理学療法などによる運動負荷試験には禁忌事項があり注意が必要です。
本記事では運動負荷試験の禁忌について解説します。
運動負荷試験の禁忌
運動負荷試験の禁忌としては…
- 絶対的禁忌
- 相対的禁忌
…があります。
それぞれ解説します。
運動負荷試験の絶対的禁忌
運動負荷試験の絶対的禁忌の状態としては次のようなものがあります。
- 2日以内の急性心筋梗塞
- 内科的治療の安定していない不安定狭心症
- 自覚症状や血行動態異常の原因となるコントロール不良の不整脈
- 症候性の高度大動脈弁狭窄症
- コントロール不良の症候性心不全
- 急性の肺塞栓または肺梗塞
- 急性の心筋炎または心膜炎
- 急性大動脈解離
以下にそれぞれ解説します。
2日以内の急性心筋梗塞
心筋梗塞は心筋組織の血流が急激に阻害される状態であり、安定していない場合は運動負荷試験を行うことは避けられます。
心筋梗塞発作後の回復期や安定期を経てから、十分な安全性を確保した上で負荷試験を検討する必要があります。
内科的治療の安定していない不安定狭心症
不安定狭心症は冠動脈の一部が急激に閉塞し、心筋への血流が不十分になる状態です。
内科的治療が不安定である場合、負荷試験を行うことは危険です。
状態の安定化や適切な治療後に、負荷試験の適応を再評価する必要があります。
自覚症状や血行動態異常の原因となるコントロール不良の不整脈
負荷試験中に自覚症状や血行動態の異常を引き起こす可能性があるコントロール不良の不整脈は、負荷試験の禁忌です。
不整脈がコントロールされ、安定した心拍数とリズムが確立された後に、負荷試験の適応を検討することが重要です。
症候性の高度大動脈弁狭窄症
大動脈弁狭窄症は大動脈弁の狭窄により血流が制限される状態で、症状が明確に現れる場合は運動負荷試験が適切ではありません。
狭窄症の症状が安定し、適切な治療が行われた後に、負荷試験の適応を再評価する必要があります。
コントロール不良の症候性心不全
症候性心不全は心臓のポンプ機能が低下し、体に必要な血液を効果的に供給できない状態です。
心不全の症状が安定せず、適切な治療が行われていない場合は負荷試験が適切ではありません。
心不全の症状が安定化し、適切な治療が行われた後に、負荷試験の適応を再評価する必要があります。
急性の肺塞栓または肺梗塞
急性の肺塞栓症や肺梗塞は肺血管に血栓が詰まり、酸素供給が制限される状態です。
このような状態では、運動負荷試験は適切ではありません。
急性病態が安定し、適切な治療が行われた後に、負荷試験の適応を再評価する必要があります。
急性の心筋炎または心膜炎
急性の心筋炎や心膜炎は心臓の炎症性疾患であり、心臓の機能に影響を及ぼす可能性があります。
急性炎症期には負荷試験は適切ではありません。
炎症が安定化し、適切な治療が行われた後に、負荷試験の適応を再評価する必要があります。
急性大動脈解離
急性大動脈解離は大動脈の内腔が裂けて血液が漏れる状態であり、生命に関わる危険性が高いです。
このような緊急の状況では負荷試験は適切ではありません。
解離が安定化し、適切な治療が行われた後に、負荷試験の適応を再評価する必要があります。
運動負荷試験の相対的禁忌
相対的禁忌とは、その行為を行うことによって生じる可能性のある危険性がある場合に、その行為を行うことができるが、その行為を行う前に十分な検査や準備が必要であることを意味します。
運動負荷試験の相対的禁忌の状態としては次のようなものがあります。
- 左主幹部の狭窄
- 中等度の狭窄性弁膜症
- 電解質異常
- 重度高血圧
- 頻脈性不整脈または徐脈性不整脈
- 肥大型心筋症または、その他の流出路狭窄
- 運動負荷が十分行えないような精神的または身体的障害
- 高度房室ブロック
以下にそれぞれ解説します。
左主幹部の狭窄
左主幹部の狭窄は冠動脈の主要な枝であり、心筋に血液を供給する重要な血管です。
狭窄が中等度以上の場合、心筋への血流が制限される可能性があります。
このため、左主幹部の狭窄がある場合は運動負荷試験は相対的に禁忌とされます。
個々の症例に応じて、冠動脈疾患のリスクを評価し、負荷試験の適応を検討する必要があります。
中等度の狭窄性弁膜症
中等度の弁膜症は心臓の弁における狭窄または閉鎖不全が中程度の範囲で進行している状態です。
負荷試験による心臓への負荷増加は症状の悪化を引き起こす可能性があります。
弁膜症の進行度合いと症状を考慮し、負荷試験の適応性を慎重に判断する必要があります。
電解質異常
電解質異常は体内の電解質(ナトリウム、カリウム、カルシウムなど)のバランスの乱れを指します。
適切な電解質バランスは正常な心臓機能の維持に重要です。
重度の電解質異常がある場合は心臓のリズムや興奮伝導に影響を及ぼす可能性があり、負荷試験の適応が制限されます。
電解質バランスの正常化後に、負荷試験の適応性を再評価する必要があります。
重度高血圧
高血圧は血管に対する持続的な高い血圧の状態です。
重度の高血圧は心臓や血管に負担をかけるため、負荷試験は慎重に検討されるべきです。
高血圧の治療が不十分である場合や、血圧が制御されていない場合は負荷試験が適切ではありません。
血圧の安定化や治療の最適化後に、負荷試験の適応性を再評価する必要があります。
頻脈性不整脈または徐脈性不整脈
頻脈性不整脈(心拍数の異常増加)や徐脈性不整脈(心拍数の異常低下)は心臓のリズムに異常を引き起こす状態です。
不整脈が運動負荷によって悪化する可能性があるため、負荷試験は慎重に判断されます。
不整脈の種類、頻度、重症度に応じて、負荷試験の適応性が個別に評価されます。
肥大型心筋症またはその他の流出路狭窄
肥大型心筋症は心筋が異常に肥大し、心機能が低下する状態です。
また、流出路狭窄は心臓の血液が適切に流れ出ることが制限される状態です。
これらの状態では、負荷試験による心臓への負担増加が症状の悪化を引き起こす可能性があります。
個別の病態に応じて、負荷試験の適応性を慎重に判断する必要があります。
運動負荷が十分行えないような精神的または身体的障害
負荷試験は一定の運動負荷を要求します。
身体的な制約や精神的な問題によって適切な運動負荷が行えない場合は、負荷試験の適応が制限されます。
患者の能力や状態に応じて、負荷試験の適応性を判断する必要があります。
高度房室ブロック
高度房室ブロックは心臓の電気信号が心室に正しく伝わらない状態です。
負荷試験による心臓の負担増加は不整脈を悪化させる可能性があります。
高度房室ブロックの存在は負荷試験の相対的な禁忌とされ、患者の状態や他の心臓疾患との関連性を考慮して、適切な運動負荷試験を検討する必要があります。