前頭葉の実行機能を簡便に評価できる「Verbal Fluency Test(VFT:言語流暢性課題)」は、認知症や脳損傷などの臨床で広く使われている神経心理学的検査です。
音韻流暢性と意味流暢性という2つの課題を通じて、言語想起力や検索スピード、前頭葉の活性度を把握することができます。
本記事では、作業療法士・リハビリ専門職向けに、VFTの実施方法・採点・カットオフ値・標準化データ・臨床応用・ICT活用まで詳しく解説します。
基本情報:VFTの概要と特徴
Verbal Fluency Test(VFT:言語流暢性課題)は、一定時間内にどれだけ多くの語を想起できるかをみる神経心理学的検査です。
臨床では前頭葉機能、特に実行機能や語の検索能力を評価する目的で広く用いられています。
VFTには大きく分けて以下の2種類があります。
| 種類 | 日本語呼称 | 内容例 |
|---|---|---|
| Phonemic fluency(音韻流暢性) | 頭音連想課題(Thurstone-type) | 「し」で始まる言葉を1分間にできるだけ多く挙げる |
| Semantic fluency(意味流暢性) | 範疇語連想課題(Category naming) | 「動物の名前をできるだけ多く挙げる」など |
Phonemic課題は左前頭葉(特に下前頭回)との関連が強く、Semantic課題は左側頭葉を中心とした意味記憶ネットワークが関与すると報告されています(Henry & Crawford, 2004; Troyer, 1998)。
この検査は前頭葉損傷・認知症・精神疾患など多様な疾患に応用可能であり、FABやHDS-Rなど他検査の下位項目としても利用されています。
対象と適応:どんな疾患・状態に有効?
VFT(言語流暢性課題)は、さまざまな神経心理的疾患や精神疾患の評価に活用されています。
主な対象は次のとおりです。
- 認知症(特にアルツハイマー型・前頭側頭型)
- 脳血管障害(前頭葉・側頭葉の病変)
- 外傷性脳損傷(TBI)
- 統合失調症・うつ病などの精神疾患
- 軽度認知障害(MCI)の早期スクリーニング
VFTは短時間で実施でき、検査者・被験者双方の負担が少ないため、外来、病棟、在宅など幅広い場面で活用できます。
また、言語流暢性の低下は早期の認知機能低下を示すサインとして重要視されています。
さらに、研究では次のような特徴が報告されています。
- アルツハイマー型認知症では「意味流暢性(semantic fluency)」がより低下する。
- 前頭側頭型認知症では「音韻流暢性(phonemic fluency)」の低下が目立つ。
このように、VFTは病型鑑別や認知機能の経過観察に役立つ臨床的価値の高い検査です。
実施方法:音韻・意味流暢性それぞれの手順
VFTの実施は非常にシンプルです。
検査者が口頭で課題を提示し、被験者に制限時間(通常60秒)内で言葉を挙げてもらいます。
① Phonemic fluency(頭音連想課題)
- 指示例:「“し”で始まる言葉を1分間でできるだけ多く言ってください。ただし人名や地名は避けてください。」
- 日本語では「し・い・た」などの仮名を用いることが多い(村井ら, 2004)。
② Semantic fluency(範疇語連想課題)
- 指示例:「動物の名前を1分間でできるだけ多く言ってください。」
- カテゴリは「果物」「職業」「野菜」などに変更も可能。
③ 実施時の注意
- 時間は各課題1分間が標準。
- 同音異義語や派生語の扱いは明確に。
- 録音または検査者が逐次記録し、反応数・エラー・重複を確認します。
このようにVFTは特別な器具を必要とせず、リハビリ臨床でも容易に取り入れることができます。
採点と解釈:評価の視点と注意点
採点は「正答数(生成語数)」を基本指標とします。
さらに、次のような観点も併せて評価すると臨床的意義が高まります。
Phonemic fluencyの低下は語の検索戦略の障害(実行機能低下)を示し、Semantic fluencyの低下は意味記憶や語彙ネットワークの障害を示す傾向があります。
また、検査者は「生成速度」や「沈黙の長さ」にも注意を払うことで、前頭葉の活性低下や抑うつ状態の示唆が得られる場合もあります。
他検査との関連:FAB・HDS-Rなどとの併用
VFTには国際的にもさまざまな基準値がありますが、日本語版の代表的な目安を以下に示します(村井ほか, 2004; 岡本, 2012)。
| 課題 | 正常高齢者の平均 | カットオフ(低下の目安) |
|---|---|---|
| 音韻流暢性(1分間) | 約11〜13語 | 8語以下 |
| 意味流暢性(動物名1分間) | 約16〜18語 | 12語以下 |
ただし教育歴・年齢の影響を大きく受けるため、個別の背景因子を加味して解釈する必要があります。
また英語圏でのCOWAT(Controlled Oral Word Association Test)やAnimal Namingなどの標準値と比較しても、日本語版は概ね妥当な範囲にあります。
標準化とバージョン情報:研究の進展
以前は「VFTは標準化が十分でない」とされていましたが、現在では国内外で多数の研究が進んでいます。
- 英語版標準化:COWAT(FAS課題)、Animal Naming課題として確立。
- 日本語版:仮名頭音(し・い・た)課題の標準化データが蓄積(村井ら, 2004; 藤井ら, 2012)。
- 信頼性・妥当性:再検査信頼性・他検査との相関ともに良好。
さらに近年では、クラスタリング分析や語彙ネットワーク解析を用いた定量的評価も行われており、VFTの応用範囲は拡大しています。
臨床応用と活用事例:作業療法への展開
VFTの結果は、作業療法評価やプログラム設計にも活かすことができます。
OTでは、VFTを単なる評価ではなく介入へのフィードバック指標として活用することが重要です。
また、semantic課題で「興味領域に関連するカテゴリー」を設定することで、個別化された認知刺激としての効果も期待できます。
他検査との関連:FAB・HDS-Rなどとの併用
VFTは以下の検査に含まれたり、相関が報告されています。
| 検査名 | VFTとの関係 |
|---|---|
| FAB(Frontal Assessment Battery) | 下位項目「語の流暢性課題」として採用 |
| HDS-R(改訂長谷川式) | 「動物名列挙」が部分項目に含まれる |
| MMSE・MoCA-J | 言語・注意項目との相関あり |
| Trail Making Test(TMT) | スイッチング能力と関連が強い |
これらの併用により、前頭葉実行機能や注意制御の全体像をより正確に評価できます。
デジタル・ICT対応:自動計測とAI解析の進化
近年では、VFTをタブレットやスマートフォンで自動評価するシステムも開発されています。
AI音声認識を活用することで、次のような分析が可能になっています。
これにより、作業療法士がベッドサイドで手軽に前頭葉機能をモニタリングできるようになりつつあります。
さらに、研究レベルではfNIRS・fMRIとの同時計測による脳活動マッピングも進行中です。
まとめ
Verbal Fluency Test(VFT)は、短時間で実施でき、かつ前頭葉機能の状態を鋭敏に反映する優れた検査です。
Phonemic・Semanticの2課題を組み合わせることで、より多面的な評価が可能になります。
今後はデジタル計測やAI解析の導入により、定量的・リアルタイムな前頭葉機能評価ツールとしての発展が期待されます。
作業療法士はこの検査を「評価と介入をつなぐ架け橋」として活用することが望まれます。