デバイス補助治療(Device Aided Therapy; DAT)は、パーキンソン病の治療において、薬物療法に加え、刺激発生装置やポンプなどの機械を使用して症状を改善する先進的な治療法です。
本記事ではこの種類やメリット、デメリット、注意点などについて解説します。
デバイス補助治療(Device Aided Therapy; DAT)とは
デバイス補助治療(Device Aided Therapy; DAT)は、パーキンソン病の治療において、薬物療法に加えて、刺激発生装置やポンプなどの機械を用いる治療法を指します。
この治療法には、脳深部刺激療法(DBS)やレボドパ・カルビドパ配合経腸用液療法(LCIG)などが含まれ、DBSは脳の特定の神経核に電極を挿入し、電気信号で高頻度刺激を行うことで症状を改善します。
また、LCIGはゲル状のレボドパ製剤を胃ろうから空腸に持続的に投与し、進行期のパーキンソン病患者にみられる運動合併症を軽減します。
これらの治療法は、適切な患者に適切なタイミングで行うことが重要で、慶應義塾大学病院のような専門センターでは、デバイス補助療法の適応判断から手術、術後管理までを包括的にサポートしています。
具体的には…
- 脳深部刺激療法(DBS: Deep Brain Stimulation)
- レボドパ・カルビドパ配合経腸用液療法(LCIG: Levodopa-carbidopa continuous infusion gel therapy、デュオドーパ®)
…があげられます。
それぞれ解説します。
脳深部刺激療法(DBS: Deep Brain Stimulation)
脳深部刺激療法(DBS)は、パーキンソン病の進行期における症状の改善を目指す治療法で、脳内の特定の神経核に電極を挿入する手術を伴います。
この電極はボールペンの芯ほどの太さで、前胸部に埋め込まれたパルス発生器(IPG)と接続されており、IPGから送られる高頻度の電気信号によって神経活動が調節されます。
DBSは主に、薬物療法だけでは十分にコントロールできない運動症状や、日内変動、ジスキネジア(異常運動)を軽減するために使用されます。
この治療法は非破壊的で調整可能であり、症状が変化した場合や技術の進歩に応じて、設定の変更や機器の交換が可能です。
DBSの適応には詳細な評価が必要であり、治療を受ける前には、患者の全身状態や症状の具体的な特性を慎重に検討することが求められます。
レボドパ・カルビドパ配合経腸用液療法(LCIG: Levodopa-carbidopa continuous infusion gel therapy、デュオドーパ®)
レボドパ・カルビドパ配合経腸用液療法(LCIG)は、パーキンソン病の進行期患者に対して持続的な薬物投与を行うための治療法です。
この治療法では、ゲル状に加工されたレボドパ・カルビドパ製剤を使用し、胃ろうから挿入したチューブを通じて空腸に直接投与します。
LCIGの主な目的は、薬物の血中濃度を一定に保つことで、パーキンソン病に特有の症状の日内変動やウェアリングオフ現象(薬効の消失)を防ぐことです。
この治療法は、経口投与では十分な効果が得られない患者に特に有効であり、持続的な投与により症状の安定化が期待されます。
適切な患者に対して、専門医の監督のもとで行われることが重要であり、患者の生活の質の向上を目指した包括的なケアの一環として位置付けられます。
LCIGの導入には手術を伴うため、患者の全身状態や治療のリスク・ベネフィットを十分に考慮した上で決定されます。
デバイス補助治療のメリット
デバイス補助治療のメリットとしては…
- 症状の改善
- 技術の進歩
- 薬物療法の補完
- 薬剤の減量
…があげられます。
それぞれ解説します。
症状の改善
デバイス補助治療は、内服薬ではコントロールが困難なパーキンソン病の運動合併症やドパミン反応性の症状の改善に寄与します。
具体的には、ウェアリングオフ現象(薬の効果が切れるまでの時間が短縮される現象)やジスキネジア(異常運動)の軽減が可能です。
これにより、患者の日常生活における運動機能の安定が期待でき、症状の変動によるストレスや不便を軽減することができます。
さらに、デバイス補助治療は持続的かつ精密な調整が可能であるため、個々の患者の症状に合わせた最適な治療が実現します。
これにより、患者の生活の質(QOL)が向上し、独立した日常生活の維持が支援されます。
技術の進歩
近年の技術の進歩により、デバイス補助治療の効果と安全性は飛躍的に向上しています。
脳深部刺激療法(DBS)では、電極の配置や刺激の方向性を細かく調整できる技術が開発され、よりターゲットを絞った治療が可能になっています。
また、脳内の微小電場を感知し、リアルタイムで刺激パラメータを最適化することで、副作用の予防や効果の向上が期待されています。
こうした技術の進歩により、患者の個別ニーズに応じたカスタマイズ治療が可能となり、治療の成功率が向上します。
これらの技術的な改善は、治療の安全性と有効性を高め、より多くの患者が恩恵を受けることができるようになっています。
薬物療法の補完
デバイス補助治療は、従来の薬物療法が十分な効果を発揮しない場合に有力な補完療法として検討されます。
薬物療法単独では症状がコントロールできない場合、デバイス補助治療を併用することで、症状の改善と安定を図ることができます。
例えば、薬物療法に反応しない運動症状や日内変動の強い症状に対して、脳深部刺激療法(DBS)やレボドパ・カルビドパ配合経腸用液療法(LCIG)が有効です。
このように、デバイス補助治療は薬物療法の効果を補完し、総合的な治療戦略の一部として位置付けられます。
適切な治療法の選択と組み合わせにより、患者の症状管理が大幅に改善される可能性があります。
薬剤の減量
特に脳深部刺激療法(DBS)は、抗パーキンソン病薬の減量が期待できる治療法です。
DBSによる効果的な神経刺激により、薬剤の使用量を減少させることが可能となり、これにより薬物療法に伴う副作用のリスクが軽減されます。
薬剤の減量は、患者の全体的な健康状態の改善にも寄与し、長期的な治療計画の一環として重要です。
薬物療法の依存度が低下することで、患者の負担が軽減され、治療の継続性が向上します。
DBSを用いた治療は、特に薬物療法が副作用や耐性の問題を引き起こしている場合に有効であり、患者の生活の質の向上に大きく貢献します。
デバイス補助治療のデメリットや注意点
デバイス補助治療(Device Aided Therapy; DAT)には、以下のようなデメリットや注意点があります。
- 感染症
- 装置関連の合併症
- 日常生活への影響
- 皮膚トラブル
それぞれ解説します。
感染症
デバイス補助治療(Device Aided Therapy; DAT)では、体内にデバイスを埋め込むため、感染症のリスクが存在します。
デバイスが体内に存在することで、バクテリアや他の病原体が侵入する可能性が高まり、感染症のリスクが増加します。
感染が発生すると、抗生物質による治療に限界があり、治療が困難になる場合があります。
特に深刻な感染症では、敗血症や心内膜炎を発症する可能性があり、これらの状態は致命的な結果を招くことがあります。
したがって、デバイスの埋め込み後は、感染症予防のための厳格な衛生管理と定期的な医療チェックが不可欠です。
装置関連の合併症
デバイス補助治療には、デバイスそのものに関連する合併症のリスクも存在します。
デバイスの機能不全や体内での位置移動が発生する可能性があり、これにより治療効果が減少することがあります。
機能不全の場合、デバイスの交換や修理が必要となり、追加の手術が必要になることもあります。
体内での位置移動により、デバイスが本来の効果を発揮できなくなる可能性があり、症状の再発や悪化を招くことがあります。
これらの合併症を防ぐためには、デバイスの適切な設置と定期的なフォローアップが重要です。
日常生活への影響
デバイス補助治療を受ける患者は、日常生活において特定の制約を受けることがあります。
例えば、デバイスが電磁波やMRIなどの影響を受ける可能性があり、これらの状況において特別な注意が必要です。
また、心臓のペースメーカーと同様に、デバイスの電池は数年ごとに交換する必要があり、このための手術が定期的に必要となります。
これにより、患者は定期的に病院を訪れる必要があり、生活の一部として計画的な医療管理が求められます。
これらの制約は、患者の日常生活に影響を与える可能性があるため、治療前に十分な説明と理解が重要です。
皮膚トラブル
デバイス補助治療では、デバイスを皮下に埋め込むため、皮膚に関連するトラブルが発生することがあります。
皮膚の炎症や感染、痛みなどが発生する可能性があり、特に埋め込み部位のケアが重要です。
激しい運動や皮膚への過度の圧力を避けることが推奨され、デバイス周辺の皮膚状態を常に監視することが求められます。
皮膚トラブルが発生した場合は、早期に医療専門家に相談し、適切な処置を受けることが重要です。
これにより、デバイスの機能を維持しながら、患者の快適な生活をサポートすることができます。