ストループテストとは?前頭葉・注意機能を評価するリハビリ実践ガイド

ストループテスト(Stroop Test)は、遂行機能や選択的注意機能など、前頭葉の働きを評価する代表的な神経心理検査です。
「赤」と書かれた青い文字を見て、そのインクの色を答える課題で、抑制や注意の切り替え能力を測定します。
本記事では、リハビリ専門職が臨床で使えるように、ストループテストの目的・方法・解釈・臨床応用をわかりやすく解説します。



基本情報:ストループテストの概要

ストループテスト(Stroop Color and Word Test)は、1935年に心理学者John Ridley Stroopによって発表された「ストループ効果(Stroop Effect)」をもとに開発された検査です。
この効果は、**「文字の意味(言語情報)」と「文字の色(視覚情報)」が競合すると、反応が遅くなる」**という現象を指します。

主な特徴は以下のとおりです。

項目内容
検査名Stroop Test(ストループテスト)
提唱者John R. Stroop(1935年)
分類神経心理学的検査(前頭葉機能検査群)
評価対象遂行機能、選択的注意、反応抑制
実施時間約5〜10分
必要物品色つきの単語カード、またはPC・タブレット画面

この課題は「干渉(interference)」の処理能力を測るもので、反応抑制(inhibition)や認知の柔軟性を定量的に評価できる点が特徴です。



対象と適応:どんな利用場面で行うか

ストループテストは、前頭葉に関連するさまざまな高次脳機能障害や注意障害のスクリーニングに用いられます。

主な対象者

  • 脳血管障害(特に前頭葉・帯状回損傷)後の患者
  • 外傷性脳損傷、脳腫瘍、認知症(前頭側頭型、アルツハイマー型)
  • 精神疾患(統合失調症、うつ病など)の注意・抑制評価
  • 高齢者の認知機能低下スクリーニング
  • ADHDや自閉スペクトラム症など発達障害の評価補助

検査の目的

  • 遂行機能(目標設定・抑制・柔軟性)の評価
  • 選択的注意・分配的注意の測定
  • 認知的干渉(conflict processing)の耐性確認
  • 作業療法介入後の変化モニタリング

ストループテストは短時間で施行でき、前頭葉関連症状の初期発見や、認知リハビリ効果の検証にも有効です。



実施方法:検査のやり方と進め方

1. 基本的な手順

  1. 単語リストを提示
     「赤」「青」「緑」などの語が、異なるインク色で印刷されたカードやモニタを用意します。
  2. 課題指示
     「単語の意味ではなく、文字の色をできるだけ速く、正確に答えてください」と伝えます。
  3. 反応計測
     各刺激に対する反応時間と正答率を記録します。

2. 検査構成例

  • ① 色名読み課題(Word):黒インクで書かれた色名を読む。
  • ② 色識別課題(Color):意味を持たない記号や■■などを色として読む。
  • ③ 干渉課題(Color-Word):「赤」と書かれた青インク文字など、色と語が異なるもののインク色を答える。

3. 注意点

  • 視力や色覚に問題がある場合は不正確になるため、事前確認が必要。
  • 日本語版(仮名・漢字)では、文化的要素を考慮した刺激セットを使用。
  • 反応は音声入力・ボタン・手書きなど、環境に応じて調整可能。


採点と解釈:結果の見方

ストループテストでは、主に反応時間正答率を指標として評価します。

評価項目解釈
反応時間(ms)干渉課題での遅延が大きいほど、抑制・注意機能の低下を示唆。
正答率(%)エラーの増加は注意の分配や衝動制御の困難を示す。
ストループ干渉値(干渉課題時間-単純課題時間)で算出。大きいほど認知干渉が強い。

解釈のポイント

  • DLPFC(背外側前頭前野;BA9/46)は干渉処理や作業記憶を司り、課題中に強く活動します。
  • ACC(前部帯状回)は注意制御やエラー検出に関与し、不一致処理中に活性化します。
  • これらの活動低下は、遂行機能障害・注意障害の神経基盤と関連します。


カットオフ値:臨床的な目安

ストループテストには、明確な「障害/非障害」を区分する統一カットオフはありませんが、以下のような基準が臨床研究で用いられています。


研究・版判定指標カットオフ例
Golden Stroop Test(米国版)干渉スコア平均−1.5SD以下で低下傾向
Victoria Stroop Test(簡易版)反応時間健常高齢者平均+2SDで遅延とみなす
日本語版ストループ課題(仮名版)正答率85%未満で注意機能低下の可能性

したがって、個々の検査結果は年齢・教育歴・文化背景を考慮して相対的に判断することが推奨されます。



標準化・バージョン情報

ストループ課題には複数のバージョンがあります。

名称特徴主な用途
Golden Stroop Test標準化が進んだ英語版。全3課題構成。研究・臨床の国際標準。
Victoria Stroop Test(VST)40刺激×3条件の簡易版。高齢者・臨床現場向け。
日本語版ストループ(仮名・漢字)言語文化に合わせた改訂。高次脳機能評価に広く使用。
デジタル版 Stroop TestPC・タブレット対応、自動記録。検査効率・誤差低減。

特に日本語版では「仮名表記」や「漢字表記」によって読みやすさ・反応傾向が異なるため、患者属性に応じて使い分けると精度が高まります。



臨床応用と活用事例

ストループテストは以下の臨床目的に活用されています。

① 前頭葉機能障害のスクリーニング

  • 脳卒中、TBI、認知症における遂行機能評価。
  • 特にACCやDLPFC病変との対応が示唆されています。

② 認知リハビリの効果測定

  • 認知課題トレーニング前後での反応時間変化を比較。
  • 注意集中訓練・プランニング訓練の成果評価に有効。

③ 精神疾患領域

  • うつ病・統合失調症・ADHDでの注意・抑制機能の定量評価。
  • 治療効果や症状モニタリングにも応用されています。

④ 高齢者の転倒予防・行動分析

  • 注意分散や抑制の困難が転倒や行動エラーの要因と関連。


他検査との関連:複数指標での理解

ストループテスト単独よりも、他の前頭葉・注意機能検査と組み合わせることで包括的評価が可能です。

関連検査主な評価機能補完関係
Trail Making Test(TMT)注意の転換、遂行機能課題切り替え能力を補足
Wisconsin Card Sorting Test(WCST)認知的柔軟性概念転換・抑制の側面を強化
BADS(行動評価的遂行機能検査)実生活型遂行機能ストループ結果を行動水準で検証
FAB(前頭葉機能検査バッテリー)前頭葉全般ストループ課題を含む構成要素あり

複数検査を統合することで、前頭葉ネットワーク全体の機能像を把握しやすくなります。



デジタル・ICT対応:タブレット版やfNIRS連携

近年では、ICT技術を用いたストループテストのデジタル化が進んでいます。

主なデジタル応用

  • タブレット・PC版:反応時間をミリ秒単位で自動記録。
  • Web実施ツール:オンライン認知機能スクリーニングに利用可能。
  • fNIRS/光トポグラフィー連携:前頭前野血流量変化と同時計測し、課題遂行中の脳活動を可視化。
  • リハビリアプリ連携:注意機能トレーニングの一部として実装。

特にfNIRS研究では、ストループ課題中の左DLPFCおよび前頭極の血流上昇が一貫して報告されており、リハビリ分野でも脳活動フィードバックを利用した応用が期待されています。



まとめ

ストループテストは、前頭葉の遂行機能と注意制御を可視化できる信頼性の高い評価法です。
短時間・低コストで施行でき、神経心理評価からリハビリ経過観察まで幅広く応用できます。

今後はデジタル技術や生理指標と組み合わせることで、より精密で個別化された認知リハビリ評価へと進化していくでしょう。


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