てんかん発作と一言で言っても、その種類は様々です。
本記事ではこのてんかん発作について解説します。
てんかん発作とは?
てんかんは年齢、性別、人種に関係なく発病する脳の病気であり、脳の神経細胞の激しい電気的な興奮による繰り返し発作が特徴です。
WHOではてんかんを脳の慢性疾患と定義し、発作に伴う臨床症状や異常な検査結果がみられるとされています。
てんかんの発症率
てんかんの発症率は、日本では1,000人のうち5~10人(0.5~1.0%)の割合で、世界で4,000~5,000万人いるとされ、どの国でもほぼ同じで人種は関係ないといわれています。1)。
また、広島大学が全国大規模データ解析を行った結果、日本におけるてんかん発症率は、10万人年あたり72.1人(新規てんかん患者/総観察人年[2012年~2019年]×10万)だったと報告されています。2)。
てんかんの年齢別割合
てんかんの年齢別割合については、乳幼児から高齢者までの幅広い年齢層でてんかんが発症する可能性が示されました。
特に、0歳と70~74歳の年代で発症率が他の年代に比べて顕著に高かったことが分かりました。2)。
てんかん発作の種類と特徴
てんかん発作は主に次の2つに分けられます。
- 焦点(部分)発作
- 全般発作
以下にそれぞれ解説します。
焦点(部分)発作
焦点(部分)発作は片側の脳の一部から始まる発作です。
高齢発症のてんかんは、ほとんどが焦点てんかん(焦点発作)であり、若年者のてんかんに比べ薬剤治療による発作消失率が高いことが報告されています。
この発作はさらに意識がはっきりしているかどうかで”単純部分発作”と”複雑部分発作”に分けられます。
単純部分発作
身体の一部にけいれんが起こったり、視覚や聴覚などの感覚異常が起こったりしますが、意識は保たれます。
例として、手足や顔がつっぱる、ねじれる、ガクガクとけいれんする、光や色が見える、人の声が聞こえる、片側の手や足のしびれ、吐き気をもよおす等の症状があります。
複雑部分発作
口をもぐもぐさせたり、衣服をいじったりといった目的のない動きを繰り返す自動症や、意識がもうろうとする精神運動発作などがあります。
全般発作
全般発作は、脳の広い範囲で過剰な興奮が起こり、ほとんどの場合意識を失います。
全般発作は、てんかんの中でも最も一般的なタイプで、約6割の人がこのタイプの発作を起こします。
この発作は、さらに”強直間代発作”と”欠神発作”に分けられます。
強直間代発作
「強直間代発作」とは、筋肉が硬直する状態と、意識が消失する状態が交互に現れる発作です。
全般発作の一種で、約10%の人がこのタイプの発作を起こします.
欠神発作
「欠神発作」とは、意識が数秒から数十秒間消失する状態です。
小発作とも呼ばれます。
子どもに多く見られ、約3割の人がこのタイプの発作を起こします。
てんかんの診断のための評価、検査
てんかんの検査方法としては…
- 問診
- 脳波
- 画像検査
- 長時間記録ビデオ脳波モニター検査
- 血液・尿検査
…などがあります。
以下にそれぞれ解説します。
問診
問診はてんかんの診断において重要であり、患者の発作状況を詳しく把握することが役立ちます。
主治医は発作がどのような状況で起こるかや現れる症状について質問します。
ただし、患者自身が発作を覚えていない場合も多いため、周囲の人からの情報も重要になります。
発作時の状況をメモしたり、録画したりすることも役立ちます。
加えて、過去の重大な病歴や頭部や心臓の問題、身体的状態(血圧など)、過去の発作の有無、熱性けいれんの経験なども尋ねられます。
発作の誘因となる行動(寝不足、疲労、飲酒、月経、発熱、薬の飲み忘れなど)も診断の情報としては有効です。
脳波検査
てんかんの検査では、脳波検査が最も重要になります。
脳波は脳の神経細胞のわずかな電流を記録することで、脳の異常を診断します。
発作時には異常な波形が現れ、これを「発作波」と呼びます。
発作波の形や出方から、発作が関与している脳の部位を推測することができます。
ただし、脳は常に変化しているため、異常がない場合でも複数回の検査や発作時の記録が必要な場合もあります。
長時間記録ビデオ脳波モニター検査
てんかんにおいては、見過ごされやすい発作や予想外の症状も存在することがあります。
そのような場合、長時間記録ビデオ脳波モニター検査が行われます。
長時間記録ビデオ脳波モニター検査では、発作がどの部位から始まり、どのように広がっていくかを確認することができます。
また、手術に必要な情報を得るためにも行われます。
患者は夜間入院し、脳波を連続的に記録しながら発作が発生するのを待ちます。
患者は寝たままではなく、自由に動くことができるため、負担は比較的少ないです。
この検査では、発作状況をビデオで撮影しながら脳波を同時に記録しますので専門病院でのみ実施されます。
画像検査
てんかんの原因となる病変(脳腫瘍、脳や血管の奇形、脳の炎症、頭部外傷や脳血管障害後の瘢痕など)の有無は、画像検査によって調べることが可能です。
てんかん診療において使用される画像検査には、X線コンピュータ断層撮影(CT)、磁気共鳴画像(MRI)、シングルフォトン放出断層撮影(SPECT)およびポジトロン放出コンピュータ断層(PET)があります。
CTおよびMRIは脳の構造的な異常を検出するために使用されます。
CTは大きな病変や石灰化病変を検出することができますが、MRIではより小さな病変も観察することができます。
SPECTは脳血流や神経受容体濃度を測定し、PETは脳のブドウ糖代謝や酸素消費率の変化を観察することができます。
これにより、脳の機能的な状態を評価することが可能です。
血液・尿検査
てんかん以外にも発作や重積発作を引き起こす病気は多数存在します。
これらの発作は急性症候性発作と呼ばれ、てんかんとの鑑別診断において重要な役割を果たします。
原因を特定するためには、血液検査や尿検査などが行われます。
感染症(炎症反応など)、代謝障害(電解質、アンモニア、血糖、アミノ酸・有機酸、血気ガス、乳酸・ピルビン酸など)、血管障害(凝固検査など)、薬剤(血中濃度)などが、血液や尿の検査によって判明する可能性のある原因として挙げられます。
また、有機酸・アミノ酸・脂肪酸などの先天性代謝異常症は、てんかんの原因の一つとして考えられており、血液、尿、髄液などを用いた有機酸分析やアミノ酸分析などが行われます。
さらに、てんかんの原因となる染色体や遺伝子の異常を調べる検査も、血液や体液などを用いて実施されます。
発作の予兆(aura:オーラ)とは?
一部のてんかん患者は、発作が起こる前に特定の予兆を経験することがあります。
これらの症状はaura(オーラ)とも呼ばれます。
発作の予兆(オーラ)は、発作の種類や個人差によって様々です。
ここでは…
- 身体感覚症状
- 視覚症状
- 聴覚症状
- その他
…に分けて解説します。
身体感覚症状
てんかん発作の前兆でも、身体感覚の症状は特徴的です。
- 手足がピリピリする
- 感覚がなくなる
- 電気が走るような感じがする
- 手足が熱い、冷たい
…といったさまざまな感覚あげられます。
視覚症状
また、視覚的な症状もauraとしては特徴的と言えます。
- 点や円形など、いろいろな形が見える
- ぼやけて見える
- ゆがんで見える
- 一部が見えなくなる
聴覚症状
加えて、聴覚的な症状も前兆として現れる場合があります。
- ブンブン、カンカンという機械の音がする
- 人の声が聞こえる
その他
人によって違いはありますが、その他の症状としては次のようなものもあるようです。
- めまいや身体動揺感
- 硫黄の臭いや焦げ臭いなどの嗅覚症状
- 苦い、甘い、酸っぱい味がするなどの味覚症状
- こみ上げる吐き気や胃腸の不快感
- 頭痛や不安感、恐怖感、胸がドキドキする、脈が速くなるなどの症状
てんかん発作の前兆症状を把握することが重要
前兆症状は人によって異なる場合もありますが、通常は個人ごとに同じ症状が現れることが多いです。
前兆の症状は発作の初期症状と考えられ、発作の起こる部位を特定する重要なサインとなります。
こえは診断や日常生活での管理に役立つ情報ですので、きちんと把握しておく必要があります。
てんかん発作の兆候が現れたら?
発作の予兆は、発作の開始を知らせるサインとして有用ですが、必ずしも発作が起こるとは限りません。
しかし、発作の予兆を感じた場合は、安全な場所に移動したり、周囲の人に知らせたりすることが重要になります。
てんかん発作の日常生活でのアドバイス
てんかん発作の日常生活の対策は、発作の種類や頻度、重症度などによって異なります。
一般的には次のようなことが挙げられます。
- 生活リズムを整える
- 発作の記録をつけること
- 外部サポートを活用する
以下にそれぞれ解説します。
生活リズムを整える
発作の管理には、健康的な生活習慣の確立が重要です。
十分な睡眠をとること、ストレスを避ける努力、規則的な食事を摂ること、適度な運動を行うことなどが含まれます。
特定のトリガーが発作を引き起こす場合は、それらのトリガーを避けることも重要です。
発作の記録をつけること
発作日記をつけることは、発作のパターンやトリガーの特定、治療効果の評価に役立ちます。
発作の発生日時、発作の種類、症状、発作前後の状態、可能なトリガーなどを記録します。
医師との相談や治療の最適化に役立つ情報を提供するため、定期的に発作日記を更新することが重要です。
外部サポートを活用する
発作の管理には、家族や友人、教師や同僚などの外部サポートが重要です。
発作の状況や対応方法を周囲の人に伝えることで、発作時のサポートや安全対策を円滑に行うことができます。
また、てんかんサポートグループや専門家のサポートを受けることも役立ちます。
てんかん発作の日常での注意点
では、てんかん発作の日常生活での注意点はどのようなものがあるのでしょうか?
ここでは…
- 服薬を忘れないようにすること
- 危険な場所や物から遠ざかること
- 健康管理と治療への継続すること
…について解説します。
服薬を忘れないようにすること
抗てんかん薬は、てんかんの発作を予防または制御するために使用されます。
医師が適切な薬剤を選択し、患者の症状、発作の種類、年齢、他の医療状態などを考慮して処方されます。
薬物療法は一般的には長期的な治療となり、適切な用量と定期的なフォローアップが重要です。
危険な場所や物から遠ざかること
日常生活でてんかん発作が起こると危険な状況について具体的な例としては次のような状況があげられます。
- 運転中や自転車に乗っているとき
- 高いところや水辺にいるとき
- 食事中や歯磨き中など口にものを入れているとき
- 風呂に入っているとき
- 電気製品や火気を扱っているとき
これらの状況下でてんかん発作が起こると、二次的に重大な事故を招く場合があります。
できるだけ一人ではこのような状況にならないように日常生活で注意をする必要があります。
健康管理と治療への継続すること
発作の管理には、定期的な健康管理と治療への継続が欠かせません。
抗てんかん薬の適切な服用や定期的な医師のフォローアップを行うことが重要です。
参考
1)厚生労働省におけるてんかん対策 – 国立精神・神経医療研究
2)Incidence and Prevalence of Epilepsy in Japan: A Retrospective Analysis of Insurance Claims Data of 9,864,278 Insured Persons