家族関係や家族内の問題をイメージ化する方法の一つにFIT(家族イメージ法)があります。
本記事ではFITの目的や特徴、方法などについて解説します。
FIT(家族イメージ法)とは?
FIT(Family Image Test:家族イメージ法)は、家族関係や家族内の問題行動(不登校、摂食障害、非行など)を抱える子どもたちをサポートするための家族アセスメントツールです。
この方法は、家族がお互いにどのように関わり合っているか、家族メンバーが互いにどのような位置づけを感じているかを視覚化する手法であり、家族のダイナミクスや関係性を明確に理解するのに役立ちます。
開発
FIT(家族イメージ法)の開発は、日本の家族療法や心理アセスメントにおける重要な進展の一つです。
この手法は、元々はD. Kvebaekによって1980年に開発されたFamily Sculpture Techniqueを基にしていますが、日本の文化や家族構造に合わせて大きく修正・改良されました。
その中心的な役割を果たしたのは、東京大学名誉教授であり、システム心理研究所の代表である亀口らのチームです。
Family Sculpture Techniqueは、家族メンバーが互いの関係性を空間的に表現するために人形やオブジェクトを配置する方法です。
これにより、家族内のダイナミクス、権力構造、親密さや疎外感などが視覚化されます。
しかし、亀口らはこの技術を日本の家族に適用するにあたり、よりシンプルで、言語化しにくい家族の感情や関係性を具体的に示せる方法を模索しました。
その結果、彼らが開発したFIT(家族イメージ法)では、家族メンバーを象徴する円形のシールと、そのメンバー間の関係性を示す線のシールを使用します。
被験者はこれらのシールをワークシート上に配置することによって、自分の家族を一種の「システム」としてどのように見ているのかを表現します。
このプロセスを通じて、家族内の隠れた感情や潜在的な問題点が明らかになり、治療やカウンセリングの方向性を定めるのに役立ちます。
目的
FIT(家族イメージ法)の目的は多岐にわたり、家族関係の理解と改善に資することにあります。
その目的として…
- 家族ダイナミクスの可視化
- コミュニケーションの促進
- 問題行動の背景理解
- 治療・支援計画の策定
- 家族関係の改善
…について解説します。
家族ダイナミクスの可視化
FITを用いる主な目的は、家族内の関係性やダイナミクスを可視化することです。
家族メンバー間の位置関係、距離感、結びつきの強さを円形のシールと線のシールで表現することにより、言葉では表現しにくい家族内の微妙な感情や緊張関係を明らかにします。
この可視化は、家族自身が自分たちの関係性を客観的に見る機会を提供し、問題の根源や解決策についての洞察を深める手助けとなります。
コミュニケーションの促進
FITは、家族間のコミュニケーションを促進することを目的としています。
シールを使って各自の家族イメージを表現するプロセスは、家族メンバーに自分たちの感情や考えを共有する契機を提供します。
この共有プロセスは、しばしば家族間の誤解を解消し、互いの立場を理解し合う基盤を作ります。
特に、言葉で直接伝えにくい感情や態度も、この方法を通じて間接的に伝えることが可能になります。
問題行動の背景理解
不登校、摂食障害、非行などの子どもの問題行動は、しばしば家族システム内の問題が背景にあることが指摘されます。
FITを通じて家族関係を分析することで、これらの問題行動を引き起こす可能性のある家族内のダイナミクスやストレス源を特定することが目的です。
問題行動の背後にある家族システムの問題を理解することで、より効果的な治療計画や支援策を立案することが可能になります。
治療・支援計画の策定
FITの結果は、治療や支援の方向性を決定する上で重要な情報を提供します。
家族関係の可視化により得られた洞察は、カウンセラーやセラピストが個々の家族に最適なアプローチを選択するための基盤となります。
例えば、家族間の距離感が遠いことが明らかになれば、親密さを高めるためのセラピーが推奨されるかもしれません。
このように、FITは個別化された治療計画や家族支援の戦略を策定するための貴重なツールです。
家族関係の改善
最終的に、FITの究極の目的は、家族関係の改善にあります。
この手法を通じて得られた洞察と、それに基づく治療や支援の実施は、家族メンバー間の理解を深め、コミュニケーションを改善し、より健全な家族ダイナミクスを構築することを目指しています。
家族がお互いの価値を認め合い、支え合う関係性を築くことは、個々のメンバーの精神的健康にとっても、家族全体の幸福感にとっても重要です。
特徴
FIT(家族イメージ法)は、家族関係やダイナミクスを探るための独特なアプローチであり…
- 非言語的表現を用いる
- 直感的な理解を促す
- 家族システムの全体像を把握
- 参加型のアプローチ
- 柔軟な適用性
…といった特徴を持っています。
以下にそれぞれ解説します。
非言語的表現を用いる
FITは、家族メンバーが自らの感じている家族内の位置関係や結びつきを非言語的に表現する方法を採用しています。
具体的には、シールやカードなどの視覚的な道具を使用して、自分自身と他の家族メンバーとの関係性を図式化します。
この非言語的な表現は、特に感情的な問題や微妙な関係性のニュアンスを言葉で表現することが難しい場合に有効です。
子どもや言語表現に不安がある人でも自分の感じていることを表現しやすくなります。
直感的な理解を促す
FITの手法は、参加者が直感を用いて家族の関係性を表現することを奨励します。
このプロセスは、家族メンバーが自分たちの関係性について深く考え、内省する機会を提供します。
家族内のダイナミクスや問題点についての直感的な理解は、言葉での説明よりも強力な洞察をもたらすことがあります。
このような内省は、自己認識の向上にも繋がり、自分自身と家族との関係を再考するきっかけとなります。
家族システムの全体像を把握
FITは家族システム全体を視野に入れることを可能にします。
個々の家族メンバーが自分と他のメンバーとの関係を表現することにより、家族全体としての関係性のパターンやダイナミクスが明らかになります。
この全体像の把握は、家族内の問題を個人の問題としてではなく、システム全体の相互作用の結果として理解することを助けます。
これにより、問題のより根本的な原因を探求し、システム全体を対象とした改善策を考えることができます。
参加型のアプローチ
FITは、家族メンバー全員がアクティブに参加するプロセスです。
この参加型のアプローチは、家族全員が自分たちの関係性について共同で考察し、理解を深めることを促します。
家族メンバーが互いに自分の見解を共有し合うことで、相互理解が深まり、家族間のコミュニケーションが改善される可能性があります。
この共有体験は、家族としての結束感を強化し、家族全員が問題解決に向けて協力する土壌を作ります。
柔軟な適用性
FITは、さまざまな家族の問題や状況に柔軟に適用することが可能です。
不登校、摂食障害、親子関係の問題など、様々な背景を持つ家族に対して有効な手法として活用されています。
また、文化や社会的背景が異なる家族に対しても、その家族固有の価値観や信念システムを尊重しつつ適用することができるため、幅広い文脈での使用が可能です。
この柔軟性は、FITが多様な家族に対して有効なツールである理由の一つです。
対象者
FIT(家族イメージ法)は、その柔軟性と包括性により、多岐にわたる対象に適用可能なアプローチです。
主な対象として不登校、摂食障害、非行などの問題を抱えている子供があげられますが、その検査特徴から…
- コミュニケーション問題を抱える家族
- 子育てや親子関係に課題を持つ家族
- 学校や社会での適応に苦労している子どもを持つ家族
- 慢性的な疾患や障害を持つ家族メンバーを支える家族
- 家族構成の変化を経験している家族
…といった家族にも適応が可能と考えます。
以下にそれぞれ解説します。
コミュニケーション問題を抱える家族
家族間のコミュニケーションの問題は、誤解や対立の根本的な原因となります。
FITを使用することで、家族メンバーは非言語的な方法で自己表現を行い、互いの感情や考えを可視化することができます。
このプロセスは、言葉で伝えるのが難しい感情や態度を明らかにし、家族間の誤解を解消し、より効果的なコミュニケーションへと導くことができます。
FITは、コミュニケーションの障壁を乗り越え、家族内の関係性を改善するための有効な手段を提供します。
子育てや親子関係に課題を持つ家族
親子間の関係は、様々な外的、内的要因によって複雑化することがあります。
FITは、親と子どもが互いの関係性を視覚的に表現し、お互いの立場や感情を理解する機会を提供します。
この過程では、未解決の感情や誤解が表面化し、それらに対処するための対話が促されます。
また、親子間の絆を強化し、育児のアプローチや態度に関する新たな洞察を得ることができます。
FITは、親子関係の修復と強化に役立つ貴重なツールです。
学校や社会での適応に苦労している子どもを持つ家族
不登校や社会的引きこもりなど、外部の環境に適応するのが難しい子どもを持つ家族にとって、FITは有用な介入手法を提供します。
この方法を通じて、子ども自身が家族内での自分の位置や、家族外の世界との関係性を表現することができます。
FITは、子どもが直面している外部環境への適応の問題を家族システムの文脈で理解し、サポートするための戦略を家族全体で考える契機を提供します。
慢性的な疾患や障害を持つ家族メンバーを支える家族
慢性的な疾患や障害を持つ家族メンバーのケアは、家族全体に影響を及ぼします。
FITは、このような状況下での家族内の感情、役割、負担の分配を探るための有効な手段を提供します。
家族メンバーが自分たちの感じているプレッシャーやサポートの必要性を表現することで、互いのニーズに対する理解が深まり、よりバランスの取れたケアの提供が可能になります。
家族構成の変化を経験している家族
離婚、再婚、家族メンバーの死亡など、家族構成の変化は家族システムに大きな影響を及ぼします。
FITは、これらの変化に伴う感情や新たな家族ダイナミクスを探るための枠組みを提供します。
家族メンバーが変化に対する自身の感情や反応を視覚的に表現することで、変化を受け入れ、新たな家族構成に適応するためのサポートを得ることが可能になります。
所要時間
FITの所要時間は20分ほどで、個人でも集団でも実施できます。
このことからFITが非常に効率的でアクセスしやすいツールであることがわかります。
方法
FIT(家族イメージ法)の方法として…
- 準備
- シールの配置
- 解釈と共有
- フィードバックとディスカッション
…のステップで解説します。
準備
まずセッションを始めるにあたり、セラピストはFITの目的とプロセスについて家族に説明します。
この時、参加者が安心して自己表現できるような環境作りが重要です。
そして各参加者には、自分自身と家族メンバーを象徴する円形のシールと、ワークシートが配布されます。
これらのシールは、家族の各メンバーを表すための道具となります。
シールの配置
参加者は、自分を含む家族メンバーを表すシールをワークシート上に配置します。
この配置は、参加者が感じる家族内の関係性や距離感、結びつきの強さを表現します。
例えば、非常に近い関係性を感じている家族メンバーのシールは互いに近くに置かれ、距離を感じるメンバーのシールは離れた位置に置かれるかもしれません。
解釈と共有
参加者は自分の配置したシールについて、その意味や選んだ配置に至った理由を説明します。
この自己解釈のプロセスは、参加者が自己認識を深める手助けとなります。
次に、参加者は自分の配置したシールについて家族と共有します。
この共有のプロセスは、家族間のコミュニケーションを促進し、互いの見方や感じ方についての理解を深める機会となります。
フィードバックとディスカッション
セラピストは、各参加者のシールの配置とそれについての解釈を聞いた上で、客観的な視点からのフィードバックを提供します。
このフィードバックは、家族が見落としているかもしれないパターンや関係性の側面を浮かび上がらせることがあります。
最後に、セラピストの導きのもと、家族は共有されたイメージやフィードバックに基づいてディスカッションを行います。
この段階で、家族は問題解決や関係改善に向けてのアイデアを共有し、具体的な次のステップについて話し合うことができます。