深部腱反射(Deep Tendon Reflex:DTR)検査は、神経系の健康状態を把握するための基本的な神経学的評価です。
膝蓋腱反射やアキレス腱反射など、腱を打腱器で軽く叩いて筋肉の反応を観察することで、中枢・末梢神経の障害を早期に発見できます。
本記事では、深部腱反射の目的・方法・解釈・臨床応用までを、リハビリセラピスト向けにわかりやすく解説します。
反射の減弱・亢進から病変部位を推定する考え方や、デジタル機器を活用した最新の反射評価法も紹介します。
基本情報|深部腱反射検査の概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 検査名 | 深部腱反射検査(Deep Tendon Reflex Test:DTR) |
| 分類 | 神経学的検査(反射評価) |
| 主な目的 | 神経経路(感覚・運動・脊髄)の機能評価 |
| 主な反射部位 | 上腕二頭筋(C5)、腕橈骨筋(C6)、上腕三頭筋(C7)、膝蓋腱(L4)、アキレス腱(S1) |
| 検査器具 | 打腱器(反射槌) |
| 評価対象 | 上位・下位運動ニューロン障害、神経根病変などのスクリーニング |
| 標準的評価スケール | 0(消失)〜4+(クローヌスあり)/2+が正常 |
| 関連用語 | Jendrassik法(増強法)、病的反射(Babinski、Hoffmann など) |
深部腱反射は最も基本的かつ信頼性の高い神経機能スクリーニングの一つであり、脳卒中・脊髄損傷・末梢神経障害などの評価に不可欠です。
対象と適応|どのような症例に有効か
深部腱反射検査は、以下のような患者・病態に対して実施されます。
■ 適応対象
- 中枢神経疾患(脳卒中、脊髄損傷、多発性硬化症など)
- 末梢神経障害(糖尿病性ニューロパチー、坐骨神経障害など)
- 神経変性疾患(ALS、脊髄小脳変性症など)
- 筋疾患(筋萎縮、ミオパチーなど)
- リハビリ初期や経過観察時の神経再生評価
■ 検査目的
- 神経伝導経路の異常有無の確認
- 障害部位(中枢 or 末梢)の鑑別
- 病態進行や回復のモニタリング
- 他検査(筋力・感覚・歩行など)との総合判断補助
■ 検査を避けるケース
- 強い疼痛や外傷がある部位
- 高度の骨粗鬆症で叩打により骨折リスクがある場合
深部腱反射は侵襲がなく短時間で実施できるため、急性期から在宅リハまで幅広く活用できます。
実施方法|正確な深部腱反射の取り方
手順(代表的な流れ)
- 被検者をリラックスさせる
筋緊張があると反射が抑制されるため、姿勢を整え深呼吸などで脱力を促します。 - 腱部位を確認
正確な腱位置(例:膝蓋腱、アキレス腱など)を触診で特定。左右対称に評価します。 - 打腱器を準備
反射槌を軽く握り、手首のスナップで一定の力で叩きます。 - 指介在法の活用
必要に応じて検者の指を腱上に置き、その上を叩くと微弱な反射も検出しやすくなります。 - 叩打と観察
筋の収縮や関節の動きを目視・触診で確認。 - 増強法(Jendrassik法)
反射が出にくい場合、歯を食いしばらせる・両手を引っ張らせるなどで反射を促進。 - 左右比較と記録
左右差を確認し、0〜4+スケールで記録します。
主な反射と支配神経レベル
| 反射 | 主動筋 | 主な神経根 |
|---|---|---|
| 上腕二頭筋反射 | 上腕二頭筋 | C5(C6) |
| 腕橈骨筋反射 | 腕橈骨筋(肘屈曲・回外) | C6 |
| 上腕三頭筋反射 | 上腕三頭筋 | C7(C8) |
| 膝蓋腱反射 | 大腿四頭筋 | L4 |
| アキレス腱反射 | 腓腹筋・ヒラメ筋 | S1 |
| 下顎反射(特殊) | 咬筋 | V3(橋レベル) |
※「胸筋反射」や「後頭屈反射」は臨床的補助反射に位置づけられます。
採点と解釈|反射の強さを読み取る
深部腱反射の評価は、0〜4+スケールで段階的に判定します。
| 評価 | 表記 | 状態 | 臨床的意味 |
|---|---|---|---|
| 消失 | 0(−) | 反射なし | 末梢神経・下位運動ニューロン障害 |
| 減弱 | ± | わずかに反応 | 軽度末梢障害または筋萎縮 |
| 正常 | +(2+相当) | 明瞭・対称の反応 | 神経系正常 |
| 軽度亢進 | ++ | やや強い反応 | 上位運動ニューロン障害の初期 |
| 中等度亢進 | +++ | 顕著な反応 | 脳・脊髄障害進行 |
| 高度亢進(クローヌス) | ++++ | 持続的反応 | 重度の上位運動ニューロン障害 |
反射が一側のみ異常な場合は、局所病変(神経根や末梢障害)を疑います。
両側亢進なら中枢性、両側減弱なら全身性疾患(代謝性、末梢性など)も考慮します。
カットオフ値|臨床的判断基準の目安
深部腱反射には数値的な「カットオフ値」は存在しません。
しかし臨床では以下のような判定基準をもとに「異常反射」と判断します。
- 反射消失(0〜±):末梢性障害の可能性
例:末梢神経損傷、糖尿病性ニューロパチー、筋疾患 - 反射亢進(++以上):中枢性障害の可能性
例:脳卒中、多発性硬化症、脊髄損傷 - クローヌス出現(連続的反応):錐体路障害を強く示唆
評価時は、反射以外の神経所見(筋トーヌス、麻痺、感覚障害など)と総合的に判断します。
標準化・バージョン情報|信頼性と再現性を担保するために
深部腱反射は世界的に標準化された臨床手技であり、WHO、AAN(米国神経学会)、日本神経学会などのガイドラインでも統一的に扱われています。
標準的手技要件:
- 反射槌の形状(トムソン型、テーラー型など)に依存せず再現可能。
- 体位・叩打角度・打撃強度を統一する。
- 観察者間信頼性(interrater reliability)を保つ。
教育・実技評価の例:
- 神経内科学会では「0〜4+スケール」の明示的使用を推奨。
- リハビリ教育課程でも、DTRは標準必修の神経所見項目です。
これらにより、臨床・研究双方で信頼性の高いデータ収集が可能となります。
臨床応用と活用事例|リハ場面での実践
深部腱反射は、リハビリテーション場面で以下のように活用されます。
■ 臨床応用例
- 脳卒中初期評価:膝蓋腱反射・アキレス腱反射の亢進により痙性の有無を確認。
- 末梢神経損傷評価:反射消失による神経再生過程のモニタリング。
- ALSなど進行性疾患のフォロー:反射の変化で進行度を客観評価。
- リハ効果測定:運動再学習後の反射正常化を指標とする。
■ チーム連携での意義
- OT・PT・医師・看護師間で共通言語として活用可能。
- 他検査(MMT、感覚評価、歩行観察)との併用で機能全体を俯瞰。
このように、DTRはリハ介入前後の神経可塑性を評価する「動的バイオマーカー」としても有用です。
他検査との関連|包括的神経評価への統合
深部腱反射検査は、他の神経学的評価と組み合わせて解釈することで、診断精度が高まります。
| 関連検査 | 評価対象 | 補完関係 |
|---|---|---|
| 表在反射(腹壁・足底など) | 皮膚受容器を介する反射 | DTRと対比で中枢性障害を区別 |
| 病的反射(Babinski・Hoffmann) | 上位運動ニューロン機能 | DTR亢進と併せて錐体路障害を確認 |
| 筋トーヌス評価(MASなど) | 痙縮の強度 | 反射亢進の臨床的意義を定量化 |
| 神経伝導検査(NCV) | 末梢神経伝導速度 | DTR減弱の機序分析に有用 |
| 画像診断(MRI/CT) | 病変部位同定 | DTR異常の解剖学的裏付けに使用 |
DTR単独では確定診断に至らないため、これらの結果を統合して神経機能を包括的に把握します。
デジタル・ICT対応|反射評価の客観化と教育支援
近年、深部腱反射のデジタル定量化が進んでいます。
■ ICT活用の例
- センサ付き打腱器:叩打の角度・加速度を数値化し再現性を確保。
- 高速度カメラ解析:筋収縮時間・反射潜時をミリ秒単位で可視化。
- AI学習システム:映像認識により反射強度を自動スコア化。
- 教育VRシミュレータ:学生が安全に打腱練習を行える臨床教育ツール。
■ リハ分野での展望
- DTR変化の経時モニタリングで神経再生・痙縮管理に応用。
- 遠隔診療における映像共有で神経学的所見を定量共有。
ICTを取り入れることで、従来主観的だった反射評価を「客観的データ」として活用でき、リハビリのエビデンス強化につながります。