人間は様々なことを記憶しています。
生活するため、生きていくためには必要不可欠な能力とも言えます。
でもこの記憶って、一つではないんですよね。
長期記憶や短期記憶…。
陳述記憶にエピソード記憶…と分類も種類も細かく分かれていて理解しにくいです。
そこで今回はこの記憶の概念や分類について解説します。
記憶とは?
記憶の定義についてですが…
- 過去に経験した事を忘れずに覚えていること。また、その覚えている内容。物覚え。
- 過去の経験の内容を保持し、後でそれを思い出す(想起)こと
- 将来に必要な情報をその時まで保持すること
…といった文言で説明されます。
それぞれ解説します。
記憶とは…過去に経験した事を忘れずに覚えていること
まず記憶とは、過去に経験した事を忘れずに覚えていることを指します。
人間の脳は、日々の生活の中で得た情報や経験を蓄積し、それを必要な時に思い出すことができるように構造されています。
例えば、学生が授業で学んだ内容を試験で回答する際、記憶が重要な役割を果たします。
このように、過去の出来事や情報を保持し続ける能力は、人間の知識や技能の発展において不可欠です。
また、物覚えが良いことは、学習や職業において大きな利点となります。
記憶の質や量は、個人の経験や脳の健康状態によって異なるため、その維持と強化が重要です。
記憶とは…過去の経験の内容を保持し、後でそれを思い出す(想起)こと
次に、記憶は過去の経験の内容を保持し、後でそれを思い出す(想起)ことも含まれます。
これには、過去の出来事や学んだ知識を適切なタイミングで思い出す能力が含まれます。
例えば、ある出来事に関する詳細な情報を友人に伝える際、その情報を正確に思い出すことが必要です。
この想起の過程は、脳内の神経回路が活性化され、関連する記憶が再びアクセスされることで実現します。
効果的な記憶想起は、日常生活や職場での問題解決、意思決定の質を向上させるために重要です。
記憶とは…将来に必要な情報をその時まで保持すること
さらに、記憶には将来に必要な情報をその時まで保持することも含まれます。
これは、未来の出来事やタスクに備えて情報を保持し、それを適切なタイミングで活用する能力を指します。
例えば、重要な会議やプレゼンテーションの準備をする際、関連する情報や資料を前もって記憶にとどめておくことが求められます。
将来のニーズに応じて記憶を管理することは、効率的なスケジュール管理やパフォーマンス向上に寄与します。
計画的な記憶の保持は、成功するための重要なスキルです。
想起における3つのプロセス
また、この思い出すことである「想起」という精神機能には次の3つのプロセスが含まれています。
- 記銘(impression)
- 把持(retention)
- 追想(recall)
以下に解説します。
記銘(impression)
記銘とは、脳が新しい情報を初めて記憶する際に行うプロセスであり、感覚的な情報を理解しやすい形式に変換する機能を指します。
この変換過程では、視覚や聴覚といった感覚的な情報を言語や数字などの符号に変えることが行われます。
例えば、見たものを言葉で表現したり、聞いた音をメロディーとして記憶したりすることです。
記憶に残すためには、この符号化が重要であり、意味のある情報として認識できる形式にすることが必要です。
意味情報に変換されない場合、その情報は記憶されにくく、特に外国語のように理解できない言語では記憶することが困難になります。
記銘は単なる記憶のスタート地点であると同時に、情報がどれだけ効果的に保持されるかを決定する重要な段階です。
例えば、新しい単語を覚える際、その単語がどのような文脈で使われるかを知ることで記銘が強化されます。
これにより、単語は単なる音の並びではなく、意味を持つ符号として脳に保存されます。
逆に、文脈や意味を理解しないまま記銘を試みると、情報は断片的で保持が困難になります。
記憶の強化には、情報を多角的に符号化し、複数の感覚を通じて記憶することが有効です。
また、記銘は「符号化」とも呼ばれることがあります。
これは、情報を脳が処理しやすい形式に変換するプロセスを強調した呼び方です。
符号化の質が高いほど、情報は長期記憶として保存されやすくなります。
例えば、ある出来事を写真として記憶するだけでなく、その出来事に関する感情や背景情報も符号化することで、より深く記憶されます。
このように、記銘の段階での工夫が、その後の記憶保持や想起に大きな影響を与えるのです。
把持(retention)
把持とは、記銘された情報を長期間にわたり保持するプロセスを指します。
この段階では、符号化された情報が長期記憶として脳に保存され、必要な時に思い出せる状態にあります。
しかし、すべての情報が均等に保持されるわけではなく、人それぞれの既有の知識や経験によって保持される情報の質や量が異なります。
例えば、同じ講義を聞いても、背景知識が豊富な人とそうでない人では、覚えている内容や詳細が異なることがよくあります。
把持のプロセスは、情報が脳内でどのように組織化され、関連付けられているかによっても影響を受けます。
情報が他の記憶とどれだけ関連付けられているか、またその情報がどれだけ意味を持つかが、保持の質を決定します。
例えば、学んだ知識を実際の生活や仕事で応用することで、その知識は単なる情報から実用的な記憶へと強化されます。
また、復習や繰り返し学習も把持を強化するために効果的な方法です。
さらに、把持は「貯蔵」とも呼ばれることがあります。
この呼び方は、情報が長期間保存されるプロセスを強調しています。
貯蔵された情報は、適切な刺激や手がかりが与えられると再び意識に上がり、活用されます。
例えば、昔の友人の顔を見てその人の名前を思い出すことがこれに該当します。
貯蔵の質を高めるためには、情報を整理し、関連性を持たせることが重要です。
把持のプロセスは、情報の整理と意味付けが鍵となります。
情報を単に覚えるだけでなく、その情報をどのように使うかを考え、関連する知識や経験と結び付けることで、より効果的に把持されます。
このため、学習や記憶の際には、単なる暗記ではなく、情報の理解と応用を重視することが重要です。
追想(recall)
追想とは、把持された情報を再び意識に上らせるプロセスであり、記憶の活性化とも言えます。
この段階では、保存された情報が適切な刺激や手がかりにより再び意識に上がります。
例えば、試験の際に学んだ内容を正確に回答することや、友人との会話で過去の出来事を詳しく語ることは追想の一例です。
追想の質は、情報がどれだけ深く理解され、関連付けられているかに大きく依存します。
追想には、再生、再認、再構成の3つの形式があります。
再生とは、保存された記憶がそのままの形で再現されることを指します。
例えば、暗記した詩をそのまま朗読することが再生の一例です。
再認とは、過去に経験したことを「経験した」と改めて認識できることを指します。
初めて訪れた場所でも既視感を感じることが再認の一例です。
再構成とは、保存された記憶のいくつかを組み合わせて再現されることを指します。
断片的な情報を元に過去の出来事を再構成することです。
また、記憶障害のあるクライアントで見られる「作話」という症状は、この追想のプロセスに問題があることを示しています。
作話は、記憶のギャップを埋めるために、事実ではない情報を創り出す現象です。
追想の問題は、情報の保存が不完全であったり、関連付けが不十分であったりすることが原因となります。
追想の質を向上させるためには、情報を深く理解し、関連付けを強化することが重要です。
このように、追想のプロセスは、保存された情報を効果的に利用するために不可欠です。
追想の質を高めるためには、記憶の整理と関連付けを意識し、復習や実践を通じて記憶を強化することが必要です。
追想の理解と改善は、個人の学習効率やパフォーマンスを向上させるための重要な要素です。
記憶の分類と種類について
実際に記憶の概念としては様々あり、次のように分類されています。
分類 | 種類 |
---|---|
時間 | 短期記憶・長期記憶 即時記憶・近時記憶・遠隔記憶 |
内容 | 陳述記憶(宣言的記憶・顕在記憶):意味記憶・エピソード記憶 非陳述記憶(潜在記憶):手続き記憶・プライミング記憶・古典的条件付け・非連合学習 |
以下にそれぞれ解説します。
“時間”による分類
記憶は把持する時間によって心理学上では…
- 感覚記憶
- 短期記憶
- 長期記憶
…の3種類に分けられます。
それぞれについて深掘りしていきます。
感覚記憶
“感覚記憶 (Sensory Memory)”とは、最も保持期間が短い記憶です。
各感覚器官に特有に存在し、瞬間的に保持されるのみで意識に上ることはないとされています(数秒程度)。
外界から入力された刺激情報は刺激の形式に応じて、まず感覚記憶として保持されます。
つまり、聴覚に刺激を受ければ音声として、資格に刺激を受ければ視像として把持されます。
そのうち注意を向けられた情報だけが、次の短期記憶・長期記憶として把持されます。
ちなみに感覚記憶は処理されなければすぐに失われてしまいます。
短期記憶
“短期記憶(Short-term memory)“とは、記銘後の保持期間が20-30秒程度の記憶になります。
多くの場合、最大7つ(+/-2)の独立したアイテムを保持することができます(マジカルナンバー)。
短期記憶は…
- 言語的な要素:言語や数字など
- 非言語的な要素:音楽や図形など
…を記憶するために必要な情報を処理するために使用されます。
短期記憶は、感覚記憶から始まり、瞬間的な処理に使用され、長期記憶に転送されるということです。
長期記憶
“長期記憶(Long-term memory)”とは、脳に記録され、長期間にわたって保持される記憶を言います。
短期記憶からの情報を繰り返し、加工して、長期間にわたって保持することができます。
また、人や場合によっては生涯把持されているものもあります。
メカニズムとしては、把持内容が何かしらの処理(復唱や符号化、既有の知識のネットワークへの摂取)などの処理を経ることによって長期間保持されるようです。
また、この長期記憶の容量については現在ではほぼ無限とされていますが、忘却は記憶そのものが自然と消滅することよりも、他の記憶の干渉によるものとされています。
長期記憶には「認知記憶、感情記憶、身体記憶」などのタイプがあります。
また、臨床神経学上では「即時記憶・近時記憶・遠隔記憶」の3種類に分けられます。
“内容”による分類
また、記憶はその内容によっても分類されます。
大きくわけると…
- 陳述記憶
- 非陳述記憶
…の2つに大別されます。
陳述記憶
“陳述記憶(declarative memory)”とは、言語や文字を使って記述できる記憶を指します。
例えば、人の名前や顔、場所や物の名前などがあげられます。
陳述記憶は、“宣言的記憶”や“顕在記憶”とも呼ばれます。
長期記憶に分類されることが多いようですね。
さらにこの陳述記憶には…
- エピソード記憶
- 意味記憶
…に分けることができます。
エピソード記憶
“エピソード記憶”とは個人の生活上での体験や思い出などに関する記憶です。
特徴としては、その出来事を経験そのものとして記憶するだけでなく、それを経験した時の様々な付随情報(時間・空間的文脈、自己の身体的・心理的状態など)も記憶されていることがあげられます。
臨床心理学上では、記憶障害=エピソード記憶の選択的障害としています。
例:先週、家族と新しくできたレストランで夕食を食べたけど、すごい混雑していて落ち着かなかった。
意味記憶
“意味記憶”とは、言語やその意味、概念、社会常識といった世の中に関する組織化された記憶です。
特徴としては、意味記憶は生活上同じような経験を繰り返すことで形成されていきますが、その情報をいつ、どこで獲得したかといった付随情報の記憶は消失し、内容のみが記憶されるという点があげられます。
一般的に“知識”と呼ばれるものはこの“意味記憶”を指します。
例:「リンゴ」は赤くて手のひら程度の大きさで、甘酸っぱい果物の一種であり、青森県の名産品。英語ではapple。
非陳述記憶
“非陳述記憶(non-declarative memory)”とは、意識には浮上しないで、行動や反応として現れる記憶です。
これらは意識的な思考や決定を必要としないため、自然な行動や反応を生み出すことができます。
この非陳述記憶には…
- 手続き記憶
- プライミング効果
- 古典的条件付け
- 非連合学習
…などが含まれます。
手続き記憶
“手続き記憶”とは、練習によって身につける運動技能や知覚技能、認知技能、そして習慣といった記憶になります。
特徴としては、一度形成された手続き記憶は自動的に機能し、長期間保たれるという点があげられます。
例:自転車の乗り方・自動車の運転・料理の調理方法・パソコンのタイピングETC
プライミング効果
“プライミング効果”とは、一度でも見たり聞いたり刺激を受けることで、次回での反応が促進されることを指します。
特徴としては、無意識の処理によって行われる点があげられ、大脳基底核-小脳系が重視される記憶の一種になります。
また、このプライミング効果は陳述記憶にもみられます。
古典的条件付け
“古典的条件付け”とは「パブロフの犬」で有名な、経験の繰り返しや訓練により本来は結びついていなかった刺激に対して、新しい反応(行動)が形成される現象をいいます。
非連合学習
“非連合学習”とは、一種類の刺激に関する学習であり、同じ刺激の反復によって反応が減弱したり(慣れ)、増強したり(感作)する現象をいいます。