認知症は、記憶力や判断力などの認知機能が低下し、日常生活に支障をきたす症状を指します。
加齢や脳の病変が主な原因で、アルツハイマー病が代表的なタイプです。
認知症とは
認知症とは、脳の神経細胞が死んだり、働きが低下することで、記憶力や判断力などの認知機能が徐々に失われていく状態を指します。
これは一つの病気ではなく、アルツハイマー病や脳血管性認知症など、複数の原因によって引き起こされる症候群です。
認知機能の低下に伴い、日常生活での自立が難しくなり、家族や介護者のサポートが必要となることが多いです。
発症の進行は人によって異なり、早期に診断と治療が行われれば、症状の進行を遅らせることが可能です。
認知症は高齢者に多いものの、若年性認知症も存在し、年齢に関係なく注意が必要です。
認知症を英語で何という?
認知症は英語で一般的に dementia と言います。
例えば、「私の祖母は認知症です」は「My grandmother has dementia」となります。
認知症に関するその他の英語表現
認知症に関しては次のような英語表現もする場合があります。
- Alzheimer’s disease: アルツハイマー病(認知症の最も一般的な原因)
- Vascular dementia: 血管性認知症
- Lewy body dementia: レビー小体型認知症
- Frontotemporal dementia: 前頭側頭型認知症
- Cognitive impairment: 認知機能の低下
認知症の初期症状
認知症の初期症状は、人によって現れ方や進行のスピードが異なりますが、共通して見られる症状がいくつかあります。
ここでは…
- 記憶障害
- 見当識障害
- 判断力の低下
- 実行機能障害
- 性格の変化
- 興味・関心の喪失
…などがあげられます。
それぞれ解説します。
記憶障害
認知症の初期症状として最も顕著に現れるのが記憶障害です。
特に最近の出来事を覚えられないことが増え、今日の昼食の内容や昨日会った人の名前などが思い出せなくなります。
これにより、同じ質問を短時間に何度も繰り返すことが多くなり、家族や周囲の人々が異変に気づくきっかけとなります。
また、物を置いた場所を忘れることが増え、鍵や眼鏡を探し回る場面が増えることも特徴です。
過去の出来事は鮮明に覚えているにもかかわらず、最近の出来事は曖昧にしか思い出せないため、このギャップが記憶障害の兆候として注意されます。
見当識障害
認知症の初期段階では、見当識障害も現れることがあります。
これは、時間や場所、人物に対する認識が曖昧になる状態で、いつも通っている道で迷ってしまうなど、日常生活に大きな影響を及ぼします。
自宅内でも部屋の場所が分からなくなり、自分が今どこにいるのかがわからなくなることもあります。
さらに、時間の感覚が曖昧になるため、食事や睡眠のタイミングを誤ることが増えることも見られます。
これらの見当識障害は、本人や周囲に混乱を引き起こし、生活の質を大きく損なう要因となります。
判断力の低下
初期の認知症では、簡単な日常的な判断や計算が難しくなることも多いです。
家計簿をつけたり、計画を立てたりすることが困難になり、新しい情報を学ぶことや複雑な作業に対する抵抗感が増えます。
買い物中に必要なものを買い忘れる、約束の時間を勘違いするなど、日常生活の中で適切な判断ができなくなることが頻繁に見られるようになります。
また、同じ間違いを繰り返すことが多く、例えば料理中に火を消し忘れたり、外出時にドアの鍵をかけ忘れるといった状況が発生し、本人の安全にも影響を及ぼすことがあります。
実行機能障害
認知症の初期には、実行機能障害と呼ばれる症状が現れることもあります。
これは、物事を計画し、順序立てて実行する能力が低下する状態です。
たとえば、料理を作る際に、食材を用意する順番や調理手順が混乱することがあります。
また、予定を立てて行動することが難しくなり、約束やスケジュールを守ることが困難になることもあります。
仕事や家庭内での役割を果たすことが徐々に難しくなり、周囲からサポートを必要とする場面が増えていきます。
このような実行機能の低下は、認知症が進行するに従ってさらに顕著になります。
性格の変化
認知症の進行に伴い、性格や感情にも変化が見られることがあります。
これまで穏やかだった人が急に怒りっぽくなったり、頑固になることがあり、特に疑り深くなりやすいことが特徴です。
家族や配偶者に対しても不信感を抱き、「自分の物が盗まれた」などの妄想を抱くことがあります。
また、落ち着きがなくなり、些細なことでもイライラしやすくなるため、周囲との関係がぎくしゃくしがちです。
これらの性格の変化は、認知症の進行によって本人の心の負担が増え、感情のコントロールが難しくなるために引き起こされることが多いです。
興味・関心の喪失
認知症の初期症状として、これまで楽しんでいた趣味や活動への興味を失うことも多く見られます。
以前は頻繁に行っていた趣味をやめたり、外出や人との交流を避けるようになることが一般的です。
このような無関心な態度は、活動量が減るだけでなく、周囲とのコミュニケーションも減少するため、本人の孤立を深める原因となります。
また、家族や友人がその変化に気づいても、本人が無気力感を抱えているために積極的な対応が難しい場合も多く、適切なサポートが必要です。
興味や関心の喪失は、認知症の進行に伴う精神的な変化として現れます。
認知症の中核症状
認知症の中核症状は、脳の細胞が死んだり、脳の働きが低下することによって直接的に起こる、認知機能の障害のことを指します。
主なものとして…
- 記憶障害
- 見当識障害
- 理解・判断力の障害
- 実行機能障害
- 失語
- 失認
- 失行
…があげられます。
それぞれ解説します。
記憶障害
認知症の中核症状の一つである記憶障害は、特に最近の出来事や約束を忘れることが多くなります。
たとえば、直前に聞いた話や食事の内容をすぐに忘れてしまうことが典型的です。
また、短期記憶が特に影響を受けやすく、遠い過去の出来事は比較的よく覚えているのに対し、最近のことは曖昧になるという特徴も見られます。
このため、同じ質問を繰り返したり、同じ話を何度もすることが増え、周囲の人々にとって負担となる場合があります。
記憶障害は日常生活に大きな影響を与え、本人の自立性が徐々に失われていく原因となります。
見当識障害
見当識障害とは、時間、場所、人物の認識が曖昧になる症状です。
たとえば、現在の日時や季節を正しく把握できなくなったり、いつも通っている道で迷ってしまうことが見られます。
また、自宅や近所であっても道に迷ったり、行くべき場所を思い出せなくなることもあります。
この症状が進行すると、家族や知人の顔が分からなくなったり、自分が今どこにいるのか理解できなくなることもあります。
見当識障害は認知症患者の日常生活に大きな支障をきたし、迷子や事故のリスクが高まるため、介護や見守りが必要となることが多いです。
理解・判断力の障害
認知症が進行すると、物事の理解や判断が困難になることがあります。
たとえば、簡単な計算や買い物の際の判断ができなくなり、適切な行動を取ることが難しくなります。
また、新しい情報を学んだり、複雑な状況を理解する力が低下し、日常生活での問題解決ができなくなることも多いです。
さらに、社会的な判断や適切な行動ができず、約束を守れなかったり、不適切な言動をしてしまう場合もあります。
理解や判断力の低下は、本人の自立を妨げる要因となり、家族や介護者の支援が不可欠となることが多くなります。
実行機能障害
実行機能障害は、計画を立てて物事を進める能力が低下する症状です。
たとえば、料理をする際に、材料の準備や調理手順が混乱してしまうことがあります。
また、日常のルーチンを守ることが難しくなり、約束やスケジュールを忘れたり、物事の順序を混同してしまうこともあります。
この実行機能の低下は、仕事や家庭内での役割を果たすことが難しくなるため、本人にとっても周囲にとってもストレスとなります。
実行機能障害が進行すると、日常生活の基本的な活動すら難しくなり、介護の必要性が高まります。
失語
失語は、言葉を理解したり、適切に使う能力が低下する症状です。
認知症の患者は、適切な言葉が思い浮かばなかったり、言葉の使い方が間違っていたりすることがあります。
会話がスムーズにできなくなり、コミュニケーションに支障をきたすため、他者との交流が減少することも少なくありません。
さらに、物の名前を思い出せなかったり、簡単な文章を作ることができなくなることもあります。
失語は、患者の生活の質に大きく影響し、周囲との関係が疎遠になる原因にもなりかねません。
失認
失認は、視覚や聴覚などの感覚が正常に働いているにもかかわらず、物事を正しく認識できなくなる症状です。
たとえば、物の形や色が見えているのに、それが何であるか分からなくなったり、音を聞いているのに、その音が何を意味するのか理解できなくなることがあります。
この症状は、日常生活において非常に混乱を引き起こし、日常的な行動や作業に大きな影響を与えます。
また、視覚的な認識が低下することで、物を正しく見分けられず、事故やケガのリスクが高まることもあります。
失行
失行は、身体的に動作ができるにもかかわらず、日常的な動作ができなくなる症状です。
たとえば、着替え方が分からなくなったり、食事の際にフォークやスプーンの使い方を忘れてしまうことがあります。
これにより、基本的な生活動作ができなくなり、介護者の助けが必要になります。
失行は、認知症の進行に伴い、徐々に日常生活のあらゆる側面に影響を及ぼし、患者の自立性を大きく損なう要因となります。
また、動作ができないことに対して本人が焦燥感を感じることが多く、精神的な負担も大きくなる傾向があります。
認知症の症状の段階的変化の特徴
認知症の初期症状、中核症状については上述の通りですが、ここでは段階的な症状の変化の特徴について解説します。
ここでは…
- 前兆(経度認知症:MCI)
- 初期(軽度)
- 中期(中度)
- 末期(重度)
…という段階に分けて解説します。
前兆(軽度認知障害:MCI)
前兆期に当たる軽度認知障害(MCI)は、認知症の前段階で、もの忘れが増えるなどの症状が現れますが、日常生活には大きな支障がない状態です。
この段階では、特に最近の出来事や会話の内容を覚えにくくなったり、名前が出てこないといった物忘れが見られます。
しかし、こうした症状は「歳のせい」と思われがちで、見過ごされることが多いです。
判断力の低下や、言葉を選ぶことが難しくなり、空間認識能力も衰えて道に迷うことが増えることもあります。
早期の発見と治療がこの段階では非常に重要であり、適切な対応が行われれば、認知症への進行を遅らせる可能性があります。
初期(軽度)
認知症の初期段階では、記憶障害や判断力の低下がより顕著になります。
特に、直前の出来事を忘れてしまうことが多く、同じ質問を繰り返すなどの行動が見られるようになります。
また、日付や時間の感覚が曖昧になり、約束の時間を守れなかったり、スケジュールを混乱させることが増えてきます。
この段階では、複雑な計画を立てたり、新しいことを学ぶのが困難となり、実行機能にも影響が出てきます。
性格の変化も見られることがあり、以前は温厚だった人が怒りっぽくなることや、意欲の減退が顕著になることもあります。
日常生活に支障が出始めるため、家族や周囲のサポートが重要です。
中期(中度)
中期の段階では、認知機能の低下が進行し、日常生活において自立した行動が難しくなってきます。
記憶障害がさらに深刻化し、最近の出来事だけでなく、過去の出来事さえも曖昧になり、自分の生活に関する情報を覚えておくことが困難になります。
また、場所の見当識障害が進行し、自宅であってもどこにいるのか分からなくなり、徘徊してしまうことが増えます。
この段階では、サポートが必要な場面が増え、家族や介護者の負担も大きくなります。
さらに、幻視が現れたり、存在しない人や物が見えることもあり、認知症の症状が多様化してきます。
末期(重度)
末期に至ると、認知症はさらに進行し、ほとんどの認知機能が著しく低下します。
人を認識できなくなり、家族や友人とのコミュニケーションが困難になるだけでなく、言葉の理解や発話も難しくなります。
また、身体機能も次第に低下し、歩行や食事などの日常的な動作ができなくなり、最終的には寝たきりの状態になることも多いです。
この段階では、失禁や異食、不潔行為などが見られ、介護者のサポートが不可欠となります。
重度の認知機能低下により、自発的な行動はほとんど見られず、全面的な介護が必要となりますが、症状が進行しても適切なケアが患者の生活の質を少しでも保つために重要です。