FIM(表出)は、患者が自分の欲求や考えをどの程度相手に伝えられるか、またその際に必要な介助の度合いを評価する指標で、コミュニケーション能力の客観的評価に役立ちます。
本記事ではFIM(表出)評価のポイント、項目、具体例などについて解説します。
FIMにおける表出の評価について
FIM(機能的自立度評価法)の「表出」は、日常生活動作(ADL)の評価項目の一つで、患者が自分の欲求や考えをどの程度相手に伝えられるか、そしてその際にどれほどの介助が必要かを評価します。
この評価は、患者が失語症や構音障害、気管切開などの影響でコミュニケーションが困難な場合に特に重要です。
評価基準は7点(完全自立)から1点(全介助)まであり、完全自立では複雑な考えを流暢に表出できる一方、全介助では基本的な欲求の25%未満しか表出できない状況を示します。
FIM(表出)の評価対象の項目
FIMで表出の項目を評価する際「自分の欲求や考えを相手に伝えられるかどうか」を評価対象としますが、具体的には以下のような項目を対象としています。
- (相手に)どのくらい伝わっているか
- 評価者が聞き取るためにどのくらいの配慮(=介助)しているか
それぞれ解説します。
相手にどのくらい伝わっているか
FIMの「表出」における評価対象の一つは、患者が自分の欲求や考えを相手にどの程度伝えられているかです。
この評価項目では、患者がどれだけ明確に、正確に、そして効果的に自分の意図を表現できるかが重要視されます。
患者の表現力には、言語能力だけでなく、非言語コミュニケーション(ジェスチャー、表情など)も含まれます。
具体的には、患者が複雑な指示を理解し、それに基づいて適切に応答できるか、または簡単な要望や感情を伝えることができるかが評価の基準となります。
この評価は、患者の日常生活において独立してコミュニケーションを取る能力を測るために不可欠です。
評価者が聞き取るためにどのくらいの配慮(=介助)しているか
FIMの「表出」におけるもう一つの評価対象は、評価者が患者の言葉を理解するためにどの程度の配慮が必要かです。
この評価項目では、評価者が患者のコミュニケーションを理解するためにどれほどの努力や補助が必要かが評価されます。
具体的には、評価者が患者の発話を聞き取りやすくするために繰り返し質問をしたり、簡単な言葉での説明を求めたりする場合などが該当します。
また、評価者がジェスチャーや補助的なコミュニケーションツール(例えば、絵カードや電子デバイス)を使用する必要がある場合も評価の対象となります。
この評価は、患者がどれだけ自立してコミュニケーションを取れるか、また、介助が必要な場合の具体的な支援の度合いを理解するために重要です。
FIM(表出)の採点基準
FIM(表出)の採点基準と具体例は次のとおりになります。
7点(完全自立)
基準:患者は複雑または抽象的な考えをはっきりと流暢に表出することができる。
例:仕事の計画や未来の目標について詳細に説明することができ、相手もその内容を容易に理解できる。
6点(修正自立)
基準:患者は複雑または抽象的な考えをほとんどの場面で表出することができるが、わずかな困難を伴う。
例:患者が新しい趣味について話す際に少し言葉を探すことがあるが、基本的には内容を伝えることができる。
5点(待機的介助)
基準:患者は基本的な欲求や考えの90%以上を表出している状況。
例:日常生活の中で必要な食事やトイレの要望をほぼ正確に伝えることができるが、時々言い直しが必要。
4点(最小介助)
基準:患者は基本的な欲求や考えの75%以上90%未満を表出している状況。
例:水が欲しいことを伝える際に、「飲み物が欲しい」とだけ言い、詳細な説明が不足していることがあるが、評価者が多少の推測で補完できる。
3点(中等度介助)
基準:患者は基本的な欲求や考えの50%以上75%未満を表出している状況。
例:トイレに行きたいことを「トイレ」とだけ言うことで伝えようとするが、具体的な状況や緊急性が不明瞭で、評価者が多くの質問をして理解する必要がある。
2点(最大介助)
基準:患者は基本的な欲求や考えの25%以上50%未満を表出している状況。
例:食事の時間に「食べる」とだけ言うが、具体的に何を食べたいのかが不明瞭で、評価者が詳細な質問をしてようやく理解できる状態。
1点(全介助)
基準:患者は基本的な欲求や考えの25%未満しか表出していない状況。
例:「お腹が空いた」ということを伝えるために「うー」などの音しか出せず、評価者がほとんどの意図を推測しなければならない状態。
FIM(表出)の注意点
FIM(表出)の注意点として…
- 伝えたい内容の良し悪しは評価対象外
- 質問した内容と違うことが返ってきても減点にはならない
- 言葉の理解をすることを評価するため、その後物事を正しく判断するかは評価対象外とする
- 5点の採点は、簡単な内容が90%以上理解できるか、または複雑な内容を繰り返して話すと理解できるかで採点する
- 失語症で、言葉が理解できているか判断できない場合
…があげられます。
それぞれ解説します。
伝えたい内容の良し悪しは評価対象外
FIM(表出)の評価において、伝えたい内容の良し悪しは評価対象外とされます。
つまり、患者が伝えたい内容が相手に理解されるかどうかを評価するのであって、その内容が適切かどうかは問題ではありません。
例えば、患者が特定の話題について詳しく話せなくても、その意思が相手に伝わるかどうかが評価の対象です。
このアプローチにより、患者の意図や考えを理解することが重要であり、その表現内容の質は考慮されないため、より正確なコミュニケーション能力の評価が可能となります。
この点は、患者の表出能力を公平に評価するための重要な基準となります。
質問した内容と違うことが返ってきても減点にはならない
FIMの評価では、質問した内容と違うことが返ってきても減点にはなりません。
重要なのは、患者が何かを伝えようとする意欲と能力であり、評価者の質問に対する正確な回答ではありません。
例えば、評価者が「今日の天気は?」と尋ねた場合、患者が「お腹が空いた」と答えたとしても、その意図が伝わっているかどうかが評価の基準です。
このように、評価は患者のコミュニケーション意図を重視し、具体的な回答の内容や正確性は評価の対象外となることで、公平で柔軟な評価が可能となります。
言葉の理解をすることを評価するため、その後物事を正しく判断するかは評価対象外
FIMの「表出」評価では、患者が言葉を理解し伝える能力に焦点を当て、その後の物事の正しい判断は評価対象外とされます。
つまり、評価は患者がどの程度コミュニケーションを取れるかを重視し、彼らがその情報をどのように処理して判断するかは考慮しません。
例えば、患者が「薬を飲む時間を知りたい」と言った場合、その情報を正しく受け取り理解する能力は評価されますが、その後に実際に薬を正しく飲むかどうかは評価に含まれません。
これにより、評価は純粋にコミュニケーション能力に焦点を当て、他の認知的要素が影響しないようにします。
5点の採点は、簡単な内容が90%以上理解できるか、または複雑な内容を繰り返して話すと理解できるかで採点する
5点の評価基準は、患者が簡単な内容を90%以上理解できるか、または複雑な内容を繰り返し聞くことで理解できるかに基づいています。
例えば、患者が日常的な会話で「水が欲しい」といった簡単な要求をほとんど理解できる場合や、複雑な指示を何度も聞いてようやく理解できる場合が5点の基準となります。
この基準は、患者がある程度の自立したコミュニケーション能力を持っていることを示し、少しの配慮で意思疎通が可能であることを評価します。
これにより、患者の日常生活でのコミュニケーション能力の具体的なレベルが明確になります。
失語症で、言葉が理解できているか判断できない場合
失語症などで言葉の理解が難しい患者の場合、言葉の理解度を直接評価することが困難なため、評価者がどれくらいの配慮をする必要があるかに基づいて評価する方が実用的です。
例えば、患者が簡単な指示に対して適切に反応できない場合でも、評価者がジェスチャーや他の補助的手段を用いることで理解を助ける必要がある場合、その配慮の程度が評価の基準となります。
この方法により、患者の実際のコミュニケーション状況をより現実的に評価でき、適切な支援策の計画に役立てることができます。