ロンドン塔課題(Tower of London Test)とは?遂行機能・前頭葉の評価に使えるリハビリ検査法を徹底解説

ロンドン塔課題(Tower of London Test)は、前頭葉の遂行機能(プランニング能力)を評価する代表的な神経心理検査です。
脳血管障害、パーキンソン病、認知症、高次脳機能障害などのリハビリ現場で、問題解決力や計画性を測定する際に活用されています。
この記事では、ロンドン塔課題の目的・対象・実施方法・解釈のポイント・カットオフ値・臨床応用例まで、リハビリ専門職向けにわかりやすく解説します。



基本情報

ロンドン塔課題(Tower of London Test)は、前頭葉の遂行機能(プランニング能力)を測定する代表的な神経心理学的検査です。
1982年に神経心理学者Timothy Shallice
によって開発され、問題解決やワーキングメモリを含む実行機能を評価する目的で世界的に利用されています。

この課題は単に動作を行うだけでなく、「どの順で動かせば効率的か」という計画立案能力を必要とするため、前頭葉損傷や認知症などにおける遂行機能障害の早期発見に役立ちます。



対象と適応

ロンドン塔課題の対象は、**児童から高齢者まで幅広い年齢層(7〜80歳)**に適用可能です。特に、以下のような疾患・状態の評価において用いられています。

また、発達障害や注意欠如多動症(ADHD)の評価補助としても研究が進んでいます。

検査の目的は、以下のような臨床的疑問に応じて選択されます。

  • プランニング能力や柔軟性の低下があるか?
  • ワーキングメモリ(保持しながら操作する力)の障害があるか?
  • ルール理解や順序立ての思考がどの程度できるか?

これらの指標は、リハビリテーションでの日常生活動作(ADL)計画力の評価にもつながります。



実施方法

ロンドン塔課題は、3本のペグと3色のビーズ(赤・青・緑)を用いて行います。
ペグの高さには制限があり、ビーズをできるだけ少ない移動回数で目標配置に並び替える
ことが目的です。

実施手順の概要は以下の通りです。

  1. 装置準備:開始位置と目標位置の2枚のボードを用意。
  2. 課題提示:検者が「できるだけ少ない手数でこの配置を再現してください」と指示。
  3. 実行フェーズ:被験者が一手ずつビーズを動かす。
  4. 時間測定:開始から完了までの所要時間を記録。
  5. 正答・誤答・手数を記録し、得点化。

課題は問題の難易度により段階化されています(例:2手課題〜5手課題)。
また、電子化された**CANTAB版 Tower of London(Stockings of Cambridge)**では、タッチパネル上で同様のタスクを実施することが可能です。



採点と解釈

採点は主に以下の指標をもとに行います。

評価ポイント

  • 手数が少ないほど計画効率が高いと判断されます。
  • 課題を一度に把握できず何度も戻る場合、ワーキングメモリや抑制の問題が示唆されます。
  • 達成までの思考時間が極端に短い場合、衝動性傾向の可能性も考慮します。

解析では、総正答数・平均手数・反応時間・ルール違反数などが総合的に評価されます。



カットオフ値

ロンドン塔課題は多くの改訂版があり、明確な一律カットオフ値は存在しません
ただし、TOL-DX第2版では年齢別の**標準得点(Tスコア・Zスコア)**が提供されており、

  • Zスコア −1.5以下 → 遂行機能障害の疑い
  • Zスコア −2.0以下 → 明確な障害の可能性
    といった基準が参考として用いられます。

臨床的には、同年齢群と比較して明らかに手数が多く、エラー率が高い場合に前頭葉機能低下を示唆します。
また、CANTAB版では反応時間や計画フェーズの比率なども自動算出され、より精密な分析が可能です。



標準化とバージョン情報

ロンドン塔課題には複数のバージョンが存在します。

バージョン対象年齢特徴
原法(Shallice, 1982)成人中心3本ペグ・3色ビーズ、実物操作式
TOL-DX 第2版7〜80歳米国Drexel大学発行、年齢別Tスコア付属
CANTAB SOC版4歳〜成人タッチパネル操作、反応時間と精度の自動解析
日本語版研究用TOL成人国内臨床・研究で利用、NIRS/fMRI対応課題あり

日本では正式な診療報酬算定には含まれませんが、研究や臨床評価の一部として広く利用されています。



臨床応用と活用事例

ロンドン塔課題は、前頭葉障害を示すさまざまな疾患において有用です。

臨床活用例

  • 脳卒中後の遂行機能リハビリ評価
    → ADL・IADLの自立度とTOL成績の関連が報告されています。
  • パーキンソン病
    → FABと併用することで、より精密に前頭葉機能を評価可能(J-STAGE報告より)。
  • 強迫症(OCD)
    → 課題施行中の前頭前野血流変化が健常より低下(NIRS研究)。
  • 高次脳機能障害
    → 実際の行動計画の困難さとTOLスコアが一致するケースが多い。

このように、**FABやWCSTでは捉えきれない「計画性」や「柔軟性」**を具体的に評価できる点が特徴です。



他検査との関連

ロンドン塔課題は、他の前頭葉機能検査と組み合わせて評価することで精度が高まります。

比較検査測定要素特徴
WCST(ウィスコンシンカード分類検査)認知的柔軟性・抽象化ルール切り替え能力を評価
ストループテスト抑制・選択的注意反応抑制と注意制御を測定
BADS(遂行機能障害症候群の行動評価)日常的遂行機能計画・柔軟性・自己モニタリング
FAB(Frontal Assessment Battery)前頭葉全般ベッドサイド短時間検査

これらを組み合わせることで、**「計画・抑制・柔軟性・モニタリング」**といった前頭葉機能を多面的に把握できます。



デジタル・ICT対応

近年では、ロンドン塔課題もデジタル化が進んでいます。

  • CANTAB Tower of London(Stockings of Cambridge)
    → タッチパネル操作で自動採点・反応時間・プランニング指標を算出。
  • NIRS/fMRI連携課題
    → 課題遂行時の前頭前野血流をリアルタイムで解析可能。
  • オンライン評価プラットフォーム
    → 教育・研究目的での遠隔TOL課題が公開(例:TOL-Spaceなど)。

臨床現場では、ICT化により時間短縮と客観性向上が進みつつあります。
また、AI解析による手順パターンの自動分類なども研究が進行中です。



まとめ

ロンドン塔課題は、前頭葉の遂行機能障害を可視化できる検査として、
脳血管障害・パーキンソン病・高次脳機能障害など幅広い臨床領域で活用されています。

**「どのように考えて行動するか」**を明らかにするこの検査は、
リハビリテーションにおける生活行為や社会参加の再構築において、重要な手がかりを提供します。


参考文献

  • Shallice, T. (1982). Specific impairments of planning. Philosophical Transactions of the Royal Society B.
  • Culbertson, W. C., & Zillmer, E. A. (2005). Tower of London–DX: 2nd Edition.
  • Owen, A. M. et al. (1990–2010). CANTAB Stockings of Cambridge Studies.
  • 日本理学療法学会. (2007). 「パーキンソン病における前頭葉機能障害の評価に関する検討」.
  • 日本精神神経学会. (2017). 「強迫症患者における実行機能とNIRSによる脳血流量変化」.

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