肩関節唇の損傷への徒手的な検査方法のひとつとして“Biceps load Ⅱ test(Kim Ⅱ test)”があげられます。
今回は、このBiceps load Ⅱ testの目的や方法、診断学的有用性について解説します。
Biceps load Ⅱ testの目的について
Biceps load Ⅱ testとは肩関節上方関節唇(SLAP:Superior Labrum Anterior and Posterior)損傷の評価を目的としている徒手による検査方法になります。
エビデンスグレード
Biceps load Ⅱ testのエビデンスグレードについてですが…
推奨グレードB
…になります。
Biceps load Ⅱ testの検査方法
ここでは、Biceps load Ⅱ testの検査方法について解説します。
検査の大まかな流れとしては次のようになります。
- 背臥位姿勢で検査開始肢位にする
- 肩関節を外旋させる
- 肘関節を屈曲させる
- 痛みが生じる場合は陽性とする
以下に詳しく解説します。
1.背臥位姿勢で検査開始肢位にする
被験者は背臥位の姿勢で、検査開始肢位(肩関節120度外転位、肘関節90度屈曲位、前腕回外位)にします。
この姿勢は、肩関節と上腕二頭筋腱に適切な負荷をかけるために重要です。
肩がこの位置にあると、肩関節唇に対するストレスが最大化され、潜在的な損傷がより明確に検出されます。
2.肩関節を外旋させる
検者は患側の手関節と肘を把持し、肩関節を最終域まで外旋させます
この動作は、肩関節上方関節唇損傷の診断に特に重要であり、肩関節唇に対する追加のストレスを加えることで、潜在的な損傷をより明らかにします。
外旋の程度は慎重に調節されるべきであり、患者に不快感を与えない範囲内で行う必要があります。
3.肘関節を屈曲させる
被験者に肘関節を屈曲させ、検者はそれに抵抗します。
この動作により、上腕二頭筋腱に特定の負荷がかかり、肩関節の前方関節唇に関連する潜在的な問題が顕在化する可能性があります。
肘の屈曲は、患者が快適に感じる範囲内で行われるべきです。
4.痛みが生じる場合は陽性とする
患者はこのテスト中に痛みを感じるかどうかを報告します。
痛みが生じる場合、それは通常、肩の関節唇、特にその前方部分の損傷を示しています。
痛みの有無だけでなく、痛みの種類や位置も重要な診断情報を提供します。
このテストは、特に肩の不安定性やラブラムの損傷が疑われる場合に有用です。


注意点
Biceps Load II Testを行う際の注意点として…
- 正確なポジショニング
- 前腕の回外
- 痛みの評価
- 被験者のリラックス
- 他の検査との併用
- 専門医の指導
- 無理をしない
…などがあげられます。
それぞれ解説します。
正確なポジショニング
Biceps load Ⅱテストの正確なポジショニングは、結果の信頼性に大きく影響します。
このテストでは、被験者の肩関節を120度に外転し、肘関節を90度に屈曲させることが重要です。
これにより、長頭腱に適切な負荷がかかり、SLAP損傷の評価が可能になります。
不適切な角度では、結果が誤解される可能性があるため、慎重なポジショニングが求められます。
特に肩関節と肘関節の位置は正確に調整する必要があります。
前腕の回外
前腕の回外もBiceps load Ⅱテストにおいて重要な要素です。
回外させることで、上腕二頭筋の長頭腱が緊張し、SLAP損傷の評価がより明確になります。
この段階での回外が不十分だと、テスト結果が正しく得られない可能性があります。
テストの精度を高めるために、前腕のポジションにも細心の注意が必要です。
また、回外の範囲は被験者の状態に応じて調整することが求められます。
痛みの評価
テスト中に痛みが生じた場合、その部位と程度を正確に評価することが重要です。
痛みはSLAP損傷の有無を判断するための重要な指標であり、適切な診断につながります。
テスト中に被験者が痛みを訴えた場合、その瞬間にどの程度の痛みが生じたかを具体的に記録します。
これにより、治療計画の立案や他の診断方法との組み合わせがより効果的になります。
被験者のリラックス
被験者がリラックスした状態でテストを受けることも非常に重要です。
被験者が緊張していると、筋肉が硬直し、正確な評価が難しくなります。
リラックスした環境を作り、被験者に適切な指示を与えることで、テスト結果の信頼性が向上します。
特に初めての検査では、緊張を解消するために、リハビリ専門家や医療従事者がしっかりとサポートすることが求められます。
他の検査との併用
Biceps load Ⅱテストは、SLAP損傷を診断するための有効な徒手検査の一つですが、単独では確定診断を下すのが難しいことがあります。
そのため、他の検査と併用することが推奨されます。
例えば、O’BrienテストやSpeedテスト、Crankテストなど、同じ肩の構造に焦点を当てた徒手検査を組み合わせることで、SLAP損傷の有無をより正確に判断できます。
さらに、徒手検査の結果が不確実な場合は、MRIや関節造影検査などの画像診断が役立ちます。
これにより、異なる角度から損傷の詳細を確認し、より適切な治療方針を立てることが可能です。
専門医の指導
Biceps load Ⅱテストの結果に基づいて、専門医の指導を受けることは極めて重要です。
テストが陽性であっても、それだけでSLAP損傷の確定診断は難しいため、専門医の知識と経験に基づいた適切な評価が求められます。
専門医は、他の徒手検査や画像診断の結果を総合的に考慮し、最適な治療方針を立てることができます。
また、専門医の指導を受けることで、症状に応じた個別のリハビリ計画や手術が必要な場合の対処法も提案されます。
特に複雑な症例や進行した損傷の場合、専門医の適切な対応が治療の成功に直結します。
無理をしない
Biceps load Ⅱテストを実施する際に、無理をしないことは非常に重要です。
テスト中に被験者が痛みを感じた場合、その痛みの程度を確認し、無理に続行しないように注意します。
無理に動作を繰り返すと、既存の損傷が悪化したり、新たな問題を引き起こす可能性があります。
特にSLAP損傷が疑われる場合、過度な負荷をかけることで肩の状態が悪化するリスクが高まります。
したがって、テストは被験者の安全を最優先に行い、痛みがあれば即座に中止し、専門医に相談することが望ましいです。


Biceps load Ⅱ testの診断学的有用性
著者 | 信頼性 | 感度 | 特異度 | 陽性尤度比 | 陰性尤度比 |
---|---|---|---|---|---|
Cook C,et al(2012) | NR | 67 | 51 | 1.4 | 0.66 |
Oh JH,et al(2007) 40歳未満 | NR | 30 | 78 | 1.36 | 0.90 |
40歳以上 | NR | 36 | 92 | 4.50 | 0.70 |
すべて | NR | 26 | 69 | 0.84 | 1.07 |
Kim SH,et al(2001) | kappa=0.815 | 89.7 | 96.9 | 28.94 | 0.11 |

