REHAB(精神科リハビリテーション行動評価尺度)とは?作業療法士が押さえるべき評価項目と臨床活用法

精神科リハビリテーションにおける行動評価の定番ツール「REHAB」。
本記事では、REHAB(Rehabilitation Evaluation of Hall and Baker)の構成・採点方法・臨床での活用事例をわかりやすく解説します。
作業療法士や精神科スタッフが評価精度を高めるために知っておきたい、信頼性・妥当性・他検査との違いまで詳しく紹介します。



基本情報:REHABの概要と開発背景

REHAB(Rehabilitation Evaluation of Hall and Baker)は、1983年にBakerとHallらによって開発された精神障害者の行動を多面的に評価する尺度です。
入院やデイケア、グループホームなど、1週間以上にわたり観察が可能な環境であれば幅広く使用できます。

REHABの目的

  • 対象者の社会的行動・生活能力の全体像を把握する
  • 問題行動やリハビリ上の課題を明確化する
  • 治療・介入効果のモニタリング(変化の検出)
  • 地域移行や自立生活の可能性を検討する

開発・翻訳の経緯

  • 原著:Baker, R., Hall, J.N. (1983). Rehabilitation Evaluation: Hall & Baker (REHAB)
  • 評価目的:精神障害者の社会適応度・行動面を定量化
  • 日本語版:1990年代に三輪書店より紹介。大学・病院・デイケアで活用実績あり。

REHABは、「直近1週間の観察」に基づくため、短期入院やデイケア利用者にも有用とされています。
このため、精神科作業療法・地域リハ・就労支援領域まで汎用性が高い評価法です。



対象と適応:どのような人に使えるか?

REHABは特定の年齢層に限定されず、慢性期から回復期・地域移行期の精神障害者まで幅広く適応できます。

対象者の例

  • 統合失調症、気分障害、パーソナリティ障害などの長期入院者
  • 精神科デイケア・就労支援・グループホーム利用者
  • 精神科リハビリテーション病棟・地域生活支援施設の利用者

適応の特徴

  • 1週間以上観察できる環境(病棟・デイケア・グループホームなど)であれば実施可能
  • 観察者は看護師・作業療法士・精神保健福祉士など多職種で可
  • 言語的理解が難しい対象にも適用可能(観察中心の評価)

かつては「65歳以下で長期入院中の患者」を中心に使用されていましたが、現在では高齢精神障害者や短期利用者にも有効とされています。
これは、高齢者集団やデイケア利用者を対象とした研究でも、信頼性と妥当性が確認されているためです。



実施方法:REHABの進め方と観察手順

REHABは観察評価型の検査であり、質問紙や面接を用いず、1週間の行動観察に基づいて記録します。

評価者

  • 対象者の日常的行動をよく知るスタッフ(OT、看護師、PSWなど)
  • チームでの合議によるスコアリングも可能

評価手順

  1. 対象者の行動を1週間観察
  2. 23項目(逸脱行動7項目、全般的行動16項目)について記録
  3. 各項目を尺度に従って評定
  4. 必要に応じて複数回の測定を行い、変化を追跡

実施時間

  • 約20〜30分で完了(単独評価の場合)
  • チームカンファレンス形式で行う場合は約1時間

注意点

  • 評価期間は直近1週間に限定すること
  • 評価者間の基準合わせ(信頼性確保)が重要
  • 単一観察者ではなく、複数職種による共有が望ましい


採点と解釈:スコアの見方と意味

REHABは以下の2領域で構成されます。

項目区分項目数評価方法内容概要
逸脱行動(Deviant Behavior)7項目3段階(0〜2点)問題行動や情緒不安定、規律違反など
全般的行動(General Behaviour)16項目10段階(1〜10点の線上評定)自立生活能力・社会的行動・対人関係など

採点の基本

  • 得点が高いほど問題が重い(行動の障害が強い)
  • 総得点は全体的な機能レベルを示す
  • DBとGBの合計・個別傾向を分析

解釈のポイント

  • 高スコア=支援依存度が高い、地域生活困難
  • 低スコア=自立度が高い、社会適応が良好
  • 繰り返し評価により、治療経過や介入効果を可視化可能

Bakerら(1988)により、「REHABは変化を検出する感度が高い」と報告されており、リハ効果測定にも有効とされています。



カットオフ値:判断基準と臨床的目安

REHABは絶対的な「カットオフ値」は定められていませんが、臨床的な活用指標として以下のような傾向が報告されています。

領域スコア傾向臨床的解釈
DB(逸脱行動)高いほど行動上の問題が多い問題行動への支援・環境調整が必要
GB(全般的行動)高いほど自立度が低いADL・社会的役割支援が重要
合計スコア高値=支援依存型/低値=地域移行可能性高い退院・通所・就労支援判断の参考に

複数回の測定によって、治療経過や行動変化を可視化できる点がREHABの強みです。



標準化とバージョン情報

REHABは開発当初から国際的に使用されており、現在も英語版・日本語版の双方で信頼性が確認されています。

標準化のポイント

  • 原版(Baker & Hall, 1983):精神科長期入院患者を対象に作成
  • 妥当性検証(1988):治療効果測定や退院予測に有用
  • 日本語版:1990年代に翻訳・導入、学術誌で信頼性報告あり
  • 高齢者・デイケア対象にも適用可

評価者間信頼性

  • ICC(Intraclass Correlation Coefficient)=0.8以上と良好な報告
  • 評価者教育による信頼性向上が推奨

今後は、電子データベース化やスコア自動集計によるデジタル標準化が進む可能性があります。



臨床応用と活用事例

REHABは、入院から地域生活への移行支援まで幅広いリハビリテーション現場で応用されています。

活用シーンの例

  • 精神科作業療法における行動・社会性評価
  • デイケアでのリハビリ進捗モニタリング
  • グループホーム入所・退所時の判定
  • 長期入院患者の退院支援・社会復帰計画立案

実践的な活用法

  • LASMIやSFSなどの社会機能評価と組み合わせることで、生活技能・行動・社会参加を多面的に把握可能
  • チームカンファレンスにおける情報共有ツールとして有用
  • 定期的な再評価により、治療方針の見直しに役立つ

臨床では、REHABを単独で用いるよりも、他の社会機能評価と併用して総合的に判断することが推奨されています。



他検査との関連:LASMIやSFSとの比較

評価尺度主な目的評価対象特徴
REHAB行動面の全般的評価観察による行動・自立度汎用性が高く、経時変化の測定に強い
LASMI地域生活技能の評価生活スキル・社会機能詳細な生活能力を評価可能
SFS社会機能尺度対人関係・職業・活動範囲外来・地域向けの定量評価

REHABは観察中心、LASMIは自己報告中心という違いがあります。
両者を組み合わせることで、「実際の行動」と「自己認識」の両面を把握できます。



デジタル・ICT対応:電子化と今後の展望

REHABは、近年では電子デバイスやクラウド評価ツールにも応用が進んでいます。

ICT活用の方向性

  • タブレット入力によるスコア自動集計
  • AIによる行動観察データとの連動(動画解析など)
  • チーム間共有を容易にする電子カルテ連携
  • デイケア・在宅支援でのオンライン評価導入

また、データベース化することで治療効果の可視化・統計解析が容易になり、エビデンス構築にも寄与します。

ICTを活用したREHABは、今後の地域精神リハビリテーションにおいて、行動データと支援計画を結ぶ橋渡しとなることが期待されています。



参考文献

  • Baker, R., Hall, J.N. (1983). Rehabilitation Evaluation: Hall & Baker (REHAB).
  • Baker, R. et al. (1988). Schizophrenia Bulletin, 14(1), 97–111.
  • 三輪書店『精神科リハビリテーション評価法ハンドブック』
  • 厚生労働省:精神障害者地域移行支援に関する報告書(2019)

関連文献

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