浮腫(むくみ)は体内に余分な水分が溜まり、手足や顔が腫れる状態を指します。
漢方では、浮腫を「水毒」と捉え、気・血・水のバランスの乱れが原因と考え、それに応じた漢方薬で治療を行います。
本記事では浮腫と漢方について解説します。
浮腫と漢方
浮腫(むくみ)は、体内に余分な水分が溜まり、手足や顔が腫れた状態を指します。
東洋医学では、浮腫はエネルギー(気)の不足や流れの滞りが原因で、体内の水分が適切に循環せず滞ることで引き起こされると考えられています。
この不均衡を解消するために、漢方薬が効果的な治療法とされており、特に水分代謝を促進する薬が用いられます。
浮腫に効果的な漢方
浮腫に効く漢方薬は、その人の体質や症状によって異なります。
代表的な漢方薬としては、以下のものが挙げられます。
- 五苓散(ごれいさん)
- 真武湯(しんぶとう)
- 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
- 防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)
- 猪苓湯(ちょれいとう)
それぞれ解説します。
五苓散(ごれいさん)
五苓散(ごれいさん)は、体内の余分な水分を排出し、水分バランスを整える効果がある漢方薬です。
特に二日酔いや水分の摂りすぎによるむくみに効果的で、胃腸の働きを改善しながら、体内に溜まった不要な水分を尿として排出する作用があります。
これにより、顔や手足のむくみが軽減され、体がすっきりと感じられるようになります。
さらに、五苓散は胃腸が弱く、体が水分を上手く処理できない人にも適しており、全身の水の巡りをサポートします。
また、五苓散は飲みやすい粉末タイプが一般的で、日常生活でも取り入れやすい点が特徴です。
真武湯(しんぶとう)
真武湯(しんぶとう)は、冷えからくるむくみや腰痛、疲労感などに効果を発揮する漢方薬です。
この薬は、体を温めながら、水の巡りを改善することで、むくみや冷えを解消します。
特に体が冷えやすい人や、体力が落ちている人に適しており、血行を促進して代謝を活性化させます。
また、真武湯は腰痛や下肢の冷えに伴うむくみの改善にも効果が期待されており、冷えが原因で体全体のバランスが崩れている場合に用いられます。
長期間にわたる冷えによる体調不良にも対応でき、日々の生活で体の冷えを感じやすい人には有効です。
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)は、血の巡りを良くし、体を温める効果のある漢方薬で、特に女性の冷え性や月経不順に対して効果的です。
この薬は、血液の循環を促進し、月経に伴うむくみや生理痛を和らげる作用を持ちます。
体を温めながら、気血の流れをスムーズにし、冷えが原因で引き起こされるむくみを解消します。
冷え性によるむくみや月経トラブルに悩む女性にとっては、特に効果的で、ホルモンバランスの乱れからくる症状を軽減します。
さらに、当帰芍薬散は疲労感の軽減や貧血の改善にも効果が期待されており、全身のバランスを整える働きがあります。
防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)
防已黄耆湯(ぼういおうぎとう)は、体力が低下している人や、冷え性でむくみやすい人に効果がある漢方薬です。
この薬は、体内の水分を排出しながら、身体を温めてむくみを改善する作用を持っています。
特に体力が衰え、冷えやすい人に適しており、全身の血行を良くしながら、余分な水分を排出します。
また、運動不足や過労によるむくみにも効果があり、冷え性や体力の低下が原因で生じる体調不良をサポートします。
防已黄耆湯は、体を強化し、冷え性の改善に役立ち、特に日常的にむくみやすい人に適した漢方です。
猪苓湯(ちょれいとう)
猪苓湯(ちょれいとう)は、体内に湿気がこもり、むくみや頻尿、尿量減少などの症状が現れる場合に効果的な漢方薬です。
この薬は、特に湿気が原因で体が重く感じるような状態や、体内の水分循環が滞り、余分な水分が排出されにくい状態を改善します。
猪苓湯の利尿作用は、体内の余分な水分を自然に排出することで、むくみや頻尿、尿量減少といった症状を軽減し、水分バランスを整えるのが特徴です。
また、猪苓湯は腎臓の機能を高める効果もあり、長期間にわたって湿気や水分代謝の不調を感じている人に適しています。
体全体の機能をサポートし、湿気による不調を和らげることで、日常の快適な生活を取り戻す助けとなる漢方薬です。
浮腫の原因を漢方的に考える
漢方医学では、浮腫(むくみ)の原因を以下のように考えます。
- 気(気力)の不足
- 血(血液)の滞り
- 脾(脾臓)の働き低下
- 腎(腎臓)の働き低下
- 肺(はい)の働き低下
- 心(しん)の機能低下
それぞれ解説します。
気(気力)の不足
気(気力)の不足は、体内のエネルギー不足が原因であり、漢方では「気虚(ききょ)」と呼ばれます。
気は人体のすべての機能を円滑に動かす原動力とされており、気が不足すると水分をうまく巡らせることができず、浮腫が起こりやすくなります。
特に疲れやすい、だるさを感じるといった症状がある場合、気の不足が関与している可能性があります。
漢方では、気を補うために補気薬(ほきやく)と呼ばれる処方が使われ、代表的なものには補中益気湯(ほちゅうえっきとう)などがあります。
これにより、気力を高め、体内の水分循環を改善することで、浮腫の予防や解消を目指します。
血(血液)の滞り
血(血液)の滞りは、血の流れが悪くなることで、水分が体内に停滞し、むくみを引き起こす状態です。
漢方では「血瘀(けつお)」と呼ばれ、冷え性や運動不足、ストレスなどが原因で血流が滞ることが一般的です。
血の流れが滞ると、体内に余分な水分が蓄積し、むくみだけでなく、肩こりや頭痛、月経不順などの症状を引き起こすこともあります。
血瘀を改善するためには、血行を促進する漢方薬が用いられ、当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)などが処方されることがあります。
これにより、血液と水分の流れを正常に戻し、むくみの改善に繋げます。
脾(脾臓)の働き低下
脾(脾臓)の働き低下は、漢方で「脾虚(ひきょ)」と呼ばれ、消化や吸収の機能が弱まり、水分が体内に滞りやすくなる状態です。
脾は体内の水分代謝を司る重要な臓器であり、その働きが低下すると、食物から取り入れた水分を体外に排出する力が弱くなります。
その結果、体内に余分な水分が溜まり、むくみや下痢、疲労感が生じやすくなります。
脾虚を改善するためには、脾を強化する漢方薬として、六君子湯(りっくんしとう)などが用いられ、消化吸収力を高め、体内の水分バランスを整える効果が期待されます。
腎(腎臓)の働き低下
腎(腎臓)の働き低下は、漢方で「腎虚(じんきょ)」と呼ばれ、特に腎の水分を排出する能力が弱まると、体内に余分な水分が蓄積され、浮腫が起こります。
腎は全身の水分バランスを調整する役割を持ち、腎の機能が低下すると、顔や足のむくみ、倦怠感、さらには腰痛などの症状も現れやすくなります。
腎虚の改善には、腎を補う漢方薬が用いられ、八味地黄丸(はちみじおうがん)などが処方されることがあります。
これにより、腎の機能を高め、水分代謝を正常化し、浮腫を予防・改善する効果が期待されます。
肺(はい)の働き低下
肺(肺臓)の働き低下は、漢方で「肺虚(はいきょ)」と呼ばれ、体内の水分を膀胱へ運び、尿として排出する役割が弱まることで、むくみが生じます。
肺は気の巡りを司る臓器であり、気の流れが滞ると水分の代謝も悪化し、余分な水分が体内に停滞してしまいます。
特に、慢性的な咳や息切れ、風邪を引きやすい人は、肺の機能が低下している可能性があります。
肺虚を改善するためには、肺を強化し、気を巡らせる漢方薬が用いられ、麦門冬湯(ばくもんどうとう)などが処方されます。
これにより、肺の機能を回復させ、体内の水分代謝を促進し、むくみを解消します。
心(しん)の機能低下
心(心臓)の機能低下は、漢方で「心虚(しんきょ)」と呼ばれ、心が血液を全身に送り出す機能が弱まると、血流が悪くなり、水分の流れが滞ることでむくみが生じます。
心臓の機能低下は、特に血行不良や疲労感、動悸といった症状と関連しており、心の機能が低下すると、むくみが現れやすくなります。
心虚の改善には、心を強化し、血流を促進する漢方薬が用いられ、酸棗仁湯(さんそうにんとう)などが処方されることがあります。
これにより、心臓の機能を回復し、全身の血液循環を改善して、水分の滞りを解消します。