手指の巧緻性や両手の協調動作を客観的に測る「パーデュー・ペグボード・テスト(Purdue Pegboard Test)」は、作業療法やリハビリ現場で広く使われている定番の評価法です。
1948年にパーデュー大学のティフィン博士によって開発されたこの検査は、産業心理学の職業適性テストとして生まれ、現在では脳卒中後の上肢機能評価や復職支援、巧緻性訓練の効果判定などにも応用されています。
本記事では、PPTの基本情報・対象と適応・実施手順・採点方法・平均値・臨床応用まで、リハビリ専門職に必要なポイントをわかりやすく解説します。
基本情報(パーデュー・ペグボード・テストの概要)
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 正式名称 | パーデュー・ペグボード・テスト(Purdue Pegboard Test) |
| 開発者 | Joseph Tiffin(ジョセフ・ティフィン)博士 |
| 開発年 | 1948年 |
| 開発機関 | パーデュー大学(Purdue University)工業心理学部門 |
| 主な目的 | 手指の巧緻性・両手協調性・作業速度の評価 |
| 構成要素 | ピン・ワッシャー・カラー・ペグボード・ストップウォッチ |
| 検査時間 | 約10〜15分(全4サブテスト) |
| 構成サブテスト | ①右手、②左手、③両手、④アセンブリー(組立課題) |
本テストは、当初は工場作業員の職業適性を評価する目的で開発されましたが、現在は上肢巧緻性や神経心理機能の評価としても活用されています。
臨床・産業双方で長い歴史を持ち、Lafayette Instrument社が現在も公式版を提供しています。
対象と適応(リハビリ領域での使用目的)
PPTは、単に「器用さ」を見る検査ではなく、上肢機能・協調動作・作業スピードの複合的な能力を定量化するツールです。
特に以下のような対象者に適応します。
主な適応例
- 脳卒中後の上肢巧緻性障害
- 末梢神経損傷や手外科術後の巧緻性評価
- パーキンソン病や脊髄小脳変性症など協調運動障害
- 就労前評価・復職支援時の作業適性測定
- 高齢者の上肢動作速度・巧緻性の経時変化測定
リハビリでの意義
- OTが巧緻動作訓練の前後で定量的変化を捉えるために有用。
- 両手協調動作を要するADL(着衣・調理・書字など)の基礎評価に用いられる。
- 作業復帰支援においては、作業速度・集中力・疲労耐性の指標として活用可能。
PPTは客観的・再現性の高い検査であり、身体機能だけでなく作業遂行能力の把握にもつながります。
実施方法(標準手順と注意点)
パーデュー・ペグボード・テストは、以下の4つのサブテストで構成されています。
すべて着座姿勢で、ボードを被験者の正面に置いて実施します。
1. 右手課題
- 右手のみを使用し、右側の穴にピンを30秒間できるだけ多く差し込みます。
- 落としたピンは拾わず続行します。
- スコア:差し込めたピンの本数。
2. 左手課題
- 左手のみで左側の穴にピンを差し込みます。
- 右手課題と同様に30秒で実施。
- スコア:左手で差したピンの本数。
3. 両手課題
- 両手を同時に使用し、左右の列にペアでピンを挿入。
- 制限時間は30秒。
- スコア:差し込めたピンのペア数。
4. アセンブリー課題
- 「ピン → ワッシャー → カラー → ワッシャー」の順で1組を作成。
- 両手を常に動かし続けるのがポイント。
- 制限時間:60秒。
- スコア:完成したアセンブリー数(1組4点として算出)。
注意点
- 検者は必ず手順説明とデモンストレーションを行う。
- 練習試行を2〜3回行い、手順を理解してから本試験へ。
- 利き手障害時は健側から開始。
- 集中できる静かな環境を整える。
採点と解釈(スコアの意味と読み取り)
| サブテスト | 測定内容 | スコア算出方法 |
|---|---|---|
| 右手 | 片手の巧緻性・速度 | ピン数(30秒) |
| 左手 | 非利き手の巧緻性 | ピン数(30秒) |
| 両手 | 両手協調能力 | ピンのペア数(30秒) |
| 右+左+両手 | 総合動作能力 | 各スコアの合計 |
| アセンブリー | 複合操作・協調作業 | 完成部品×4点(60秒) |
解釈のポイントとしては、
- 各サブテスト間の差が大きい場合、一側の巧緻性や協調性の低下が疑われます。
- 右+左+両手の合計スコアは、全体的な作業速度と持久性の指標。
- アセンブリー課題では、注意配分・段取り・両手協調の総合的な遂行能力が反映されます。
カットオフ値(正常・異常の目安)
PPTには一律のカットオフ値は設定されていません。
その代わり、対象群ごとの平均値や標準偏差をもとに比較します。
以下はLafayette社マニュアル(Appendix A)に基づく職業別平均値の一例です。
| 職業 | 右手 | 左手 | 両手 | 合計 | アセンブリー |
|---|---|---|---|---|---|
| 一般工場作業員 | 17.1 | 16.0 | 13.8 | 46.8 | 39.3 |
| 組立作業者 | 17.9 | 16.8 | 14.1 | 48.8 | 40.6 |
| 電子製品製造女性 | 18.5 | 16.8 | 14.5 | 49.8 | 43.7 |
| サービス職男性 | 15.5 | 15.3 | 12.3 | 43.0 | 38.7 |
| ミシン操作女性(3回合計) | 55.2 | 51.8 | 44.0 | 151.1 | 133.4 |
リハビリ臨床では、年齢・性別ごとの日本語版規準値(例:成人健常群平均右手17〜19本程度)を参照して評価します。
標準化とバージョン情報(信頼性とエビデンス)
- 開発年:1948年(Tiffin & Asher, Purdue University)
- 最新版:Lafayette Instrument社「Model 32020A」
- 信頼性:再検査信頼度 r = .82〜.91(各サブテスト間)
- 妥当性:Fine motor skillテスト、Grooved Pegboard、9-Hole Peg Testなどとの高い相関(r = .70前後)
- 言語版:英語原版のほか、日本語訳版マニュアルも複数機関で使用。
- 実施年齢範囲:5歳〜高齢者まで幅広く使用可能。
PPTは70年以上にわたり使用されており、臨床心理・作業療法・職業リハビリテーション領域で国際的に標準化された巧緻性評価法です。
臨床応用と活用事例(リハでの使い方)
リハビリ領域では、以下のような場面でPPTが活用されています。
活用例
- 脳卒中片麻痺患者の上肢訓練効果の評価
- 作業前後の巧緻性比較による訓練効果測定
- 認知症高齢者におけるADL遂行速度の評価
- 職業復帰支援での作業模擬評価
- 運転再開・就労可否の判断材料
研究・臨床報告の例
- 手指巧緻性訓練(例:ボードゲーム・日常作業)との前後比較でスコア改善が明確に示される。
- 作業療法士が上肢訓練や復職評価の指標として活用することで、客観的なゴール設定と説明責任を果たしやすい。
他検査との関連(補完的に使う評価)
| 関連検査 | 測定目的 | 組み合わせの意義 |
|---|---|---|
| 9-Hole Peg Test(9HPT) | 単一手指の精密動作 | 単手巧緻性の精密評価 |
| Grooved Pegboard Test | 認知要素を含む巧緻性 | 認知・視覚運動協調の要素比較 |
| Box and Block Test(BBT) | 粗大巧緻性 | 上肢粗大動作の速度評価 |
| Jebsen-Taylor Hand Function Test(JHFT) | 日常動作模擬課題 | ADLに近い巧緻性の実用評価 |
PPTはスピード重視の定量評価に優れ、他検査と組み合わせることで、上肢動作全体の多面的評価が可能になります。
デジタル・ICT対応(最新動向)
近年、PPTをデジタル化した研究や製品も増えています。
主なトレンドは以下の通りです。
- 電子ペグボード(e-PPT):センサー内蔵で挿入数・タイミングを自動記録。
- VR版ペグボードテスト:上肢運動と視覚フィードバックを同時評価。
- AI解析ツール:動画認識により指の軌跡や速度を自動算出。
- クラウド連携型リハ記録:評価データを電子カルテやアプリと同期。
作業療法の現場では、こうしたICT化によってデータの客観性・経時的モニタリング・リモート評価が容易になっています。
従来のアナログPPTと組み合わせることで、より高精度な巧緻性評価とリハ計画立案が可能です。
まとめ
- パーデュー・ペグボード・テストは1948年に開発された巧緻性評価の定番。
- 右手・左手・両手・アセンブリーの4課題で構成。
- 職業リハから神経リハまで幅広く応用可能。
- 現在ではデジタル版・AI解析版も登場し、作業療法のICT化にも適しています。