褥瘡(床ずれ)とは、長時間同じ姿勢でいることによって皮膚や下部組織が圧迫され、血流が悪化して組織が損傷する状態です。
特に寝たきりの高齢者や病気の患者に発生しやすく、予防と早期のケアが重要です。
本記事ではこの褥瘡について解説します。
褥瘡とは
褥瘡(じょくそう)は、体の一部が長時間圧迫されることで血流が悪くなり、皮膚や組織が損傷する状態で、一般的には「床ずれ」とも呼ばれます。
特に寝たきりの方や長時間同じ姿勢でいる方に発生しやすく、圧迫された部分の皮膚が赤くなり、進行するとただれや傷ができることがあります。
褥瘡の予防には、定期的な体位変換、適切な栄養管理、そして皮膚の清潔を保つことが重要です。
褥瘡の原因
褥瘡(床ずれ)は、長時間の圧迫などにより、皮膚やその下の組織が損傷してしまう状態です。
これは以下のような様々な要因が複合的に絡み合って発生します。
- 圧迫
- 摩擦
- ずれ
- 湿気
- 栄養不足
- 血流障害
それぞれ解説します。
圧迫
褥瘡の原因の一つである圧迫は、長時間同じ姿勢でいることによって特定の部位に持続的な圧力がかかり、血流が遮断されることです。
体重による圧迫が最大の原因で、特にお尻や踵など骨が突出している部分に褥瘡ができやすいです。
この圧迫によって血液が十分に供給されなくなり、皮膚やその下の組織が損傷します。
結果として、皮膚が赤くなったり、ただれや潰瘍が発生します。
適切な体位変換とクッションの使用が、圧迫による褥瘡の予防に重要です。
摩擦
次に摩擦は、皮膚がシーツや衣服と擦れることで発生し、皮膚が損傷する原因となります。
特に体を動かす際に皮膚が強く摩擦を受けると、既存の褥瘡が悪化したり、新たな褥瘡が生じることがあります。
摩擦は、皮膚の外層を剥がすような力が加わるため、褥瘡が発生しやすい状況を作り出します。
予防策としては、柔らかい素材のシーツや衣類を使用し、患者の体を慎重に動かすことが求められます。
摩擦を最小限に抑えることで、皮膚の損傷を防ぐことができます。
ずれ
また、ずれは、体がずれることで皮膚と骨の間にせん断力が生じ、血流が悪くなる現象です。
この力が加わると、皮膚と深部組織が異なる方向に引っ張られ、血管が圧迫されて血流が遮断されます。
結果として、皮膚の損傷が進み、褥瘡が発生するリスクが高まります。
特にベッドや椅子から体が滑り落ちるような状況では、このせん断力が強く働きます。
予防には、ずれを防ぐための体位調整や専用のクッションの使用が効果的です。
湿気
湿気も褥瘡の原因の一つであり、皮膚が汗や尿などで湿った状態が続くことで、皮膚が弱くなりやすくなります。
湿潤状態が続くと皮膚がふやけて、マセラションが起こり、これにより皮膚が損傷しやすくなります。
この状態が続くと、褥瘡の発生リスクが高まり、すでに発生した褥瘡の治癒も遅れます。
皮膚の清潔を保ち、定期的に乾燥させることが、湿気による褥瘡の予防に重要です。
特に排泄物のケアを適切に行うことで、皮膚の健康を維持します。
栄養不足
栄養不足も褥瘡の重要な原因であり、栄養が不足すると皮膚や組織の修復能力が低下します。
特にタンパク質やビタミンが不足すると、皮膚の再生が遅れ、損傷した組織が十分に修復されないため、褥瘡の治癒が遅れます。
栄養状態が悪いと、皮膚の抵抗力も低下し、感染リスクも高まります。
適切な栄養補給は、褥瘡の予防と治癒において非常に重要な要素です。
バランスの取れた食事が、健康な皮膚の維持と褥瘡のリスク低減に寄与します。
血流障害
最後に、血流障害は、褥瘡の原因の一つであり、血流が悪くなることで皮膚や組織に酸素や栄養が十分に供給されなくなる状態です。
これにより、皮膚の耐久力が低下し、損傷しやすくなります。
特に末梢血管が弱い高齢者や糖尿病患者は、この血流障害によって褥瘡のリスクが高まります。
血流が十分に行き渡らない部位は、回復力も低下し、褥瘡が治りにくくなります。
予防には、適切な血行促進を行うことが重要で、マッサージや体位変換が効果的です。
褥瘡になりやすい疾患について
褥瘡を併発しやすい疾患については様々ですが、代表的なものとしては…
- うっ血性心不全
- 骨盤骨折
- 脊髄損傷
- 糖尿病
- 脳血管疾患
- 慢性閉塞性肺疾患
…があげられます。
以下にそれぞれ解説します。
うっ血性心不全
うっ血性心不全は、心臓のポンプ機能が低下し、体内の血液が適切に循環しない状態を指します。
この疾患により、体液のうっ滞が起こり、特に下肢において浮腫みが生じやすくなります。
浮腫みや循環不良は皮膚の健康に悪影響を与え、特定の部位への持続的な圧力により褥瘡が発生しやすくなります。
また、体位変換の困難さや長期臥床も褥瘡リスクを高める要因となります。
骨盤骨折
骨盤骨折は、転倒や事故によって生じる深刻な怪我で、特に高齢者に多く見られます。
骨折により長期間の臥床や安静が必要となるため、体位の変更が困難になり、一定の体部に持続的な圧力がかかります。
これが褥瘡の主要な発生原因となり、痛みや運動制限も褥瘡のリスクを高めます。
骨折部位の治癒に時間がかかることもあり、長期にわたる対応が必要になる場合があります。
脊髄損傷
脊髄損傷は、外傷や病気により脊髄が損傷を受けることで起こります。
この損傷により、感覚障害や運動障害が引き起こされ、患者は体位変更や自分の体を動かす能力を失いやすくなります。
感覚の喪失は、皮膚に圧力がかかっていることを認識しにくくし、褥瘡の発生リスクを高めます。
また、長期臥床や車椅子の使用も、特定の体部に持続的な圧力を与え、褥瘡を引き起こしやすくします。
糖尿病
糖尿病は、血糖レベルが異常に高くなる慢性疾患で、血流不良や神経障害を引き起こすことがあります。
これらの合併症は、皮膚の感覚を低下させ、小さな傷や圧力に対する反応を鈍くします。
また、糖尿病患者は傷の治癒が遅れやすく、小さな皮膚損傷が深刻な褥瘡へと進行しやすい傾向にあります。
血糖コントロールの悪化はこれらのリスクをさらに高めます。
脳血管疾患
脳血管疾患、特に脳卒中は、脳への血流障害により起こります。
この疾患により片麻痺や認知機能の低下が生じることが多く、これが体位変更の困難さにつながります。
長時間同じ姿勢でいることが多くなり、これが褥瘡のリスクを高めます。
また、感覚障害も褥瘡発生の要因となり得ます。
慢性閉塞性肺疾患
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、肺の機能が長期的に損なわれる病気で、呼吸困難や持続的な咳が特徴です。
この疾患により全身の酸素供給が不足し、組織の修復能力が低下します。
これが褥瘡の発生や悪化を促進する原因となります。
また、長期間の臥床や活動制限も、特定部位への圧力を増加させ、褥瘡リスクを高めます。
褥瘡発生のリスクが高まる可能性がある疾患について
加えて高度ではないものの、褥瘡発生のリスクが高まる可能性がある疾患としては…
- 悪性腫瘍
- アルツハイマー病
- 関節リウマチ
- 骨粗鬆症
- 深部静脈血栓症
- パーキンソン病
- 末梢血管疾患
- 尿路感染症
…などがあげられます。
これらについても以下にそれぞれ解説します。
悪性腫瘍
悪性腫瘍は、がん細胞が体内で異常増殖する状態です。
がんによる全身状態の悪化や治療の副作用(化学療法や放射線治療など)は、栄養不良や免疫力の低下を招き、褥瘡のリスクを高めます。
また、がんによる疼痛や治療後の回復過程で長時間の臥床が必要になることもあり、これが圧力点に対する持続的な負荷となり、褥瘡発生のリスクを増加させます。
アルツハイマー病
アルツハイマー病は、脳の神経細胞が徐々に破壊されることで進行する認知症の一種です。
この病気による記憶力や判断力の低下は、自己ケア能力の喪失につながり、褥瘡予防における適切な体位変更や皮膚ケアが困難になる可能性があります。
さらに、不適切な栄養摂取や不十分な水分補給も、褥瘡の発生リスクを高める要因となります。
関節リウマチ
関節リウマチは、免疫系の異常により関節に慢性的な炎症が生じる自己免疫疾患です。
炎症による痛みと関節の変形は、体位変更の困難さを引き起こし、特定の部位への圧力が持続することで褥瘡のリスクが高まります。
また、炎症の管理のための長期的な薬物治療は、副作用として皮膚の脆弱性を引き起こす可能性があります。
骨粗鬆症
骨粗鬆症は、骨密度と骨質の低下により骨がもろくなる状態です。
骨の脆弱性が高まることで、軽微な圧力でも骨折のリスクが増加し、これが長期臥床を必要とする可能性があります。
長期臥床は、特定部位への圧力が持続することにより褥瘡のリスクを高めます。
深部静脈血栓症
深部静脈血栓症は、主に下肢の深部静脈に血栓が形成される病状です。
血栓による血流の障害は、皮膚への酸素と栄養素の供給を低下させ、褥瘡のリスクを高めます。
また、この疾患により運動制限が必要になることがあり、長期臥床による圧力が褥瘡発生のリスクを増加させます。
パーキンソン病
パーキンソン病は、脳内のドーパミン産生細胞が減少することにより進行する神経変性疾患です。
運動障害、特に固縮や震えが、体位変更の困難さや不自由さを引き起こし、これが褥瘡の発生リスクを高めます。
また、この病気による活動の低下は、皮膚への持続的な圧力を引き起こす要因となります。
末梢血管疾患
末梢血管疾患は、主に下肢の血管が狭窄することにより起こります。
この血管の狭窄は、皮膚への血液供給を低下させ、褥瘡のリスクを高めます。
また、狭窄による痛みや運動制限は、長期臥床や特定部位への圧力を増加させる要因となります。
尿路感染症
尿路感染症は、尿路系に細菌が感染することにより引き起こされます。
頻繁な排尿や不快感により、適切な体位変更が困難になることがあり、これが褥瘡のリスクを増加させます。
また、感染による全身状態の悪化も、褥瘡の発生リスクを高める要因となります。
褥瘡の好発部位
褥瘡は、体圧がかかりやすい部位にできやすいのが特徴です。
特に、骨が突出している部分や、長時間同じ体勢でいることで圧迫を受けやすい部位に発生しやすい傾向があります。
ここでは褥瘡の好発部位を…
- 仰臥位(仰向け)の場合
- 側臥位(横向き)の場合
- 座位の場合
…という姿勢別に分けて解説します。
仰臥位(仰向け)の場合
褥瘡の好発部位として、仰向け(仰臥位)では、後頭部、肩甲骨、脊柱、仙骨、かかとが特にリスクが高いです。
これらの部位は骨が皮膚に近いため、体重が集中しやすく、長時間圧迫されると血流が悪くなりやすいです。
特に仙骨やかかとは、寝たきりの患者にとって褥瘡ができやすい部位です。
後頭部や肩甲骨も注意が必要で、頭部の支えが不十分だったり、上半身の姿勢が固定されることで、褥瘡が発生しやすくなります。
体位変換や適切なクッションの使用が、これらの部位の褥瘡予防に役立ちます。
側臥位(横向き)の場合
横向き(側臥位)では、耳、肩関節、肘関節、腸骨(骨盤の横側)、大転子(お尻の横側)、膝関節、くるぶしが褥瘡の好発部位です。
これらの部位は、側臥位で長時間過ごすことで圧迫されやすく、特に骨が突出している部分に褥瘡ができやすいです。
耳や肩関節は、枕や寝具との接触部分であり、適切なサポートがないと損傷しやすいです。
また、大転子や膝関節、くるぶしは、体重が集中しやすい部位で、皮膚の圧迫が長時間続くと褥瘡が発生します。
側臥位を取る際には、これらの部位に圧力がかからないよう、体位を工夫することが重要です。
座位の場合
座位の場合、尾骨、坐骨、踵が褥瘡の好発部位として挙げられます。
特に座位で長時間過ごす場合、これらの部位は座面や車椅子のフットレストなどで圧迫されやすく、褥瘡のリスクが高まります。
尾骨や坐骨は、体重が集中するため、座り方が悪いと褥瘡ができやすくなります。
また、踵は車椅子のフットレストに触れているときに圧迫されることが多く、特に注意が必要です。
座位の褥瘡予防には、座位時間の管理や適切なクッションの使用、定期的な体位変換が効果的です。
褥瘡の症状
褥瘡は、その進行度によって様々な症状が現れます。
以下に褥瘡の主な症状を
- 初期症状
- 中期症状
- 後期症状
…という段階的に解説します。
初期症状
褥瘡の初期症状は、圧迫を受けた部位が赤くなり、浮腫が生じ、患部に熱感が感じられることです。
皮膚が硬くなる硬結も見られ、進行の兆候です。
重要なポイントとして、赤くなった部分を指で押して白くなるかを確認する方法があり、すぐに赤みが戻れば褥瘡ではない可能性があります。
これらの症状が現れた段階で、早期の対応が褥瘡の進行を防ぐために重要です。
初期の症状を見逃さないことが、予防とケアの第一歩です。
中期症状
中期症状では、水疱やびらんが現れ、皮膚の表面が剥がれて浅い潰瘍ができることがあります。
この段階では、疼痛を感じることが多く、日常生活に支障をきたすことが増えます。
水疱が破れると、傷口が広がり、感染のリスクが高まります。
適切な処置を行わないと、さらに深刻な状態へと進行する可能性があります。
後期症状
褥瘡が後期に進行すると、深い潰瘍が形成され、場合によっては筋肉や骨まで達することがあります。
この段階では、組織が死んで黒くなる壊死が見られ、悪臭や膿が発生することもあります。
感染が進行すると、発熱や悪寒など全身症状が現れることがあり、命に関わることもあります。
適切な治療を受けることで、さらなる進行を防ぐことができますが、この段階では回復が難しくなる場合が多いです。
早期発見と適切なケアが、褥瘡の重篤化を防ぐ鍵となります。
褥瘡のステージについて
褥瘡のステージは、褥瘡の進行度を評価するために使用される分類システムです。
主なものとして…
- DESIGN-R®
- NPUAP(米国褥瘡諮問委員会)
…が広く使われています。
それぞれ解説します。
DESIGN-R®
“DESIGN-R®”は、褥瘡の重症度を詳細に評価するための評価システムで、7つの尺度でスコアリングを行います。
これらの尺度には、褥瘡の深さ(Depth)、滲出液の量(Exudate)、皮膚損傷部の大きさ(Size)、炎症や感染の有無(Inflammation/Infection)、良性肉芽の割合(Granulation tissue)、壊死組織の有無(Necrotic tissue)、ポケットの有無(Pocket)が含まれます。
各項目に点数を付け、最終的に0~66点のスコアで褥瘡の重症度が評価されます。
このシステムは、褥瘡の治療計画を立てる上で非常に有用であり、進行度の把握や治療の効果測定に役立ちます。
DESIGN-R®によって、褥瘡の状態をより客観的かつ詳細に評価することが可能です。
NPUAP(米国褥瘡諮問委員会)
NPUAPのステージ分類は、褥瘡の進行度を評価するための基準で、ステージIからIVまでの4段階に分かれています。
ステージIでは皮膚の発赤が見られるが、皮膚の欠損はなく、早期の兆候を示しています。
ステージIIでは、真皮までの部分的な皮膚欠損があり、水疱や浅い潰瘍が形成されます。
ステージIIIでは皮膚の全層が欠損し、皮下脂肪が露出する状態となり、深刻な組織損傷が見られます。
ステージIVでは筋肉、腱、骨まで露出するほどの深い組織欠損が進行し、最も重篤な状態を示します。
国際的かつ一般的にはこのNPUAPが使われているようです。
褥瘡のスケール
褥瘡のリスクアセスメント・スケールには、褥瘡の発生リスクを評価するためのさまざまな方法があります。
以下に代表的なスケールとして…
- ブレーデンスケール
- K式スケール
- OHスケール
- 厚生労働省褥瘡危険因子評価票
…について解説します。
ブレーデンスケール
ブレーデンスケールは、褥瘡のリスクを評価するために最も広く使用されているスケールで、6つの要因で評価されます。
これらの要因には、痛みや圧迫を感じる能力(知覚の認知)、皮膚の湿り具合(湿潤)、日常の活動レベル(活動性)、体位を変える能力(可動性)、栄養摂取の状況(栄養状態)、および皮膚が摩擦やずれにさらされる程度(摩擦とずれ)が含まれます。
各項目を1点(最もリスクが高い)から4点(最もリスクが低い)で評価し、総合得点が低いほど褥瘡のリスクが高いと判断されます。
特に医療現場で使用されることが多く、予防対策の計画立案に役立つ評価ツールです。
早期の介入と適切なケアが、リスクの高い患者を守るために重要です。
K式スケール
K式スケールは、日本で開発された褥瘡リスク評価ツールで、前段階要因と引き金要因の2つのカテゴリで構成されています。
前段階要因として、自力体位変換ができないこと、骨の突出、栄養状態の悪さが挙げられます。
引き金要因としては、体圧、皮膚の湿潤、ずれが含まれ、各項目をYes(1点)またはNo(0点)で評価します。
総合得点が高いほど、褥瘡のリスクが高くなるため、リスクの高い患者に対する特別な注意が必要です。
また、K式スケールは、リスクの評価だけでなく、治療効果のモニタリングにも使用されることがあります。
OHスケール
OHスケールは、特に寝たきり高齢者や虚弱高齢者を対象にした褥瘡リスク評価ツールで、自力体位変換能力、病的骨突出、浮腫、関節拘縮の4項目で評価します。
これらの要因は、長期間同じ体位で過ごす患者にとって、褥瘡が発生しやすい状況を反映しています。
特に、自力で体位を変える能力が低下している患者は、体重が特定の部位に集中しやすく、褥瘡のリスクが高まります。
OHスケールの合計点数が高い場合、介護者や医療従事者は特別な配慮と予防策を講じる必要があります。
このスケールは、高齢者のケアにおいて非常に有用です。
厚生労働省褥瘡危険因子評価票
厚生労働省褥瘡危険因子評価票は、日本の厚生労働省が提供する評価ツールで、日常生活自立度がBまたはCの対象者に対して使用されます。
この評価票では、基本的動作能力、病的骨突出、関節拘縮、栄養状態の低下、皮膚の湿潤、皮膚の脆弱性(浮腫やスキン-テアの保有、既往)の7つの項目で褥瘡のリスクを評価します。
各項目を詳細に評価することで、褥瘡の発生リスクを把握し、予防策を講じることが可能です。
この評価票は、日本国内の医療機関や介護施設で広く使用されており、特にリスクの高い患者に対して重点的に使用されています。
褥瘡を予防するには?
褥瘡(床ずれ)は、早期発見と適切なケアが重要ですが、何より予防することが大切です。
褥瘡を予防するための具体的な方法として…
- 体位変換
- 皮膚の清潔保持
- 栄養管理
- 床ずれ防止用具の使用
- 皮膚の観察
- 摩擦と剪断力の軽減
- 感染予防
- リハビリテーション
- 個々の状態に合わせたケアとチーム医療
…などがあげられます。
それぞれ解説します。
体位変換
体位変換は、褥瘡予防の基本であり、2時間ごとの体位変換が推奨されています。
仰向け、横向き、うつ伏せなどの様々な姿勢を取ることで、圧力が特定の部位に集中するのを防ぎます。
また、体位変換クッションや体圧分散マットレスを使用することで、圧力を均等に分散させ、褥瘡のリスクを軽減します。
特に寝たきりの患者には定期的な体位変換が不可欠です。
患者の状態に合わせて、頻度や方法を調整することが重要です。
皮膚の清潔保持
皮膚の清潔保持も褥瘡予防において重要な役割を果たします。
尿や便、汗などで皮膚が汚れた場合は速やかに清拭し、常に清潔を保つことが求められます。
皮膚を乾燥させないように保湿剤を使用し、摩擦を避けるために優しく扱うことも大切です。
皮膚が健康であることは、褥瘡のリスクを大きく下げます。
また、皮膚の健康状態を常に観察し、異常があれば早期に対処する必要があります。
栄養管理
栄養管理は、皮膚の再生能力を高め、褥瘡予防に大きな効果をもたらします。
タンパク質、ビタミン、ミネラルなど、栄養素をバランスよく摂取することで、皮膚や組織の修復が促進されます。
また、水分補給も重要で、脱水状態が続くと皮膚が乾燥し、褥瘡のリスクが増します。
栄養状態が悪い患者には、必要に応じて栄養補助食品を利用することが推奨されます。
栄養管理は、他の予防策とともに行うことで、より効果的な褥瘡予防が可能です。
床ずれ防止用具の使用
床ずれ防止用具の使用は、体圧を分散させ、褥瘡の発生を防ぐための効果的な手段です。
体圧分散マットレスは、患者の体重が均等に分散されるよう設計されており、特定の部位に圧力が集中するのを防ぎます。
また、肘や踵など、圧力がかかりやすい部分にクッションを使用することで、褥瘡のリスクをさらに軽減できます。
シーツや衣類のしわを伸ばし、摩擦やずれを防ぐことも重要です。
適切な用具を使用することで、長時間の圧迫から患者を守ることができます。
皮膚の観察
皮膚の観察は、褥瘡予防において不可欠なプロセスです。
毎日、特に圧迫を受けやすい部位を定期的に観察し、皮膚の赤みや腫れ、熱感などの異常を早期に発見することが重要です。
褥瘡の初期兆候を見逃さないことで、早期に対策を講じることができ、進行を防ぎます。
異常が見られた場合は、すぐに医師や看護師に報告し、適切な治療を受ける必要があります。
早期発見が、褥瘡の進行を防ぐ鍵です。
摩擦と剪断力の軽減
摩擦と剪断力の軽減は、褥瘡予防において重要なポイントです。
患者を移動させる際は、体を引き起こすのではなく持ち上げるようにすることで、皮膚とシートの摩擦を防ぎます。
また、滑りの良いシートを選ぶことで、摩擦や剪断力を軽減することができます。
摩擦やずれが生じると皮膚が損傷しやすくなり、褥瘡が発生しやすくなります。
摩擦を減らすことは、特に体位変換時に重要です。
細心の注意を払い、患者を優しく扱うことが求められます。
感染予防
感染予防も褥瘡管理に欠かせない要素です。
感染が進行すると褥瘡が悪化し、治癒が遅れる可能性があるため、常に清潔な環境を保つことが重要です。
手洗いや消毒を徹底し、周囲の環境も衛生的に保ち、感染のリスクを最小限に抑えます。
特に、傷口がある場合や褥瘡が進行している場合は、感染管理を徹底する必要があります。
清潔な環境は、患者の健康維持にも重要です。
リハビリテーション
リハビリテーションによる活動性の維持も、褥瘡予防に効果的です。
患者ができる限り体を動かすことで、血行が促進され、褥瘡のリスクが低減します。
リハビリスタッフや介護者と協力して、可能な範囲で日常的に体を動かすことが勧められます。
活動性が維持されることで、体力が向上し、圧力の集中が緩和されます。
患者の状態に合わせたリハビリが、褥瘡予防に大きく寄与します。
個々の状態に合わせたケアとチーム医療
最後に、個々の状態に合わせたケアとチーム医療が重要です。
患者の年齢、栄養状態、既往歴などに基づき、最適なケア計画を立てることが必要です。
また、医師、看護師、リハビリスタッフ、栄養士など、多職種が連携してケアを行うことで、より総合的で効果的な褥瘡予防が可能になります。
褥瘡のリスクは個々の状況によって異なるため、適切なチーム医療が求められます。
褥瘡予防のためのクッションの当て方
褥瘡予防にクッションを使用することは非常に有効です。
しかし、どの部位に、どのような種類のクッションを当てるかによって、その効果は大きく変わってきます。
ここでは…
- クッションの当て方の基本
- クッションの種類と特徴
- 部位別クッションの当て方
- クッションを使用する際の注意点
- その他の配慮
…について解説します。
クッションの当て方の基本
クッションの当て方の基本は、褥瘡予防のために重要な要素です。
まず、クッションを当てる際には、体とクッションの間に隙間ができないように注意します。
隙間があると圧力が集中し、褥瘡のリスクが高まります。
また、クッションを使用する際は、手で平らにしてから入れることで、圧力を均等に分散させ、より効果的な予防が可能です。
最後に、クッションを当てた後は体がねじれていないか確認することが大切で、ねじれがあると特定の部位に圧力が集中してしまいます。
クッションの種類と特徴
クッションの種類と特徴には、褥瘡予防のために体圧を分散する体圧分散クッション、体位を保持するポジショニングクッション、特定の治療に用いられるドーナツクッションなどがあります。
体圧分散クッションはジェルや空気などの素材で作られており、体重が一か所に集中するのを防ぎます。
ポジショニングクッションは、体位をしっかり保ち、特定の部位への圧力を軽減するのに役立ちます。
ドーナツクッションは一般に痔の治療で使われますが、褥瘡予防にも使用されることがあります。
ただし、血流を阻害する可能性があるため、使用には注意が必要です。
部位別クッションの当て方
部位別クッションの当て方として、各部位に合わせた方法があります。
例えば、仙骨部では体圧分散クッションを使用して圧力を分散させ、踵では踵が浮くようにクッションを入れて、ベッドに触れないようにします。
肘や肩甲骨も同様に、圧力が集中しないようにクッションを当て、ベッドに直接触れないようにします。
大転子部では、横にクッションを当てて体圧を分散させ、褥瘡の発生リスクを軽減します。
各部位に合わせたクッションの適切な当て方が、褥瘡予防に大きく貢献します。
クッションを使用する際の注意点
クッションを使用する際の注意点として、定期的な体位変換が不可欠であり、クッション使用だけでは予防が十分でないことを理解することが重要です。
また、患者の体格や褥瘡の状態に合わせて、適切な形状と硬さのクッションを選ぶ必要があります。
さらに、クッションを使用している部位の皮膚状態を定期的に観察し、赤みや異常がないか確認することが求められます。
これにより、褥瘡の進行や新たな褥瘡の発生を防ぐことができます。
その他の配慮
その他の配慮として、オーダーメイドクッションの作成も可能で、患者の体型や褥瘡の部位に合わせた特注クッションが使用されることがあります。
クッションの選び方や当て方については、医師や看護師といった医療専門家に相談し、適切なケアを提供することが大切です。
これらのポイントを押さえることで、褥瘡予防に効果的なクッションの使用が可能となり、患者の生活の質を向上させることができます。
褥瘡予防のためのマットレス
褥瘡予防マットは、大きく分けて以下の種類があります。
- 空気層式マットレス
- ゲルマットレス
- ウレタンフォームマットレス
- 羊毛マットレス
それぞれ解説します。
空気層式マットレス
空気層式マットレスは、褥瘡予防に効果的なマットレスで、体圧を効率的に分散することができます。
複数の空気室を個別に調整できるタイプもあり、患者の体に合わせて圧力を細かく調整可能です。
このマットレスは、体位変換が頻繁にできない方や、褥瘡のリスクが広範囲にわたる方に特に適しています。
体圧分散性に優れているため、寝たきりの患者の褥瘡予防に効果的です。
代表的な製品には、アルファプラやケープなどがあり、医療現場でも広く使用されています。
ゲルマットレス
ゲルマットレスは、ゲル素材を使用したマットレスで、体に合わせて形状が変化しながら体圧を分散します。
体圧分散性が高く、患者に快適な寝心地を提供するため、長時間の使用にも適しています。
さらに、体温を吸収して放熱する機能があるため、特に夏場などには快適な環境を保つことができます。
ゲルマットレスは、体温管理が重要な患者や快適性を重視したケアを行う際に有効です。
代表的な製品にはエアロセンサなどがあり、褥瘡リスクの軽減に貢献します。
ウレタンフォームマットレス
ウレタンフォームマットレスは、ウレタンフォームの密度や硬さによって体圧分散性が異なるため、様々なニーズに応じて選べるのが特徴です。
通気性が良く、洗浄が可能な製品も多いため、衛生管理がしやすい点が利点です。
価格が比較的安価で、手軽に導入できるため、広く使用されています。
特に初期の褥瘡予防や低リスクの患者に向いており、通気性の良さから夏場にも適しています。
代表的な製品には、キュオラなどがあり、手軽に使用できる体圧分散マットレスとして評価されています。
羊毛マットレス
羊毛マットレスは、羊毛の自然な弾力性を利用して体圧を分散するマットレスで、通気性と吸湿性にも優れています。
羊毛は天然素材であるため、環境に優しく、快適な寝心地を提供しますが、アレルギー体質の方には不向きな場合があります。
特に汗をかきやすい患者に適しており、湿気を吸収しながら快適な環境を保つことができます。
褥瘡予防においては、天然素材の優れた特性を活かしたケアが可能です。
ただし、アレルギーに対する配慮が必要です。
褥瘡予防のためのスキンケア
褥瘡(床ずれ)の予防には、体圧分散や体位変換だけでなく、皮膚のケアも非常に重要です。
皮膚を健康に保つことで、外部からの刺激に強くし、褥瘡の発生を予防することができます。
ここではその基本方法として…
- 洗浄
- 保湿
- 保護
…について解説します。
洗浄
洗浄は、褥瘡予防のスキンケアの基本であり、汗や尿、便などの汚れを洗い流して皮膚を清潔に保つことが重要です。
中性の洗剤を使用して優しく洗うことが推奨され、ゴシゴシ擦ると皮膚にダメージを与えるため、注意が必要です。
特に弱酸性の洗浄剤が皮膚への負担を軽減し、皮膚のバリア機能を守ります。
頻度としては、汚れた時や入浴時などにこまめに行うことが理想です。
清潔な皮膚を維持することで、感染リスクや褥瘡の発生を防ぎます。
保湿
保湿は、皮膚の水分を保持し、乾燥を防ぐための重要なスキンケアの一環です。
皮膚が乾燥すると、バリア機能が低下し、外部からの刺激に弱くなるため、保湿剤を使用して保護することが必要です。
保湿剤にはヘパリン類似物質軟膏やワセリン、クリームなどがあり、皮膚の状態に合わせて選びます。
洗浄後や皮膚が乾燥していると感じた時に塗布することで、皮膚の健康を保つことができます。
保湿は、特に乾燥が進行しやすい高齢者や長期療養者にとって欠かせないケアです。
保護
保護は、皮膚を外部からの刺激や摩擦、湿気から守るためのケアです。
バリアクリームや撥水性クリームを使用することで、皮膚を尿や便などの排泄物による刺激から保護します。
特に失禁がある患者には、排泄物が付着する部位に事前にバリア剤を塗布することで、皮膚の損傷を防ぐことができます。
皮膚保護剤は、皮膚に薄い膜を形成し、摩擦や刺激を軽減し、褥瘡リスクを減らす効果があります。
排泄ケアを行う際には、皮膚保護剤の適切な使用が重要です。
褥瘡の治療について
褥瘡の治療は、褥瘡の深さや広がり、感染の有無など、様々な要因によって異なります。
一般的に、以下の治療法が組み合わせて行われます。
- 原因となる圧力の除去
- 局所治療
- 全身管理
- 外科的治療
- 物理療法
それぞれ解説します。
原因となる圧力の除去
原因となる圧力の除去は、褥瘡治療の基本であり、体位変換や体圧分散を通じて行われます。
2時間ごとの体位変換を基本とし、患者の状態に合わせて圧力が集中しないように調整します。
さらに、体圧分散マットレスやクッションを使用することで、褥瘡部位への圧力を分散し、患部の悪化を防ぎます。
これにより、皮膚や組織への圧力が軽減され、治癒の促進に繋がります。
圧力除去は、褥瘡が発生した場合の最初のステップとして重要です。
局所治療
局所治療では、創傷の洗浄とデブリードマン(壊死組織の除去)が行われます。
生理食塩水で傷口を洗浄し、汚れや壊死組織を除去することで、感染のリスクを減らし、治癒環境を整えます。
デブリードマンは手術的に壊死組織を切除する方法や、薬剤を使用して壊死を溶かす方法があり、傷口を清潔に保つために重要です。
また、ドレッシング材を使って湿潤療法を行い、適切な湿潤環境を維持しながら治癒を促進します。
局所治療は、褥瘡の状態に合わせて適切なケアを選択することが必要です。
全身管理
全身管理は、栄養や疼痛、感染などの管理を通じて褥瘡の治癒を支援する重要な要素です。
栄養管理では、タンパク質やビタミンを十分に摂取することで、組織の修復を促進します。
疼痛管理は、痛みをコントロールするために鎮痛剤を使用し、患者の生活の質を向上させる役割を果たします。
感染が疑われる場合は、抗生物質を投与し、感染の拡大を防ぎます。
全身的な健康管理を行うことで、局所治療の効果を最大限に引き出すことが可能になります。
外科的治療
外科的治療は、深い褥瘡や広範囲にわたる褥瘡に対して行われる治療方法です。
皮膚移植では、患者自身の皮膚を移植して創傷部を覆い、治癒を促進します。
筋肉弁移植は、広範囲の褥瘡や重度の損傷がある場合に使用され、筋肉を移植して傷口をカバーし、治癒を助けます。
外科的治療は褥瘡が進行している場合や、他の治療方法では改善が見られない場合に適用されます。
早期に適切な外科治療を行うことで、褥瘡の治癒が促進されます。
物理療法
物理療法としては、陰圧閉鎖療法(NPWT)や超音波療法が使用されます。
陰圧閉鎖療法では、創傷に陰圧をかけることで滲出液を除去し、血流を改善しながら治癒を促進します。
この方法は、慢性褥瘡や難治性の褥瘡に効果的です。超音波療法は、超音波を使用して血流を改善し、創部の組織修復を促進する治療法です。
物理療法は、褥瘡治療の補助的な手段として、従来の治療と組み合わせて行われることが多く、治療効果を向上させます。
褥瘡に対しての軟膏の使い分けについて
褥瘡の治療に使用される軟膏は、褥瘡の状態や進行度に応じて使い分けることが重要です。
以下に、褥瘡の状態別として…
- 壊死組織が多い場合
- 感染徴候がある場合
- 肉芽形成や上皮化が遅い場合
- 滲出液の量が多い場合
- 滲出液の量が少ない場合
…の軟膏の使い分けについて解説します。
壊死組織が多い場合
壊死組織が多い場合は、褥瘡の治療において、まず壊死組織の除去が重要です。
この場合、壊死組織除去作用のある軟膏を使用します。
具体的には、カデキソマー・ヨウ素やポビドンヨード・シュガーなどが適しており、これらの軟膏は壊死組織を溶解したり、傷口を清潔に保ち、治癒を促進する効果があります。
壊死組織を除去することで、創面が再生しやすい環境を整えることができるため、褥瘡の進行を防ぎ、治療を加速します。
定期的な観察と適切な処置が、褥瘡の改善に不可欠です。
感染徴候がある場合
感染徴候がある場合には、抗菌作用のある軟膏が必要です。
褥瘡が感染すると、治癒が遅れ、さらに悪化する可能性があるため、スルファジアジン銀やフラジオマイシン硫酸塩といった抗菌軟膏を使用して感染を抑制します。
これらの軟膏は、感染部位に直接作用し、細菌の繁殖を防ぎ、炎症を軽減します。
感染の早期発見と適切な軟膏の使用が、褥瘡の悪化を防ぎ、治癒を促進するために重要です。
感染管理は、褥瘡治療の重要な要素であり、特に免疫力が低下している患者には細心の注意が必要です。
肉芽形成や上皮化が遅い場合
肉芽形成や上皮化が遅い場合には、肉芽形成や上皮化を促進する軟膏が使用されます。
アルプロスタジルアルファデクスやリゾチーム塩酸塩などの軟膏が一般的に使用され、これらは血流を改善し、組織の再生を促します。
褥瘡の治癒過程において、肉芽形成や上皮化が順調に進まない場合、これらの軟膏を適切に使用することで、創傷の回復を早めることが可能です。
創面の状態を観察し、必要に応じて使用することで、治癒が遅れることを防ぎます。
適切なタイミングでの軟膏の使用が、褥瘡治療において重要です。
滲出液の量が多い場合
滲出液の量が多い場合は、水溶性基剤の軟膏を使用して滲出液を吸収し、創面を清潔に保つことが求められます。
アクトシン軟膏やブロメライン軟膏は、滲出液を効率的に吸収し、湿潤環境を適切に維持しながらも過剰な液体を取り除きます。
滲出液が多いと創面がふやけて感染のリスクが高まるため、適切な吸水性軟膏を選ぶことが重要です。
滲出液の量に応じた適切な軟膏を選ぶことで、褥瘡治療の効果が向上します。
適切な湿潤環境を維持することが、治癒を促進する鍵です。
滲出液の量が少ない場合
滲出液の量が少ない場合には、油脂性基剤の軟膏を使用して、創面を保護しつつ保湿することが重要です。
亜鉛華軟膏やアズノール軟膏などが適しており、これらは乾燥した創面を潤し、皮膚のバリア機能を維持しながら治癒を促します。
滲出液が少ない場合は、乾燥によって皮膚が裂けやすくなり、褥瘡が悪化するリスクがあるため、保湿効果のある軟膏で皮膚を保護することが必要です。
乾燥状態に応じた適切な軟膏を選ぶことで、治癒がスムーズに進むようサポートします。
褥瘡と低栄養のメカニズムについて
褥瘡(床ずれ)と低栄養は、密接な関係があり、互いに悪影響を与え合うことが知られています。
ここでは、褥瘡と低栄養のメカニズムとして…
- 組織の脆弱化
- 免疫力の低下
- 血流の悪化
- 浮腫(むくみ)
…という視点から解説します。
組織の脆弱化
組織の脆弱化は、低栄養状態にある患者で特に問題となります。
体内のタンパク質や脂肪が不足すると、皮膚や筋肉の組織が脆弱になり、圧力や摩擦に対する耐性が低下します。
この結果、体圧が集中する部位で組織が損傷しやすくなり、褥瘡の発生リスクが大幅に高まります。
特に寝たきりの患者において、体圧がかかる部位が損傷しやすく、適切な栄養管理が褥瘡予防において重要です。
栄養不足は、身体全体の組織の健康を維持するために必要な要素です。
免疫力の低下
免疫力の低下は、栄養不足により引き起こされ、感染症のリスクを高めます。
低栄養状態では、体が必要とするエネルギーや栄養素が不足し、免疫細胞の機能が低下します。
これにより、感染症が褥瘡部位で発生しやすくなり、治癒が遅れる原因となります。
感染症が進行すると、褥瘡はさらに悪化し、治療が難しくなる場合があります。
免疫力を維持するために、バランスの取れた栄養摂取が必要であり、特に免疫が低下しやすい高齢者や長期療養者において重要な課題です。
血流の悪化
血流の悪化は、低栄養によって引き起こされるもう一つの重要な要因です。
栄養不足は血液の循環に悪影響を与え、皮膚や組織に十分な酸素や栄養が供給されなくなります。
血流が悪化することで、皮膚や筋肉の修復能力が低下し、圧迫された部分が損傷しやすくなります。
結果として、褥瘡のリスクが高まるだけでなく、既に発生した褥瘡の治癒が遅れることもあります。
血流を改善するための栄養管理は、褥瘡の予防および治療において重要な要素です。
浮腫(むくみ)
浮腫(むくみ)は、低栄養状態が体内の水分バランスに悪影響を与える結果、発生しやすくなります。
浮腫が発生すると、皮膚や組織に余計な圧力がかかり、これが褥瘡のリスクをさらに高めます。
浮腫による皮膚の張りや脆弱化により、皮膚が破れやすく、圧力や摩擦に耐える力が低下します。
特に、長時間同じ姿勢で過ごす患者は、浮腫の影響を受けやすく、褥瘡の発生が懸念されます。
栄養管理と共に、体液のバランスを保つことが重要です。
褥瘡は何日でできる?
褥瘡ができるまでの期間は、個々の状況や条件によって異なりますが、一般的には数時間から数日で発生することがあります。
特に、以下のような条件が揃うと、褥瘡が短期間で発生しやすくなります。
- 高齢者
- 慢性疾患
- 栄養不良
- 水分不足
- 摩擦や剪断力
- 不適切な体位
それぞれ解説します。
高齢者
高齢者は、皮膚が薄くなり、弾力性が低下するため、褥瘡が早くできやすい要因の一つです。
加齢により皮膚の水分保持力や血流が低下し、組織が圧力や摩擦に対する耐性を失います。
そのため、圧迫を受けやすい骨の突出部分などに褥瘡が発生しやすくなります。
また、皮膚の再生能力も低下しているため、褥瘡が一度できると治癒が遅れる傾向があります。
高齢者に対しては、特に定期的な体位変換とスキンケアが重要です。
慢性疾患
慢性疾患を持つ人は、糖尿病や循環器疾患、神経疾患などの影響で、血流や神経の機能が低下し、褥瘡が発生しやすくなります。
特に糖尿病患者は、末梢神経の感覚が鈍くなるため、圧迫されている部位に気づかず、褥瘡が進行しやすくなります。
循環器疾患は血液の循環が悪く、組織への酸素や栄養の供給が不足するため、皮膚や筋肉の損傷が起こりやすいです。
また、神経疾患による運動機能の低下も、体位変換ができず褥瘡ができやすくなります。
栄養不良
栄養不良は、褥瘡ができやすくなる重要な要因です。
タンパク質やビタミンが不足すると、皮膚や筋肉の再生能力が低下し、外部からの圧力や摩擦に対する抵抗力が弱くなります。
特にタンパク質は、皮膚や組織の修復に必要な栄養素であり、不足すると褥瘡が発生した場合に治癒が遅れます。
また、ビタミンCや亜鉛などの栄養素も、皮膚の健康を維持するために重要です。
栄養管理が不十分な患者は、褥瘡予防のために適切な栄養摂取が必要です。
水分不足
水分不足は、皮膚の乾燥を引き起こし、褥瘡ができやすくなる原因となります。
脱水状態では、皮膚が乾燥して弾力を失い、外部からの圧力や摩擦に対する耐性が低下します。
また、乾燥した皮膚はひび割れが生じやすく、傷つきやすい状態になるため、褥瘡のリスクが高まります。
水分補給は皮膚の健康を維持するために重要であり、特に寝たきりの患者や長期入院患者には、適切な水分摂取が求められます。
皮膚の乾燥を防ぐため、十分な水分補給と保湿ケアが必要です。
摩擦や剪断力
摩擦や剪断力は、褥瘡が発生する際に重要な要因です。
体位変換や移動時に皮膚がベッドやシーツにこすれることで、皮膚の表層が損傷し、褥瘡が発生しやすくなります。
また、せん断力とは、体がずれることで皮膚の下にずれが生じ、皮膚と深部組織の間に損傷が起こる現象です。
これにより、皮膚の内部組織が破壊され、深刻な褥瘡が発生する可能性があります。
摩擦とせん断力を軽減するため、滑りの良いシートや体圧分散マットレスの使用が推奨されます。
不適切な体位
不適切な体位は、褥瘡が早くできる主要な要因の一つです。
長時間同じ体位で過ごすと、特定の部位に体重が集中し、血流が遮断されて組織が損傷しやすくなります。
特に骨の突出している部位は圧迫を受けやすく、褥瘡が発生しやすくなります。
体位変換を定期的に行うことで、圧力を分散させ、血流を維持することが重要です。
患者に合わせた適切な体位と、2時間ごとの体位変換が褥瘡予防に有効です。
褥瘡のポケットについて
褥瘡のポケットとは、褥瘡が深くなり、皮膚の表面よりも深く、皮下組織や筋肉などに空洞ができた状態を指します。
ここでは褥瘡のポケットの…
- 種類
- 原因
- 治りにくい理由
- 治療
- 予防
…について解説します。
種類
褥瘡のポケットの種類には、初期型ポケットと遅延型ポケットの2つがあります。
初期型ポケットは、深い褥瘡に伴い、壊死組織が融解して排出された後に形成される空洞です。
遅延型ポケットは、治癒過程で外力やずれが加わり、組織に損傷が生じ、壊死やポケットが後から形成されます。
いずれもポケットが形成されることで、褥瘡が治りにくくなることが多く、特別なケアが必要です。
これらの違いを理解することが、適切な治療計画を立てるための鍵となります。
原因
褥瘡のポケットができる原因は、圧迫の継続、せん断力、感染、栄養不良などが挙げられます。
特定の部位に長時間圧力がかかると、組織が壊死し、深部に空洞が形成されます。
また、体が滑り落ちるようなせん断力が加わると、皮膚が剥がれて深い部分の組織が損傷しやすくなります。
感染が進行すると、壊死が広がり、ポケットの形成を促進します。
さらに、栄養不足は組織の修復を遅らせ、ポケットが治りにくくなる原因となります。
治りにくい理由
褥瘡のポケットが治りにくい理由として、まず深部の感染が挙げられます。
ポケット内は細菌が繁殖しやすく、感染が慢性化しやすい環境が整っています。
また、壊死組織が残存していると新しい組織の再生が妨げられ、治癒が遅れます。
さらに、ポケットの深い部分には十分な血流が届きにくく、治癒速度が遅くなります。
これらの要因が重なり、褥瘡のポケットは治りにくくなる傾向があります。
治療
褥瘡のポケットの治療には、壊死組織の除去や感染治療、湿潤環境の維持、圧力の解放が重要です。
壊死組織を取り除くデブリードマンを行い、感染が進行している場合は抗生物質を使用します。
傷口を湿潤状態に保つことは、新しい組織の再生を促し、治癒を加速させます。
加えて、褥瘡に圧力がかからないようにするために、体位変換や体圧分散用具の使用が推奨されます。
適切な治療が行われれば、ポケットは徐々に治癒していきます。
予防
褥瘡のポケットの予防には、定期的な体位変換や皮膚の清潔保持、栄養バランスの改善、そして床ずれ防止用具の使用が有効です。
2時間ごとに体位を変えることは、圧迫を防ぎ、ポケット形成のリスクを軽減します。
皮膚を常に清潔で乾燥した状態に保つことも重要です。
また、タンパク質やビタミンを十分に摂取することで、皮膚の健康を保ち、褥瘡予防につながります。
体圧分散用具を活用して、体への圧力を分散させることもポケット予防に効果的です。
褥瘡の合併症とは?
褥瘡(床ずれ)は、放置しておくと様々な合併症を引き起こす可能性があります。
合併症の種類や重症度は、褥瘡の深さや広がり、患者の全身状態などによって異なります。
ここでは主な合併症として…
- 感染症
- 低蛋白血症
- 慢性炎症
- 痛みと不快感
…について解説します。
感染症
感染症は、褥瘡が進行して傷口が開いた場合に、細菌が侵入し発生する合併症です。
感染が進行すると、傷口が膿んだり、悪臭がすることがあり、治癒がさらに遅れます。
さらに、感染が深部の骨や関節に広がると、骨髄炎という深刻な状態に発展することがあります。
場合によっては、感染が血流に乗って全身に広がり、敗血症という命に関わる状態になることもあります。
褥瘡の感染予防には、傷口の適切なケアと早期治療が必要です。
低蛋白血症
低蛋白血症は、褥瘡から体液が漏れ出すことによって、体内の水分やタンパク質が失われることで発生します。
体液の喪失は、血液中のタンパク質濃度を低下させ、低蛋白血症に繋がります。
タンパク質は、組織の修復や免疫機能の維持に必要不可欠な要素であり、その不足により褥瘡の治癒が遅れる可能性があります。
低蛋白血症が進行すると、全身の浮腫や筋力低下なども引き起こし、患者の健康状態がさらに悪化します。
適切な栄養管理と褥瘡の管理が、この合併症を予防するために重要です。
慢性炎症
慢性炎症は、褥瘡が長期間にわたって治癒しない場合に発生することがあります。
炎症が慢性的に続くと、組織が常にダメージを受け続け、皮膚や筋肉、骨などの周囲組織が損傷します。
慢性炎症は、治療を行っても治癒が遅れる原因となり、さらなる合併症を引き起こす可能性があります。
特に高齢者や免疫力が低下している患者では、慢性炎症が進行しやすいため、早期の褥瘡治療と炎症管理が必要です。
炎症を抑えるために、薬物療法や局所のケアが行われます。
痛みと不快感
痛みと不快感は、褥瘡によって引き起こされる主要な症状の一つです。
褥瘡の進行度によって痛みの強さは異なりますが、特に進行した褥瘡では激しい痛みを伴うことがあります。
この痛みは、患者の生活の質を著しく低下させ、睡眠障害や心理的なストレスを引き起こすこともあります。
また、患者は体位変換などのケアが痛みを伴うため、体位を変えることを避け、結果として褥瘡がさらに悪化する悪循環に陥ることがあります。
痛みの管理は、患者の快適さを保ち、治療を円滑に進めるために重要です。