リバーミード行動記憶検査(RBMT)完全ガイド|記憶障害の評価・採点・カットオフ・臨床活用まで解説

リバーミード行動記憶検査(RBMT)は、記憶障害を行動レベルで評価できる高次脳機能検査として、作業療法やリハビリ現場で広く活用されています。
日常生活に即した課題構成により、従来の記憶検査では見落とされがちな「生活の中での記憶力」を明確に把握できるのが特徴です。
本記事では、RBMTの実施方法、採点基準、カットオフ値、そして臨床での活用例までを詳しく解説します。



RBMTの概要と特徴

リバーミード行動記憶検査(Rivermead Behavioural Memory Test:RBMT)は、1985年にWilson、Cockburn、Baddeleyらによって英国ケンブリッジ大学で開発されました。
「日常生活における記憶機能をどの程度発揮できるか」を測定することを目的とした**生態学的記憶検査(ecological memory test)**です。

主な特徴は以下の通りです。

  • 日常生活に近い課題(名前、約束、持ち物、道順など)で構成。
  • 記憶障害の重症度を行動レベルで把握できる。
  • 並行版があり、練習効果を最小限にできる。
  • 高次脳機能障害リハビリテーションの標準検査として多くの施設で採用。

現在は**RBMT-3(第3版)**が主に用いられ、日本版では2023年に増補版も登場しています。



対象と適応:どんな対象者に有効か

RBMTは、高次脳機能障害をもつ成人を主な対象としています。特に以下のような症例に適応します。

  • 脳卒中や外傷性脳損傷後の記憶障害の評価
  • 認知症初期段階における生活記憶の保持能力の確認
  • 復職・復学可否の判断(日常生活での記憶保持能力をみる)
  • リハビリ経過中の記憶訓練効果のモニタリング

RBMTはIQや言語能力に過度に依存しないため、幅広い層の認知評価に適しています。
また、臨床だけでなく地域リハビリや自動車運転再開支援など、実生活評価にも応用されています。



実施方法:日常場面を模した10〜14の課題構成

RBMT-3では、以下の14項目の課題で構成されています(初版では12項目)。

分類検査項目内容概要
1名前の記憶顔写真と名前を記憶し、時間をおいて再生。
2持ち物の記憶被験者の持ち物を預かり、後で返却を思い出す。
3約束の記憶検査冒頭に約束を設定し、20分後に想起。
4絵の記憶絵を見て、後に内容を再認。
5物語(直後・遅延)短いストーリーを聞き、直後と遅延で再生。
6顔写真の記憶複数の顔を見て、後で正しい顔を再認。
7道順(直後・遅延)室内で示された経路を再現。
8用件(直後・遅延)他の課題中に依頼事項を思い出して実行。
9見当識日付、場所、人物に関する質問。
10〜14Novel Taskなど新課題による補足評価(RBMT-3特有)。

検査は約25〜30分で実施でき、2種類の並行版(Version 1/2)が用意されており、再検査にも適しています。



採点と解釈:GMIによる重症度分類

RBMT-3では、従来の「スクリーニング点(SS)」や「標準プロフィール点(SPS)」に加えて、**GMI(General Memory Index)**を算出します。

指標満点内容
スクリーニング点(SS)12点全体的な記憶障害をスクリーニング。
標準プロフィール点(SPS)24点日常生活における記憶障害の程度を把握。
一般記憶指数(GMI)平均100(SD15)RBMT-3で導入された指標。総合的な記憶能力を評価。

GMIの解釈(RBMT-3標準)

  • 85以上:正常範囲
  • 70〜84:軽度低下
  • 69以下:中等度〜重度障害

日本版RBMT-IIまではSSおよびSPSで評価されていましたが、現在はGMIによる標準化が主流です。



カットオフ値:GMIおよびSPSの基準

RBMT-3では、GMIによるカットオフが推奨されます。
以下は代表的な基準です。

評価区分指標解釈
GMI ≤69中等度〜重度記憶障害日常生活に著しい支障。
GMI 70〜84軽度記憶障害補助具の利用で自立可能。
GMI ≥85正常範囲日常記憶の低下なし。

参考として、日本語版RBMT-IIでは以下の年齢別SPSカットオフ値が用いられていました。
(一次資料未公開のため、臨床現場の慣習値として紹介)

年齢SSカットオフSPSカットオフ
39歳以下7/819/20
40〜59歳7/816/17
60歳以上5/615/16


標準化・バージョン情報:RBMT-3の特徴と改訂点

RBMTは以下のように改訂を重ねています。

発表年主な特徴
初版1985年12課題構成、A〜Dの4並行形。
RBMT-II1999年一部課題の改訂、標準化サンプル拡充。
RBMT-32008年14課題構成、2並行版、GMI導入。
日本版RBMT増補版2023年解説・臨床運用ガイドを追加(初版準拠)。

日本では主にPearson社が管理し、臨床・研究双方で活用されています。
再検査信頼性、構成妥当性ともに高く、心理検査として学会でも推奨されています。



臨床応用と活用事例:日常記憶リハの設計に

RBMTは、単なる検査にとどまらず、リハビリ介入設計の出発点として重視されます。
具体的な応用例は以下の通りです。

  • 高次脳機能障害リハビリ:記憶リハ(メモリノート、外的補助具活用)の評価指標。
  • 認知症初期評価:MMSEやHDS-Rで見落としがちな生活記憶障害を補う。
  • 自動車運転再開支援:空間記憶・見当識の安全性確認。
  • 復職支援:作業記憶・順序記憶を伴う業務復帰判断に活用。
  • 研究活用:脳機能イメージング研究(fMRI)などとの併用で記憶ネットワークを解析。


他検査との関連:補完的な記憶評価との比較

RBMTは「行動記憶」を重視するため、他の検査とは異なる視点で評価できます。

分類検査名主な評価対象RBMTとの関係
言語性記憶三宅式記銘力検査言語記憶(聴覚)RBMTは非言語・動作面を含み補完的。
視覚記憶WMS(Wechsler Memory Scale)短期・長期記憶RBMTは日常動作での再生力をみる。
遂行機能FAB、TMT前頭葉機能記憶障害と遂行機能障害の鑑別に併用。
全般HDS-R、MMSE認知全般RBMTはより具体的な「行動記憶」を評価。

これらを組み合わせることで、より多面的な認知機能像を描くことができます。



デジタル・ICT対応:タブレット版・AI解析の進化

近年は、RBMTをデジタル化する試みも進んでいます。
国内外では以下のような動向があります。

  • タブレット版RBMTプロトタイプ:課題提示と反応記録を自動化。
  • AI画像解析による経路再現評価:動作軌跡から空間記憶の定量化。
  • クラウド記録システム:結果を電子カルテと連携し、経時的変化を可視化。
  • VR環境下の記憶課題:生活環境に近い仮想空間で道順課題を再現。

これにより、セラピストは再現性・客観性の高い記憶評価を行えるようになっています。
今後はRBMTをベースにしたAI記憶リハ支援プログラムの開発も期待されています。



まとめ

リバーミード行動記憶検査(RBMT)は、日常生活記憶を生態学的に評価できる代表的検査です。
RBMT-3ではGMI導入により、より精緻な記憶障害評価が可能となりました。
臨床現場では、記憶リハビリの方針決定や経過モニタリングに欠かせない検査の一つです。


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