脳卒中リハビリテーションでは、片麻痺の運動機能や感覚、高次脳機能などを総合的に評価することが欠かせません。
**SIAS(Stroke Impairment Assessment Set)**は、日本のリハビリテーション医学の中で開発された、脳卒中後の機能障害を多角的に測定できる評価法です。
本記事では、SIASの概要、対象、構成、採点法、信頼性、臨床での活用法、他検査との関連、そしてデジタル化の動向までを網羅的に解説します。
作業療法士・理学療法士・言語聴覚士など、脳卒中リハに携わるセラピスト必見の内容です。
基本情報|SIASの概要と特徴
**SIAS(Stroke Impairment Assessment Set)**は、千野直一、園田茂、堂園浩、木村昭夫らによって1993〜1994年に開発・報告された、脳卒中機能障害の標準的評価法です。
日本で広く普及し、回復期リハビリ病棟などで「FIM(機能的自立度評価)」と並んで使用される代表的スケールです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 名称 | Stroke Impairment Assessment Set(脳卒中機能障害評価セット) |
| 開発者 | 千野直一、園田茂ら(慶應義塾大学医学部) |
| 初出 | 1993〜1994年(日本リハビリテーション医学会誌) |
| 対象 | 脳卒中片麻痺患者(急性期〜回復期) |
| 構成 | 22項目/9領域 |
| 評価スケール | 0〜5点または0〜3点 |
| 総得点 | 最大76点 |
| 評価目的 | 機能障害レベルの定量化・回復予測 |
特徴は、運動機能だけでなく、感覚・視空間・体幹・言語など多領域を包括的に評価できる点にあります。
また、**ICFモデルにおける「心身機能レベル」**を中心に評価するため、FIMやBarthel Indexと組み合わせることで、より全体的なリハビリ効果を捉えやすくなります。
対象と適応|SIASが適する患者像と実施の条件
SIASは、脳卒中による片麻痺を持つ成人患者を主対象としています。
特に、発症後の急性期〜回復期の患者において、運動・感覚・高次脳機能・体幹機能などの多面的な障害把握に有効です。
● 主な対象者
- 脳梗塞・脳出血後の片麻痺患者
- 感覚障害や空間無視などを伴う症例
- 失語症や注意障害を呈する軽〜中等度の患者
● 適応のポイント
- 機能回復の経過を定量的にモニタリング可能
- 訓練効果の説明や目標設定の根拠になる
- 医師・PT・OT・STの共通言語として活用できる
● 実施が難しいケース
- 意識障害が重度で命令理解が困難な場合
- 重度失語症で一部項目の実施が制限される場合
このようにSIASは、単なる運動評価を超えた、多職種間の意思疎通と介入戦略立案の基盤ツールとして活用できます。
実施方法|9領域22項目の構成と手順
SIASは9領域・22項目で構成され、各領域を次のように評価します。
| 領域 | 主な項目 | 評価方法 |
|---|---|---|
| 1. 運動機能 | 上肢近位・遠位、下肢近位・遠位 | 0〜5点、Brunnstrom段階に近い運動能力を確認 |
| 2. 筋緊張 | 上肢・下肢 | Modified Ashworthに準拠 |
| 3. 感覚機能 | 触覚・位置覚 | 0〜3点で評価 |
| 4. 関節可動域(ROM) | 肩・膝など主要関節 | 可動制限の有無を確認 |
| 5. 痛み | 麻痺側肩関節など | 疼痛の程度を3段階で記録 |
| 6. 体幹機能 | 垂直性・腹筋力 | 座位保持や体幹制御を評価 |
| 7. 視空間認知 | 視覚探索・模写 | 半側空間無視・構成障害を評価 |
| 8. 言語機能 | 自発話・理解・復唱・命名 | 簡易的な失語評価を含む |
| 9. 非麻痺側機能 | 上肢・下肢 | 健側の協調・筋力確認 |
● 実施の流れ
- まず健側の動きを確認し、基準を把握
- 麻痺側を各項目ごとに順に評価
- 体位は仰臥位・座位を併用
- 経時的に同条件で再評価することで回復過程を追跡
なお、所要時間は患者の状態によって変動します(10〜30分程度)。
評価は代償動作を認めず、純粋な機能能力を測定することが求められます。
採点と解釈|スコアの意味と臨床的な使い方
各項目は0〜5点、または0〜3点で採点され、合計最大76点となります。
以下は運動項目の一例です。
| 評価点 | 意味 |
|---|---|
| 5 | 健側と同等の運動可 |
| 4 | 軽度麻痺(抵抗に抗して可動) |
| 3 | 重力に抗して可動 |
| 2 | 重力除去下で可動 |
| 1 | 筋収縮のみ |
| 0 | 収縮なし |
● スコアの解釈ポイント
- 各領域ごとの変化を見る(単純な合計ではなく)
- 運動項目はBrunnstrom stageやMotricity Indexと有意に相関(r=0.6〜0.7程度)
- 感覚・高次脳機能の変化を加味することで、ADLの改善予測が可能
● 臨床応用例
- 回復期病棟での週次評価
- カンファレンスでの経過説明
- 家族への説明・退院支援時の客観的資料
このようにSIASは、治療経過を定量的に示す信頼性の高いツールとして利用されています。
標準化と信頼性|エビデンスと研究成果
SIASは、日本国内で多くの信頼性・妥当性研究が行われています。
- **再現性(r=0.80〜0.95)**が高く、訓練者間でも安定したスコアが得られる
- 運動項目はBrunnstrom StageやFugl-Meyer Assessmentとの併存妥当性が高い
- 入院時SIAS+FIMスコアから退院時FIMを予測可能という研究も報告(園田ら、2006)
- Rasch分析により、階層的構造と臨床妥当性の裏付けが確認されています
また、日本リハビリテーション医学会の標準評価法リストにも掲載されており、教育・研究・臨床のいずれでも高い信頼を得ています。
なお、公式に「2010年版」「改訂版」などの独立した改訂履歴は確認されていないため、「初版(1993〜1994年)」を基準とするのが正確です。
臨床活用例|リハビリ現場での使い方
SIASは、脳卒中リハビリの中心的指標として、次のように活用されています。
● 個別リハ計画への活用
- 運動回復段階に応じて訓練目標を細分化
- 感覚や痛みの情報をもとに動作訓練の安全性を高める
- 視空間・体幹評価により、転倒リスクを早期発見
● チーム医療での活用
- OT・PT・ST間の共通言語として利用
- 医師の回診時や退院前カンファレンスでの説明に有用
- 多施設間のリハビリ成績比較や研究にも適応可能
● 実践例
- 週1回の定期評価で回復経過をグラフ化
- デイリーノートや電子カルテへの自動反映による情報共有
- 教育現場ではリハ学生の評価演習教材としても活用
他検査との関連|SIASとFIM・Brunnstromの違い
| 評価法 | 評価対象 | 特徴 |
|---|---|---|
| SIAS | 機能障害(impairment) | 多領域を包括的に評価。日本発。 |
| FIM | 活動(activity) | ADL自立度を測定。米国発。 |
| Brunnstrom stage | 運動回復段階 | 片麻痺の回復フェーズ把握に特化。 |
| Fugl-Meyer Assessment | 運動・感覚・協調 | 研究レベルの精密評価。 |
SIASはこれらの中でも**「機能障害レベル」に焦点を当てる評価**であり、FIM(活動レベル)と組み合わせるとリハ効果の全体像を捉えやすくなります。
また、Brunnstrom Stageとの対応関係が明確なため、運動回復段階を定量的に示す補助ツールとしても有用です。
デジタル化と今後の展望|ICT連携による進化
近年、SIASもICT技術との統合が進みつつあります。
● 電子化の進展
- 電子カルテやクラウド記録システムへの自動入力
- iPad等での動画撮影による動作分析
- 評価結果をグラフ化し可視化するリハ支援ツールが登場
● 研究的活用
- 機械学習を用いた回復パターンの自動分類
- センサー技術による運動定量化・AI採点の試み
- SIASスコアを変数とした退院後ADL予測モデル研究も進行
これらの動きは、リハビリの客観性・効率性・情報共有性を向上させるものであり、今後は**電子SIAS(e-SIAS)**のような形で臨床導入が加速すると見込まれます。
ただし、現時点では公式の「デジタル版SIAS」は存在せず、あくまで研究的段階にある点に留意が必要です。
まとめ|SIASの臨床的意義
SIASは、脳卒中患者の運動・感覚・体幹・高次脳機能を一括評価できる日本独自の信頼性の高いスケールです。
臨床では、機能障害レベルを的確に把握し、リハビリ計画や成果説明の根拠資料として活用されています。
今後はデジタルツールとの統合により、より効率的で客観的な評価が可能になるでしょう。
「機能を数値化し、回復を見える化する」――それがSIASの最大の価値です。