WAIS-R(ウェクスラー成人用知能検査・改訂版)は、成人の知能を言語性と動作性の両面から測定する代表的な検査です。
現在は後継版のWAIS-Ⅳが主流ですが、WAIS-Rは知的機能評価の基礎を築いた重要な尺度として、臨床・リハビリ・心理評価の現場で理解しておく価値があります。
本記事では、構成、下位検査、採点と解釈、WAIS-Ⅳとの違いを整理して解説します。
基本情報:WAIS-Rとはどんな検査か
WAIS-R(Wechsler Adult Intelligence Scale – Revised)は、1981年に米国で発表され、日本版は1990年に日本文化科学社から刊行された成人用知能検査です。初版WAIS(1955年刊)の改訂版として位置づけられています。
WAIS-Rは、成人の言語的能力と動作的能力の両面から知的機能を総合的に評価することを目的としており、16歳〜74歳を対象に標準化されました。
主な特徴としては次の2点が挙げられます。
- 高齢者にも対応できるよう、適用年齢を74歳まで拡大。
- 言語性(VIQ)・動作性(PIQ)・全検査IQ(FSIQ)の3種類のIQを算出できる。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 日本版発行年 | 1990年(原版1981年) |
| 適用年齢 | 16歳〜74歳 |
| 下位検査数 | 言語性6、動作性5(計11) |
| 主な評価指標 | VIQ(言語性IQ)、PIQ(動作性IQ)、FSIQ(全検査IQ) |
| 販売状況 | 日本では2005年に販売終了(WAIS-Ⅲ・Ⅳへ移行) |
対象と適応:どんな場面で使われるのか
WAIS-Rは、知的能力の全体像を把握するために幅広い対象へ適用されます。
主な対象
- 発達期を終えた16歳以上の青年から高齢者まで
- 精神科・神経内科・リハビリ領域での知的機能や高次脳機能のスクリーニング
- 教育現場や職業適性判断、社会復帰支援における基礎的知的水準の確認
実施を控える方がよい例
- 重度知的障害や強い精神症状により検査課題の理解が困難な場合
- 疲労・集中困難により持続的な回答が難しい場合
(※公式に「適用外」とされてはいませんが、検査目的と被験者の状態を考慮する必要があります)
臨床的な意義
- 知的水準(IQ)の算出だけでなく、**認知特性の分析(注意・言語理解・構成力など)**が可能。
- 作業療法士や心理職による高次脳機能評価や支援計画立案の基礎資料としても有用です。
実施方法:下位検査の構成と内容
WAIS-Rは、11の下位検査で構成され、言語性6項目・動作性5項目に分類されます。
言語性下位検査(Verbal Tests)
| 項目 | 主な内容・測定する能力 |
|---|---|
| 知識(Information) | 一般常識・文化的知識 |
| 数唱(Digit Span) | 聴覚的注意・短期記憶(順唱・逆唱) |
| 単語(Vocabulary) | 語彙力・言語的表現力 |
| 算数(Arithmetic) | 数的推論・注意集中 |
| 理解(Comprehension) | 社会的判断力・常識的理解 |
| 類似(Similarities) | 抽象的思考・概念形成 |
動作性下位検査(Performance Tests)
| 項目 | 主な内容・測定する能力 |
|---|---|
| 絵画完成(Picture Completion) | 視覚的注意・弁別力 |
| 絵画配列(Picture Arrangement) | 因果的思考・状況理解 |
| 積木模様(Block Design) | 空間構成・視覚運動統合 |
| 組合せ(Object Assembly) | 視覚構成・全体把握力 |
| 符号(Digit Symbol) | 処理速度・視覚運動協応 |
※「符号(Digit Symbol)」は主に処理速度・学習効率を反映する指標であり、ワーキングメモリーそのものを測定する課題ではありません。
採点と解釈:評価点とIQの読み方
検査終了後、各下位検査の素点を年齢別換算表で評価点に変換し、次の3つのIQを算出します。
- VIQ(言語性IQ)
- PIQ(動作性IQ)
- FSIQ(全検査IQ)
解釈のポイント
- IQ水準の分類
100を平均とし、±15を標準偏差として「平均」「やや低い」「やや高い」などを判断します。 - VIQとPIQの差
言語的・非言語的能力のバランスをみる指標。20点以上の差は臨床的意味を持つ場合があります。 - サブテスト間の散布
特定の認知機能(例:注意・構成・言語理解)の強弱を分析できます。 - 行動観察の重要性
回答までの時間、エラー傾向、粘り強さなどの質的情報を併せて解釈することで、生活支援につながります。
カットオフ値:知能水準の目安
WAIS-Rでは、全検査IQ(FSIQ)を基準に知的水準を以下のように分類します。
| IQ範囲 | 判定区分 | 一般的な解釈 |
|---|---|---|
| 130以上 | 非常に高い | 上位2%水準 |
| 120〜129 | 高い | 平均より高い |
| 110〜119 | やや高い | やや上位 |
| 90〜109 | 平均 | 中間的水準 |
| 80〜89 | やや低い | 下位約16% |
| 70〜79 | 低い | 知的境界域 |
| 69以下 | 非常に低い | 知的障害の可能性 |
※WAIS-R自体は診断を目的とした検査ではなく、知能水準の参考値として扱われます。
※後継版ではIQレンジが40〜160に拡張されています。
標準化・バージョン情報:WAIS-RからWAIS-Ⅳ・WAIS-5へ
WAIS-Rは、米国版(1981年)と日本版(1990年)で標準化が行われました。
その後の改訂経過は以下のとおりです。
| バージョン | 発行年(米) | 日本版 | 主な変更点 |
|---|---|---|---|
| WAIS | 1955 | ― | 初版。16〜64歳対象 |
| WAIS-R | 1981 | 1990 | 高齢者対応(〜74歳)・ノルム更新 |
| WAIS-Ⅲ | 1997 | 2006 | 作動記憶・処理速度の導入 |
| WAIS-Ⅳ | 2008 | 2018 | 4指標モデル・信頼性向上 |
| WAIS-5 | 2024 | ―(準備中) | デジタル化・臨床データ拡張 |
日本ではWAIS-Rは2005年に販売終了し、現在はWAIS-Ⅳが主流となっています。
臨床応用と活用事例
WAIS-Rは、単なる知能検査ではなく、神経心理評価や作業療法の臨床推論にも応用できます。
応用の例
- 高次脳機能障害のスクリーニング:
例)絵画完成で視覚的注意、積木模様で構成能力を確認。 - うつ病・統合失調症・認知症の認知プロフィール分析:
処理速度やワーキングメモリの低下パターンを通じて生活機能への影響を推測。 - リハビリ計画立案:
検査中の行動観察をもとに「集中持続」「課題遂行力」「柔軟性」などを定性的に評価し、作業療法目標に反映。
他検査との関連
WAIS-Rは他の認知・知的検査と組み合わせて使用することで、より多面的な評価が可能です。
| 検査名 | 主な目的 | 組み合わせの意義 |
|---|---|---|
| WISC(児童版) | 学齢期の知能評価 | 発達段階の比較 |
| RCPM(レーヴン色彩マトリックス) | 非言語性知能 | 言語能力に影響されない比較 |
| HDS-R・MMSE | 認知症スクリーニング | 全体知的水準との対応分析 |
| BADS・FAB | 遂行機能評価 | 前頭葉機能との関連解析 |
| MoCA-J | 軽度認知障害の早期発見 | 注意・記憶領域との整合確認 |
デジタル・ICT対応
現在、WAIS-R自体はデジタル化されていませんが、後継版のWAIS-ⅣおよびWAIS-5(海外)ではタブレット実施・自動採点が可能となっています。
最新の動向
- Pearson社 Q-interactive®システムにより、デジタル端末上で検査・採点・レポート作成が一体化。
- 日本版WAIS-Ⅳでも、オンライン採点システム(Q-global)が導入されています。
- 臨床場面では、WAIS-Rデータを電子カルテ・Excel・リハビリ記録システムへ転記し、経時比較や認知プロファイルの追跡に活用するケースが増えています。
作業療法士にとって、WAISシリーズのデジタル化は、認知リハビリテーションの客観データ管理を推進するツールにもなり得ます。
まとめ
WAIS-Rはすでに販売を終了していますが、後継のWAIS-Ⅳ・WAIS-5に続く知的機能検査の礎を築いた重要な検査です。
各下位検査の目的や構成概念を理解することで、リハビリ現場でも応用可能な「観察力を伴う認知評価」として活用できます。
古い検査であっても、臨床的な洞察を得るためのツールとして価値が残っています。