CISS日本語版は、個人のストレス対処スタイルを評価するための自己報告式質問紙です。
本記事ではこの検査の目的や特徴、方法や注意点などについて解説します。
CISS日本語版とは?
CISS(Coping Inventory for Stressful Situations)日本語版は、ストレス状況下での個人の対処行動を評価するための心理学的評価ツールです。
この質問紙は、ストレスを受けた際に個人がどのような行動を取るか、また、その対処方法が心身の健康にどのように影響するかを理解することを目的としています。
目的
このCISS日本語版の目的について、さらにもう少し深掘りしてみます。
ここでは…
- ストレス対処行動の個人差の把握
- ストレス対処スタイルの健康への影響の理解
- ストレス対処スキルの向上
- メンタルヘルス研修プログラムの効果測定
…について解説します。
ストレス対処行動の個人差の把握
CISSは、ストレスを受けた際に個々人がどのような対処行動を取るかを評価することを目的としています。
人は同じストレス状況に置かれても、その対処の仕方には大きな個人差があります。
例えば、ある人は問題に直面すると解決策を探求する「課題優先対処」を取るかもしれませんが、別の人は感情的な反応を示す「情動優先対処」を取るかもしれません。
CISSを用いることで、これらの対処スタイルの特徴を定量的に把握し、個人や集団のストレス管理に役立てることができます。
ストレス対処スタイルの健康への影響の理解
ストレス対処行動は、心身の健康に直接的な影響を及ぼします。
課題優先対処がストレス源に直接取り組むことでポジティブな影響をもたらす場合がある一方で、回避優先対処や情動優先対処はストレスの長期化や健康問題を引き起こすこともあります。
CISS日本語版を使用することで、これらの対処スタイルが個人の心身の健康にどのように作用しているかを明らかにし、適切な対処方法への誘導やカウンセリングの基盤とすることが可能です。
ストレス対処スキルの向上
CISS日本語版は、個人が自身の対処行動を客観的に評価し、より効果的なストレス対処方法を模索するための手段を提供します。
特定の対処スタイルに過度に依存することなく、状況に応じて最適な対処方法を選択できるようになることが目標です。
例えば、課題優先対処のスキルを高めることで、ストレス源に対して積極的に対応する能力を強化したり、回避優先対処を適切に使用することで、一時的なリラックスや気分転換を図ることができます。
メンタルヘルス研修プログラムの効果測定
企業や教育機関、医療機関で実施されるメンタルヘルス研修やストレスマネジメントプログラムの効果を測定するためにCISS日本語版を活用することができます。
参加者がプログラムを通じてどのようにストレス対処能力を向上させたか、またはどの対処スタイルが強化されたかを評価することで、プログラムの有効性を定量的に把握し、今後の改善点を見つけることができます。


主な対象
CISS日本語版の主な対象は、ストレスに関連する研究や心理的な支援を必要とする幅広い人々です。
具体的には以下のようなグループがあげられます。
一般成人
社会人に対しては職場でのストレス対処能力を測定し、適切なストレスマネジメント技術を身につけるために使用されます。
また、大学生・大学院生に対しては学業や将来の不安からくるストレスに対処する方法を理解するために利用されます。
青少年
18歳以上の高校生には、学校生活や友人関係、家族との関係など、様々なストレス源に対する対処方法を評価します。
医療・心理専門家
カウンセラーでしたらクライアントのストレス対処スタイルを理解し、カウンセリングの方向性を決定するために使用されます。
臨床心理士の場合は患者のストレス対処能力を評価し、心理療法の計画を立てる際に参考にします。
企業・組織
人事・労務担当者を対象とする場合は、従業員のメンタルヘルスを管理し、職場でのストレスを軽減するための研修やプログラムの効果を測定するために使用されます。
研究者
心理学・医学・社会学の研究者の場合はストレス対処行動に関する学術研究で、データ収集のツールとして活用されます。


形式
CISS日本語版の形式は、自己報告式の質問紙によるものです。
この質問紙は、ストレス状況下での対処行動を評価するために設計されています。
具体的な形式の詳細は以下の通りになります。
質問項目数
全48問
回答形式
「まったくない」から「非常に多くある」までの5段階評価スケールで回答します。
このスケールは、受験者が各質問にどの程度同意するかを数値で表すためのものです。
尺度
CISSは3つの基本尺度(課題優先対処、情動優先対処、回避優先対処)と2つの下位尺度(気分転換、対人的な気晴らし)から構成されています。
これにより、個人がストレスに対してどのような対処方法を取りがちかを多面的に評価できます。
所要時間
回答には10分程度、自己採点には5分程度が目安です。
特徴
CISS日本語版の特徴ですが、ここでは…
- 多次元的対処尺度
- 自己報告式質問紙
- 18歳以上の成人を対象
- 心身の健康への応用
- 多言語版の存在
…について解説します。
多次元的対処尺度
CISSは、ストレスに対する対処方法を多次元的に捉えます。
具体的には、「課題優先対処」「情動優先対処」「回避優先対処」という3つの基本尺度に加え、「気分転換」「対人的な気晴らし」という2つの下位尺度を含みます。
これにより、ストレス状況下での個人の反応パターンを広範に測定できます。個々の対処スタイルを理解することで、ストレス管理のためのより効果的な戦略を開発することが可能になります。
自己報告式質問紙
このツールは自己報告式質問紙に基づいており、回答者が自身の対処行動を「まったくない」から「非常に多くある」までの5段階で評価します。
48問からなるこの質問紙は、使用が簡単で、所要時間も回答に10分程度、自己採点に5分程度と短時間で完了します。
この手軽さは、様々な環境や状況でCISSを利用しやすくしています。
18歳以上の成人を対象
CISS日本語版は18歳以上の成人を対象にしています。
この対象範囲は、成人期の様々なストレス源に晒される可能性が高い人々に焦点を当てており、職場のストレス、家庭内の問題、健康に関する懸念など、成人に特有の多様なストレス状況をカバーしています。
心身の健康への応用
CISSは、ストレス対処の個人差を把握することで、心身の健康を支援する目的で使用されます。
ストレス対処スタイルを理解することは、ストレス関連の健康問題を予防または改善するための治療計画や介入戦略を立てる上で有益です。
これにより、個人はストレスに対処するためのより効果的な方法を学び、適用することができます。
多言語版の存在
CISSは英語版だけでなく、日本語版を含む複数の言語に翻訳されています。
これにより、異なる文化背景を持つ人々が自分たちの言語でストレス対処スタイルを評価できるようになり、世界中での利用が可能になっています。
この多言語展開は、文化的な違いがストレス対処行動にどのように影響するかを研究する上で貴重な資源となります。


方法
CISS日本語版の方法ですが、ここでは…
- 準備
- 回答の収集
- 採点と評価
- 結果の解釈
- フォローアップ
…のステップで解説します。
準備
18歳以上の成人を対象に、個人または集団で実施する予定者を決定します。
そしてCISS質問紙(日本語版)と回答シート、評価ガイドラインを準備します。
そのうえで対象者に対して質問紙の目的、回答方法、プライバシーの取り扱いについて説明します。
回答の収集
各対象者に質問紙と回答シートを配布します。
そして48問すべてに対して、「まったくない」から「非常に多くある」までの5段階評価で回答するよう指示します。
対象者は各質問に対して、自身の感じるストレス対処行動を反映する選択肢を選びます。
全問回答には約10分を目安にし、必要に応じて質問についての説明を行います。
採点と評価
対象者自身または実施者が採点ガイドに従って回答を採点します。
各尺度ごとの合計得点を計算します。
各尺度の得点に基づき、評価ガイドを参照して対象者のストレス対処スタイルを評価します。
結果の解釈
各尺度における得点を分析し、対象者がどの対処スタイルを主に用いているかを把握します。
そして分析結果に基づき、個人または集団へのフィードバックを行います。
さらに対象者の対処スタイルの傾向と、可能な改善点について説明します。
ストレス対処スキルを向上させるための個人または集団向けの支援プログラムやカウンセリングを提案します。
フォローアップ
必要に応じて追加のセッションやカウンセリングを提供し、対象者が新たな対処スキルを身につけられるよう支援します。
改善策を実施した後、一定期間が経過したらCISSを再度実施し、対処スキルの向上やストレスレベルの変化を評価します。


注意点
CISS日本語版を使用する際の注意点として…
- 正確な指示の提供
- 回答の自発性の確保
- プライバシーの保護
- 文化的適切性の考慮
- データ解釈の慎重さ
…について解説します。
以下にそれぞれ解説します。
正確な指示の提供
回答者に質問紙を配布する前に、質問紙の目的と回答方法について明確な指示を提供することが重要です。
指示が不明瞭だと、回答者が質問の意図を誤解したり、評価スケールを間違って使用したりする可能性があります。
これは、データの信頼性と有効性に影響を及ぼす可能性があります。
回答の自発性の確保
CISSは自己報告式質問紙であり、回答者の自発性と正直さがデータの質に直接影響します。
強制や外部からの圧力なしに自由意志で回答してもらうことが重要です。
もし回答者が社会的望ましさや評価者の期待に応えようとすると、結果が歪む可能性があります。
プライバシーの保護
回答者のプライバシーと回答の機密性を保護することは、信頼を築き、正直な回答を促す上で不可欠です。
回答者に対して、提供された情報が厳格に機密扱いされ、研究や評価の目的以外には使用されないことを保証する必要があります。
文化的適切性の考慮
CISS日本語版を使用する際は、文化的背景が質問の解釈や対処行動の報告に影響を与える可能性があることを認識することが重要です。
特定の文化的な文脈や価値観が、ストレス対処の評価や表現に影響を与える可能性があるため、これを考慮する必要があります。
データ解釈の慎重さ
CISSの結果は、個人のストレス対処スタイルの一面を示しているに過ぎず、全体像を完全に捉えるものではありません。
結果の解釈に際しては、個々の回答者の生活環境、ストレスの質と量、およびその他の個人差を考慮することが必要です。
単一のツールに依存することなく、他の評価手法や臨床的な判断を組み合わせることが推奨されます。

