アキソノトメーシスは末梢神経損傷の一形態で、特定のリハビリテーションにより改善が見込まれます。
本記事ではこのアキソノメートシスについて解説します。
アキソノトメーシスとは
アキソノトメーシス(axonotmesis)は、末梢神経損傷の一種で、「軸索断裂」と訳されます。
この状態では、神経線維が肉眼的には連続して見えるものの、軸索自体は断裂しており、その周りのシュワン鞘は保たれています。
軸索が外力や血行障害などによって損傷を受けると、損傷部位から遠位の神経節が崩壊し、遠位部の機能も一時的に失われますが、アキソノトメーシスの場合は神経内膜が損傷を受けていないため、損傷部から新しい軸索が再生し、目的器官に向かって成長することができます。
この成長速度は1-3mm/日とされており、自然回復が見込めます。リハビリテーションを通じて筋力の維持や拘縮予防などが積極的に行われることが推奨されています。
アキソノトメーシスが起こる疾患、原因
アキソノトメーシスが起こる疾患、原因としては…
- 外傷
- 圧迫
- 手術後の合併症
- 糖尿病
…などがあげられます。
それぞれ解説します。
外傷
外傷によるアキソノトメーシスは、事故や怪我による直接的な衝撃が原因で発生します。
特に骨折や脱臼の際に神経が挟まれたり、引っ張られたりすることによって、軸索が断裂します。
このタイプの損傷は、特に手足の骨折や交通事故などでよく見られます。
神経が直接的な物理的圧力を受けることにより、神経線維の内部である軸索が断裂し、周囲のシュワン鞘が保たれている場合が多いため、適切な治療とリハビリテーションにより回復が期待できることもあります。
この状態を適切に診断し、早期からの治療が機能回復には重要です。
圧迫
圧迫によるアキソノトメーシスは、長時間の不適切な姿勢やギプス固定によって神経が圧迫されることで起こります。
この圧迫が持続することにより、神経線維の軸索が断裂し、神経の機能が一時的に失われることがあります。
例えば、手足を長時間圧迫するような姿勢を取った後に「しびれ」を感じることがこれに該当します。
治療には、圧迫の原因を取り除き、適切なリハビリテーションを行うことが重要で、特に物理療法が有効です。
回復は損傷の程度に依存しますが、神経が再生する能力にも左右されます。
手術後の合併症
手術中の神経損傷もアキソノトメーシスの原因となり得ます。
特に、神経を露出させたり移動させる必要のある手術では、神経線維が損傷を受けやすいです。
手術中に神経が意図しない圧迫や牽引を受けると、軸索が断裂する可能性があり、これがアキソノトメーシスにつながります。
このタイプの損傷は、手術後の神経機能の回復を阻害する可能性があるため、手術計画の段階で可能な限り神経を保護する策が考慮されるべきです。
適切な手術技術と注意深い手術計画が神経損傷のリスクを最小化します。
糖尿病
糖尿病や他の全身性疾患は、末梢神経障害の一因としてアキソノトメーシスを引き起こすことがあります。
これらの疾患による血管の障害は、神経血流が低下し、神経線維への酸素と栄養素の供給が不足することで、軸索が断裂する可能性があります。
糖尿病においては、高血糖が長期間持続することによって神経線維が損傷を受けることが知られています。
治療には、基礎疾患の管理が最も重要で、血糖コントロールの最適化や適切な医療フォローアップが必要です。
このような全身状態の管理を通じて、アキソノトメーシスのリスクを減らすことが可能です。
アキソノトメーシスの評価・検査
アキソノトメーシスの評価と検査としては…
- 問診
- 知覚検査
- 筋力検査
- チネルテスト
…などがあげられます。
それぞれ解説します。
問診による評価
問診はアキソノトメーシスの診断プロセスにおいて初期段階で非常に重要です。
医師やセラピストは患者の症状、受傷機序、そしてその後の症状の経過について詳細に聞き取りを行います。
この過程で、麻痺や痛みなどの症状がどの神経の障害に由来するのか、その原因との関連性や整合性を詳しく評価します。
患者の症状の自己申告は、診断に向けた重要な手がかりを提供し、後続の検査方針を決定する基礎となります。
問診により得られる情報は、患者が経験している具体的な困難や障害の範囲を理解するのに役立ちます。
知覚検査
知覚検査は、アキソノトメーシスによる感覚障害の程度を把握するために実施されます。
特定の皮膚領域、例えば足背部や下腿外側の表在感覚を検査することで、感覚神経の機能障害を評価します。
患者に対して様々な感覚刺激(軽触、痛み、温度など)を施し、その感覚の有無や変化を確認します。
この検査は、経過観察中に定期的に行われることが一般的で、神経の回復過程を評価するための重要な指標となります。
筋力検査(MMT)
筋力検査、特に徒手筋力検査(Manual Muscle Testing, MMT)は、神経の損傷による筋力低下を評価するために用いられます。
この検査では、損傷した神経が支配する筋肉群を対象に、筋力を一定の基準に基づいて評価します。
患者に各種の動作を行わせ、筋肉の収縮能力と耐力を測定することで、神経損傷の程度と影響を受けている筋肉の機能を具体的に把握します。
MMTは、治療の効果を評価するためやリハビリテーションの進捗を測定する際にも重要です。
チネルテスト
チネルテストは、末梢神経の障害が疑われる場合に特に有効な診断ツールです。
このテストは、疑われる神経経路に沿って軽く圧迫や叩打を加え、その神経の知覚支配領域に不快感や痛みが発生するかどうかを調べます。
放散する疼痛やしびれの出現は、神経損傷の存在を示す重要な徴候であり、特にアキソノトメーシスのような軸索断裂が疑われる場合に行われます。
このテストは、簡便でありながら神経障害の局所診断に大いに役立つ手法です。
アキソノトメーシスの治療法
アキソノトメーシスの治療には主に次のような方法があります。
- 自然回復の待機
- リハビリテーション
- 手術的治療
それぞれ解説します。
自然回復の待機
アキソノトメーシスでは、軸索が断裂しているものの、周囲のシュワン鞘が保たれているため、神経の自然回復が期待できます。
シュワン鞘の内部で再生した軸索は、断裂した神経の終末に向けて1日1~4mmの速度で成長することが知られています。
この回復プロセスは、元の神経機能をある程度復旧させる可能性を持っており、特に外科的介入を必要としないため、患者にとっては比較的低侵襲な選択肢となります。
治療期間中、定期的な診察が行われ、神経の回復状況が医師によってモニタリングされることが一般的です。
リハビリテーション
自然回復を助けるために、リハビリテーションが非常に重要な役割を果たします。
リハビリの主な目的は、筋力の維持と拘縮の予防です。
神経が回復する過程で、関連する筋肉が適切な刺激を受け続けることが必要であり、理学療法士や作業療法士が個別の治療計画を立てます。
これには、適切な運動プログラムの実施や、必要に応じて使用される補助具の調整が含まれます。
リハビリテーションは患者の日常生活の質を向上させ、最終的な回復を促進することを目指しています。
手術的治療
アキソノトメーシスの場合、通常は自然回復に任せることが多いですが、回復が期待されない場合や、進行が遅すぎると判断された場合には手術的治療が検討されることがあります。
手術的介入は、神経機能の回復を促進するために断裂した軸索の再接続や、瘢痕組織の除去などを目的とすることがあります。
しかし、アキソノトメーシスにおいては、神経が完全に切断されているわけではないため、手術の必要性は限られており、実施される場合も慎重な判断のもとで行われます。
アキソノトメーシスのリハビリテーション
では、アキソノトメーシスに対してリハビリセラピストはどのようなプログラムを行う必要があるでしょうか?
ここでは…
- 神経スライドストレッチ
- 筋力維持
- 拘縮予防
- 電気治療
- 装具療法
…について解説します。
神経スライドストレッチ
神経スライドストレッチは、損傷した神経の柔軟性を回復させるためのリハビリテーション手法です。
このストレッチは、神経組織が元の柔軟性を取り戻し、周囲の組織との適切な滑走を再び可能にすることを目指します。
神経が柔軟になることで、引っ張られることによる痛みが減少し、日常生活での動作が楽になります。
神経スライドストレッチは、特にリハビリの初期段階で効果的であり、神経の正常な機能回復を促進するために重要な役割を果たします。
リハビリテーション専門家の指導の下、患者はこれらのストレッチを定期的に行うことで、損傷した神経の治癒プロセスを助けます。
筋力維持
神経損傷による影響を受けた筋肉群の筋力を維持するためには、適切なエクササイズが必要です。
筋力を維持することは、神経回復を待つ間の機能的能力を保つために重要です。
このエクササイズには、適度な重量を用いた筋力トレーニングや、日常的な動作を模倣する機能的動作訓練が含まれます。
筋力維持のトレーニングは、筋肉の萎縮を防ぎ、神経が再生して機能を取り戻す過程で筋肉が適切に応答できるようにするために不可欠です。
これらのエクササイズは、リハビリテーションのプログラムにおいて中核をなす部分であり、患者の日常生活への復帰を支援します。
拘縮予防
拘縮予防は、特に関節の可動域を維持するために行われるリハビリテーションです。
拘縮は関節や筋肉が硬くなり、正常な動きが制限される状態を指し、これを防ぐためには定期的なストレッチングや関節運動が必要です。
これらの活動は、関節の可動域を最大限に保ち、関節周囲の組織が硬化するのを防ぐために行います。
リハビリテーションセラピストによる適切な指導のもと、患者はこれらの運動を日常的に行うことで、拘縮のリスクを最小限に抑え、より良い生活の質を維持することができます。
電気治療
電気治療は、神経麻痺や筋肉の機能不全に対するリハビリテーション手法として広く使用されています。
この治療法は、電気刺激を用いて筋肉に直接作用させ、筋収縮を誘発することで筋力の低下を防ぎます。
また、除痛効果や血流促進もこの治療の利点です。電気治療は、損傷した神経の回復を促すためにも有効であり、感覚入力を改善することで神経の再教育プロセスを支援します。
治療は専門の設備を使用して行われ、リハビリテーション専門家によって個々の患者の状態に応じて調整されます。
装具療法
腓骨神経麻痺による下垂足は、足首の筋力低下により正常に足を持ち上げることができない状態を指し、これによりつまずきや捻挫のリスクが高まります。
この問題を解決するために足関節用装具やギプスが使用されることがあります。
これらの装具は足関節を適切な位置に保持し、安定性を提供することで歩行時の安全を向上させます。
装具の使用は、患者がより自信を持って歩行できるようにするための重要な支援手段であり、日常生活の質の向上に寄与します。
専門家による正確なフィッティングが必要であり、患者のニーズに合わせて装具がカスタマイズされることもあります。