職業機能評価表について【脳卒中の復職支援に必要な評価項目とは?】

脳卒中は日本人の死亡原因の第4位ですが、最近は働き盛りの若い人にも多くなっているようです。
つまり日常生活自立の能力だけでなく、復職といった社会参加の支援も作業療法士には強く求められています。

そこで今回は脳卒中の復職支援に必要な評価について「職業機能評価表」を軸に解説します。

本記事によって少しでも、脳卒中のクライアントの復職支援に関わっているけど、どう評価したらいいかわからない…なんて作業療法士の一助になれれば幸いです。

脳卒中の復職について

脳卒中後の復職率は平均44%(範囲0~100%)という統計結果がでています。
これはあくまで脳卒中を発症する前に何かしらの仕事をしていた、という前提条件のため、定年退職をした高齢者などは含まれていません。

でも印象としては…やっぱり半分いかないってのは少ないですね…。

一般医療機関は復職支援に弱い?

若い年齢の脳卒中の方が復職をするとなると、一般医療機関(特に回復期リハビリテーション領域)による就労支援が非常に重要になってきます。
でもどうしても一般医療機関の作業療法士はADL、APDLの自立に対してのリハビリには強くても、就労支援となるとうまくできない印象を持ちます。

職業機能評価表とは?

そこで、職業機能評価表というツールがこの状況を変えるための一つのツールになるのかなと思います。

これは、平成22/23年度の厚生労働省委託事業である「治療と職業生活の両立等の支援方法の開発一式(脳・心疾患)」…通称、「両立支援事業」によって開発されました。
これを使えば、就労支援が苦手な作業療法士でも、円滑な就労支援を行えるのかなと思うんです。

職業機能評価表の構成項目

この職業機能評価表は…

  • 基本情報
  • 職業情報収集表
  • 機能評価表
  • 支援計画表

…の4つの項目で構成されています。

基本情報

ここでの項目は、支援する対象者(以下クライアント)の基本情報や障害評価についての情報伝達が目的になります。

  項目 
基本情報 ・氏名・生年月日・住所・電話番号・家族構成・診断名・発症日・現病歴・既往歴・リスクファクター・かかりつけ病院・主治医・服薬・障害者手帳・傷病手当金・障害年金・利用しているリハビリ、サービス
障害評価 ・意識障害・知的障害・麻痺・感覚障害・不随意運動、協調性運動障害・筋力低下・関節可動域制限・疼痛・褥瘡・摂食機能障害・排泄機能障害・呼吸、循環機能障害・音声、発話障害・高次脳機能障害・移動能力・腕、手の機能

ここでの障害評価は、ICFでいうと『心身機能・身体構造』に位置する内容に当てはまるのかと思います。

職業情報収集表

ここでは、クライアントの発症前の職務内容や復職への意向などについての確認を目的としています。

本人・家族、職場関係者より収集する共通項目

  項目
入院前の仕事について ・事業所名・事業所住所・仕事の内容(産業分類、職業分類)・勤務形態・勤務日数・勤務時間・役職・勤務年数・職務内容・職務に必要な具体的能力、動作(詳細は表4参照)・主な仕事環境・職務に伴う危険性・通勤手段・通勤時間

本人・家族より収集する項目

  項目
学歴について (最終学歴を選択)
職業歴について (自由記載)
復職について ・復職希望・復職時の希望職務・復職時の希望配慮内容・復職に対する不安や相談事項・療養中の勤務の取り扱い
生活面について ・家族構成・療養中の経済面・療養に伴う家族の変化・入院前の過ごし方

職場関係者より収集する項目

  項目
復職について ・入院、療養中の保障・休職期限・産業医の有無・復職時利用可能な制度・勤務時間の検討可否・配置転換の検討可否・職務内容変更の可否・外部支援スタッフ介入の可否・障害者雇用の実績・復職に向けた相談窓口・復職に対する不安や相談事項

ここではクライアント本人の脳卒中発症前と発症後の仕事に関する情報をまとめる…という目的になるのだと思います。
項目の内容をみると、発症前に勤めていた職場へ「復帰する」というのが前提のような内容のように感じますからね。

あくまで新しい職場に「就労」するというよりは、前の職場に「復職」する場合…と解釈するのがよいのかと。。

機能評価表

ここではクライアントの日常生活能力や社会生活能力、また職務に必要な能力などの評価を行う目的になります。

  項目
健康管理能力 ・服薬管理・栄養管理・精神衛生管理・身体機能の維持管理
社会生活能力 ・身辺処理・家事、家庭管理・応用移動・公共機関の利用・コミュニケーション・生活リズム
職務に必要な基本的情報 ・見る・聴く・話す・読む・書く・計算・注意、集中力・記憶力・指示の理解力・行動計画能力・報告、連絡、相談能力・対人関係能力・耐久性・疲労自己コントロール・自分自身の作業能力の把握・必要に応じた代償手段の活用・復職への意欲・復職に対する家族の協力
職務に必要な具体的能力・動作 ・座位での活動・立位での活動・しゃがんでの活動・屋外歩行(平地、足場が悪い所)・走る・階段昇降・ハシゴ昇降・重量のあるものを扱う・精密作業(細かい手作業)・機械操作・自動車運転・パソコン作業(指示された文字文章の入力、指示された数値の入力、書類などの作成、表・グラフの作成、特定のソフトの使用、その他)・電卓計算・電話対応・接客、対人業務・その他
まとめ ・リハビリテーション経過および予後予測・復職を妨げる要因・仕事に活かせる強み

この項目はICFでいうところの“活動”に位置すると考えられます。
それぞれの項目内容をみると、非常に作業療法士が力を発揮できる部分でもあることがわかります。

支援計画表

  項目
対象者評価 ・復職ニーズ・健康管理能力・社会生活能力・職務に必要な基礎的能力・職務に必要な具体的能力、動作
事業所評価 ・復職への協力度・障害の理解
まとめ ・復職に向けた支援段階・復職時の業務等について・社会資源の活用・今後の対応課題(目標)・今後のスケジュール

この項目はまさにICFの“参加”に当てはまると言えます。
もちろんあとは“環境因子”や“個人因子”にも当てはまる気もします。

医療リハと職業リハとの乖離について

回復期リハ病院においての脳卒中のリハビリの目的は、ほとんどが「在宅復帰」でありそれに伴うADLの自立、APDLの自立が重要視されます。
この目的に沿ってリハビリテーションサービスを提供することはもちろん必要なことです。

でも、どうしても「社会参加」という部分は優先順位が下がってしまっているように感じます。

ましてや働き盛りの年齢で脳卒中を発症したようなケースでは、復職支援といった職業リハ的な介入があっても「作業療法室内での疑似的な場面設定」の上での訓練で止まってしまうケースが多い印象を受けます。
言い方は悪いですが、「復職は退院後、本人や家族、職場に丸投げ」になってしまっています。

…まあ、その理由としては職業リハに対しての作業療法士の知識と経験の少なさもあげられるでしょうけどね(苦笑)

まとめ

本記事では、脳卒中の復職支援に必要な評価項目を「職業機能評価表」というツールを軸に解説しました。

クライアントの復職を支援する場合、医療スタッフ、本人、家族、職場の職員といった幅広い人が関わってきます。
支援のための情報共有を円滑にするためにも、どの立ち位置にいる人にも理解できる「共通言語」が必要です。
そしてなにより必要な情報を拾い忘れがなく伝達するための標準化したツールが必要になってきます。

今回まとめた職業機能評価票を使用するなどして、一定の水準の復職支援ができるようなシステムづくりが必要かもしれません!

参考文献

医療機関における脳卒中復職支援
脳卒中患者の復職支援事業報告

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