フードテスト)**と並び、非造影3検査として標準化されています。
派生・改訂バリエーション
- 簡易MWST(sMWST):1mL水を用いる重症例向け手法。
- 段階的MWST:3→5→10mLと水量を増やして安全域を評価。
- VE併用MWST:嚥下内視鏡下で反射や誤嚥を観察。
学会での位置づけ
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会ガイドライン(2018)では、MWSTは「嚥下障害のスクリーニングに有用」とされ、推奨度は2C(条件付き推奨)です。
医師・STだけでなく、OTや看護職も共通言語で用いる検査として普及しています。
臨床応用:現場での活用シーン
MWSTは病院、老健、在宅、訪問リハなど多職種連携の現場で広く使われています。
主な活用場面
- リハビリ開始前の嚥下安全性確認
- 経口摂取再開の判断材料
- 嚥下訓練やポジショニング効果の評価
- 誤嚥性肺炎予防の経過観察
臨床例
- 脳卒中後患者にMWSTを実施し、安全嚥下を確認後に嚥下訓練へ移行。
- 在宅高齢者でスコア3を確認し、VEで誤嚥を可視化・食形態調整。
MWSTは単独で診断する検査ではありませんが、**「リスク発見と介入への橋渡し」**という役割を担います。リハ職にとって、介入初期に不可欠なスクリーニングです。
他検査との関連:併用で精度を高める
MWSTは他のスクリーニング検査や画像評価と組み合わせることで、診断精度が高まります。
| 検査名 | 主な評価項目 | 特徴 |
|---|---|---|
| RSST | 30秒間の唾液嚥下回数(3回未満で異常) | 非侵襲・簡便・反射性確認に有効 |
| FT(食物テスト) | ゼリーなどを用いて実際の嚥下を観察 | 経口摂取段階の確認に有効 |
| VE(嚥下内視鏡検査) | 咽頭・喉頭を直接観察 | 誤嚥の有無を可視化できる |
| VF(嚥下造影検査) | 嚥下動態をX線で撮影 | 評価のゴールドスタンダード |
このように、MWSTはRSSTやFTの前段階または併用により、段階的評価体系を構築することができます。
デジタル・ICT対応:記録と共有の効率化
近年は、嚥下評価の記録や共有にICTが活用されています。
MWSTでの主なデジタル活用例
- タブレットアプリによるスコア入力・自動集計
- 電子カルテとの連携で経過データを可視化
- 遠隔評価システム(ビデオ通話+MWST)による在宅支援
- 研究レベルでは、音声解析や頸部動態のAI解析が試行段階
これらの取り組みにより、嚥下リスクの早期検出とチーム内共有が容易になりつつあります。今後はウェアラブルセンサーやAI解析の進歩によって、MWSTを含む嚥下評価のデジタル化が一層進むと期待されます。