COM-Bモデルは、行動変容を促進するために能力(Capability)、機会(Opportunity)、動機(Motivation)の3要素を統合的に考慮するフレームワークです。
本記事ではこの具体例とメリット・デメリット・そして課題について解説します。
COM-Bモデルとは
COM-Bモデルは、University College LondonのSusan Michie博士によって開発された行動変容モデルであり、行動(Behavior)を変えるためには能力(Capability)、機会(Opportunity)、動機(Motivation)の3要素が必要であるという考えに基づいています。
まず、能力(Capability)とは、行動を実行するための身体的および心理的な能力を指し、知識やスキル、経験などがこれに含まれます。
次に、機会(Opportunity)とは、行動を可能にする外的な要因や環境であり、時間や場所、環境、金銭などが含まれます。
最後に、動機(Motivation)とは、行動を促進する内的な意欲や欲求であり、信念や感情、意思決定がこれに該当します。


COM-Bモデルの3つの要素
COM-Bモデルは、行動変容を促すための3つの要素と、それらが行動に与える影響に注目する診断モデルです。
この3つの要素は…
- 能力(Capability)
- 機会(Opportunity)
- 動機(Motivation)
…ですが、それぞれ解説します。
能力(Capability)
能力(Capability)は、行動を実行するための身体的および心理的な能力を指します。
これには身体的能力と心理的能力の2つの側面があります。
身体的能力は、行動を実行するための体力やスキルを指し、例えばジョギングに必要な体力や筋力がこれに該当します。
心理的能力は、行動を理解し、計画し、実行するための知識や認知的スキルを指し、新しい言語を学ぶための基礎知識や学習スキルなどが含まれます。
これらの能力が十分でない場合、行動変容は困難になりますが、トレーニングや学習を通じて能力を高めることができます。
機会(Opportunity)
機会(Opportunity)は、行動を可能にする外的な要因や環境を指します。
これには物理的機会と社会的機会の2つの側面があります。
物理的機会は、行動を実行するための設備や時間などの物理的な環境を指し、ジョギングするための公園や時間の確保がこれに該当します。
社会的機会は、行動を支援するための社会的な環境やサポートを指し、家族や友人からの支援や社会的期待が含まれます。
機会が少ない場合は、行動変容が難しくなりますが、環境を整えることで機会を増やすことが可能です。
動機(Motivation)
動機(Motivation)は、行動を促進する内的な意欲や欲求を指します。
これには自動的動機と反射的動機の2つの側面があります。
自動的動機は、習慣や感情、欲求などの無意識的な要因を指し、例えば健康になりたいという自然な欲求がこれに該当します。
反射的動機は、意識的な目標や意図、計画などの意識的な要因を指し、キャリアアップのために資格を取得するという具体的な目標が含まれます。
モチベーションが低いと行動変容が難しくなりますが、目標を明確にしたり報酬を設定することでモチベーションを高めることができます。


COM-Bモデルをわかりやすく自動車運転に例えて解説
COM-Bモデルの3要素(能力、機会、モチベーション)を、自動車で例えると以下のようになります。
能力(Capability)
能力は、自動車のエンジンや運転技術に相当し、車を安全かつ効果的に運転するための基本的な要素です。
エンジンがしっかりと動作し、十分な馬力と燃費性能を備えていることが重要です。
また、運転者が交通ルールを守り、安全に運転するための技術を持っていることも含まれます。
例えば、ハイブリッド車はガソリン車よりも燃費性能が高いため、能力が高いと言えます。
また、自動運転機能付きの車は、運転者のスキルが不十分でも安全に運転できるため、技術的能力が高いと言えます。
こうした能力が欠如している場合、車の運転は困難になり、事故のリスクも高まります。
機会(Opportunity)
機会は、自動車を運転するための道路や交通環境に相当し、運転の実行を可能にする外的な要因を指します。
良好な道路状況や整備された交通ルール、適切な駐車場の確保がこれに含まれます。
例えば、近くに高速道路がある場合、遠出がしやすくなり、機会が多いと言えます。
また、広い駐車場が整備されている環境では、車を安全に停めることができ、運転の機会が増えます。
さらに、自宅に電気自動車の充電設備が整っている場合、充電のための機会が多くなり、電気自動車を効率的に利用できる環境が整います。
こうした機会が不足している場合、運転の実行は難しくなり、不便を感じることが増えます。
動機(Motivation)
動機は、自動車を運転する目的や意欲に相当し、運転行動を促進する内的な要因を指します。
例えば、ドライブを楽しむための強い意欲や、目的地に早く到達したいという必要性がこれに含まれます。
運転すること自体が好きで、週末に長距離ドライブを楽しみたいという意欲が高ければ、モチベーションが高いと言えます。
また、電車やバスでは不便な場所に用事がある場合、車を使う必要性が高まり、モチベーションが自然と高くなります。
モチベーションが低い場合は、どんなに能力や機会が整っていても、運転行動が起こりにくくなります。


COM-Bモデルの具体例
ここではCOM-Bモデルの具体例として糖尿病患者の自己管理支援というテーマで考えてみます。
能力(Capability)
糖尿病患者が自己管理を成功させるためには、まず必要な身体的および心理的能力を身につけることが重要です。
身体的能力の側面では、患者は血糖値を正確に測定し、インスリン注射を安全かつ効果的に行うための技術的スキルを習得する必要があります。
これには、血糖値測定器の使用方法やインスリンの適切な保管・投与方法の学習が含まれます。
心理的能力の側面では、患者が糖尿病の管理に関する基礎知識を持ち、自己管理の重要性を理解することが求められます。
教育プログラムやカウンセリングを通じて、患者に必要な知識を提供し、自己効力感を高めることで、自己管理の意識を強化します。
機会(Opportunity)
糖尿病患者が効果的に自己管理を行うためには、適切な機会が提供されることが不可欠です。
物理的機会の観点からは、診療所や病院での定期的なフォローアップを受けることが重要です。
これにより、患者は最新の医療情報やアドバイスを得ることができ、必要な医療機器(例:血糖値測定器、インスリン注射器)も提供されます。
社会的機会の観点からは、オンラインでのサポートグループや、家族や友人からの支援を受けられる環境を整えることが大切です。
これにより、患者は孤独感を感じずに、自己管理を続けるモチベーションを維持することができます。
動機(Motivation)
糖尿病患者の自己管理において、動機付けは非常に重要な要素です。
自動的動機の側面では、患者が健康な生活を送るための習慣を形成し、自己管理を続けるための内的な意欲を高めることが求められます。
これには、日常生活において健康的な食事や定期的な運動を習慣化することが含まれます。
反射的動機の側面では、糖尿病管理の具体的な目標を設定し、その達成に向けた報酬やインセンティブを提供することが効果的です。
例えば、血糖値の目標を達成した際に、小さなご褒美を用意することで、患者のモチベーションを維持しやすくなります。
能力と機会の相互作用
能力と機会の相互作用は、糖尿病患者の自己管理において重要な役割を果たします。
患者が必要な技術的スキルや知識を持っていても、適切なフォローアップや医療機器が提供されなければ、自己管理を続けることは難しくなります。
逆に、定期的な診療や支援が整っていても、患者が自己管理のためのスキルや知識を欠いている場合、効果的な管理は期待できません。
したがって、患者に対して継続的な教育とサポートを提供し、能力と機会を同時に高めることが重要です。
これにより、患者はより効果的に自己管理を行うことができ、健康状態の改善に繋がります。
モチベーションと能力・機会の関係
モチベーションは、糖尿病患者が自己管理を続けるための推進力として、能力や機会と密接に関連しています。
患者が自己管理の重要性を理解し、内的な意欲を持つことで、必要なスキルや知識の習得に積極的に取り組むようになります。
また、適切なフォローアップや支援が提供されることで、患者のモチベーションはさらに高まります。
目標を達成した際の報酬やインセンティブも、患者の意欲を維持するために効果的です。
したがって、能力、機会、モチベーションの3要素が相互に作用し合うことで、患者の自己管理がより効果的に行われるようになります。


COM-Bモデルのメリット
COM-Bモデルは、行動変容を理解し、促進するためのシンプルなかつ汎用性の高いフレームワークであることが大きな利点です。
具体的には、以下のメリットが挙げられます。
- 包括的なアプローチ
- 柔軟性
- 実証的な基盤
- 個別対応
- 持続可能な変化
それぞれ解説します。
包括的なアプローチ
COM-Bモデルは、行動変容を促進するために能力(Capability)、機会(Opportunity)、動機(Motivation)の3つの要素を統合的に考慮するため、より効果的な介入が可能です。
これにより、単一の要因に依存せず、複数の側面から行動変容を支援することができます。
例えば、健康改善を目指す場合、運動のためのスキル向上(能力)、運動施設の利用(機会)、そして健康の重要性を認識する動機づけ(動機)のすべてを考慮することで、より総合的な支援が提供できます。
この統合的アプローチにより、複雑な行動変容のメカニズムを理解し、効果的な対策を講じることが可能となります。
結果として、個人の行動変容をより持続的にサポートすることができます。
柔軟性
COM-Bモデルは、様々な分野や状況に適用できるため、医療、教育、ビジネスなど多岐にわたる領域で活用できます。
例えば、医療分野では患者の健康行動改善に、教育分野では生徒の学習習慣の形成に、ビジネス分野では従業員の生産性向上に役立ちます。
この柔軟性により、異なるコンテクストでも適切にアプローチすることができ、具体的な状況に応じたカスタマイズが可能です。
さらに、異なる文化や社会的背景においても、このモデルを応用することで、行動変容を効果的に促進することができます。
したがって、COM-Bモデルは多様なニーズに対応できる強力なツールとなります。
実証的な基盤
COM-Bモデルは行動科学に基づいており、科学的な根拠に基づいたアプローチを提供します。
このモデルは、数多くの研究によって裏付けられており、その有効性が実証されています。
科学的な基盤により、介入の設計や実施において信頼性が高く、効果的な結果を期待することができます。
例えば、行動変容のための介入プログラムを設計する際、COM-Bモデルを用いることで、エビデンスに基づいた方法を採用することができ、より確実な成果を上げることが可能です。
このように、実証的な基盤があることで、COM-Bモデルは信頼性の高い行動変容ツールとして広く認知されています。
個別対応
COM-Bモデルは、個々の状況やニーズに応じて具体的な介入方法をカスタマイズできるため、個別対応が可能です。
例えば、同じ健康行動を促進する場合でも、対象者の背景や環境に応じて、必要な能力の強化、適切な機会の提供、動機づけの方法を調整することができます。
これにより、個別のニーズに応じたきめ細やかな支援が可能となり、介入の効果を最大化することができます。
個別対応が可能なため、汎用的な介入と比べて、より高い効果を期待することができます。
結果として、対象者にとって最適な行動変容のサポートが実現します。
持続可能な変化
COM-Bモデルは、行動変容を長期的に維持するための要素を考慮しているため、持続可能な変化を促進します。
短期的な成果だけでなく、長期的に持続する行動変容を目指すことができるため、対象者の生活全般にわたるポジティブな影響が期待されます。
例えば、健康行動の改善において、継続的な運動習慣の形成や食生活の改善を促進するための支援が行われます。
これにより、対象者は一時的な改善にとどまらず、長期的に健康を維持することが可能となります。
持続可能な変化を目指すCOM-Bモデルは、行動変容の分野で非常に価値のあるツールとなります。


COM-Bモデルのデメリットと課題
COM-Bモデルは、行動変容を理解し、促進するための有用なフレームワークですが、いくつかのデメリットと課題も存在します。
ここでは…
- 個別要因への配慮が不足している
- 介入策の具体化が難しい
- 効果測定が難しい
- 倫理的な問題
- 導入コストがかかる
…について解説します。
個別要因への配慮が不足している
COM-Bモデルは普遍的な行動変容のメカニズムに基づいており、多くの状況に適用可能な強力なフレームワークですが、個々の患者や利用者の背景や特性を十分に考慮できていないという指摘があります。
例えば、文化や価値観、社会経済的な状況、過去の経験など、個々の事情によって行動変容への影響は大きく異なります。
このため、COM-Bモデルを実際に適用する際には、対象者ごとの詳細な背景分析が欠かせません。
個別の要因を丁寧に分析し、モデルに組み込むことで、より精緻で効果的な介入策を設計することが求められます。
これには時間と労力がかかるため、実践においては慎重なアプローチが必要です。
介入策の具体化が難しい
COM-Bモデルは、行動変容の要素を分析するためのフレームワークを提供しますが、具体的な介入策を提示するものではありません。
そのため、モデルに基づいて効果的な介入策を具体化するためには、専門的な知識や経験が必要となります。
例えば、行動分析の専門家が介入策を設計する場合、モデルの各要素をどのように具体的な施策に落とし込むかを判断するスキルが求められます。
さらに、個々の状況やニーズに応じた介入策を設計するためには、柔軟性と創造性が必要です。
このプロセスは時間と労力を要するため、実務においては実行の難しさが伴います。
効果測定が難しい
COM-Bモデルに基づく介入の効果を定量的に測定することは、複数の要因が絡み合うために難しい課題です。
行動変容は多くの複合的な要因によって影響を受けるため、介入策の効果を単一の原因に帰属させることは困難です。
例えば、患者が健康行動を改善した場合、その効果が能力、機会、動機のどの要素によるものかを明確にすることが難しいです。
長期的な視点で効果を評価し、複数のデータポイントを収集することが求められます。
また、質的データと量的データを併用することで、より包括的な評価が可能となりますが、それにもまたリソースが必要です。
倫理的な問題
COM-Bモデルに基づいた介入策が、個人の自由意志を尊重していないのではないかという倫理的な問題も指摘されています。
例えば、モチベーションを高めるために報酬を与えるような介入策は、一部では倫理的に問題があると考えられることがあります。
このような介入が外的動機づけに依存する場合、内的動機づけが阻害される可能性もあります。
介入策を設計する際には、対象者の自由意志と自主性を尊重し、倫理的な観点から慎重に検討する必要があります。
これには、倫理委員会の審査や、関係者との合意形成が求められます。
導入コストがかかる
COM-Bモデルを導入するためには、研修やコンサルティングなどにかかるコストが必要となります。
特に、専門的な知識や経験が不足している組織にとっては、導入のハードルが高くなりがちです。
例えば、従業員のトレーニングや外部専門家の招聘には、時間と資金が必要です。
費用対効果を十分に検討し、限られたリソースを有効に活用するための計画が不可欠です。
導入コストを抑えるためには、段階的な実施や、パイロットプロジェクトを通じた効果の検証が有効です。
これにより、リスクを最小限に抑えながら、モデルの有効性を確認することが可能です。


関連文献
- 実践 行動変容のためのヘルスコミュニケーションー人を動かす10原則
- 行動変容をうながす看護: 患者の生きがいを支えるEASEプログラム
- 行動変容を促すヘルス・コミュニケーション: 根拠に基づく健康情報の伝え方
いまになってハマるっていう。。
COM-Bモデルをヒロアカで考えてみる。|1TOC @1toc_ot #note https://t.co/acTcdiHsNp
— 1TOC (@1toc_ot) August 11, 2024