SP感覚プロファイル(Sensory Profile 2)とは?|作業療法士が解説する感覚処理評価の方法と臨床応用

感覚の過敏さや鈍感さを客観的に評価できるツールとして注目されている「SP感覚プロファイル(Sensory Profile 2)」は、発達障害や高次脳機能障害の支援に欠かせない評価法です。
本記事では、作業療法士向けにSP感覚プロファイルの基本情報、対象と適応、実施手順、採点・解釈のポイント、さらに臨床での活用事例やデジタル化の動向まで詳しく解説します。

感覚統合理論に基づいた支援設計の第一歩として、臨床・教育・福祉の現場で役立つ情報をまとめました。



SP感覚プロファイルとは?感覚処理を客観的に可視化する評価法【基本情報】

SP感覚プロファイル(Sensory Profile™、略称:SP)は、感覚の過敏さや鈍感さなど「感覚処理(Sensory Processing)」の特徴を多角的に評価するための標準化検査です。
米国の作業療法士Winnie Dunnらによって開発され、現在は改訂版である「Sensory Profile 2(SP2)」が用いられています。

SPは、個人が聴覚・視覚・触覚・前庭感覚・口腔感覚などの刺激をどのように受け取り、処理し、行動として表出するかを体系的に評価します。
主に以下の3つの理論的枠組みで構成されています。

  • 感覚処理(Sensory Processing):感覚情報の受け取り方の特徴
  • モジュレーション(Modulation):感覚刺激を調整する働き
  • 行動・情動反応(Behavioral and Emotional Responses):感覚処理に伴う行動面の変化

評価結果からは、感覚の「過敏」「鈍感」「探求」「回避」といった傾向が明らかになり、感覚統合理論や神経科学に基づいた臨床的解釈が可能です。
作業療法の臨床現場では、発達障害や高次脳機能障害、精神疾患などにおける感覚刺激への反応傾向を客観的に把握するツールとして活用されています。



幅広い年齢層に対応する感覚評価【対象と適応】

SP感覚プロファイルは、発達段階に応じて複数のバージョンが存在し、乳児から高齢者まで生涯を通して感覚処理を評価できます。
ただし、対象年齢によって使用する検査が異なります。

検査名年齢範囲回答形式主な評価者
Infant/Toddler Sensory Profile 2 (ITSP2)0〜35か月保護者記入式親・養育者
Child Sensory Profile 2 (CSP2)3〜14歳11か月保護者記入式親・教師
Short Sensory Profile 2 (SSP2)同上短縮38項目版親・教師
School Companion SP23〜14歳11か月教師記入式教員・支援員
Adolescent/Adult Sensory Profile (AASP)11歳以上〜65歳+自己記入式本人

このように、3歳から成人・高齢者までをカバーしますが、「SP2」と「AASP」は別の検査ツールである点に注意が必要です。

臨床的には以下の対象に有効とされています。

  • 自閉スペクトラム症(ASD)
  • 注意欠如・多動症(ADHD)
  • 発達性協調運動障害(DCD)
  • 高次脳機能障害
  • 精神障害(感覚過敏・鈍麻を伴うケース)
  • 感覚過敏による職場・学校不適応

発達・環境・社会適応の3側面から、感覚特性と行動との関連を可視化できる点が臨床上の大きな意義です。



質問票による実施手順【実施方法】

SP感覚プロファイルは質問紙法によって実施され、観察者または本人が回答します。
基本的な流れは以下の4ステップです。

  1. 質問票の配布と説明
     対象年齢に応じた質問票(125項目または38項目)を保護者または本人に配布し、質問意図を説明します。
  2. 回答(観察記入)
     「いつも」「たいてい」「ときどき」「めったにない」「決してない」など、行動頻度に基づいて回答します。
  3. スコア集計
     各項目を感覚領域ごとに分類(聴覚・視覚・触覚・前庭・口腔など)し、得点を算出します。
  4. 解釈とフィードバック
     結果をもとに感覚傾向を可視化し、保護者・本人にフィードバックします。
項目数所要時間評価者使用場面
SP2(125項目)約15〜20分保護者・教師臨床・教育現場
SSP2(38項目)約5〜10分保護者スクリーニング
AASP約10〜15分本人成人臨床・産業場面

回答は紙ベースまたはデジタル入力で実施可能で、採点には専用マニュアルまたはオンラインシステムを用います。



感覚パターンを読み解く【採点と解釈】

SP感覚プロファイルでは、得点をもとに感覚処理の4つの象限(Quadrants)を算出します。

象限特徴行動の傾向
Low Registration(低反応)感覚刺激に気づきにくい反応が遅い・無関心に見える
Sensation Seeking(感覚探求)強い刺激を好む動き回る・刺激を求める行動
Sensory Sensitivity(感覚過敏)刺激に強く反応音・光・触覚に過剰反応
Sensation Avoiding(感覚回避)刺激を避けようとする集団行動を嫌う・環境を制御したがる

また、以下の3つの大項目で包括的に評価します。

  • Sensory Processing(感覚処理)
  • Modulation(感覚調整)
  • Behavioral and Emotional Responses(行動・情動反応)

スコア結果は標準値(Tスコア)と比較して評価され、“Typical Performance(典型的)”“Probable Difference(やや異常)”“Definite Difference(明らかに異常)”の3段階で分類されます。

臨床家はこれをもとに、「過敏/鈍感」傾向がどの感覚モダリティで顕著かを把握し、環境調整・感覚統合的アプローチの計画立案に活用します。



臨床での基準と判断【カットオフ値】

SP感覚プロファイルでは、統計的に設定されたカットオフスコアを用いて「典型的」「境界」「異常域」を判断します。

カットオフの一般的な基準(SP2マニュアル準拠)は以下の通りです。

評価カテゴリ判定基準(Tスコア)臨床的意味
Typical Performance41〜59一般的範囲
Probable Difference31〜40 または 60〜69注意すべき差異
Definite Difference≦30 または ≧70臨床的に顕著な差異

※SP2およびAASPでは年齢群別に標準化された得点表を使用します。

このカットオフを基に、感覚処理の特徴が臨床的に有意かどうかを判断し、介入の必要性や支援の方向性を明確にします。
感覚統合療法や環境調整を導入する際の判断基準として有用です。



評価バージョンと標準化の概要【標準化・バージョン情報】

SPは、Dunn(1999)による初版から、2014年の改訂版SP2まで複数のバージョンが存在します。

バージョン公開年主な特徴
Sensory Profile(初版)1999125項目、理論枠組みを確立
Short Sensory Profile(SSP)199938項目、スクリーニング向け
Sensory Profile 2(SP2)2014改訂版。信頼性・標準化を再構築
Adolescent/Adult Sensory Profile(AASP)2002自己記入式、成人版

日本語版は感覚統合学会などの監修のもとに導入され、教育・医療・福祉分野での活用が広がっています。
標準化では、米国・カナダなど複数国の大規模サンプルに基づくノームを使用。
信頼性・妥当性は複数の国際論文で支持されています。



感覚特性を支援に結びつける【臨床応用と活用事例】

SP感覚プロファイルは、作業療法臨床において環境調整・活動分析・心理的理解を深めるための重要ツールです。
活用事例としては以下が挙げられます。

  • 発達障害児の学習環境調整:聴覚過敏の児に対し、防音イヤーマフや静音スペースを設ける。
  • ASD成人の職場支援:感覚過敏に合わせたデスク配置や照明調整。
  • 高次脳機能障害者の活動分析:刺激閾値を基に日課・作業内容を調整。
  • 精神疾患のセルフモニタリング支援:AASPを用いてストレス要因を可視化。

SPの結果を用いることで、クライアントの「感覚的な世界観」を共有し、家族や多職種との連携を促進できます。
まさに“感覚の翻訳者”としての作業療法士の実践に直結する評価法といえます。



感覚統合評価との相互補完【他検査との関連】

SPは単独で用いるよりも、他の感覚・行動評価と組み合わせることで臨床的意義が高まります。

関連検査評価領域併用の目的
SIPT(Sensory Integration and Praxis Tests)感覚統合機能SPでの行動傾向を機能レベルで補足
SPM(Sensory Processing Measure)学校・家庭での感覚行動環境別の感覚反応比較
Vineland-3適応行動感覚特性が日常生活へ与える影響評価
BRIEF-2遂行機能感覚処理と実行制御の関連分析
AQ・ADOS-2自閉特性感覚プロファイルの異常とASD傾向の統合評価

特にSP+SIPT+BRIEFの三者併用は、感覚から行動・実行機能までの全体像を捉えるうえで有効です。



デジタル化が進む感覚評価【デジタル・ICT対応】

近年は、SP感覚プロファイルのデジタル版(オンライン入力・自動採点)が登場しています。
Pearson社の公式プラットフォーム(Q-global)を利用すれば、質問票のオンライン配布・スコアリング・レポート作成まで一元管理できます。

ICT化による利点は以下の通りです。

  • 回答者が自宅から入力できるため、遠隔評価が可能。
  • 自動スコアリングにより採点誤差を防止。
  • 経時的な変化をグラフ化して可視化。
  • 研究データ収集や大規模調査にも対応。

また、臨床現場ではタブレット端末での保護者入力や電子カルテ連携が進みつつあり、作業療法士が結果を即時共有できる環境が整っています。
将来的には、ウェアラブルセンサーによる感覚反応データとの連携も期待されています。



まとめ

SP感覚プロファイルは、「感覚を行動で理解する」ことを可能にする評価法です。
発達支援・精神領域・高次脳機能障害領域など、幅広い臨床場面での応用が進んでおり、感覚統合理論に基づく支援実践の中心的ツールといえます。


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