終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)は、睡眠時無呼吸症候群(SAS)をはじめとする睡眠障害の診断に用いられる精密検査です。
脳波や呼吸、酸素飽和度などを多角的に測定し、睡眠の質や呼吸状態を客観的に評価できます。
リハビリテーション分野においても、睡眠の質は日中の活動性や回復力に大きく影響するため、セラピストにとってPSGの理解は欠かせません。
本記事では、PSGの目的・測定項目・評価方法・カットオフ基準から、臨床応用やデジタル技術との連携までをわかりやすく解説します。
基本情報:終夜睡眠ポリグラフ検査(PSG)とは
終夜睡眠ポリグラフ検査(Polysomnography:PSG)は、睡眠中の脳波・呼吸・酸素飽和度などを同時に記録し、睡眠の質と呼吸状態を解析する精密検査です。
自宅で行う簡易検査(在宅型簡易睡眠検査、HSAT)で異常が見られた場合に実施され、睡眠時無呼吸症候群(SAS)や周期性四肢運動障害(PLMD)などの診断に用いられます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 検査名 | 終夜睡眠ポリグラフ検査(Polysomnography:PSG) |
| 検査分類 | 睡眠生理学的検査(TypeⅠ:入院・終夜記録) |
| 主な測定項目 | 脳波、眼球運動、顎筋電図、心電図、呼吸努力、気流、いびき、血中酸素飽和度、脚筋電図など |
| 実施場所 | 睡眠センターまたは入院病棟(1泊が標準) |
| 検査時間 | 約6〜8時間(18:00〜翌6:00など) |
| 保険適用 | あり(費用は施設・負担割合により変動) |
この検査は、睡眠の深さや質、無呼吸や低呼吸の頻度を客観的に捉えるための「ゴールドスタンダード」とされています。
対象と適応:どのような人に必要な検査か
PSGは、以下のような睡眠関連疾患が疑われる方を対象に実施されます。
主な適応疾患
- 睡眠時無呼吸症候群(OSA:閉塞性・中枢性・混合性)
- 周期性四肢運動障害(PLMD)
- レストレスレッグス症候群(RLS)
- ナルコレプシー、特発性過眠症
- 睡眠中異常行動(REM睡眠行動障害など)
実施の目安
- 睡眠中に「いびき」や「呼吸停止」が指摘されている
- 日中の強い眠気や倦怠感が続く
- 高血圧や心疾患を併発している
- 簡易検査でAHI(無呼吸低呼吸指数)が高値だった
作業療法士や理学療法士が関わる場合、睡眠の質が日中の活動性・リハビリ参加度・疲労回復に大きく影響することを理解しておくことが重要です。
実施方法:検査の流れと測定項目
検査は主に病院や睡眠センターで一泊して行われます。
装着されるセンサーは多岐にわたり、非侵襲的に睡眠中の生理指標を連続記録します。
主な装着部位と記録項目
| 装着部位 | 測定内容 |
|---|---|
| 頭部 | 脳波(EEG)による睡眠段階解析 |
| 眼の周囲 | 眼球運動(EOG) |
| 顎 | 筋電図(EMG) |
| 胸・腹部 | 呼吸努力(リブ・ベルトセンサー) |
| 鼻・口 | 呼吸気流(サーミスタ・圧センサー) |
| 指先 | 血中酸素飽和度(SpO₂) |
| 下肢 | 下肢筋電図による運動検出 |
| 喉・胸部 | いびき音、心電図(ECG) |
当日の流れ
- 夕方に来院し、技師によるセンサー装着
- 消灯後、終夜にわたり自動記録
- 翌朝に取り外し、解析データを作成
- 数日〜数週間後に医師より結果説明
採点と解釈:睡眠構造と呼吸イベントの分析
PSGのデータは、**30秒単位(エポック)**で解析されます。
主に以下の指標が用いられます。
- 睡眠段階構成
- N1(浅睡眠):約5%
- N2(中等度睡眠):約50%
- N3(深睡眠):約20%
- REM睡眠:約20〜25%
→ これにより睡眠の深さと周期構造(約90分周期)が評価されます。
- AHI(無呼吸低呼吸指数)
睡眠1時間あたりの無呼吸・低呼吸の回数。- 軽症:5〜15回
- 中等症:15〜30回
- 重症:30回以上
- SpO₂(酸素飽和度)とODI(酸素低下指数)
呼吸イベントによる酸素低下の程度を確認。 - Arousal Index(覚醒反応指数)
呼吸やいびきにより断続的に覚醒する頻度を数値化。
これらのデータを組み合わせ、睡眠の質と呼吸障害の重症度を総合的に判定します。
カットオフ値:重症度の基準と臨床判断
| 指標 | 軽症 | 中等症 | 重症 |
|---|---|---|---|
| 無呼吸低呼吸指数(AHI) | 5〜15回/時 | 15〜30回/時 | 30回/時以上 |
| 酸素飽和度(最低SpO₂) | 90%以上 | 80〜89% | 80%未満 |
| 覚醒反応指数(Arousal Index) | <10 | 10〜30 | >30 |
これらの基準はAASM(米国睡眠医学会)ガイドラインに基づきます。
臨床ではAHIやSpO₂に加えて、患者の症状(眠気、疲労感、血圧変動など)を総合的に評価して重症度を判断します。
標準化・バージョン情報:国内外の基準と手順
- AASMスコアリングルール(最新版:2023)
睡眠段階の判定と呼吸イベント定義を統一。 - 日本睡眠学会ガイドライン(2020)
国内での診断・治療基準を明示。 - 検査タイプ分類(AASM)
- TypeⅠ:入院PSG(脳波を含む多チャネル)
- TypeⅡ:自宅PSG(技師サポートあり)
- TypeⅢ〜Ⅳ:簡易型在宅検査
これらの標準化により、施設間のデータ比較や研究での再現性が高まっています。
臨床応用と活用事例:リハビリ領域での意義
PSGの結果は、単に睡眠障害の診断だけでなく、リハビリ領域にも活かせます。
応用の例
- 睡眠障害による日中の活動量低下・集中力低下の改善計画
- 睡眠の質改善による運動耐容能・疲労回復の向上
- CPAP療法導入前後の評価による生活機能の変化分析
- 介護予防・生活リズム介入(生活行動リハ)への応用
睡眠の質は「覚醒時の活動性」と密接に関連し、作業療法士・理学療法士が包括的に生活機能を支えるうえで重要な指標となります。
他検査との関連:簡易検査やアクチグラフィとの違い
| 検査名 | 特徴 | 利点 | 限界 |
|---|---|---|---|
| 終夜睡眠ポリグラフ(PSG) | 脳波・呼吸・筋電図など多項目測定 | 詳細かつ確定診断可能 | 機器装着・医療機関での実施が必要 |
| 簡易睡眠検査(HSAT) | 在宅で呼吸とSpO₂中心に測定 | 手軽で費用が低い | 睡眠段階の解析ができない |
| アクチグラフィ | 手首装着型で活動量から睡眠推定 | 長期間のモニタリングに有用 | 正確な睡眠段階や呼吸異常は不明 |
特にアクチグラフィやスマートウォッチ系デバイスは参考値であり、診断目的ではPSGが必要です。
デジタル・ICT対応:最新技術による進化
近年、AIとウェアラブル技術の進歩により、PSG解析の自動化・在宅化が進んでいます。
最新動向
- AIによる睡眠段階スコアリングの自動判定精度向上
- クラウド型PSG解析システムによる遠隔診断
- スマートウォッチやベッドセンサーによる長期モニタリング研究
- CPAPデバイスのデータ連携による「治療中の睡眠質」フィードバック
今後は「在宅でも医療水準に近い解析が可能」になると期待されています。
ただし、現時点では臨床診断は医師によるPSG解析が必須であり、セラピストはその結果をリハ介入計画に活かす立場となります。